fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
エーデルフェルト別邸に併設された、ガラス張りの広大なサンルーム。
柔らかな午後の陽光が降り注ぐその場所で、純白の髪を持つ美しい女性たちが、優雅なティーテーブルを囲んでいた。
アイリスフィール・フォン・アインツベルンを筆頭に、彼女の侍女であるセラとリーゼリット。そして、フィリア。
本来、彼女たちは魔術師の目的のために造られた人造人間(ホムンクルス)であり、ただ使い捨てられるためだけに短い命を燃やす存在だった。
しかし、一人の規格外の騎士が彼女たちの運命を完全に上書きした。今や彼女たちは、この愛の城において、誰からも搾取されることのない、自由で気高い「彼のお姫様」として生きている。
「お待たせーっ! みんな、とびっきり美味しいお茶が入ったよ!」
サンルームの扉が開き、桜色の髪を揺らすアストルフォが、純銀のティーセットを乗せたワゴンを押して満面の笑みで現れた。
今日のお茶会は、日頃から屋敷の家事や子供たちの世話を手伝ってくれている彼女たちを労うための、彼主催の「おもてなし」である。
「まあ。アストルフォが、私たちのために淹れてくれたのね。ありがとう」
アイリスフィールが、赤い瞳を優しく細めて微笑む。八年の歳月が流れても変わらない、いや、愛する男に抱かれ続けてさらに増した、むせ返るような大人の女の艶がそこにあった。
「さあさあ、冷めないうちにどうぞ! クッキーもボクが焼いたんだよ!(愛歌ちゃんたちに少し手伝ってもらったけど!)」
アストルフォは、屈託のない笑顔でティーカップに琥珀色の液体を注いでいく。
その手つきは、遠坂凛から「あんたはちょっとは家事の基本を覚えなさい!」とスパルタ指導を受けた甲斐もあって、意外なほどにスムーズで美しい。
しかし。生真面目で完璧主義なメイドであるセラの目は、誤魔化せなかった。
「……アストルフォ様。お湯の温度が、ダージリンの適温より2度ほど高いです。それに、ジャンピング(茶葉の対流)の時間がわずかに短いため、香りの開きが完全ではありません。さらに言えば、カップの温め方も甘いですね」
セラは、ティーカップの縁に指を添えながら、小言の機関銃を放つ。
「あはは! さすがセラ、すっごく厳しい! 次はもっと上手くやるよ!」
アストルフォは全く気を悪くすることなく、むしろ嬉しそうに笑ってセラの頭をポンと撫でた。
「なっ……! 私は、メイドとして当然の指摘を……っ」
頭を撫でられた瞬間、セラの白い頬がカッと赤く染まる。
彼女は口では厳しく言いながらも、アストルフォに頭を撫でられるこの「特別扱い」が嬉しくてたまらないのだ。
「うん。……少し、渋い。でも、美味しい。……アストルフォ、えらい」
隣で、リーゼリット(リズ)が、大きな手でカップを両手持ちしながら、片言でぽつりと呟いた。彼女は感情表現こそ乏しいが、その瞳はアストルフォに向けられた絶対的な信頼と好意でキラキラと輝いている。
「ありがとう、リズ! クッキーも食べてね!」
アストルフォはリズの頭も同じように撫で、最後に、少し緊張した面持ちで座っているフィリアの前にカップを置いた。
「フィリアも、どう? お口に合うといいな」
「あ……はい。いただきます、アストルフォ様」
フィリアは、震える手でカップを持ち上げ、一口、ゆっくりと紅茶を味わった。
「……美味しい、です。凛様が淹れてくださる完璧な紅茶とは違いますが……なんだか、お腹の奥が、じんわりと温かくなるような……」
フィリアの瞳から、ポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。
「フィリア? 熱かった?」
アストルフォが心配そうに覗き込む。
「違います……。ただ、信じられなくて」
フィリアは、涙を拭おうともせず、彼を真っ直ぐに見つめ返した。
「私たちは、ただの道具でした。お茶を淹れる側であっても、誰かに淹れてもらい、もてなされる側になる日なんて、絶対にこないと……そう、プログラムされて生きてきたんです。……でも、貴方が私たちを救ってくれて。こうして、温かいお茶と、美味しいお菓子を……」
フィリアの言葉に、セラやリズ、そしてアイリスフィールも、静かに目を伏せた。
彼女たちは皆、自分たちが「人間ではない」という劣等感を、心のどこかに抱えて生きてきたのだから。
「……フィリアは、道具なんかじゃないよ」
アストルフォの大きく、火傷しそうなほどに熱い手が、フィリアの冷たくなりがちな白い手を、カップごと優しく包み込んだ。
「ひゃうっ……」
「セラも、リズも、アイリも。……ボクにとっては、すっごく温かくて、いっつも一生懸命な、世界で一番可愛い『女の子』だもん。……誰かに作られた命だとしても、ボクがみんなのこと、いっぱいいっぱい愛してあげる。だから、もう泣かないで」
純度百パーセントの、一切の淀みない肯定。
彼の掌から伝わる圧倒的なオスの体温が、フィリアの指先から血管を通り、魔術回路の芯へと直接流れ込んでいく。
「あぁっ……アストルフォ、様……っ」
フィリアの顔が、一瞬にして情欲と幸福に染まった。
ホムンクルスとしての冷たい身体が、彼から注がれる無尽蔵の熱量によって、内側からドロドロに溶かされていくのがわかる。
「あらあら。フィリアったら、あの方の熱に当てられて、すっかり『女の子』の顔になってしまったわね」
アイリスフィールが、クスリと艶やかに笑う。
「……でも、無理もありませんわ。私も、こうしてあの方の匂いと熱を近くで感じるだけで……妻としての理性が、甘く溶けてしまいそうですもの」
アイリスフィールは自ら立ち上がり、アストルフォの背中からその逞しい胸板に腕を回し、柔らかな胸の双丘をぴたりと押し当てた。
「んんっ……アイリ、いい匂い。アイリのお胸、すっごくあったかいよ」
アストルフォは振り返り、アイリスフィールの赤い唇に、チュッ、と甘い音を立ててキスをした。
「はぁっ……あ……っ! アストルフォ……っ」
ただの軽いキスのつもりが、アイリスフィールの口からは、昼下がりのお茶会にはふさわしくない、ひどく甘く蕩けた嬌声が漏れる。
「……奥様。はしたない、です。このような場所で……っ」
セラがたしなめようとするが、その声はすでに微かに震えていた。
彼女自身も、アストルフォがアイリスフィールと触れ合うたびに放たれる、むせ返るようなオスのフェロモンを浴びて、太ももの内側がジンジンと疼いているのだ。
「セラ、顔が真っ赤だよ? ボクの熱、欲しい?」
アストルフォは、アイリスフィールを片腕で抱き寄せたまま、もう片方の手でセラのメイド服の襟元から指を滑り込ませ、彼女の華奢な肩をじっとりと撫でた。
「んんひぃッ……!! ぁ、ああっ……! だめ、です……っ、アストルフォ様の手……あつ、くて……っ。私、メイド、なのに……っ」
セラの生真面目な仮面は一瞬で崩れ去り、彼女は自ら彼の指先にすがりつくようにして、甘い息を吐き出した。
「リズも、する……。アストルフォの熱、ほしい……」
リズもまた、椅子から立ち上がり、アストルフォの足元に座り込んで、その引き締まった太ももに顔を擦りつける。
「あはは! みんな、すっごく甘えん坊だね! よーし、お茶会の後は、ボクがみんなの冷たいところ、全部いっぱいいっぱい温めてあげる!」
サンルームのテーブルには、少しだけ冷めかけた紅茶とクッキーが残されている。
しかし、彼女たちの身体を内側から満たしているのは、どんな高級な茶葉の香りよりも芳醇で、そして狂おしいほどに熱い、太陽の騎士のもたらす愛の熱量だった。
白亜の乙女たちは、己の運命を完全に上書きしてくれた愛しいオスの腕の中で、ただ彼に愛されるためだけに存在する極上のヒロインとして、甘く蕩けた午後を過ごしていくのだった――。