※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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別伝 フランチェスカ・プレラーティ編⑤

(だめ、だめ……っ! なんなのコイツ……っ!? 幻術を弾く冷たい目をしてるくせに、肌を撫でるこの熱は……っ! こんな熱に中てられたら、私、私の理性が……っ!!)

 

数百年間、他人の絶望だけを啜って生きてきた最悪の快楽主義者は。

十八歳の若き獅子から至近距離で放たれる、規格外の肯定感とフェロモンの直撃を受け、ガタガタと無様に膝を震わせた。

 

だが、彼女はただ嬲られるだけの三流の魔術師ではない。

 

「……あ、はっ……あははは!ホンッットウに最高すぎるよ、君ってさあっ!!」

 

フランチェスカは、掴まれた手首を振りほどこうとはしなかった。

逆に、自ら雁夜の懐へと深く踏み込み、空いたもう片方の手を彼の首元に絡みつかせたのだ。逃げられないなら、この至近距離の接触(パス)を逆利用する。

 

「私(わたし)の頭をトロトロにする気なら……君の脳髄も、一緒に腐らせてあげるよっ!」

 

至近距離からの、呪詛の逆流。

空間に投影するのではなく、接触した皮膚から直接、雁夜の神経系に『破滅的な快楽と悪夢』の混合液を叩き込む、フランチェスカの自爆スレスレのカウンター。

 

「っ……!!」

 

雁夜の身体が、大きくビクンと跳ねた。

視界が赤黒く点滅し、脳が沸騰するような強烈な吐き気と、神経を焼き切るような幻痛が全身を駆け巡る。

 

(ぐっ……! 重い……っ!)

 

雁夜は、奥歯をギリッと噛み締めた。

彼に流れるアストルフォの血(フェロモンと無尽蔵の熱量)は、あくまで彼自身の存在のベースであり、父さんのような『絶対的な理性の蒸発』という概念武装には至っていない。フランチェスカの数百年の悪意の原液を直接流し込まれれば、当然、人間としての精神は悲鳴を上げる。

 

「 …さてさて……っ!…どう、かなっ……! 私……の、の…呪いの味は……っ!」

 

フランチェスカが、荒い息を吐きながら歪んだ笑みを浮かべる。彼女自身の顔も、雁夜のフェロモンに当てられて異常なほどに紅潮し、瞳孔がトロンと開きかけていたが、それでも必死に魔力を流し込み続けていた。

 

「このまま……二人で、ドロドロの肉塊に……なって……っ」

「……馬鹿だな、アンタ」

 

「……?」

 

雁夜の万華鏡のような瞳が、フランチェスカの歪んだ笑みを真っ直ぐに射抜いた。

その瞳の奥には、母さん(凛)から受け継いだ『天才的な魔術回路の回転』の光が宿っていた。

痛みに耐えながら、雁夜は瞬時に体内の魔力パスを再構築し、フランチェスカから流し込まれる呪詛を、自身の防壁でギリギリのところで受け止めていたのだ。

 

「痛いし、吐き気はするけど……。自ら僕の腕の中に飛び込んできてくれるなんて、随分と可愛い油断じゃないか」

「あれっ……!?」

「父さんなら、こんな痛い思いもしなかったんだろうけどさ。……僕はまだ未熟だから。こうやって、アンタの全部を真っ向から受け止めて、抱きしめることしかできないんだ」

 

雁夜は、自身に絡みついているフランチェスカの華奢な腰に、力強く腕を回し。

そのまま、冷たい小聖杯の残骸から彼女を強引に引き剥がし、自らの熱い胸板の中へと、逃げ場のないほど深く抱きしめた。

 

「ひやうッ……!!?」

「捕まえた」

 

雁夜の熱い吐息が、フランチェスカの耳の裏に吹きかかる。

呪詛を流し込むためのパスが、完全に『オスの熱量』を逆流させるための導火線へと切り替わってしまった。

 

「あ、ぁあっ……!! だめ、やめっ……はいって、くる……っ!」

 

アストルフォほどの絶対性はない。

だからこそ、雁夜は自分の全身全霊の熱を、接触した肌からフランチェスカの子宮の奥底へと、力任せに、しかしどこまでも優しく注ぎ込み始めた。

 

「フランチェスカ。……ここはね、ずっと昔、僕の父さんと母さんが愛し合って、あんなに温かくて優しい色に染め上げた場所なんだ」

 

雁夜の甘い声が、フランチェスカの鼓膜を直接震わせる。

 

「だから、アンタの冷たい悪意なんかで、汚させない。……大丈夫、僕が全部、温めて溶かしてあげるから」

「ひぃっ、あ、あぁ……っ! ちがっ、私は、こんな……ただのオスに……っ!」

 

フランチェスカは、雁夜の胸板を小さな両手で必死に押し返そうとした。

しかし、彼女の指先は、まるで熱を持った鉄板に触れたバターのように、力を失ってズルズルと滑り落ちる。

 

(頭が……っ、真っ白に……! 私の、魔術が……全部、この男の匂いで、上書きされて……っ!)

「ん……ちゅっ……」

 

雁夜の唇が、フランチェスカの白い首筋に触れ、甘く吸い上げる。

 

「んんッ……!? ぁ……あ、はぁっ……!」

 

数百年の間、他者を嘲笑い、安全圏から絶望を見下ろしてきた魔女の口から。ただの恋する乙女のような、甘く淫らな嬌声が漏れた。

彼女の身体の奥底から、冷たい虚無感が強制的に追い出され、代わりにむせ返るようなオスの熱情が、ドクン、ドクンと満ちていく。

 

「綺麗だよ、フランチェスカ」

 

雁夜は、悪意の殻が完全に溶け落ち、恐怖と快楽で涙目になっている彼女の顔を、両手で優しく包み込んだ。

 

「もう、一人で暗い地下に引きこもって、悪い夢なんて見なくていい。……これからは、僕がいっぱい愛してあげるから」

 

その言葉には、魔術的な洗脳も、計算も一切なかった。

ただ純粋な、親父譲りの『絶対的な肯定』。

 

「あ……あぁ……っ。雁、夜……っ」

 

その瞬間、フランチェスカの中で、何かが完全に砕け散った。

彼女が数百年間抱えていた途方もない虚無感と、他者の絶望でしか埋められなかった歪な乾き。それが、目の前の若き獅子が放つ、圧倒的で暴力的なまでの『熱と愛情』によって、跡形もなく満たし尽くされてしまったのだ。

 

「……ん、ぁっ……もっと……っ、私を、あつく、してぇ……っ」

 

フランチェスカは、完全に理性を手放した。

彼女は、自らを抱きしめる雁夜の首に腕を絡ませ、涙と甘い涎で顔を濡らしながら、背伸びをして自らその唇を塞ぎにいったのだ。

 

「んちゅ……っ! じゅぷ……はぁっ……んんっ……!」

 

静寂の地下空洞に、卑猥な水音が響き渡る。

雁夜の舌が彼女の口腔を蹂躙し、唾液が混ざり合うたびに、フランチェスカの身体はビクンビクンと跳ね、彼の腰へと自らの太ももをすり寄せて交尾をねだる。

 

(あぁ……っ、もう、どうなってもいい……っ。この熱がないと、私、生きていけない……っ!)

 

幻術師としての矜持も、最悪の快楽主義者としての悪意も、すべてが極上の快楽の泥の中に溶け落ちた。

遠坂雁夜。

偉大なる太陽の騎士には一歩及ばずとも。その若き獅子の牙と熱は、神話級の魔女を『ただの愛を乞う雌』へと堕とすには、十分すぎるほどの威力を持っていたのである。

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