※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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殺生院キアラ編⑧

極彩色の曼荼羅が見下ろす、外界から完全に隔絶された特別応接室の寝台。

アストルフォがもたらした規格外の「陽の気」が、殺生院キアラの最も深く、熱く濡れそぼった秘所へと沈み込んだ瞬間。彼女の絶対的な自己愛の殻に、ピキリ、と初めての亀裂が走った。

 

「あぁぁっ……!!」

 

キアラの口から、菩薩としての慈愛の笑みではなく、生々しい雌としての嬌声が弾け飛ぶ。

彼女の胎内は、他者の欲望(エゴ)を喰らい、溶かし、自身の快楽へと変換するための無限の虚無であるはずだった。しかし、彼から注ぎ込まれるのは欲望ではない。ただ純粋に目の前の少女を慈しみ、温めようとする『全肯定の熱』。

それは彼女の魔術回路では「変換」も「吸収」もできないまま、ただひたすらに彼女の冷え切った子宮の奥底に蓄積され、内側から彼女の理性を焼き焦がし始めていた。

 

(……馬鹿な。わたくしが、溶かされている……? この男の熱に、わたくしの宇宙が……っ)

 

だが、殺生院キアラは、ただされるがままに快楽に溺れるような脆弱な女ではない。

彼女は数多の命を飲み込んできた最強の魔性。己の存在意義(エゴ)が脅かされていると悟った瞬間、彼女の奥底に眠る『獣』としての防衛本能と、魔性の菩薩としての底なしの傲慢さが、凄まじい反撃の牙を剥いた。

 

「……ふ、ふふっ。舐めないで、いただきますわよ……っ!」

 

キアラは、シーツに縫い止められていた両手の拘束を、魔力で強引に弾き飛ばした。

そして、アストルフォの逞しい背中に白い腕を回し、その鋭い爪を立てて彼をさらに深く自らの奥底へと引きずり込む。同時に、彼女の長い両脚が彼のがっしりとした腰に絡みつき、逃げ場を完全に封じた。

 

「んあっ!?」

 

アストルフォの目が、驚きに見開かれる。

 

「貴方がわたくしを『女』として愛するというのなら……わたくしも、全力で貴方の理性を破壊し、ただ発情するだけの哀れな獣へと堕として差し上げますわ!」

 

キアラの全身から、先程までとは桁違いの、致死量のフェロモンと性魔術の呪いが爆発的に放たれた。

彼女の胎内が、まるで意志を持った無数の生き物のように蠢き、アストルフォの熱源を全方位から締め付け、吸い上げ、極限の快楽で脳髄をショートさせようと波状攻撃を仕掛ける。

視覚、聴覚、嗅覚、触覚。五感のすべてから、キアラという宇宙の底なしの甘い毒が注ぎ込まれ、アストルフォの思考を白く塗り潰そうと迫る。

 

「はぁっ……! あっ……、キアラちゃん……っ、すっごく……っ」

 

アストルフォの口から、荒く熱い喘ぎ声が漏れる。

彼がこれほどまでに明確に快楽に翻弄され、息を乱すのは、ロンドンの魔窟で数多の極上のヒロインたちを相手にしてきた中でも初めてのことだった。最強の魔性が本気で繰り出す『救済(快楽)』は、規格外の体力を持つ彼をもってしても、一瞬でも気を抜けば完全に自我を崩壊させられかねないほどの激流だった。

 

(……ふふっ。どんなに眩しい太陽であろうと、所詮は人の子。わたくしの奥底で、その理性を溶かして……)

 

キアラが、勝利の確信に口角を吊り上げようとした、その時だった。

 

「……っ、でも、負けないよ……っ!」

 

アストルフォは、快楽の濁流に呑み込まれそうになりながらも、決して自らの『在り方』を手放さなかった。

彼は、キアラの肩に顔を埋める(獣のようにただ快楽を貪る)ことはせず、両手でしっかりと彼女の汗ばんだ頬を包み込み、自らの顔を上げて、至近距離で彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ返したのだ。

 

「な……っ」

 

キアラの息が詰まる。

 

「キアラちゃん……っ。いっぱい、ボクのこと気持ちよくしてくれて、ありがとう……っ。でも、ボクは……ボクの愛は、こんなもんじゃないからね……っ!」

 

彼は、キアラから与えられる究極の快楽を「攻撃」ではなく「愛情表現」として強引に全肯定し、その快楽をさらに何倍にも増幅させた『熱』として、彼女の奥深くに叩き込んだ。

 

「あぁぁぁぁっ……!!? ひゃああっ……!!」

 

ドズン、と。

キアラの全身が弓なりに反り返り、極彩色のシーツを激しく掻き毟る。

彼女の性魔術は、相手の欲望を引き出し、暴走させることで自壊させるもの。しかし、彼の中にあるのは欲望ではなく「キアラを幸せにしたい」という純度百パーセントの愛だけだ。魔術で引き出せば引き出すほど、彼の放つ陽の気は威力を増し、逆にキアラ自身の防壁を内側から焼き切ってしまうのだ。

 

「はぁっ、ああっ……! おか、しい……っ。わたくしが、わたくしが貴方を……喰らって、いるはずなのに……っ!」

 

キアラは必死に魔力を回し、彼を快楽の底へ沈めようと腰を振る。

だが、その度に彼から返ってくる圧倒的な肯定感と熱量が、彼女の「計算」を狂わせていく。

 

そして、彼女自身も気づかないうちに、ある致命的な『綻び』が生じ始めていた。

 

一つ。

彼女の視線が、無意識のうちにアストルフォの「紫水晶の瞳」を追い求めていたこと。

獣のようにただ快楽を貪る対象であれば、顔など見る必要はない。しかし、彼女は彼が自分を見つめ返し、自分の名前を「キアラちゃん」と呼んでくれることに、魔術的な快楽とは別次元の、胸の奥がギュッと締め付けられるような甘い痛み(執着)を感じ始めていた。

 

二つ。

彼女の両手が、彼を拘束するための爪を立てることをやめ、いつの間にか彼の広く熱い背中をすがりつくように抱きしめ、彼の逞しい指と、自らの細い指を『恋人繋ぎ』のように固く絡め合わせていたこと。

それは「救済者」と「獣」の交わりではなく、完全に「対等な男女」としての愛の確かめ合いの形だった。

 

三つ。

彼女の口から漏れる嬌声が、いつしか菩薩としての余裕を完全に失い、ただ一人のオスに愛される悦びにむせび泣く、純粋な『雌』の喘ぎ声へと変質していたこと。

 

「だめ……っ、アストルフォ……っ! そんなに、熱いの……奥まで、入ってきたら……っ! わたくしが、壊れて……っ」

「壊れないよ……っ! キアラちゃんの冷たいところ、全部、ボクが溶かしてあげるから……っ!」

 

アストルフォの額から落ちた汗が、キアラの白い頬に滴る。

互いの体温が完全に混ざり合い、境界線が曖昧になっていく。

 

キアラは必死に抗っていた。自らの絶対的な宇宙(エゴ)を守るため、持てる魔性のすべてを注ぎ込んで彼を堕とそうとしていた。

しかし、彼女が反撃すればするほど、彼という太陽はさらに強く燃え盛り、彼女の内にあった「究極の孤独」の隙間を、ドロドロの愛の熱で埋め尽くしていく。

 

密室の寝台で繰り広げられる、終わりの見えない実力伯仲の凄絶な死闘。

最強の魔性が、たった一人の騎士の純粋すぎる愛の前に、自らの根底にある「ただ愛されたかった」という無自覚な本音を暴かれようとしている。

完全陥落の『決着』の時は、甘く狂おしい吐息と共に、もうすぐそこまで迫っていた――。

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