※この作品はR-18です。

【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい   作:渦螺しお

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33 サロン③

 リオを抱いた翌日。 神代(かみしろ)は独り、ゲートブリッジが見える波止場で佇(たたず)んでいた。暗い海面から吹き上げる、冷たい潮風。怒りを冷静にするにはうってつけだった。

 

 ライトアップを見上げていたところへコール音が鳴る。見知らぬ番号。耳を当てるなり、聞こえて来た声。それが誰であるかは、考えるまでもなかった。

 

<<お久しぶり、先生>>

 

 喋り方、トーン。ほんの少し懐かしんだあと、遠い目を虚空に打ち消す。

 

「用件は何だ?」

<<十年も経つと、連れないものね>>

「お前が昔の男に固執するなど、露ほども思わなかったからな」

<<壊すのよ、あなたを。でもその前に、大事なものだけはもらっておいてあげる>>

 

 ふっと笑いが漏れる。

 

「リオはお前の手に負えんぞ」

<<ふん、もうしっかり頂いたけど? 男と女、どっちもね>>

「ああ、〝手伝い〟だけはできるようだな。おかげで抱き心地が整っていた。感謝する」

 

 暫しの無言に怒りが滲む。やがて、感情を抑えきった声が響いた。

 

<<明日の夜9時。サロンに来て>>

「いいだろう。たんぽぽコーヒーを出すなよ?」

 

 切断の音は、波の音に飲まれて消えた。

 

「怒らせたか。まあ、それぐらいがちょうどいい」

 

 神代はSUVに乗り込むと、その深紫のボディを闇の中へ走らせた。

 

 

 

「『L'Ombre(ロンブル)』──私の〝影〟か」

 

 約束の日時に加蓮の『城』へとやってきた神代。夜の闇によく映える金色のロゴを目に入れつつ、中へ入った。

 

「臆さず来たのは、さすがね」

 

 シルキーな漆黒のドレスに照明の光が踊る。十年前とは打って変わり、大人の貫禄と妖艶さを身に付けている。股近くまで深く入ったスリット。普通の男なら一瞥で捉われるだろうが……神代にとって、それは単なる記号に過ぎない。加蓮に促されるまま、応接セットに腰を掛けた。

 

 用意されていたガラスのポットから、蜂蜜色のハーブティーが注がれる。様々な匂いが漂うフィトテラピーサロンの中で、湯気とともに一段と芳しい香りが立ち昇る。

 

「ジャーマンカモミール……鎮静とはな。争う気がないとでも?」

 

 音も立てずにティーカップを置くと、加蓮は優雅な所作で正面へ座った。

 

「知ったようなことを。一応の敬意よ。ずっと恋焦がれさせた、罪そのものみたいな男。その精算を兼ねて」

「その〝経緯〟あって、予約の取れないサロンのオーナーになったんだろう? 良かったじゃないか」

 

 お互い、カップに口をつける。暫しの間を置き……加蓮は真っすぐに神代を見た。

 

「ひとつだけ聞かせて。なぜあの時、フランス行きを裏切ったの? あれだけ濃密に溶け合った日々に、運命だって感じていた。小娘をからかって、楽しんだだけだったのかしら」

「カタツムリがこ馳走の国になど行きたくなくなった。それだ……け……──」

 

 神代は急に頭をふらふらさせると、椅子から落ち、床に倒れ込んだ。

 

「そういうウィットを、向こうで聞きたかった」

 

 神代のそばにしゃがみ込むと、加蓮は神代のベルトを緩め、ズボンと下着を脱がせる。露出した下半身に目をくれ……ドレスのスリットを大きくたくし上げると、例のペニスパンツを履いた。

 

「ふふふふふ……」

 

 屹立する白い張形(はりがた)をひと撫でし、ぺろりと唇をなめる。スマホを床に固定、録画ボタンを押し終えると、神代の両足を担ぎ上げた。

 

「先生は今から、自分のペニスで犯されるのよ。ふふふ、最高の屈辱(ショー)をリアルタイムで観られないのだけは、残念ね」

 

 顔を寄せ……頬にキスをする加蓮。その瞬間。

 

「──えっ!?」

 

 すさまじい力で神代に抱き締められる。両足も絡めとられ、完全に動きを封じられた加蓮は、予想外の展開にただただ混乱した。

 

「飲んだフリをしただけだ。お前が何をするのか、興味があったのでね」

「いっ、いやっ! 放し──!? 痛っ!?」

「私は〝刺す〟専門でね。されるのはご免こうむる」

 

 神代はどこからか取り出した注射器を、加蓮の首筋に刺した。

 

「プロポフォールだ。使うつもりはなかったがな」

「……そん……な……」

 

 ブランジャーを押し切って、ものの十数秒。加蓮は気を失い、力なく覆いかぶさった。神代はそれを横へやりつつ、下着とズボンを履き直した。

 

「屈辱(ショー)の続きは、お前が主役だ、加蓮」

 

 神代は加蓮のスマホを手に取ると、ハーブティのポットを開け、その中へ沈めた。

 

 

 

「──……んっ……」

 

 混濁の中、よく知っている光景が加蓮の薄目の中へ入って来る。

 

(……ここは、私のサロン……天井が……あれ、か、身体が)

 

 我に返って自分の身体を見るなり、加蓮はパニックになった。

 

「──っ!? んん゛~っ!!!」

 

 全裸で施術ベッドの上にあおむけで縛り付けられている。腕は頭上で括られ、身動きもままならない。足と太腿はテーピングされ、開脚したままに。さらけ出した花園(ヴァギナ)が否応なく羞恥にまみれる。

 

「目が覚めたか」

 

 神代がブロードシャツの袖をまくり、小瓶から何やら液体を手に取ってすり合わせている。

 

「さて、お仕置きの時間だ。……ああ、これか? ただの市販のヒートジェルだ。ケミカルだがご容赦を」

「んふんっ!」

 

 口にはギャグボールが押し込まれ、声もまともに出ない。

 ひやりとしたジェルに、身体が反応する。そして……時に強く、やさしく。緩急自在の神代の手がジェルを引き延ばすに従い、徐々に皮膚の温度が上がっていく。

 

「んっ、ぐふ、んぐ」

 

 わき腹から胸へ。豊満な乳房をつるつると撫でまわしつつ。乳首の周囲に何度も指圧をかける。二の腕の裏から腋(わき)へも同じく、確実に〝感じる〟神経を伝い、往復する。

 

 薬は盛られていない様子。なのに、身体が芯まで熱い。もがくほどに汗ばむ肌。そこへロープが食い込み、微かな痛みが起こる。しかし……それが、どんどんと心地よくなっていくことに、加蓮は恐々とした。

 

(いやっ! 畜生、身体が、思い出してる……)

 

 かつて書き換えられた、痛覚を快楽にする神経。神代に刻み込まれたマゾヒシズムが、十年の封印を解き、じわじわと加蓮の全身へ表面化した。

 

「んっ……んぐぅ~っ……」

「下地は終わったな。そろそろ敏感なところを責めようと思うが……そうだ。乳首イキは健在か?」

「ん゛んんっ!?」

 

 熱と指圧で痛いほど張った乳首を、つまんでは弾く。激しく、やさしく。十年来の「条件反射の快感」が、次々と脳へ打ち込まれていく。

 激しくなぶられた末の、ひと捻り。

 

「ぐくんんんん~~っ!!!」

 

 十年来のオーガスムが、全身を包む。その焦がれに焦がれた快感に、背筋は大きくのけ反った。

 

 神代に捨てられた加蓮は、ずっと不感症になっていた。ガサツな男たちの、繊細さに欠ける行為に辟易する日々。やがて女性も試すようになった。

 決して満たされることのない、頂点を知ったことによる不幸。だが、ひたすら拗らせ募らせた十年の恨みは今、本物をもって昇華されてしまった。

 

 乳首だけで、このありさま。一方的な蹂躙。加蓮は敗北と、抗うのも無駄な悦楽の狭間で、泣いた。

 

「ダメじゃないかこの程度でイクなど。相変わらず堪え性のない子だ」

 

 髪に手櫛(てぐし)を入れ、幼子をあやすような言い方をする神代。その手のあたたかさに、全てを赦し、絆(ほだ)されていく自分がいる。

 

(わかってる。先生のやり口だと、わかっているのに……)

 

 悔しさよりも、素直さが勝っていく。かつての神代の毒が、再び加蓮を犯していた。

 

「──! んふんっ?」

「そういえばアヌスも好きだったな。では特別に、二穴を満たして骨盤底筋群をまるごと揺すってやろう。これは意趣返しじゃない。礼だ。今回の余興へのな」

 

 神代は加蓮からはぎ取ったペニスパンツの張形を握り、その先を加蓮の花園へ当てた。

 

(いい、いやっ。ずっと使わずに、思い出さないようにしていたのにっ……)

 

 もがき、首を振る加蓮。しかしその奥底では、もはや蓋をしきれない期待があふれ出ていた。

 かつての従順な目の光が戻りつつある。仔犬のように泣く加蓮を見て、神代は早々に興味を失い、ギャグボールを外した。

 

「ぷはあっ……ああ、先生……お願いします。私はイケない子でした。せめてどうか、お慈悲をください」

「私は忠誠には愛で答える主義だが、罰は受けてもらわんとな」

「んはうぅっっ!」

 

 張形をぐいいと、濡れに濡れた花園(ヴァギナ)へ挿す。浅めに、Gスポットを的確に押しつつ……神代は持っていた別のバイブをローションでたっぷり濡らすと、肛門へゆっくりと挿し込み、スイッチを押した。

 

「!?!?!? あぁあああ、ぁあああああ゛──っ!」

「どうだ、罰にしては佳い心地だろう?」

「いや、いやいやいやあっ! こんなので、イキたくない! お願いします、先生の、先生の本物を──」

「調子に乗るな」

「ひぁああああ────っ!!!」

 

 クリトリスを摘まみ上げ、下腹部すべての性感に高負荷を与える。圧倒的なオーガスムの衝撃に、加蓮は神代の言う通りに骨盤から脳髄までを揺らした。

 

(ああ……また、壊された……やっぱり、先生には……敵わない……)

 

 憎悪もプライドも、すべてが快楽の下に溶けていく。加蓮はその、絶望的なまでの悦びを貪(むさぼ)りながら、抗わず、意識を途絶えさせた。

 

 余韻で痙攣(けいれん)し、汗できらめく裸体。神代は加蓮の拘束を丁寧にほどき、シーツを無作法にかけ終える。ラテックス手袋をゴミ箱へ投げ入れると、冷めた目で事後の景色を見渡した。

 

「私が抱くのは、リオだけだ」

 

 淡々と、出ていく。『L'Ombre(ロンブル)』の一室に、影と静寂をたたえたまま。





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※本作は下書き完結済 です!
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