※この作品はR-18です。

【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい   作:渦螺しお

27 / 35
27 アパレルショップ②

──アートセラピー学科・研究室

 

「ふあっ!」

 

 リオは突然身体を硬直させ、持っていたバインダーを床に落とした。

 

「どうしたの? 井山さん」

「ん……いえ、大丈夫、です」

 

 差し伸べられた学生の手を、やんわりと断る。神代(かみしろ)はその様子に、さも心配げに声をかけた。

 

「無理はいけないよ、井山君。記録の照合が大変だったからな。よし、今日はもう終わりにしよう」

 

 リオだけを残し、他の学生たちが部屋を出ていく。ドアが閉まり……廊下の足音が遠のき、途絶える。その拍子に、神代は右手に持っていたリモコンのスイッチを押した。

 

「ふぅっ、んんんっ」

 

 窪み(アヌス)の中、前立腺の手前あたりで震え続けるバイブ。リオはとうとう両膝を床に突き、神代に潤みきった目を向けた。

 

「和樹さん、ダメ……もう感じすぎ、ちゃっ……んあんんっ!」

 

 ヴヴンッと、振動が跳ね上がる。神代は肩で息をするリオを見て、久しく忘れていた加虐心を楽しんでいた。

 

(やっぱり、こうでなくてはな。最近少し馴れ合いがすぎていたかもしれん)

 

 リオを見るたび己の中に生ずる、かつてない〝ノイズ〟。どれだけ熱を注ぎ込んでも掌握しきれない、リオの魔性。温泉宿以来、それらがまた一段高まっていることに、神代は苛立ちを覚え始めていた。

 

(つまらんやつだな和(・)樹(・)。ここへ来て、何を恐れている)

「ぁ……あん……ぁん……」

 

 床に伏し、腰を震わせ続けるリオの元へゆっくりと近づくと……顎をつかみ上げ、乱暴にキスをした。

 

 

 午前の講義とSAの仕事を終え──リオは代菅山『EIDOS』に来ていた。美佐緒に押し切られ、オープンの特別企画として二度だけ──彼女のデザインのものモデル撮影をするという約束で。

 入口のカウンターデスク越しに立っていた鳴瀬は、現れたリオにいち早く気づき、満面の笑みで迎えた。

 

「リ(・)オ(・)さ(・)ん(・)! よく来てくれたね。いやあ、美佐緒さんにゴネた甲斐があった」

 

 頭をくしゃっとかきながら、親し気に下の名で呼ぶ鳴瀬に、リオも思わず笑顔で返した。

 

「くすっ、ゴネただなんて。ママには『一生のお願い』って言われたんですよ」

「彼女って、時折そういう子供っぽいところを見せるのがいいよね。えーっと、じゃあ早速。今日のお仕事、お願いしてもいいかな──」

 

 鳴瀬に導かれながら店内奥へ。出来立ての建物の匂い、荷ほどきたての服の匂い。新しい空気がリオの鼻先を漂い、肌を撫でていく。

 

「あの……ボクは何も知らない素人なので。ご迷惑をおかけしますけど、どうか──」

「大丈夫。そこはプロがサポートするから。それより、リオさんって『ボクっ娘』なんだ。はは、キャラが立ってるね」

「そういうんじゃなくて、その、ママから何も聞いてないんですよね」

「何が? どうしたの?」

 

 地下へ降りる階段の手前で足を留め、リオは思い切って伝えた。

 

「ボク、男なんです。騙すみたいになったらイヤだから、どうしても先に言っておきたくて」

「え、そうなの?」

 

 鳴瀬がごく自然に、普通に返したことに、リオは逆に面を食らった。

 

「驚かれないんですね」

「うん、この業界は、そういう感受性の強い人たちで成り立ってるところあるし。むしろ言ってくれたほうがクリエイティビティに火がつくよ」

(そういうものなんだ……)

 

 鳴瀬の明るく屈託のない様子。神代とはまた違う「自分という人間の肯定」に、リオの顔がほころぶ。

 

「うん、これもみんな、和樹さんのおかげ」

 

 リオは一人、聞こえないように声に出した。

 

 まばゆい照明が、地下とは思えないほど明るくフロアを照らし出す。その最奥、白い撮影ブースには、既にスタッフとカメラマンが控えていた。

 

「さあみんなお待ちかね、リオさんの登場だ! 最大限、いやそれ以上に魅力を引き出せるよう、よろしく頼むよ!」

 

 鳴瀬の檄で、一斉に視線が集まる。まばゆい光の下、求められて立つことへの緊張で、リオの心音は耳元まで届くほど高鳴っていく。

 スタッフに用意された服は、どれも黒基調で直線的。美佐緒いわくの『シャープ&エレガンス』。大人な秋冬の服はどれもリオにとって、まるで神代と並ぶために用意されたように思える。

 

「リオさん、透ける服(シアー)は大丈夫?」

「あ、はい」

 

 鳴瀬のさりげない気遣いも心地よく、リオは気づかぬまま緊張がほぐれていく。

 満を持して着込んだ、その結果。登場と共にスタッフ全員から声が上がった。

 

「うわあ、か、カッコいい……」

「めちゃくちゃ色っぽい」

 

 透け感がある上に、背中が大きく開いた黒のブラウス。そのしなやかな背筋が醸し出す色気に、場の誰もが魅入られた。

 

(この服で、和樹さんに抱かれたら……ああ、いけないっ)

 

 前(・)に後(・)ろ(・)に、またしても空気を読まず降臨する熱。特に午前中バイブで弄ばれ、いつにも増して熱をこめられている。なのに、今夜は会えない。

 焦れを抑えようとするほどに凛々しい表情が決まる。不埒(ふらち)が生む奇跡は、撮影現場に慣れた人間たちを一斉に惹きこんでいった。

 

「いいよその顔! とてもいい! はい、真っすぐこっち見て、もう少し足を開いて……そうそう! 角度維持してっ──」

 

 夢中でシャッターを切るカメラマンの隣、鳴瀬は複雑な思いに駆られていた。

 

(初めてって……本当なのか? ここまでカメラマンを前のめりにさせるほどの魅力。男だって? まったく取るに足らない。次元が違う)

 

 混乱は、ただ目の前の圧倒的な現実に整えられ……鳴瀬は仕事を忘れたひと言を漏らした。

 

「美しい……」

 

 たった三着の撮影はあっという間に終わり……リオはスツールに腰掛け、スタッフからもらったレモン水を口にしていた。

 

「リオさん、お疲れ様。最高の撮影だったよ」

「ありがとう、ございます」

 

 頬に赤が差して、うつむく。鳴瀬は先ほど撮った写真をタブレットに転送したものを、リオに見せた。

 

「ほら。すっごくカッコよく、綺麗に撮れてる。カメラマンも『初めてってウソだろ』ってずっとブツブツ言ってるよ」

「どう……なんでしょう。何だか無我夢中で。撮っていただいている間のことが思い出せないぐらい」

「よそ事を考えてたんだ?」

「──っ、それは、その……」

 

 頬の赤が、顔全面に広がっていく。照れるにしては、妙に艶っぽい。鳴瀬はさっきの凛々しさとギャップが甚(はなは)だしい、無垢が色づくさまにどきりとした。

 そしてそれはまた、自然に口を突いて出た。

 

「リオさん。もし時間があるなら、このあと食事に行かない? 今後のことも話したいし」

「二人で、ですか」

「うん。お家まで送るついででも」

 

 男性からの、二人きりの食事の誘い。リオは少し躊躇したものの……この場では神代よりも、美佐緒の顔が浮かんだ。

 

「わかりました。じゃあママにLyNEしておきますね」

 

 リオは誰へとなく、言い訳がましく口にした。





◆Pixivで先行公開中です。
https://www.pixiv.net/novel/series/15593975
※無料(R18につき要アカウント) / 主人公の衣装挿絵付き
※本作は下書き完結済 です!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。