fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドンの冷たい朝の空気を完全に遮断する、分厚い遮光カーテン。
エーデルフェルト別邸のゲストルームに設えられた巨大なキングサイズベッドの上で、二人の女が微睡みの中からゆっくりと目を覚ました。
聖堂教会のシスター、カレン・オルテンシア。
そして、魔術協会の元封印指定執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
昨夜、このベッドの中央には、彼女たちを朝まで狂おしく抱き潰した、桜色の髪の騎士がいた。
彼は今、一足先に起きて、子供たち(と、新しく増えたカレンの愛娘)の朝食を作るためにキッチンへと向かっている。しかし、彼が抜けた後のシーツには、火傷しそうなほどの彼の体温と、むせ返るようなオスのフェロモンがまだ色濃く染み付いていた。
「……んっ……」
バゼットが、心地よい疲労感と共に上体を起こす。
日頃の鍛錬を欠かさない武闘派の引き締まった肉体。しかし、その雪のような素肌には、彼が執拗に唇を這わせた真っ赤な愛の印が、首筋から豊かな胸の谷間、そして柔らかな太ももの内側に至るまで無数に咲き乱れていた。
彼女は、床に落ちていたシルクのガウンを無造作に羽織ると、サイドテーブルのポットから淹れたての温かいコーヒーを二つのカップに注いだ。
「……おはようございます、カレン。よく眠れましたか?」
バゼットが、ベッドの反対側でシーツを胸元に抱き寄せて起き上がったカレンへと、芳醇な香りを立てるカップを差し出す。
「ええ。……ありがとうございます、バゼット」
カレンは、乱れた銀色の髪を艶やかにかき上げながらカップを受け取った。彼女の身体もまた、神への祈りなどとうに忘れ去った、ただ一人のオスに愛され尽くした『雌』としての淫靡な痕跡で満たされている。
カレンはコーヒーを一口啜り、黄金の瞳を細めて小さく笑みをこぼした。
「……ふふっ。本当に、おかしな光景ですね」
「何が、おかしいのですか?」
バゼットが、ベッドの端に腰を下ろしながら尋ねる。
「だってそうでしょう? 異端の神秘を狩る聖堂教会のシスターと、魔術協会の封印指定執行者。本来であれば、街角ですれ違った瞬間に互いの急所を狙って殺し合いに発展してもおかしくない立場の私たちが……」
カレンは、シーツ越しに自らの下腹部をそっと撫でた。
「こうして同じベッドで、一人の男性にぐちゃぐちゃにされた甘い余韻を共有しながら、穏やかに朝のコーヒーを飲んでいるのですから」
その言葉に、バゼットもまた苦笑を漏らし、自らの脚をきゅっと擦り合わせた。
彼女の子宮の奥底にも、昨夜彼から注ぎ込まれた熱く濃密な愛情の残滓が、未だにジンジンと甘い疼きを放ち続けているのだ。
「ええ。かつての私が見たら、間違いなく卒倒するでしょうね。……しかし、あの規格外の彼(アストルフォ)の前では、教会の教義も協会の掟も、まったく意味を成しません。……現に、あなたもそうでしょう?」
バゼットの真っ直ぐな視線を受け、カレンはゆっくりと頷いた。
「ええ。悪魔の痛みに耐え、自虐的な悦びの中にしか生きる意味を見出せなかった私の冷たい身体を、あの方はたった一晩で……骨の髄まで、ドロドロに溶かしてしまいました」
カレンの平坦だった声が、彼を思い出すだけで急速に熱を帯び、艶めかしく震え始める。
「今でも、あの方の顔を見たり、少し触れられたりするだけで……神への祈りよりも先に、お腹の奥が熱く疼いて、彼を求めてしまう。……私はもう、彼なしでは生きていけない、ただの卑しい雌にされてしまったのです」
「卑しくなどありませんよ」
バゼットが、優しい声で否定する。
「……私も同じです。戦うことしか知らず、血の匂いの中でしか生きられなかった私に、女としての喜びと……誰かに愛され、甘えることの幸福を、彼が無理やり教え込んでしまった。……本当に、理不尽で、どうしようもない人です」
バゼットは、コーヒーカップを両手で包み込みながら、その温もりを彼の手の熱に重ねるように目を閉じた。
「……あなたの産んだ赤ちゃん、少しだけ抱かせてもらいましたが、彼にそっくりですね。とても可愛らしい」
「ふふっ。ええ、私の最大の罪の結晶であり、最高の宝物です。……バゼットも、早く彼との証が欲しいのではないですか?」
カレンが、底意地の悪い、しかしどこか親愛の情を込めた悪戯っぽい瞳でバゼットを見つめる。
「なっ……! そ、それは……っ」
バゼットは顔から火が出るほど赤面し、ガウンの襟をギュッと握りしめた。
「わ、私だって、その……昨夜も、彼に何度も、奥の奥まで……熱いものを、注いでいただきましたし……っ。いつできてもおかしくない状態では、あるの、ですが……っ」
生真面目な武闘派の女性が、真っ赤になってしどろもどろになる姿を見て、カレンはクスクスと肩を揺らした。
「焦る必要はありませんよ。あの方の無尽蔵の体力と愛情があれば、このお城の女たちは全員、間違いなく彼の熱で満たされる日が来ますから。……私たちも、まだまだ夜の教え(調教)が必要なようですしね」
「……ええ。本当に、あのデタラメな体力には敵いません」
バゼットもまた、諦めたように、けれどこれ以上ないほどに幸福な笑顔を浮かべた。
殺し合うはずだった二人の女は、コーヒーの香りと彼が残したオスのフェロモンに包まれながら、静かな朝の寝室で、互いの身体の奥で疼く「愛する男の熱」を心地よく噛み締めていた。
世界最高峰の戦闘力を持つ彼女たちも、この愛の城においては、彼に狂わされ、彼を待ちわびるだけの、極上のヒロインたちの一人にすぎないのだった――。