※この作品はR-18です。

【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい   作:渦螺しお

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30 アパレルショップ③

『L'Ombre(ロンブル)』での施術から翌日。『EIDOS』撮影現場に向かうリオの足取りは、前回と打って変わって軽やかだった。

 

「もっと心からセックスを楽しんでいい。リオちゃんは誰よりもその資格がある。羨ましいぐらい──」

 

 調整でも暴力でも愛でもなく、ただ楽しむ。本物の美しい女性である加蓮が、自分を羨ましいとまで言ってくれた。昨夜の甘美な時間は、リオという歪(いびつ)な存在へ、新たな肯定と道を示したのだった。

 

「『美は淫らから生まれる』……ボクも加蓮さんみたいに、なれるかな」

 

 胸に手を当て──行為の途中で聞いたあの言葉を、何度も反芻する。リオはいつにも増してしなやかな所作で、『EIDOS』のガラス扉を押した。

 

 

 (どうなってるんだ……)

 

 鳴瀬は驚愕した。『L'Ombre(ロンブル)』に頼んでたった一日。それだけで、リオは以前にも増してとてつもない妖艶さをまとっていた。自分と上顧客を共有する須田加蓮。彼女から聞いた報告は、素材(リオ)をべた褒めしつつの「きっと満足行く仕上がり」とだけ。

 

 今、目の前でスタッフ全員が息を飲むそれは、知る限り最高峰の掛け合わせの結果と思いたいが……一方で鳴瀬は、奥の見えない深淵に立つ、ぞくぞくとするような好奇心と怖れを想った。

 

 また黒一色。ハイネックのボディスーツが、艶めかしく身体に貼りつく。フロントスリットのスカートから覗く乳白色の美脚は、その付(・)け(・)根(・)へと否応なく視線を誘う。

  敏感に締め付けて擦る服に熱を帯び、見られまいと抗う羞恥。リオが抑えきれず放つ邪(よこしま)な気に当てられるたび、見る者から熱い吐息が漏れる。

 

「この娘(こ)、マジでヤバすぎる。おれもこの仕事は長いが、撮ってることを忘れそうになるわ」

 

 歓喜と絶句を繰り返すカメラマンと、終始同じ気持ちで臨んだ二回目の撮影。前回の画像が既にSNSでバズり、オンラインショップのCVR──購入率を想定の倍以上に引き上げている事実。それを今回さらに上回るのは、間違いない。

 

 撮影を終えて衣装を脱ぎ、ローブ姿でスタッフと談笑するリオ。そこには、あどけない18歳が戻っている。

 

「ぼやぼやしてると、他所に攫(さら)われるぜ?」

 

 気持ちを察したように、鳴瀬の肩を叩くカメラマン。

 

「わかってる。どうにかしなきゃな」

 

 鳴瀬は苦虫をかみつぶした顔で、大きくため息をついた。

 

 

 

「──専属契約、ですか」

 

 帰り際の社長室兼応接室。期待をしないで欲しいと伝えた矢先の鳴瀬の申し出に、リオは困惑した。

 

「前回の反響、問い合わせがすごくてね。モデル事務所からなんてのもある。下手なところに所属して業界に入ってしまうより、ウチに留めておいた方が、リオさんにとってメリットがあると思う」

 

 契約内容が簡潔に書かれた書類に、改めて目を通す。

 半年更新。学業優先で、月にたったの二回、撮影のみの時間拘束。ネット上での情報氾濫に対応するための肖像権管理。それらすべてを『EIDOS』専属で一任する。諸々に疎いリオでも、自分に寄り添った条件を提示してくれているのはわかった。

 

「だけど、これだと鳴瀬さんに負担をかけているだけのような」

「俺はWin-Winだと思っているけどね。それ以上に、君を守りたいと思っている」

「守る……」

「うん。見ていられないほど儚(はかな)げで、危ない君をね」

 

 真っすぐに見つめる鳴瀬の目。心配の中に秘められたものをおぼろげに想いつつ、リオは淡々と見つめ返した。

 

「確かに……鳴瀬さんに守ってもらえるものは、ま(・)だ(・)あるかもしれません」

 

 神代の束縛による絶大な安心感と、加蓮に開かれた自由への扉。そんな自分を安全に試す場を用意してくれるという、願ってもない誠実さ。

 

(ママ……ボク、自分で決めるね。もう、大人だから)

 

 真っ白な指先が、しなやかにペンを取る。

 

「鳴瀬さん、『ボクを選んだ』こと、後悔しないでくださいね?」

 

 琥珀色の瞳が揺れる。そのきらめきに捉えられ……鳴瀬は心臓が激しく打つのを感じた。





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