fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ガラス屋根を絶え間なく叩く冷たい雨音すら、今の桜・エーデルフェルトの耳には遠い子守唄のようにしか聞こえなかった。
視界を埋め尽くすのは、自分を覗き込むアストルフォの熱を帯びた紫水晶の瞳だけ。
温室に咲き乱れる何百本もの薔薇の芳香よりも、彼自身の肌から立ち昇る甘く野生的な匂いの方が、はるかに強く桜の思考を麻痺させていく。
「んっ……あ……っ、アストルフォ……さん……っ」
するり。
背中のリボンが解かれる、微かな衣擦れの音が響いた。
エーデルフェルトの令嬢として、いかなる時も完璧に着こなしていた上質な紫のドレスが、彼の大きな手によってあっけなく肩から滑り落とされる。
「あっ……だめ、こんな明るいところで……それに、蒼崎先生が、すぐそこの館に……っ!」
露わになった真っ白な肩を両腕で隠そうと身をよじる桜。
数分前まで彼女を縛り付けていた「青子が近くにいる」という事実への嫉妬と葛藤は、今や背徳感という名の強烈なスパイスへと変わり、彼女の身体の芯をひどく甘く疼かせていた。
本邸の応接室では、あの恐るべき魔法使いが義姉のルヴィアたちとシビアな交渉を行っているはずだ。そのすぐ外の庭園で、自分が彼女の騎士にドレスを脱がされ、熱い吐息を吹きかけられている。
その恐ろしくも甘美な状況が、桜の理性を根底から揺さぶる。
「大丈夫だよ、桜。ここはボクとキミだけの秘密のお城だ。……それに、青子もフィオレもレティシアも、キミがこんなに可愛いって知ったら、絶対にボクと同じようにキミを撫でてあげたくなるはずだよ」
アストルフォは、桜の隠そうとする両手を優しく、けれど絶対に逃げられない力でふわりと掴み、彼女の身体を開かせた。
彼の口から紡がれる、他の女性たちの名前。普通なら激昂するか冷める場面だ。しかし、彼が一切の悪びれもなく、むしろ『全員が大切で、目の前の桜も同じくらい愛おしい』という途方もない純度で言い放つため、桜の心に不思議な安堵と、抗いがたい熱の渦が生まれていた。
(ああ……この人は、本当に……規格外なんだわ。私の小さな嫉妬も、空っぽの心も、全部まるごと飲み込んでしまう……っ)
「桜、すごく綺麗だ。キミの肌、雪みたいに真っ白で……でも、ボクが触ると、こんなに赤くなって、熱くなる」
アストルフォの指先が、桜の華奢な鎖骨をなぞり、そのままドレスの胸元の際へと滑り込んだ。
「ひゃっ……! あ、あぁっ……!」
常人離れした高い体温を持つ彼の手のひらが、直接素肌に触れた瞬間。
桜の口から、自分でも信じられないほど甘く、高い嬌声が弾けた。
今まで、魔術の鍛錬以外で誰かにこれほど深く触れられたことなどない。エーデルフェルトの温室という安全な箱庭で、ただ一人静かに咲いていた花が、初めて強烈な『オス』の熱に晒されたのだ。
「あ、熱い……です……あなた、の……手……すごく、熱くて……っ!」
「キミもだよ、桜。ほら、心音……すごくドキドキしてる。ボクの手から逃げようとしないじゃないか」
アストルフォは、桜の滑らかな背中に腕を回し、彼女の身体を力強く引き寄せた。
分厚い胸板と、桜の柔らかな胸元の膨らみが、薄い下着とシャツ越しにぴったりと密着する。英霊としての逞しい筋肉の感触が、否応なしに彼が『男』であることを桜に突きつける。
「んんっ……ふぁ……ぁ……!」
再び、重なり合う唇。
今度は先ほどまでの確認のような口付けではなく、互いの熱を貪り合うような、深く、激しいものだった。
アストルフォの滑らかな舌が桜の口腔内を蹂躙し、彼女の甘い唾液を絡め取る。息を吸うタイミングすら与えられないほどの濃密な口付けに、桜の膝から完全に力が抜けた。
もし彼が腰を抱き留めていなければ、そのまま冷たい床に崩れ落ちていただろう。
「んちゅ……あっ、はぁっ……あ……っ」
唇が離れた瞬間、桜は酸素を求めて金魚のように口をパクパクとさせた。
潤んだ紫の瞳は完全に焦点が合っておらず、ただ目の前の騎士の熱だけを求めてトロンと霞んでいる。
「桜……キミの全部、ボクに見せてよ。キミが今まで一人で抱えてた寂しい気持ち、ボクの熱で全部溶かして、甘くしてあげるから」
囁きながら、アストルフォの唇が桜の首筋へと這い降りる。
ちゅっ、と吸い付くような音が温室に響き、真っ白な肌に、彼が愛した証である赤い紅葉のような痕がくっきりと刻み込まれた。
「ああっ……! そ、こは……だめっ……痕が、残って……っ!」
「残せばいいよ。キミがボクのお姫様だって、誰が見てもわかるように」
耳元で吹き込まれる甘い毒のような言葉。
アストルフォの手が、背中から腰へと滑り落ち、ドレスの留め具を完全に外した。
重力に従って、紫のドレスが足元へとふわりと落ちる。
温室の湿った空気に晒された桜の身体は、純白の繊細な下着一枚となり、隠しきれない柔らかな曲線と、彼を求めて火照りきった桜色の肌を曝け出していた。
「……っ、見ないで……私、こんな……っ」
「なんで? すっごく綺麗だよ。温室のお花なんかより、ずっとずっと魅力的だ」
アストルフォは片膝をつき、桜の細い腰を両手で抱え込むようにして、その滑らかな腹部に熱いキスを落とした。
「ひぃっ……! あ、あぁぁっ……!」
へその少し下、身体の最も奥深くへと続く柔らかな場所に彼の唇が触れた瞬間、桜の身体は弓なりに反り返り、爪先がギュッと丸まった。
脳髄を直接揺さぶられるような強烈な快感が、彼女の理性を完全に焼き切る。
「アストルフォ……! アストルフォ……っ!!」
もう、敬語も、令嬢としての矜持も、すべてが消え失せていた。
桜はアストルフォの桜色の髪に両手を絡ませ、彼を自分にすがりつかせるように、あるいは自分が彼にすがりつくように、必死にその頭を抱き寄せた。
「私を……っ、私の中を……あなたの熱で、もっと、いっぱいに……っして……!」
涙と快感でぐちゃぐちゃになった顔で、桜は自らの本能のままに彼を求めた。
完璧なエーデルフェルトの令嬢という仮面は完全に砕け散り、そこにはただ、騎士の愛に溺れ、熱を乞う一人の『メス』としての少女がいた。
アストルフォはゆっくりと立ち上がると、極上の笑顔を浮かべて、桜を抱き上げた。
温室の奥にある、薔薇の手入れ用の清潔な長椅子。そこへ、彼女をひどく丁寧に横たえる。
「……うん。いっぱいいっぱい、愛してあげる。朝まで、絶対に離してあげないからね、ボクの桜」
ガラス屋根を叩く雨音だけが、外部の音を遮断する結界のように降り続く中。
ロンドンの冷たい庭園の真ん中で、熱く甘い快楽の嵐が、孤独だった少女のすべてを完全に呑み込んでいったのだった――。