fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドン郊外、エーデルフェルト別邸。
柔らかな春の陽光が降り注ぐサンルームのティーテーブルには、芳醇な香りを漂わせるダージリンと、美しく焼き上げられたスコーンが並んでいた。
「ふふっ。イリヤから、また新しいお手紙(メール)が届いたわよ」
純白のドレスに身を包んだアイリスフィールが、手元のタブレット端末を愛おしそうに見つめながら、弾むような声で微笑んだ。
その隣では、メイド服姿のセラが期待に胸を膨らませて身を乗り出し、リーゼリットがのんびりと紅茶を啜っている。そして、すっかりこの愛の城の家族として馴染んだフィリアも、目を輝かせてアイリスフィールの側に寄り添っていた。
「まあ! お嬢様から! 早く、早く読んでくださいませ、アイリスフィール様!」
セラが興奮気味に急かす。
彼女たちアインツベルンのホムンクルスにとって、イリヤスフィールが「普通の女の子」として学校に通い、友達と笑い合い、健やかに成長しているという事実は、奇跡以外の何物でもなかった。
本来であれば、聖杯の器として短命を宿命づけられていた冷たい運命。それを、太陽のような桜色の騎士――アストルフォが、その規格外の熱量と純度百パーセントの陽の魔力で、完全に、そして強引に書き換えてしまったのだから。
今のイリヤの身体には、普通の人間と同じ、あるいはそれ以上に力強くて温かい、永遠の命の鼓動が満ち溢れている。
「ええ、読み上げるわね」
アイリスフィールは、柔らかな声でイリヤからの長文のメールを読み始めた。
『大好きなアイリお母様、アストルフォ・パパ、そしてお家のみんなへ!
ロンドンの学校はすっごく楽しいよ! 最初は言葉のことも少し心配だったけど、パパがいっぱい魔法(おまじない)をかけてくれたおかげで、お友達もたくさんできたの!』
タブレットの画面には、英国の伝統的な制服を可愛らしく着こなし、満面の笑みでピースサインをするイリヤの写真が添付されている。その両脇には、同じ制服を着た美遊とクロエの姿もあった。
『妹たちのご報告もしておくね! 美遊は相変わらず真面目すぎて、授業の質問で先生を困らせちゃったりしてるけど、成績は学年で一番なんだよ! えへへ、私のおかげだね!
クロエはちょっと困りものかな。体育の時間に男の子たちをからかったり、可愛い女の子にすぐキスしようとしたりして、先生に怒られてばっかり! でも、なんだかんだですっごく人気者みたい。二人とも、毎日元気にやってるから安心してね!』
「……まったく。クロエ様のあの破廉恥な振る舞いは、どなたの遺伝なのでしょうか」
セラが頭を抱えながらも、その口元は嬉しそうに綻んでいる。
『あ、そうだ! この前、学校の授業参観(オープンハウス)に、パパが来てくれた時のことなんだけど……もう、すっごく大変だったんだから!』
メールの文面が、急にぷくっと頬を膨らませたような怒りマークの絵文字で埋め尽くされている。アイリスフィールはクスリと笑い、続きを読んだ。
『パパったら、「イリヤたちのパパだよー!」って、あのすっごく可愛い笑顔で教室に入ってきたんだけど……。パパから出てる、あの甘くていい匂い? のせいで、クラスの女の子たちだけじゃなくて、若い女の先生たちや、他の生徒のお母さんたちまで、みーんな顔を真っ赤にしてパパの周りに集まっちゃったんだよ!』
「あぁ……やはり」
フィリアが、自らの頬に手を当てて、困ったように、しかしひどく艶めかしい吐息を漏らした。
彼女自身も、かつて凍えるような死の淵で、彼の放つ『純度百パーセントのオスのフェロモン』に理性を焼き切られ、救い出された身だ。一般の女性が彼の無自覚な熱量(引力)に耐えられるはずがない。
『もう、みんなパパの腕を触ったり、「若くて素敵な旦那様ね」って連絡先を聞こうとしたりして、授業どころじゃなかったんだから! 私と美遊とクロエで、一生懸命パパを隠して「うちのパパだからダメー!」って追い払うのがすっごく大変だったの!
……でもね。
帰り道に、パパが私のお手手をギュッて繋いで、「イリヤが楽しく学校に行けて、パパはすっごく嬉しいよ」って言ってくれた時。私のお腹の奥が、とってもぽかぽかして……私、生きてて本当によかったなって、心から思ったの。
お母様、パパ。私に、こんないっぱいの幸せと、明日を夢見る時間をくれて、本当にありがとう。また週末にお家に帰るから、その時はパパにいっぱい抱っこしてもらおっと! イリヤより』
メールは、そこで終わっていた。
「……うぅ……っ。イリヤお嬢様が……あんなに、幸せそうに……っ」
セラが、耐えきれずに両手で顔を覆って泣き崩れた。
「イリヤ、おおきくなった。アストルフォ、すごい」
リーゼリットも、無表情ながら、その瞳から大粒の涙をポロポロとこぼしている。
アイリスフィールは、タブレットをそっとテーブルに置き、自らの豊かな胸に手を当てた。
かつては冷たい雪の城で、感情を殺して生きるしかなかった自分たち。
それが今、愛する娘の健やかな未来を心から喜び合い、こうして温かい涙を流せる。そのすべての根源は、たった一人の騎士のもたらした規格外の愛情だった。
「やあやあ! みんな、イリヤからのお手紙読んだ!? ボクも今、サクラたちと読んでたところだよ!」
サンルームの扉が開き、噂の主である桜色の髪の騎士――アストルフォが、屈託のない笑顔で飛び込んできた。
先ほどまで庭で子供たちと遊んでいたのか、少し汗ばんだ彼の身体からは、むせ返るような甘い薔薇の香りと、生命力に満ち溢れた圧倒的な『雄(オス)の熱』が強烈に放たれている。
「ひゃうっ……!」
彼が部屋に入ってきた瞬間。
アイリスフィール、セラ、リーゼリット、フィリアの四人のホムンクルスたちの背筋に、ビリッと甘い電撃が走った。
イリヤのメールを読み、彼への果てしない感謝と愛おしさで胸がいっぱいになっていたところに、至近距離で彼のフェロモンを浴びせられたのだ。
「アストルフォ……様……っ」
アイリスフィールは、椅子から立ち上がると、ふらりと引き寄せられるように彼のがっしりとした胸板にすがりついた。
「わお! アイリ、どうしたの? すっごくいい匂いして、お顔が真っ赤だよ?」
アストルフォの太く逞しい腕が、自然な動作でアイリスフィールの細い腰を抱き寄せる。
ネグリジェに近い薄手のドレス越しに、火傷しそうなほどの彼の体温が、彼女の子宮の奥底へと直接流れ込んでくる。
「貴方が……貴方が、イリヤに……私たちに、こんなにも素晴らしい未来を与えてくださったから……っ。私、嬉しくて、愛おしくて……っ、お腹の奥が、ぎゅって痛くなるくらい、貴方の熱が欲しくて……たまらないの……っ」
アイリスフィールの赤い瞳は、すっかり母の顔から、一人の『極上の雌』の顔へと蕩けきっていた。彼女は自らアストルフォの首に腕を絡ませ、その艶やかな唇を、彼の熱い唇へと押し付けた。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ」
交わる舌。真昼のサンルームに、ひどく甘く、卑猥な水音が響き渡る。
「あ、アイリスフィール様……っ。白昼堂々、そのような……っ。でも、私にも……アストルフォ様、私にも……貴方の熱を……っ」
セラもまた、普段の厳格なメイド長の仮面を完全に脱ぎ捨て、情欲に潤んだ瞳でアストルフォの背中に抱きつき、その広い背中を愛おしそうに撫で回す。
「アストルフォ……あったかい。リズも、もっとほしい……」
リーゼリットが彼の右腕にすがりつき、自身の豊かな胸の膨らみを無自覚に押し付ける。
「あぁ……っ。アストルフォ様の匂い……。私、これがないと……もう、息もできない身体にされてしまったのに……っ」
フィリアは、彼の左腕を抱き込み、彼の熱い体温に直接触れることで、身体の奥深くから込み上げてくる強烈な快感に身をよじらせていた。
「えへへ、みんなボクのことだーいすきなんだね! ボクもみんなのこと、いーっぱいいっぱい愛してるよ!」
アストルフォは、四人の極上の美女(元ホムンクルス)たちに完全に包囲されながらも、その規格外の熱量と包容力で、彼女たち全員をまとめて抱きしめ返した。
「さあ、冷たいところ、全部温めてあげる! イリヤが帰ってくるまでに、パパがいっぱい頑張って、みんなのお腹に新しい赤ちゃん作っちゃうかもね!」
「あぁぁっ……! アストルフォ様……っ! だめ、そんなこと言われたら、私……もう……っ!」
ロンドン郊外の美しい昼下がり。
愛する娘の成長を喜ぶ平和なひとときは、一人の強大すぎる太陽の騎士のもたらす果てしない愛欲の渦に呑み込まれ、ホムンクルスたちは完全に理性を溶かし切り、彼なしではいられない極上の女として、甘く狂おしい嬌声を上げ続けるのだった――。