※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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外伝 カレン・オルテンシア編③

共和国の旧市街の地下深く。

かつては美しい石造りの水路だったそこは、今や濃密な魔力と悪魔憑きの放つ腐臭に満たされ、常人であれば足を踏み入れた瞬間に発狂しかねないほどの陰惨な空気に支配されていた。

 

しかし。

 

「わあーっ、なんだか迷路みたいだね! 暗いけど、探検みたいでワクワクするよ!」

 

コツ、コツ、と軽やかなブーツの音を響かせながら歩く桜色の騎士――アストルフォの周囲だけは、まるで真夏の陽だまりのように明るく、そしてむせ返るような薔薇の香りが充満していた。

彼から放たれる純度百パーセントの『陽』の魔力が、淀んだ地下水路の空気を片端から浄化(あるいは彼の甘い匂いで上書き)していくのだ。

 

その数歩後ろを歩くカレン・オルテンシアは、修道服の裾を握りしめながら、内心で激しい動揺と戦っていた。

 

(……おかしい。私の身体は、悪魔を引き寄せる特異体質。この地下水路に入れば、霊障による激痛が全身を苛むはずなのに)

 

カレンの特異体質。それは、周囲の悪魔や霊障を自らの身体に引き受け、痛みとして発現させる『被虐霊媒体質』である。彼女はこれまで、その激痛を神への奉仕として受け入れ、冷徹に任務をこなしてきた。

だが今、彼女の身体に悪魔の痛みは一切走っていなかった。

 

代わりに彼女の下腹部を支配しているのは、前を歩くアストルフォから絶え間なく放たれる、火傷しそうなほどの圧倒的な体温と、鼓膜の奥を甘く溶かすようなオスのフェロモンだった。

 

「……アストルフォ、様」

 

カレンは、自らの内に湧き上がる正体不明の情欲の疼きをごまかすように、静かに口を開いた。

 

「ん? なあに、カレン? 疲れた? おんぶしてあげよっか!」

 

アストルフォが屈託のない笑顔で振り返る。

 

「いえ……。ただ、疑問に思っただけです。貴方のような光に満ちた英霊が、なぜ私のような……不浄を引き寄せる女と、平気で歩けるのかと」

 

カレンの黄金の瞳が、自嘲気味に伏せられる。

 

「私は、生まれつき悪魔を惹きつけ、その痛みを受肉する道具に過ぎません。……男性が私に向ける視線も、大半は私のこの特異な性質に当てられた、醜く淀んだ欲望ばかり。……でも、貴方は」

「カレン」

 

アストルフォは足を止め、カレンの目の前へと歩み寄った。

 

「ひゃうっ……」

 

彼が近づいただけで、カレンの修道服越しの素肌がピリピリと熱を帯びる。

 

アストルフォの大きな手が、カレンの冷たい両手を優しく包み込んだ。

 

「痛い思いをして、傷ついて……それが自分の役目だなんて、そんな悲しいこと言わないでよ」

 

紫水晶(アメジスト)の瞳が、カレンの瞳を真っ直ぐに射抜く。

 

「ボクには難しいことはわからないけど、カレンがすっごく頑張り屋さんで、優しくて、綺麗な女の子だってことはわかるよ! 痛い思いなんか、もうしなくていい。ボクが、カレンに近づく悪いヤツらを全部やっつけてあげるから!」

「あ……ぅ……っ」

 

カレンの胸の奥で、長年分厚い氷で覆われていた『痛みを是とする価値観』が、音を立てて崩れ去った。

道具として扱われることに慣れていた彼女。誰も彼女自身の平穏を願ってなどくれなかった。

それを、この底抜けに明るい騎士は、ただの「綺麗な女の子」として全肯定し、守ると言ってくれたのだ。

 

交差する視線と、彼の手から直接流れ込んでくる圧倒的な熱。

カレンの子宮の奥底で、悪魔の霊障とは全く違う、もっと恐ろしくて、甘く痺れるような『女としての情動』が激しく脈打ち始めた。

 

「貴方という人は……本当に、規格外ですね。……神への信仰すら、揺らいでしまいそうになる……っ」

 

カレンは頬を極限まで赤く染め、彼の手の温もりにすがりつくようにして、小さく吐息を漏らした。

 

「さあ、お喋りはおしまい! お客さんがいっぱい来たみたいだよ!」

 

アストルフォがカレンの手を離し、愛剣を引き抜いた瞬間。

地下水路の奥から、ヘドロのように淀んだ巨大な悪魔憑きの群れが、カレンの特異体質(と、それを上回るアストルフォの魔力)に引き寄せられ、濁流のように押し寄せてきた。

 

「……下がってください。あれだけの数を相手にするには、私の聖骸布で……っ」

 

カレンが前に出ようとした、その時。

 

「下がってて、カレン。――ボクが守るって、約束したでしょ?」

 

アストルフォの背中が、カレンの視界をすっぽりと覆い隠した。

次の瞬間、地下水路を揺るがすほどの圧倒的な魔力放出。

 

「そぉぉぉぉいッ!!」

 

アストルフォが剣を一閃する。

それはただの剣撃ではない。シャルルマーニュ十二勇士の騎士が放つ、純度百パーセントの陽の魔力を帯びた、光の暴風だった。

 

ゴォォォォォォォンッ!!!

 

教会の代行者であるカレンが苦戦していた悪魔憑きの群れは、悲鳴を上げる間もなく、その光の暴風に呑み込まれ、跡形もなく消滅した。

地下水路を満たしていた陰惨な瘴気も完全に吹き飛び、後にはアストルフォから放たれる薔薇の香りだけが残された。

 

「……信じられない。あれほどの悪魔の巣を、たった一撃で……」

 

カレンは、その場にへたり込みそうになるのを必死に堪え、目を見開いていた。

 

「よしっ、これでお仕事完了! みんな、ロンドンのお家で待ってるから、早く帰らないとね!」

 

アストルフォは剣を納め、少しだけ汗ばんだ額を拭いながら、カレンに向かって満面の笑みで振り返った。

 

戦いを終え、アドレナリンと熱気を発散させる彼の姿。

修道服越しにも伝わってくる、オスの筋肉の躍動と、むせ返るようなフェロモン。

 

(……あ、あぁ……っ)

 

カレンの理性が、ここでついに悲鳴を上げた。

悪魔が祓われたことで、彼女の身体を縛っていた「任務」という枷が外れた。その結果、先ほどから必死に抑え込んでいた『彼に対する強烈な情欲と渇望』が、堰を切ったように溢れ出してしまったのだ。

 

「カレン? どうしたの、足震えてるよ。やっぱり怪我が痛む?」

 

アストルフォが心配そうに駆け寄り、カレンの腰と肩をがっしりと抱き留める。

 

「ひゃうっ……!! ぁ、あ……っ」

 

彼に抱きすくめられた瞬間、カレンの口から、もはやシスターとしての威厳など微塵も感じさせない、甘く蕩けた嬌声が漏れた。

 

彼の火傷しそうなほどの体温が、彼女の冷たかった身体を完全に犯していく。

 

「あ、ちが……っ、痛いのでは、ありません……っ。貴方の、熱が……強すぎて……っ、私、頭の、中が……っ」

 

カレンの黄金の瞳は、すでに情欲の涙でトロトロに濁りきっていた。

悪魔の痛みは耐えられた。しかし、彼がもたらす『極上の快楽を予感させる愛の熱』には、彼女の強靭な精神力をもってしても、一秒たりとも抗うことができなかったのだ。

 

「……カレン、すっごくいい匂い。お仕事も終わったし、ホテルに帰ろっか。ボクが、朝までカレンのこと、いっぱいいっぱい温めてあげるからね」

 

至近距離で囁かれる、悪魔よりも恐ろしく、そして甘い誘惑。

 

「はい……っ、アストルフォ、様……っ。私を……貴方の熱で、めちゃくちゃに……溶かして……っ」

 

カレンは自らアストルフォの首に腕を絡ませ、自らの豊かな胸の膨らみを彼の胸板に押し付けながら、完全に骨抜きにされた雌の顔で彼にすがりついた。

 

魔術世界の闇を祓うという危険な任務は、桜色の騎士の圧倒的な力の前ではただの準備運動に過ぎなかった。

真の任務(本番)はここから。冷徹な修道女を、極限まで甘く、快楽の波に溺れさせる濃密な一夜が、今まさに始まろうとしていた――。

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