fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ティンタジェルの断崖から車を走らせること数十分。
イギリス屈指のサーフリゾートとして名高いニューキーの海岸線、その中でも最も美しいとされる「フィストラルビーチ」を見下ろす最高級ホテルの最上階スイートに、四人はチェックインを果たしていた。
「さあ! お着替え完了! 早く海に行こうよ!」
一番にバスルームから飛び出してきたアストルフォは、見事に引き締まった細マッチョの肉体を惜しげもなく晒す、スポーティなサーフパンツ姿だった。
無駄な贅肉など一切ない、彫刻のように美しい腹筋と、戦場で鍛え上げられたしなやかな筋肉。それでいて、女性のように滑らかで傷一つない白い肌が、窓から差し込む初夏の陽光を弾いてキラキラと輝いている。
「……はぁ。本当に、無駄にいい身体してるわよね」
綾香が、照れ隠しに丸い眼鏡を押し上げながら、少しだけ頬を赤くして呟いた。
彼女自身は、露出を抑えた清楚なワンピースタイプの水着に、薄手のラッシュガードを羽織っている。苦労性の彼女らしい、実用性と恥じらいを兼ね備えたチョイスだ。
「ええ。……その完璧な肉体に、どれだけ私たちが夜ごと泣かされているかと思うと、少し腹立たしいくらいだわ」
美沙夜が、気品高く結い上げた黒髪を揺らしながら歩み出る。
彼女が選んだのは、エレガントなワインレッドのビキニだった。完璧主義の彼女が日頃から磨き上げている、くびれた腰のラインと豊かな胸の渓谷が、高級リゾートの空気にふさわしい大人の色香を放っている。
「ふふっ。私の王子様だもの、世界で一番かっこよくて当然じゃない」
そして最後に、愛歌が優雅な足取りでリビングへと姿を現した。
「お、お姉ちゃん……っ! さすがにその水着は、面積が……っ!」
綾香が顔から火が出るほど赤面して叫ぶ。
愛歌が身に纏っていたのは、透き通るような雪の肌を際立たせる、純白の極小ビキニだった。胸の膨らみを辛うじて隠す程度の布面積と、細い紐だけで結ばれた腰回り。上から羽織っているシースルーのパレオは、隠すどころか逆に彼女の妖艶なシルエットを強調し、全能の少女が今日、いかにして「一人の雌」として彼を誘惑し尽くすつもりであるかを如実に物語っていた。
「わあ! 愛歌、すっごく綺麗! 美沙夜も綾香も、すっごく可愛いよ! みんな、海のお姫様みたいだ!」
アストルフォは、全く邪心のない、純粋な感嘆の声を上げて三人を絶賛した。
「ふふっ……ありがとう、王子様。さあ、行きましょう?」
愛歌は勝ち誇ったように微笑み、アストルフォの太く逞しい腕に自らの華奢な腕を絡ませて、スイートルームを後にした。
***
フィストラルビーチの白い砂浜には、初夏のバカンスを楽しむ大勢の観光客やサーファーたちが溢れていた。
ケルト海から打ち寄せる良質な波を求めて、世界中から海を愛する者たちが集まるこの場所で。
「やっほーっ!! 波乗り、すっごく楽しいね!!」
アストルフォは、レンタルしたサーフボードを見事に操り、高い波のチューブを軽々と潜り抜けていた。
サーフィンなどやったことがないはずの彼だが、幻馬(ヒポグリフ)を乗りこなす超一流の騎乗スキルと、常軌を逸した身体能力にかかれば、波の動きを読むことなど造作もない。
太陽の光を浴び、桜色の髪を海水で濡らしながら、極上の笑顔で波を切り裂く彼の姿は、文字通り「輝く太陽の化身」そのものだった。
「……す、すごい……。あんな大技、プロのサーファーでも滅多にできないのに……っ」
綾香が、ビーチパラソルの下でアイスティーを飲みながら、目を丸くしている。
「当然よ。あの方は、何をやらせても規格外なのだから。……でも、困ったわね」
美沙夜が、サングラス越しに冷ややかな視線をビーチの波打ち際へと向けた。
アストルフォの圧倒的なパフォーマンスと、その彫刻のような肉体美、そして底抜けに明るいオーラ。
そんな存在が、周囲の視線を集めないはずがなかった。彼が波から上がり、ボードを抱えて砂浜を歩き出した瞬間、現地のビキニ姿の外国人女性たちが、文字通り群がるように彼を取り囲んだのだ。
「Hi, handsome!(ねえ、イケメン!)」
「Your surfing was amazing!(あなたのサーフィン、最高だったわ!)」
「Are you here alone?(一人で来てるの? 一緒に遊ばない?)」
金髪やブルネットの美女たちが、豊満な胸の谷間をアストルフォの腕に押し付けんばかりの勢いで、次々と逆ナンを仕掛けている。
「やあやあ! ありがとう! キミたちの水着もすっごく素敵だね!」
アストルフォは、誰に対しても分け隔てなく、屈託のない笑顔で対応してしまう。彼に他意はないのだが、それがさらに女性たちの熱を煽っていた。
「……ちょっと。あの雌豚たち、私の王子様に気安く触ろうとしているわね」
パラソルの下。
愛歌の声の温度が、絶対零度まで急降下した。
「お、お姉ちゃん……? 魔術はだめだよ! ここ、一般人がいっぱいいるんだからね!」
綾香が慌てて制止しようとするが、愛歌はゆっくりと立ち上がり、パレオを翻して波打ち際へと歩き出した。
魔術など使う必要はない。彼女の全身から放たれる、底知れぬ「全能者の威圧感」と「本妻の絶対的なオーラ」だけで十分だった。
「――Good day. Do you need something from him?(――ごきげんよう。彼に何か御用かしら?)」
愛歌が、アストルフォに群がる女性たちの背後から、氷のように冷たく、けれど甘く美しい声で語りかけた。
女性たちが振り返る。
そこに立っていたのは、純白の極小ビキニを纏い、常人離れした美貌に極上の(そして目が全く笑っていない)微笑みを浮かべた金髪の女性。
身長は彼女たちの方が高いはずなのに、愛歌の金色の瞳に見据えられた瞬間、外国人女性たちは蛇を前にしたカエルのように背筋を凍らせた。
「He is, you know, my little star. ...Would you mind not touching my precious light with those filthy hands of yours, as if they've been soaked in muddy water?(彼はね、私のお星様なの。……泥水に浸かったような薄汚い手で、私の大切な光に触れないでくれる?)」
その圧倒的な「殺気」のプレッシャーを前に女性たちは「Oh...」「Sorry...」と引き攣った笑いを浮かべ、そそくさとその場から蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「あ、みんな行っちゃった。……愛歌、どうしたの?」
アストルフォが、不思議そうに首を傾げる。
「ううん、何でもないわ。……ねえ、王子様。他の虫が寄り付かないように、私が貴方を独り占めしてもいいでしょう?」
愛歌は、先程までの冷酷な顔を一瞬で甘く蕩けた乙女の顔へと作り変え、濡れたアストルフォの広い胸板へと自ら飛び込んだ。
「わっ! 愛歌、ボク今、海の水で冷たいよ!」
「ふふっ……嘘。貴方の身体、火傷しそうなくらい、すっごく熱いもの……」
愛歌が彼に密着した瞬間。
海水で冷えているはずの彼の大胸筋から、驚異的な生命力が生み出す『オスの体温』が、純白のビキニの薄い布地をすり抜けて、愛歌の柔らかな素肌へと直接流れ込んできた。
「ひゃうっ……」
愛歌の口から、無防備で艶めかしい吐息が漏れる。
冷たい海風と、彼から注がれる圧倒的な熱量。その温度差が、彼女の皮膚感覚を狂わせ、魔術回路の芯をじんじんと甘く刺激する。
「愛歌のお腹、すっごく冷たくなってるよ。ボクが温めてあげる」
アストルフォの大きく、逞しい手が、愛歌の腰のくびれをすっぽりと包み込み、そのまま彼女の身体をぐいっと自らの方へと引き寄せた。
「んんっ……!! ぁ、あ……っ」
二人の太ももが、波打ち際でぴったりと密着する。
彼のサーフパンツ越しに伝わってくる、硬く引き締まった筋肉の動き。そして、彼から放たれるむせ返るような薔薇の香りと潮風が混ざり合い、愛歌の呼吸を容赦なく奪い去っていく。
「……ちょっと、愛歌! 抜け駆けは許さないわよ!」
「そ、そうだよお姉ちゃん! 私たちも、アストルフォさんと一緒に……っ」
パラソルの下から、たまらず美沙夜と綾香が駆け寄ってきた。
美沙夜がアストルフォの右腕にすがりつき、綾香も恥ずかしそうにしながら左腕へと寄り添う。
「美沙夜も綾香も、手冷たくなってる! ほら、みんなでくっつけば、すっごくあったかいよ!」
アストルフォは、両腕で三人まとめて自らの胸の中へと抱き寄せた。
「ああっ……! アストルフォさんの、熱……っ。ラッシュガードの上からでも……直接、お腹の奥まで……届いて……っ」
綾香が、顔を真っ赤にして彼の胸板に額を擦りつける。
「貴方の熱に当てられたら……本当に、頭がおかしくなってしまいそう……っ」
美沙夜も、エレガントな仮面をかなぐり捨て、自らの豊かな胸の膨らみを彼のがっしりとした腕へと無意識に押し付けていた。
「ふふっ……。ええ、この熱こそが、私の王子様よ。……夜まで、待ちきれなくなりそうね」
愛歌は、至近距離でアストルフォの首筋に熱い吐息を吹きかけながら、甘くトロンと濁った瞳で微笑んだ。
フィストラルビーチの波打ち際。
冷たいケルト海の海水すらも瞬時に沸騰させてしまいそうなほどの、規格外のオスの熱量。三人の魔術師たちは、周囲の観光客の目など完全に忘れ去り、彼のもたらす果てしない愛と体温の濁流に、ただひたすらに身を委ね、甘く蕩けた微睡みの中へと沈み込んでいくのだった。
夜の高級スイートルームで、この熱がさらに濃密な快楽へと変わることを、甘く、切実に予感しながら――。