fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
共和国の旧市街にひっそりと佇む、セーフハウスの最上階。
夜の静寂に包まれた寝室は、およそ神に仕える修道女がいるべき空間とはかけ離れた、むせ返るような愛欲の匂いと、火傷しそうなほどの熱気に完全に支配されていた。
「あぁっ……! ぁ、あ……っ! アストルフォ、様……っ」
最高級のシーツに沈み込むカレン・オルテンシアは、自らの上に覆い被さる桜色の騎士の広い肩にすがりつき、瞳を情欲の涙で濡らして激しく喘いでいた。
彼女の特異体質である『被虐霊媒体質』は、周囲の悪意や悪魔を引き寄せ、その身に激痛を刻むもの。カレンはこれまで、その痛みを神への奉仕として甘んじて受け入れ、他人の温もりなど一切拒絶して生きてきた。
しかし今、彼女の身体を貫いているのは痛みなどではない。
「カレン、すっごく柔らかいね。……冷たいところ、全部ボクの熱で溶かしてあげるからね」
アストルフォの太く逞しい腕が、カレンの華奢な背中を抱きしめ、柔らかな素肌を直接撫で上げる。
「んひぃッ……!! ぁ、ああっ……! だめ、です……っ。そんな奥まで、貴方の熱を……っ、注ぎ込まれたら……私、頭がおかしくなって……っ」
彼の放つ、純度百パーセントのオスの魔力と、絶対的な肯定感。
それがカレンの最も敏感な部分を肉棒という姿かたちで容赦なく擦り上げ、彼女の子宮の奥底へと、太陽そのもののような熱量となって叩き込まれていく。
冷徹なシスターとしての理性はとうに焼き切れ、彼女の口からは、ただ目の前のオスを求める、ひどく甘く蕩けた嬌声だけが溢れ出していた。
(神よ……お許し、ください……っ。私は、こんなにも浅ましく……一人の男の熱に……っ)
カレンは最後に残ったわずかな信仰心で祈ろうとしたが、アストルフォの熱い唇が、彼女の震える唇を深く、貪るように塞いだ瞬間、その祈りは完全に書き換えられた。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ、あぁ……アストルフォ様……っ、もっと……私を、めちゃくちゃに……っ」
交わる舌から流れ込む甘い唾液と、彼の匂い。
カレンは自ら彼の逞しい首に腕を絡ませ、自らの豊かな胸の膨らみを彼の胸板へと擦り付けた。
神への祈りは、彼への愛の囁きへと変わり、孤独だった修道女は、この夜、規格外の騎士がもたらす果てしない快楽の濁流に完全に呑み込まれ、幾度となく至福の絶頂へと打ち上げられたのだった。
***
翌朝。
地中海の眩しい朝日が、カーテンの隙間から寝室を照らし出した。
「……んっ」
カレンは、全身を包み込むような心地よい疲労感と、かつて経験したことのない『圧倒的な満腹感(熱の充足)』に包まれながら、ゆっくりと目を覚ました。
「おはよう、カレン! すっごくよく眠れてたね!」
隣には、すでに目を覚ましていたアストルフォが、シーツから上半身を覗かせ、満面の笑みで彼女を見つめていた。
「ひゃうっ……!」
カレンは昨夜の狂おしい記憶がフラッシュバックし、顔から火が出るほど赤面して、慌ててシーツを引き上げた。
しかし、彼女の首筋から美しい鎖骨にかけて、彼が執拗に刻み込んだ無数の赤い痕が、隠しきれずに覗いている。
「あ、あの……昨夜は……私、どうかしていました……っ。悪魔の障気が、私の精神に異常を……っ」
カレンは必死に言い訳を並べようとするが、アストルフォはふわりと笑って、彼女の頬にちゅっ、と優しく口付けた。
「障気のせいなんかじゃないよ。カレンが、ボクのこといっぱい好きになってくれたからでしょ? ボクもカレンのこと、だーいすき!」
「っ……!」
その真っ直ぐすぎる愛の言葉に、カレンの胸の奥がドクンと大きく跳ねる。
「あのね、カレン! お仕事も終わったし、一緒にロンドンのお家においでよ! 凛や桜たちも、きっとカレンのこと大歓迎してくれるよ! みんなで一緒に、毎日楽しく暮らそう!」
アストルフォは、全く疑うことなく、彼女を自身の巨大な「愛の城」へと招待した。
彼の腕の中にいれば、もう二度と悪魔の痛みに怯えることもなく、永遠にこの甘く蕩けるような幸福の中に浸っていられる。
カレンの女としての本能は、「今すぐ頷いて、彼に一生すがりつきたい」と激しく叫んでいた。
しかし。
カレンは、シーツの下でギュッと自らの太ももをつねり、精神力と信仰心のすべてを総動員して、なんとか彼を突き放すための冷たい声を作った。
「……お断りします。私は、聖堂教会の代行者。貴方のような色情狂の騎士の愛人(ハーレムの一員)になるなど……到底、受け入れられません」
カレンの言葉は鋭かったが、その黄金の瞳は微かに震え、今にも泣き出しそうに潤んでいた。
「ロンドンの魔術師たちと一緒に暮らすなど、教会の教義に反します。……昨夜のことは、ただの一時的な気の迷い。忘れてください」
彼女が誘いを断ったのは、教会の掟のためだけではない。
彼女自身の、ひねくれたプライド。これ以上彼と一緒にいれば、自分が完全に「彼なしでは呼吸もできないただの雌」になってしまうという、恐ろしいほどの予感があったからだ。
「……そっか。カレンには、教会のたいせつな役目があるもんね」
アストルフォは、意外にもあっさりと引き下がった。
そして、少しだけ寂しそうに微笑むと、彼女の頭をポンポンと優しく撫でた。
「わかった! 無理には連れて行かないよ。でもね、ボクたちの絆は絶対に消えないから! カレンが寂しくなったら、いつでもボクのお家に遊びにおいで!」
「……っ。遊びになど、行きません……っ」
カレンは顔を背け、ポロリとこぼれ落ちそうになった涙を必死に堪えた。
数時間後。
アストルフォは、カレンに特大の笑顔と(彼女の理性を再び溶かしかけるほどの)濃厚な別れのキスを残し、ロンドンへと旅立っていった。
誰もいなくなったホテルの部屋。
カレンは、彼が寝ていた側のシーツに顔を埋め、そこから漂う甘い薔薇の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「……本当に、恐ろしい悪魔……いえ、天使ですね」
カレンは、ポツリと呟き、自らの平坦な下腹部へとそっと両手を当てた。
昨夜、彼から数え切れないほど注ぎ込まれた、火傷しそうなほどの熱。
それは単なる快楽の余韻ではない。彼女の子宮の最も深い場所で、明らかにこれまでとは違う、力強く温かい『奇跡の鼓動』が、すでに根を下ろし始めていたのだ。
「……この温もりだけは、神への背信であろうと……絶対に、手放したりしません……っ」
カレンは、まだ見ぬ愛の結晶を愛おしそうに撫でながら、いつか必ず、彼と『彼の妻たち』の元へ、この手土産(爆弾)を持って乗り込んでやるのだと、密かに、そしてこの上なく幸せそうに微笑んだのだった。
***
その数日後。ロンドン・時計塔。
現代魔術科(ノーリッジ)、エルメロイ教室の君主(ロード)、エルメロイⅡ世の執務室の扉が、勢いよく蹴り開けられた。
「やあやあ! ロード、お仕事ちゃんと終わらせてきたよ!」
「……帰ってきたか、この歩くフェロモン災害め。どれ、教会の連中とは揉めなかっただろうな」
Ⅱ世が胃薬の準備をしながら尋ねると、アストルフォの背後から、彼を出迎えたライネス・エルメロイ・アーチゾルテとレティシアが、苦笑しながら顔を出した。
「ふふっ。兄上。揉めるどころか、現地の教会のシスターと見事な『共同戦線(意味深)』を張ってきたそうじゃないか。彼から、今まで嗅いだことのない聖女の香りがしているからね」
ライネスが、アストルフォの首元に顔を近づけ、クスクスと底意地の悪い笑いを漏らす。
「あの方の放つ熱に当てられれば、教会のシスターであろうと抗えるはずがありませんもの。……でも、少しだけ嫉妬してしまいますわね」
レティシアもまた、頬を膨らませながらアストルフォの腕にぴたりとすがりつく。
「ま、待て。お前、まさか本当に現地のシスターに手を出したのか!? 教会と時計塔の政治的バランスが……っ、あぁっ、胃が……ッ!!」
Ⅱ世が崩れ落ちる中、アストルフォは無邪気に笑った。
「手を出したっていうか、すっごく仲良くなったんだよ! またいつか、絶対に会える気がするんだ!」
かくして、ヨーロッパ南部での大冒険は、時計塔のロードの胃壁をさらに削りながらも、未来への特大の布石(カレンの妊娠)を残し、無事に幕を閉じたのであった。