fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
フィストラルビーチの波音が、静かな規則性を持ってスイートルームの窓ガラスを震わせている。
しかし、キングサイズベッドの上に広がる空間だけは、海風の冷たさなど微塵も届かない、むせ返るような熱帯の夜へと変貌していた。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ、王子様……っ」
沙条愛歌の桜色の唇から、甘く、蕩けきった水音が絶え間なく漏れ出している。
生まれながらにして『根源』に接続し、過去から未来に至るまでのあらゆる事象を掌の上で転がすことができる全能の天才。本来であれば、彼女にとってこの世界は退屈な箱庭でしかなく、他者の体温など意味を持たないはずだった。
だが、今彼女の柔らかな素肌を撫で回している彼(アストルフォ)の手は、彼女の全能の予測を常に凌駕し、宇宙の理すら焼き尽くすほどの常軌を逸した『オスの熱』を放っている。
「愛歌のお肌、すっごく滑らかで綺麗だよ。……月の光みたい」
アストルフォの大きく逞しい手が、愛歌の細い背筋をなぞり、そのまま腰のくびれをすっぽりと包み込む。
その瞬間、愛歌の魔術回路の芯がカッと熱を持ち、子宮の奥底から甘い痺れが湧き上がった。
(ああ……私、今……『人間(女の子)』になっているわ……)
愛歌は、情欲にトロンと濁った金色の瞳で彼を見つめ返した。
全能である自分を、ただの一人の無力な雌へと引きずり降ろしてくれる絶対的な光。彼に抱きしめられ、その熱を内側に流し込まれるたび、退屈だった彼女の心は極彩色の悦びで満たされていくのだ。
「あぁっ……王子様……。もっと、私を……貴方の熱で、狂わせて……っ」
愛歌は自ら背伸びをし、彼の硬く引き締まった首筋に、真っ赤な愛の印を刻み込むように唇を押し当てた。
その狂おしいほどの愛欲の交わりを、至近距離で、アストルフォの左腕に抱き寄せられながら見つめている少女がいた。
妹の、沙条綾香である。
「はぁっ……あ……っ」
綾香の口からも、姉に同調するように、無意識の嬌声が漏れる。
彼女は、「不思議系森ガール」という仮面を被り、常に姉の異常性の尻拭いに奔走する苦労人として生きてきた。
魔女術(ウィッチクラフト)の才能はある。だが、全能の姉と比べてしまえば、自分などただの凡人にすぎない。姉の影に隠れ、自分の本当の願いや、普通の女の子のように「誰かに甘やかされたい」という想いには、ずっと重い蓋をしてきた。
ルーマニアのホテルで彼に出会うまでは。
「綾香。……どうしたの? 身体、すっごく震えてるよ」
アストルフォが、愛歌の髪を撫でていた手を休め、今度は綾香の方へと顔を向けた。
彼の紫水晶の瞳が、綾香の揺れる瞳を真っ直ぐに射抜く。
その瞳には、彼女を「沙条愛歌の妹」として見る色は一切ない。ただ、目の前にいる一人の大切な女の子を慈しむ、純度百パーセントの優しさだけがあった。
「ちが……違います……っ。私、は……お姉ちゃんみたいに、特別じゃないし……っ。可愛くも、ないのに……っ」
綾香の口から、長年隠し続けていた劣等感と不安が、ポロリとこぼれ落ちた。
丸い眼鏡の奥の瞳から、ツツーッと一筋の涙が頬を伝う。
「何言ってるの? 綾香は、すっごく可愛いよ。……いっつも一生懸命で、すっごく優しい、ボクの大切なお姫様だもん」
アストルフォの熱い指先が、綾香の目元に触れ、その涙を優しく拭い取った。
「それに、ボクの腕の中で、こんなにすっごくいい匂いさせてる。……ほら、綾香のここ、ボクの熱が欲しいって、トクトク鳴ってるよ」
彼の手が、綾香の清楚なワンピースの胸元から滑り込み、彼女の柔らかな胸の膨らみを下からそっと、けれど逃げ場のないオスの力強さで包み込んだ。
「ひゃうっ……!!」
ドクンッ、と。
綾香の心臓が、胸を突き破りそうなほど大きく跳ねた。
彼女の被っていた「苦労人の妹」という仮面が、彼の手のひらから伝わる火傷しそうなほどの熱によって、一瞬でドロドロに溶かされていく。
「あぁぁっ……! ぁ、あ……っ! アストルフォさんの、手……あつ、いです……っ! だめ、そんなに直接……触られたら、私……っ」
「綾香、我慢しなくていいんだよ。……ボクが、綾香カのこと、世界で一番甘やかしてあげるから」
アストルフォの熱い唇が、綾香の震える唇を深く塞ぐ。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ」
初めて、彼に自分だけの内側を曝け出し、すべてを肯定された悦び。
綾香の全身を、強烈な快感の電流が駆け巡った。彼女はもう抗うことをやめ、自ら彼の広い背中に腕を回し、その圧倒的な体温にしがみついて、姉と同じようにひどく甘く、蕩けきった嬌声を上げ始めた。
「……ふふっ。本当に、貴方という人は……姉妹揃って、骨の髄まで狂わせてしまうのね」
アストルフォの右腕の中で、玲瓏館美沙夜が艶やかに微笑んだ。
彼女もまた、完璧主義の気高い令嬢としての仮面を完全に脱ぎ捨て、ワインレッドのビキニの紐を自らの手で解き、豊かな素肌を彼に密着させている。
「美沙夜も、すっごく熱いね。……お腹の奥、ジンジンしてる?」
「ええ……っ。貴方のせいで、もう、どうにかなってしまいそうよ……っ。……早く、私の中にも……貴方の、熱いものを……っ」
美沙夜が、自ら彼の硬く引き締まった腹筋に柔らかな太ももを擦り寄せ、情欲に濡れた瞳で強請る。
「王子様……私にも。……私を、一番に溶かして……っ」
「アストルフォ……っ、あぁっ、私……もう……っ」
全能の姉も、苦労人の妹も、完璧な令嬢も。
彼という規格外の太陽の前では、ただ彼の熱と愛を欲しがるだけの、無力で美しい「雌」でしかなかった。
「美沙夜も、綾香も、愛歌も。……みんな、ボクの世界で一番可愛いお姫様だよ。……朝まで、いっぱいいっぱい、温めてあげるからね」
アストルフォのオスの声が、夜のスイートルームに低く響く。
三人の少女たちは、もはや理性の欠片も残さず、彼がもたらす果てしない愛と体温の濁流に完全に呑み込まれた。
シーツの擦れる音と、甘い唾液が交わる水音、そして切実な歓喜の嬌声が複雑に絡み合いながら、コーンウォールの夜は、彼女たちが完全に彼なしでは生きていけない極上のヒロインとして完成していくための、果てしなく濃密な時間へと沈み込んでいくのだった――。