※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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殺生院キアラ編⑬

極東での「魔性浄化」という極秘任務を終え、エーデルフェルト家所有のプライベートジェットがロンドンへと帰還したのは、それから数日後のことだった。

 

別邸の広大な玄関ホール。

「遅いわよ、アストルフォ! 日本で随分と油を売っていたみたいじゃない!」

「オーッホッホ! わたくしたちをこれほど待たせるとは、今夜のベッドではたっぷりお仕置きが必要ですわね!」

 

腕組みをして待ち構えていた遠坂凛と、扇子を揺らすルヴィアゼリッタが、ツンと澄ました顔で出迎える。その背後には、桜、アイリスフィール、青子、オルガマリーなど、彼なしでは生きられない魔窟の極上の妻たちが、今か今かと愛する夫の帰還を待ちわびていた。

 

「みんな、ただいまーっ!!」

 

玄関の重厚な扉が開き、桜色の髪の騎士が満面の笑みで飛び込んでくる。

しかし。

彼がホールに一歩足を踏み入れた瞬間、出迎えたヒロインたちの動きが、ピタリと止まった。

 

「……えっ?」

 

凛の青い瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。

 

アストルフォの屈託のない太陽の笑顔は、いつもと変わらない。だが、彼から放たれている『熱気』の質が、以前とは決定的に違っていた。

純粋な陽の気に、めまいがするほどに濃密で、深く、そして危険な『雄の色気(フェロモン)』が混ざり合い、ホールの空気を一瞬でドロドロの愛欲の沼へと変質させてしまったのだ。

 

究極の性魔術の化身である殺生院キアラと、互いの存在を懸けて真っ向から愛し合い、その深淵をすべて溶かし尽くした経験。それは、アストルフォ自身の「愛の受容力と発信力」を、魔術世界の常識を遥かに凌駕する規格外の次元へと強制的に【レベルアップ】させていた。

 

「……ちょ、ちょっと……あんた、なんだか……匂いが……っ」

 

凛が、彼から放たれる火傷しそうなほどの熱気に当てられ、思わず後ずさろうとする。だが、それよりも早く、アストルフォのがっしりとした腕が彼女の細い腰を捉えた。

 

「凛、ただいま! すっごく会いたかったよ!」

「ひゃうっ……!?」

 

アストルフォは、いつもなら無邪気に抱きつくだけのところを、今回は違った。彼女の腰をぐいっと引き寄せ、その耳元に顔を埋めると、甘く、そして背筋がゾクゾクするような低い声で囁きながら、彼女の首筋に深く熱い口づけを落としたのだ。

 

「んんひぃッ……!! ぁ、あぁっ……」

 

たった一度のスキンシップ。それだけで、凛の魔術回路は完全にショートし、彼女は顔を真っ赤にして彼の胸板に崩れ落ちた。

 

「アストルフォ、さん……っ。あぁっ、なんて、なんて熱い……っ」

 

隣にいた桜も、彼が凛を抱きしめる際に漏れ出た余波のフェロモンを浴びただけで、紫の瞳を極限まで蕩けさせ、太ももをガクガクと震わせてその場にへたり込んでしまう。

 

出迎えたヒロインたちが、次々と彼から放たれる「一段階上のオスの熱」に中てられ、呼吸を荒くしていく中。

アストルフォの背後から、シエル、橙子、愛歌の三人に付き添われるようにして、一人の妖艶な女が姿を現した。

 

「……ふふっ。皆様、お初にお目にかかりますわ。わたくし、極東よりこの方(アストルフォ)に導かれて参りました、殺生院キアラと申します」

 

尼僧の作務衣をアレンジした艶やかな装い。彼女から放たれる魔性の香りは、以前のような「他者を救済(捕食)する」ための毒ではなく、ただ一人の男に愛されるためだけに純化された、究極の『雌』の蜜の匂いだった。

 

「キアラ、ですって……?」

 

ルヴィアが、腰の震えを必死に堪えながら、キアラの圧倒的な色香に警戒の視線を向ける。

 

「ええ。……皆様がこの方を愛するお気持ちはよくわかりますわ。でも、わたくしは……この方の、一番熱く、一番深い『奥の奥』まで、骨の髄まで愛し尽くされましたの。……どうか、新入りだからと侮らないでくださいませね?」

 

キアラは、三日月のようにつり上がった唇で妖艶に微笑み、正妻たちに向かって強烈な牽制(マウント)を放った。彼女の根底にある「自分こそが一番」という我の強さは消えていない。今後も少しばかり悪さを企みそうな、魔性としての危険な魅力は健在だった。

 

「……あら。泥水から掬い上げてもらったばかりのくせに、随分と大きな口を叩くのね」

 

愛歌が、一切の感情を排した金色の瞳でキアラを冷ややかに見下ろす。

 

ホールに、バチバチと女たちの極上の嫉妬と愛欲の火花が散りかけた、その時。

 

「キアラちゃん!」

 

アストルフォが、凛を左腕に抱き寄せたまま、右手でキアラの手首をスッと引き寄せた。

 

「あっ……!」

 

キアラの妖艶な微笑みが、一瞬で吹き飛んだ。

彼の手が触れただけで、ゆうべ密室で徹底的に彼に愛され、内側からすべてを溶かされた恐怖にも似た絶対的な歓喜がフラッシュバックし、彼女の腰から完全に力が抜け落ちたのだ。

 

「みーんな、ボクのすっごく大事なお姫様だよ! だから、喧嘩しないで、みーんなでいっぱいいっぱい愛し合おうね!」

 

アストルフォは、左腕に凛を、右腕にキアラを抱き寄せ、さらにルヴィアや桜、愛歌たちも巻き込むようにして、大きな愛の輪を作った。

 

「あぁぁっ……! す、好きですわ……っ、アストルフォ様……っ」

 

先程まで正妻たちにマウントを取ろうとしていた最強の魔性の菩薩は、彼の無尽蔵の熱に触れた瞬間、一人の「女」としての底なしの悦びに咽び泣き、彼にすがりつくことしかできなくなっていた。

彼女の首には、物理的な鎖などではない、アストルフォの熱なしでは絶対に生きられないという、この世界で最も強固な『愛の首輪』が、永遠に外れないようカチリとはめられていた。

 

「もう……っ、あんたって奴は……っ! ますます、タチが悪くなって……っ」

 

凛が、彼の腕の中で蕩けた顔のまま抗議の声を上げるが、その声には抗えない幸福感が満ち溢れている。

 

「ふふっ……いいわ。王子様がさらに熱く、強くなったのなら……今夜は、私たち全員で、その新しい熱を味見させてもらうわよ」

 

愛歌が、彼の背中に回り込み、その首筋に甘く息を吹きかけた。

 

キアラという最強の魔性をも屈服させ、自らの愛の熱量を限界突破させた太陽の騎士。

彼の帰還によって、エーデルフェルト別邸の「規格外の愛の城」は、かつてないほどに深く、濃密で、そして永遠に終わることのない熱帯の幸福へと沈み込んでいくのだった――。

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