※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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前回の最後に「これで「fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ」は完結です
ご愛読ありがとうございました
鰻天ぷらの次回作はあまり期待しないでお待ちください」と 
キッパリ書いたのに…
スマン
ありゃ ウソだった
でも まあ
その「鰻天ぷらは色々雑でテキトーな奴だから仕方ない」ってことでさ……

こらえてくれ


第三部
両儀未那編⑨


翌朝。

ロンドン郊外、エーデルフェルト別邸の豪奢な客室。

 

「ん、ぁ……っ……」

 

分厚い遮光カーテンの隙間から差し込む眩しい朝日を浴びて、両儀未那は小さく身をよじった。

シルクのシーツに包まれた彼女の裸体には、昨夜――いや、つい数時間前まで情け容赦なく刻み込まれていた『圧倒的な雄の熱』が、火傷のように熱く、甘く残っている。

 

「……おはよう、未那ちゃん。すっごく可愛い寝顔だったよ」

「あ……っ、アストルフォ……」

 

すぐ隣で、上半身をはだけたアストルフォが、とろけるような紫水晶の瞳で未那を見つめていた。

彼のがっしりとした腕が、未那の華奢な腰を引き寄せ、そのうなじに優しく、チュッと卑猥な音を立ててキスを落とす。

 

「ひゃうっ……! ぁ、だめ……っ」

 

たったそれだけの触れ合いで、未那の下腹部がキュンと甘く痺れ、脳髄が白く濁りそうになる。

(……どうしよう。この人の匂いを嗅ぐだけで、私、また……っ)

 

十八歳の、大人の女としての理性が、彼から無自覚に放たれる無尽蔵のフェロモンに当てられて、開始数秒でドロドロに溶かされそうになる。

パパ(幹也)の静かな優しさとは全く違う、自分を骨の髄まで『雌』として支配し、肯定し尽くす熱帯の太陽。

未那は慌ててシーツを胸元まで引き上げ、真っ赤になった顔を隠した。

 

「ふふっ、顔真っ赤! 未那ちゃん、体調は大丈夫? 痛いところない?」

「へ、平気よ。私、もう子供じゃないんだから……これくらい……っ」

 

強がる未那の艶やかな黒髪を、アストルフォは愛おしそうに撫でた。

 

「うん! 未那ちゃんはすっごく綺麗で、ボクの最高のお姫様だよ。……さあ、ボクはみんなの朝ごはん作ってくるね!」

 

彼が屈託のない笑顔でベッドから抜け出し、部屋を出て行った後。

未那は、シーツの中で一人、ギュッと拳を握りしめていた。

 

(……しっかりしなさい、私)

 

昨夜、両親(式と幹也)に啖呵を切り、彼らは私の決断を(胃痛の橙子おばさまを巻き込みながらも)認めて帰っていった。

夜は彼の熱にどれだけ蕩かされてもいい。だが、昼間は違う。

この屋敷には、数多の偉大な魔女(先輩の奥様方)だけでなく、彼が海の底のような深さで愛情を注いでいる『子供たち』がたくさんいるのだ。

 

(私……今日から、あの子たちの『お母様(義母)』になるのよ。絶対に、しっかりした大人の女性として振る舞わなくちゃ。極道の両儀の名に恥じないように……っ!)

 

未那は、鏡の前で自らの表情をパンッと叩いて引き締めた。

首筋や鎖骨に残る無数の赤いキスマーク(所有印)をコンシーラーで念入りに隠し、上品なサマードレスに身を包む。

そして、母親(式)譲りの凛とした、完璧な『よそ行きの微笑み』を貼り付けて、広大な庭園に面したテラスへと向かった。

 

***

 

「あ、未那ちゃん! おはよう!」

 

テラスで優雅にモーニングティーを楽しんでいた少女が、未那の姿を見つけて明るく手を振った。

銀色の髪に、赤い瞳。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだ。その隣には、静かに本を読む美遊と、悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見ている金髪の少女、クロエが座っている。

 

「……おはようございます、イリヤさん、美遊さん、クロエさん」

 

未那は、背筋をピンと伸ばし、完璧な淑女の礼をとった。

 

「えー? 『さん』付けなんて堅苦しいよー。私たち、もう家族なんだし! ねえ、美遊?」

「ええ。未那…お義母(かあ)様……でいいのでしょうか。よろしくお願いします。」

 

イリヤと美遊は、父親であるアストルフォから受け継いだ純粋な善意で、未那を歓迎していた。

 

だが、未那の内心は強烈な緊張で張り詰めていた。

 

(……この子たち、見た目は中学生くらいだし、私と数歳しか変わらないわよね。下手したら、クロエちゃんなんて私よりずっと精神的に大人かもしれない。そんな私が、急に『新しいお義母さん』ヅラして入ってきたら、絶対に疎まれる……!)

 

聡明すぎるがゆえの、致命的な深読み。

未那は、彼女たちに嫌われないよう、必死に『物分りのいい、距離感をわきまえた大人』を演じようとしていた。

 

「ふーん……。なるほどねぇ」

 

クロエが、ティーカップを置き、小悪魔的な笑みを浮かべて未那の顔を覗き込んだ。

 

「パパの新しいお嫁さんが来たって言うから、どんなすごい女性(ヒト)かと思えば。……未那ちゃん、すっごく若くて可愛いじゃん。これじゃあ、お義母さんっていうより、私たちのお姉ちゃんって感じだよね。それに……」

 

クロエは、未那の首筋をじっと見つめ、ニヤリと笑った。

 

「昨日の夜、パパに随分と可愛がってもらったみたいだし? コンシーラー、ちょっと塗り残しがあるよ?」

「っ……!!」

 

未那の肩が、ビクッと大きく跳ねた。顔から火が出るほど恥ずかしくなり、思わず首元を手で隠す。

 

クロエに悪気はない。ただの彼女なりのスキンシップ(軽口)だ。

だが、未那の歪んだ認知フィルターを通すと、それは『あなたみたいに自分の欲求(発情)もコントロールできない若い小娘が、私たちのお母さんになれると思ってるの?』という、強烈な皮肉に聞こえてしまったのだ。

 

「……ええ。おっしゃる通りですわ」

 

未那は、テーブルの下で震える手を隠しながら、完璧な作り笑いを浮かべた。

 

「私なんて、まだまだ未熟者ですから。皆様の平穏な生活を乱すつもりはありません。……あくまで、旦那(アストルフォ)様の末席にお邪魔させていただくだけですので、どうかお気になさらず」

 

「……え?」

 

未那の、あまりにも分厚い壁を作った、冷ややかな(とイリヤたちには見えた)模範解答に、テラスの空気が少しだけ固まった。

 

(あ……。私、なに言ってるの……)

 

未那は内心で激しく後悔した。もっと自然に笑いたかったのに、防衛本能が働いて、極道の娘としての『絶対に弱みを見せない鉄壁の態度』が出てしまった。

 

「あ! 未那ちゃん、こんな所にいたんだ! 探したよー!」

 

その気まずい空気を破ったのは、庭園の芝生を横切って歩いてきたアストルフォだった。

彼は、年少の子供たち(アルチナやノーマ)と泥んこになって遊んだ後らしく、エプロン姿のまま、太陽のような笑顔を弾けさせていた。

 

「あ……っ」

未那の心臓が、彼を見た瞬間にドクンと激しく跳ねる。

 

「未那ちゃん、どうしたの? そんなに難しい顔して。イリヤたちと仲良くお話できた?」

 

アストルフォは、全く無警戒に未那の背後に回り込むと、その華奢な腰に大きな手を添え、彼女の肩にコテンと顎を乗せた。

 

「ひゃうっ……!?」

 

未那の口から、先程までの完璧な淑女の仮面を粉々に吹き飛ばすような、甘く間抜けな声が漏れた。

彼が密着した背中から、むせ返るようなオスの熱量と、絶対的な安心感が流れ込んでくる。隠したはずの首筋がジンジンと熱を持ち、彼の匂いを嗅いだだけで、子宮の奥が勝手に疼き始める。

 

「あ、アストルフォ……だめっ、皆さんの前で……っ」

 

未那は、真っ赤になった顔で必死に彼を引き剥がそうとするが、彼の逞しい腕はビクともしない。

 

「えー? いいじゃん、家族なんだし! ボク、未那ちゃんのことすっごく大好きだから、ずっとくっついてたいなぁ」

 

アストルフォは、未那の耳元で甘く囁きながら、そのうなじにふうっと熱い吐息を吹きかけた。

 

「んんっ……!! ぁ、あぁ……っ」

 

未那の膝から完全に力が抜け、崩れ落ちそうになるのを、彼のがっしりとした腕が強引に支える。

 

(だめ、だめ……っ! イリヤちゃんたちの前で、こんな……発情した雌みたいな顔、絶対に見せられない……っ!!)

「あはは、パパったら朝から元気だねー」

「未那ちゃん、顔真っ赤。ふふっ、本当にパパのことが大好きなんだね」

 

イリヤとクロエが、その様子を見てクスクスと微笑ましく笑っている。

 

だが、未那の極限まで張り詰めた精神状態では、その笑い声は『あんなに澄ましてたのに、結局パパに撫でられただけで腰を抜かす、ただの淫乱な小娘じゃない』と嘲笑われているように変換されてしまったのだ。

 

「……っ! 失礼、いたしますっ……!」

 

限界を迎えた未那は、半ばパニックになりながらアストルフォの腕から抜け出すと、逃げるようにその場から走り去ってしまった。

 

「あれ? 未那ちゃん、どうしたんだろう?」

 

アストルフォが不思議そうに首を傾げる。

 

「……お父様。未那お義母様、すごく無理して背伸びしてるみたいでした。私たちに気を使ってるのでしょうか?」

 

美遊が、鋭い観察眼で小さく呟いた。

 

***

 

その日の午後。

 

未那は、広大な庭園の隅にある木陰のベンチで、一人膝を抱えて座っていた。

視線の先には、庭の中央でアストルフォと一緒に、キャッキャと無邪気に笑いながら追いかけっこをしている年少の子供たち(アルチナや、広樹、ありす達)の姿がある。

 

(……私、最低だわ)

 

未那は、自らの不甲斐なさに胸を締め付けられていた。

 

パパ(幹也)みたいな優しさで包み込んでほしかった。彼の一番のお姫様になりたかった。

でも、彼は私だけのものではない。こんなにたくさんの、愛すべき家族の『中心』なのだ。

私はその輪の中に、どうやって入っていけばいいのか分からない。強がって壁を作って、彼に触れられたら恥も外聞もなくトロトロに溶かされて、勝手に傷ついて一人で逃げ出して。

 

(こんな子供みたいな私じゃ……あの子たちの『お母様』になんて、なれるわけないじゃない……っ)

 

十八歳の早熟な姫君は、自分が勝手に作り上げた『理想の家族像』と『現実の不器用な自分』とのギャップに押し潰されそうになり、大きなため息をついた。

その美しい黒髪が、寂しげに初夏の風に揺れている。

 

だが、未那はまだ気づいていなかった。

アストルフォから「無条件の愛と受容」を受け継いだこの魔窟の子供たちが、決して彼女を『よそ者』として見捨てるような存在ではないということに――。

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