※この作品はR-18です。

【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい   作:渦螺しお

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14 高校②

 リオが図書室へ行かなくなって、一週間が経った。

 

 川辺のことはおそらく好きだ。だが、人柄を想うより先に花芯(ペニス)や窪み(アヌス)が求めようと反応し、快楽に支配されるのは、本当に「好き」と言えるのか。気持ちは整理できないまま、図書室を避ける日々。放課後はもっぱら美術部の部室で、木炭デッサンを黙々とこなす時間を過ごしていた。

 

 就寝前、ベッドの上でスマホを見る。LyNEのトーク画面には、ここ数日の言葉少ななメッセージが並ぶだけ。

 

 ────────────

(こないだはごめん)

     (もういいよ)

(もう寝た?)

 ──

(今日一緒に帰ろ)

     (部活。ごめん)

(顔が見たい)

 ──

(図書室で待ってる)

 ──

<キャンセル>

(声、聴かせて)

<キャンセル>

<キャンセル>

<キャンセル>

<キャンセル>

<キャンセル> 

(電話出て)

(頼む)

<キャンセル>

 ──

     (ごめん、しばらくそっとしてほしい)

(わかった)

 ────────────

 

 川辺の思いが痛いほど伝わってくる。画面を見返せば、自分が不義理をしているのは一目瞭然。リオも川辺の声が聞きたいし、逢いたい。だが……日を置いて冷静になるにつれ、ふと疑問が湧いた。

 

(そういえば彼、一度も部室に来ないし、教室にも来たことがない。だけど……ここまでメッセージを送るのなら、少しぐらい強引だって──)

 

 リオはそれが、自分にそのまま言えることに、はたと気がついた。

 

(……そうだ、きっとボクと同じなんだ。みんなに見られたくないし、恥ずかしいから。でも……じゃあいいの? このままで)

 

 暗がりの向こう……デスクの上に立てかけてあるCDジャケットがぼんやりと見える。リオはベッドから起き上がり、それを手に取った。

 

(明日、教室まで返しに行こう。それで「ごめん」って言おう)

 

 CDをぐっと抱きかかえ、リオは一歩踏み出すことを決意した。

 

 

 ──翌日。

 家にあった、可愛らしいパステルブルーの巾着袋にCDを入れて。昼休みに鞄から取り出すと、三つ離れた川辺のクラスへ。途中、手洗い場の鏡で髪を少し整える。頬をつまんで口角を上げ──

 

「……よし!」

 

 準備を整え終えて、教室に差し掛かった時だった。

 

「おい、颯太! お前、2-Aの井山と付き合ってるって、マジ?」

 

 自分と川辺の名を大きく叫ぶ声。どきりとして、開いた扉際で立ち止まった。

 

「へ? い、いや、付き合って……ない」

「おっまえ、ウソつくんじゃねえよ。ナオヤが前の土曜日に、お前が私服の井山と歩いてんの見たって」

「それは、その」

「ええ~まじまじ? 川辺っち、あの『ダビーナス』と付き合ってるんだ?」

「お。何、その呼び方」

「彫像みたいに白い肌で、女子がみんな自信失くすぐらいの美人。だけどぉ、ダビデとヴィーナスが合体してる。そういうこと」

「ぎゃははは! チ●コ付きの美女ってか? お前よくそんなバケモンと付き合えるな!」

「うっわ~、あんたデリカシーなさすぎ。でもまあ確かに、あんまり大っぴらにはできないよね」

「だからぁ、付き合ってないって言ってんだろ!」

 

 川辺の怒声が大きく響く。

 

「お前ら、俺が見境いないみたいに言うな! 井山な(・)ん(・)て(・)、こないだ、偶然会っただけだ。俺も分別ぐらいある!」

「ちょ、わぁったって。キレんなよ。もし本当ならおもしれえなって思っただけだからよぉ」

 

(分……別?)

 

 リオは床へ崩れ落ちた。膝が震え、うまく立ち上がれない。

 

「……はあ、はあ、はあ……」

 

 息が苦しい。呼吸ができない。リオは震える手で、扉際へ落とすように巾着袋を置くと、壁に手をかけ、何とか立ち上がった。

 ふらふらと、震え続ける膝をひとつずつ、前へ。自分の教室までたどり着いたところで、リオはばたりと、床へ倒れ込んだ。

 

「──! 井山君? た、大変! みんな、手を貸してっ!」

 

 耳の奥にクラスメートの叫びを聞きながら、リオはそのまま気を失った──

 

 

 それから半月。

 リオは不登校になり、一日のほとんどを自室で過ごしていた。学校へは美佐緒が休学届を提出。担任が週に一度見舞いで来てくれたものの、リオは体調不良だけを告げ、それ以外のことは硬く口を閉ざしていた。スマホの電源は、切ったまま。川辺は当然のこと、学校の誰とも話したくはなかった。

 

「リオ、気分はどう? 何か欲しいもの、したいことがあったら、何でも言ってね。あたし、いつでも飛んでくるから」

「……ありがとう、ママ」

 

 美佐緒は仕事場へ向かう時、欠かさず声をかけてくれる。そのやさしさがまた、リオの心に大きくのしかかる。

 

「こんな時に、笹川先生がいてくれたらよかったのにね」

 

 リオの心のケアをしてくれているのだと、美佐緒が最(・)後(・)ま(・)で(・)信じて疑わなかった笹川は、もういない。高校入学前、残り半年の〝調整〟を終える前に、リオを使った『第三の性』の論文が認められ、アメリカの大学へと招聘(しょうへい)されたのだった。

 笹川による、狂気と狂喜に満ちた一年半を締めくくったのは「後は〝独り〟でがんばってね」という、そっけないひとことだった。

 

「…………んっ……は……」

 

 誰もいない部屋で、独り。リオは笹川の置き土産である電動ディルドを窪み(アヌス)に飲み込ませる。虚ろな目でスイッチを入れると、ヴゥゥンとスマホのバイブより大きい音が響き始めた。

 

「……ぁっ、ぁう、あん、あん……」

 

 左手で乳首を転がし、右手で花芯(ペニス)を擦る。不登校になってから、笹川に与えられた日課に、さらに拍車がかかる。全てを忘れる、無かったことにする。できるはずもない。なら、快楽で押し流す。リオができることは、堕落を貪(むさぼ)るだけだった。

 

「ぁ、あ、あん、んあああああぁぁん!!!──」

 

 カーテンを閉め切った暗がりの部屋で、今日もまた、果てた。

 

 この後、リオが学校へ戻ることはなかったが……母と学校の献身的なサポートにより、何とか無事に卒業、東京美大へと進んだ。元々優秀な学業成績を収めていたことに加え、非凡な課題制作を認められたことが決定的となった。

 

 その木炭デッサンは、選考の教授たち全員の心を一瞥で刺すほどの、深い陰影に包まれていた。判定に立ち会った准教授の一人が、提出者を即座にSA──スチューデント・アシスタントへ異例の抜擢を申し出たほどに。





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