【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい 作:渦螺しお
東美から歩いてすぐのところにある西洋美術館。目と鼻の先にあるのについつい企画展を見逃しがち。「美大生あるある」な中、リオは今日までの版画展を観ようと散歩がてら向かっていた。
並木道から覗く青空。梅雨入りから早速に曇天が続いた中で、久しぶりに空気が清々しい。鼻歌交じりに闊歩するリオ。しかし、その行く手は気まぐれ。予報にない暗雲が、突如として頭上を横切り始めた。
「えぇ……何かイヤな予感が───きゃっ」
一瞬にして雷雨が到来し、容赦なく地面を叩きつける。リオは慌てて公園に入り、枝ぶりの良い大樹の陰へ避難した。
「やっぱり折り畳み傘は持っとくべきだったなあ」
太い木の幹にもたれ、拗ねたようにサンダルの足先を少し蹴り上げる。その時。激しく重い雨が枝葉をしならせ、リオへ注ぎ込まれた。
「きゃあああっ!」
バシャリ、派手な音を立てて……バケツ一杯かと思うほどにひっかぶる。
たちまちびしょ濡れになったリオ。風で膨らむほど軽やかだったフレンチスリーブのブラウスは肌にべったりとまとわりつき、ベージュのブラトップを素肌のように浮きだたせる。サマーウールトロピカルのワイドパンツも同じく、太腿からふくらはぎまでのラインを丸裸にした。
「ひどい、あんまりだ……」
両手を掲げ、指先から水がしたたり落ちるのを見ながら、呆然とする。
ふと、体温で生あたたかくなった雫がうなじを伝い、ぞくりと、全身が鳥肌になった。
(ぼおっとしてる場合じゃない。このままだと風邪を引いちゃう)
トートバッグからミニタオルを取り出し、ひとまず顔と首筋を拭き、髪の水気を取る。そこへ……大樹の反対側に、複数の走り込む足音が響き、止まった。
「んもう~、さいっあく!」
「ひっさびさに予報がクソ外れたよな」
どうやらカップルで、同じく見舞われたらしい。リオは自分のびしょ濡れを見られないよう、息を殺した。
「なあ、雨が止んだらオレ、駅まで走ってタオル買って来るわ」
「ええ~、こんなところで一人にしないでよ」
「いや、オレはいいけど、お前のそれはダメだろ。公然わいせつ罪だぜ」
(こ、公然わいせつ罪……)
さすがに自分がどう見られるかわかっているリオには、耳が痛い。
「えへ……ひょっとして欲情したりしてる?」
「バカ言うなよ。してるよ、当然」
「じゃあさ……ここでシちゃおうよ。そしたら体温が上がって乾くかも」
(え、え、え???)
反対側で混乱するリオなど当然知る由もなく。静かに、雨音を縫うように、カップルは絡みあう言葉をリオの耳へ届かせた。
「んっ……あん、何かいつもより感じる」
「はあ、はあ……オレも。これ〝アリ〟かもしんないな」
「変なプレイ、見つけちゃったかも……ぁあん」
(やだ、もう。何でこんなところでしちゃうの?)
呆気に取られながらも、声を聞くたび濡れた服で下がった体温が、じわりと上がり始めるのを感じるリオ。カップルの嬌声が、今まさに
<んっ、先せ……和樹……さん……>
<脱がせなくても丸見えだぞ。雨でずぶ濡れなのに誘うとは……どこまでもいやらしい子だ>
<寒いの……早く、脱がして>
<い~や。もっともっと、濡らしてやる>
妄想の中で神代はぺろりと舌を出し、貼りついたブラウス越しに乳首を舐め回す。
<んはぅんっ>
両手がパンツの腰に掛かかり、ずるりと脱がされる。濡れ透けた白のショーツには、熱を帯びた花芯が、くっきりと浮かび上がっている。神代はそのショーツ越しに、粘膜の先を指先でなぞり始めた。
<このまま、下着の中でイかせてやる。どうせ濡れているんだ。中でも同じだろう?>
<いっ……いやぁ……気持ち悪い>
ショーツの生地を粘膜へこすりつけるように愛撫する。快感が時間差でやってきては、もどかしさを募らせていく。
その妄想を、実際にショーツの上からこすりながら再現するリオ。ゆっくりとパンツの中に手を入れ……まとわりつく服にぞくぞくとしながら、熱くなった
(ぁ、ぁん……もうダメ、イクっ……)
達しようとしたその時。トートバッグから唐突にスマホのコール音が鳴り響いた。
「──きゃっ! だ、誰かいる!?」
大樹の向こう、カップルが慌ただしく服を直す音が聞こえる。リオも慌てて服のずれを整え……バッグの口を押え、音を封じ込めようとした。
「おい、とりあえず逃げるぞ!」
「ああん、待ってよぉ!」
時々水を踏む音とともに、走る足音が遠のいていく。耳の奥は熱く、代わりに心音がドッドッと内耳を打ち始めた。
リオは胸を押さえ、トートからスマホを取り出して見る。着信は、神代だった。そのまま履歴をタップし、かけ直す。数回のコールの後……神代の低くよく通る声が出た。
<<ああ、井山君。大丈夫か。すごい雨だが……版画展を観に行くと言っていたので、心配してね……ん? もしもし?>>
嬉しくて、涙が出る。リオはつい無意識に、二人きりの時の呼び方で返してしまった。
「ぐすっ、和樹さん……今、ずぶ濡れなんです」
<<……どこにいる? 迎えに行く>>
わかるように並木道まで出ると伝えると、短い了承とともに、電話はぷつりと切れる。同時にリオは、晴れ間がのぞいた空の下へ、走り出た。
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※本作は下書き完結済 です!