【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい 作:渦螺しお
リオが図書室へ行かなくなって、一週間が経った。
川辺のことはおそらく好きだ。だが、人柄を想うより先に
就寝前、ベッドの上でスマホを見る。LyNEのトーク画面には、ここ数日の言葉少ななメッセージが並ぶだけ。
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(こないだはごめん)
(もういいよ)
(もう寝た?)
──
(今日一緒に帰ろ)
(部活。ごめん)
(顔が見たい)
──
(図書室で待ってる)
──
<キャンセル>
(声、聴かせて)
<キャンセル>
<キャンセル>
<キャンセル>
<キャンセル>
<キャンセル>
(電話出て)
(頼む)
<キャンセル>
──
(ごめん、しばらくそっとしてほしい)
(わかった)
────────────
川辺の思いが痛いほど伝わってくる。画面を見返せば、自分が不義理をしているのは一目瞭然。リオも川辺の声が聞きたいし、逢いたい。だが……日を置いて冷静になるにつれ、ふと疑問が湧いた。
(そういえば彼、一度も部室に来ないし、教室にも来たことがない。だけど……ここまでメッセージを送るのなら、少しぐらい強引だって──)
リオはそれが、自分にそのまま言えることに、はたと気がついた。
(……そうだ、きっとボクと同じなんだ。みんなに見られたくないし、恥ずかしいから。でも……じゃあいいの? このままで)
暗がりの向こう……デスクの上に立てかけてあるCDジャケットがぼんやりと見える。リオはベッドから起き上がり、それを手に取った。
(明日、教室まで返しに行こう。それで「ごめん」って言おう)
CDをぐっと抱きかかえ、リオは一歩踏み出すことを決意した。
──翌日。
家にあった、可愛らしいパステルブルーの巾着袋にCDを入れて。昼休みに鞄から取り出すと、三つ離れた川辺のクラスへ。途中、手洗い場の鏡で髪を少し整える。頬をつまんで口角を上げ──
「……よし!」
準備を整え終えて、教室に差し掛かった時だった。
「おい、颯太! お前、2-Aの井山と付き合ってるって、マジ?」
自分と川辺の名を大きく叫ぶ声。どきりとして、開いた扉際で立ち止まった。
「へ? い、いや、付き合って……ない」
「おっまえ、ウソつくんじゃねえよ。ナオヤが前の土曜日に、お前が私服の井山と歩いてんの見たって」
「それは、その」
「ええ~まじまじ? 川辺っち、あの『ダビーナス』と付き合ってるんだ?」
「お。何、その呼び方」
「彫像みたいに白い肌で、女子がみんな自信失くすぐらいの美人。だけどぉ、ダビデとヴィーナスが合体してる。そういうこと」
「ぎゃははは! チ●コ付きの美女ってか? お前よくそんなバケモンと付き合えるな!」
「うっわ~、あんたデリカシーなさすぎ。でもまあ確かに、あんまり大っぴらにはできないよね」
「だからぁ、付き合ってないって言ってんだろ!」
川辺の怒声が大きく響く。
「お前ら、俺が見境いないみたいに言うな! 井山
「ちょ、わぁったって。キレんなよ。もし本当ならおもしれえなって思っただけだからよぉ」
(分……別?)
リオは床へ崩れ落ちた。膝が震え、うまく立ち上がれない。
「……はあ、はあ、はあ……」
息が苦しい。呼吸ができない。リオは震える手で、扉際へ落とすように巾着袋を置くと、壁に手をかけ、何とか立ち上がった。
ふらふらと、震え続ける膝をひとつずつ、前へ。自分の教室までたどり着いたところで、リオはばたりと、床へ倒れ込んだ。
「──! 井山君? た、大変! みんな、手を貸してっ!」
耳の奥にクラスメートの叫びを聞きながら、リオはそのまま気を失った──
それから半月。
リオは不登校になり、一日のほとんどを自室で過ごしていた。学校へは美佐緒が休学届を提出。担任が週に一度見舞いで来てくれたものの、リオは体調不良だけを告げ、それ以外のことは硬く口を閉ざしていた。スマホの電源は、切ったまま。川辺は当然のこと、学校の誰とも話したくはなかった。
「リオ、気分はどう? 何か欲しいもの、したいことがあったら、何でも言ってね。あたし、いつでも飛んでくるから」
「……ありがとう、ママ」
美佐緒は仕事場へ向かう時、欠かさず声をかけてくれる。そのやさしさがまた、リオの心に大きくのしかかる。
「こんな時に、笹川先生がいてくれたらよかったのにね」
リオの心のケアをしてくれているのだと、美佐緒が
笹川による、狂気と狂喜に満ちた一年半を締めくくったのは「後は〝独り〟でがんばってね」という、そっけないひとことだった。
「…………んっ……は……」
誰もいない部屋で、独り。リオは笹川の置き土産である電動ディルドを
「……ぁっ、ぁう、あん、あん……」
左手で乳首を転がし、右手で
「ぁ、あ、あん、んあああああぁぁん!!!──」
カーテンを閉め切った暗がりの部屋で、今日もまた、果てた。
この後、リオが学校へ戻ることはなかったが……母と学校の献身的なサポートにより、何とか無事に卒業、東京美大へと進んだ。元々優秀な学業成績を収めていたことに加え、非凡な課題制作を認められたことが決定的となった。
その木炭デッサンは、選考の教授たち全員の心を一瞥で刺すほどの、深い陰影に包まれていた。判定に立ち会った准教授の一人が、提出者を即座にSA──スチューデント・アシスタントへ異例の抜擢を申し出たほどに。
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※本作は下書き完結済 です!