【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい 作:渦螺しお
リオを抱いた翌日。
ライトアップを見上げていたところへコール音が鳴る。見知らぬ番号。耳を当てるなり、聞こえて来た声。それが誰であるかは、考えるまでもなかった。
<<お久しぶり、先生>>
喋り方、トーン。ほんの少し懐かしんだあと、遠い目を虚空に打ち消す。
「用件は何だ?」
<<十年も経つと、連れないものね>>
「お前が昔の男に固執するなど、露ほども思わなかったからな」
<<壊すのよ、あなたを。でもその前に、大事なものだけはもらっておいてあげる>>
ふっと笑いが漏れる。
「リオはお前の手に負えんぞ」
<<ふん、もうしっかり頂いたけど? 男と女、どっちもね>>
「ああ、〝手伝い〟だけはできるようだな。おかげで抱き心地が整っていた。感謝する」
暫しの無言に怒りが滲む。やがて、感情を抑えきった声が響いた。
<<明日の夜9時。サロンに来て>>
「いいだろう。たんぽぽコーヒーを出すなよ?」
切断の音は、波の音に飲まれて消えた。
「怒らせたか。まあ、それぐらいがちょうどいい」
神代はSUVに乗り込むと、その深紫のボディを闇の中へ走らせた。
「『
約束の日時に加蓮の『城』へとやってきた神代。夜の闇によく映える金色のロゴを目に入れつつ、中へ入った。
「臆さず来たのは、さすがね」
シルキーな漆黒のドレスに照明の光が踊る。十年前とは打って変わり、大人の貫禄と妖艶さを身に付けている。股近くまで深く入ったスリット。普通の男なら一瞥で捉われるだろうが……神代にとって、それは単なる記号に過ぎない。加蓮に促されるまま、応接セットに腰を掛けた。
用意されていたガラスのポットから、蜂蜜色のハーブティーが注がれる。様々な匂いが漂うフィトテラピーサロンの中で、湯気とともに一段と芳しい香りが立ち昇る。
「ジャーマンカモミール……鎮静とはな。争う気がないとでも?」
音も立てずにティーカップを置くと、加蓮は優雅な所作で正面へ座った。
「知ったようなことを。一応の敬意よ。ずっと恋焦がれさせた、罪そのものみたいな男。その精算を兼ねて」
「その〝経緯〟あって、予約の取れないサロンのオーナーになったんだろう? 良かったじゃないか」
お互い、カップに口をつける。暫しの間を置き……加蓮は真っすぐに神代を見た。
「ひとつだけ聞かせて。なぜあの時、フランス行きを裏切ったの? あれだけ濃密に溶け合った日々に、運命だって感じていた。小娘をからかって、楽しんだだけだったのかしら」
「カタツムリがこ馳走の国になど行きたくなくなった。それだ……け……──」
神代は急に頭をふらふらさせると、椅子から落ち、床に倒れ込んだ。
「そういうウィットを、向こうで聞きたかった」
神代のそばにしゃがみ込むと、加蓮は神代のベルトを緩め、ズボンと下着を脱がせる。露出した下半身に目をくれ……ドレスのスリットを大きくたくし上げると、例のペニスパンツを履いた。
「ふふふふふ……」
屹立する白い
「先生は今から、自分のペニスで犯されるのよ。ふふふ、最高の
顔を寄せ……頬にキスをする加蓮。その瞬間。
「──えっ!?」
すさまじい力で神代に抱き締められる。両足も絡めとられ、完全に動きを封じられた加蓮は、予想外の展開にただただ混乱した。
「飲んだフリをしただけだ。お前が何をするのか、興味があったのでね」
「いっ、いやっ! 放し──!? 痛っ!?」
「私は〝刺す〟専門でね。されるのはご免こうむる」
神代はどこからか取り出した注射器を、加蓮の首筋に刺した。
「プロポフォールだ。使うつもりはなかったがな」
「……そん……な……」
ブランジャーを押し切って、ものの十数秒。加蓮は気を失い、力なく覆いかぶさった。神代はそれを横へやりつつ、下着とズボンを履き直した。
「
神代は加蓮のスマホを手に取ると、ハーブティのポットを開け、その中へ沈めた。
「──……んっ……」
混濁の中、よく知っている光景が加蓮の薄目の中へ入って来る。
(……ここは、私のサロン……天井が……あれ、か、身体が)
我に返って自分の身体を見るなり、加蓮はパニックになった。
「──っ!? んん゛~っ!!!」
全裸で施術ベッドの上にあおむけで縛り付けられている。腕は頭上で括られ、身動きもままならない。足と太腿はテーピングされ、開脚したままに。さらけ出した
「目が覚めたか」
神代がブロードシャツの袖をまくり、小瓶から何やら液体を手に取ってすり合わせている。
「さて、お仕置きの時間だ。……ああ、これか? ただの市販のヒートジェルだ。ケミカルだがご容赦を」
「んふんっ!」
口にはギャグボールが押し込まれ、声もまともに出ない。
ひやりとしたジェルに、身体が反応する。そして……時に強く、やさしく。緩急自在の神代の手がジェルを引き延ばすに従い、徐々に皮膚の温度が上がっていく。
「んっ、ぐふ、んぐ」
わき腹から胸へ。豊満な乳房をつるつると撫でまわしつつ。乳首の周囲に何度も指圧をかける。二の腕の裏から
薬は盛られていない様子。なのに、身体が芯まで熱い。もがくほどに汗ばむ肌。そこへロープが食い込み、微かな痛みが起こる。しかし……それが、どんどんと心地よくなっていくことに、加蓮は恐々とした。
(いやっ! 畜生、身体が、思い出してる……)
かつて書き換えられた、痛覚を快楽にする神経。神代に刻み込まれたマゾヒシズムが、十年の封印を解き、じわじわと加蓮の全身へ表面化した。
「んっ……んぐぅ~っ……」
「下地は終わったな。そろそろ敏感なところを責めようと思うが……そうだ。乳首イキは健在か?」
「ん゛んんっ!?」
熱と指圧で痛いほど張った乳首を、つまんでは弾く。激しく、やさしく。十年来の「条件反射の快感」が、次々と脳へ打ち込まれていく。
激しくなぶられた末の、ひと捻り。
「ぐくんんんん~~っ!!!」
十年来のオーガスムが、全身を包む。その焦がれに焦がれた快感に、背筋は大きくのけ反った。
神代に捨てられた加蓮は、ずっと不感症になっていた。ガサツな男たちの、繊細さに欠ける行為に辟易する日々。やがて女性も試すようになった。
決して満たされることのない、頂点を知ったことによる不幸。だが、ひたすら拗らせ募らせた十年の恨みは今、本物をもって昇華されてしまった。
乳首だけで、このありさま。一方的な蹂躙。加蓮は敗北と、抗うのも無駄な悦楽の狭間で、泣いた。
「ダメじゃないかこの程度でイクなど。相変わらず堪え性のない子だ」
髪に
(わかってる。先生のやり口だと、わかっているのに……)
悔しさよりも、素直さが勝っていく。かつての神代の毒が、再び加蓮を犯していた。
「──! んふんっ?」
「そういえばアヌスも好きだったな。では特別に、二穴を満たして骨盤底筋群をまるごと揺すってやろう。これは意趣返しじゃない。礼だ。今回の余興へのな」
神代は加蓮からはぎ取ったペニスパンツの張形を握り、その先を加蓮の花園へ当てた。
(いい、いやっ。ずっと使わずに、思い出さないようにしていたのにっ……)
もがき、首を振る加蓮。しかしその奥底では、もはや蓋をしきれない期待があふれ出ていた。
かつての従順な目の光が戻りつつある。仔犬のように泣く加蓮を見て、神代は早々に興味を失い、ギャグボールを外した。
「ぷはあっ……ああ、先生……お願いします。私はイケない子でした。せめてどうか、お慈悲をください」
「私は忠誠には愛で答える主義だが、罰は受けてもらわんとな」
「んはうぅっっ!」
張形をぐいいと、濡れに濡れた
「!?!?!? あぁあああ、ぁあああああ゛──っ!」
「どうだ、罰にしては佳い心地だろう?」
「いや、いやいやいやあっ! こんなので、イキたくない! お願いします、先生の、先生の本物を──」
「調子に乗るな」
「ひぁああああ────っ!!!」
クリトリスを摘まみ上げ、下腹部すべての性感に高負荷を与える。圧倒的なオーガスムの衝撃に、加蓮は神代の言う通りに骨盤から脳髄までを揺らした。
(ああ……また、壊された……やっぱり、先生には……敵わない……)
憎悪もプライドも、すべてが快楽の下に溶けていく。加蓮はその、絶望的なまでの悦びを
余韻で
「私が抱くのは、リオだけだ」
淡々と、出ていく。『
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