fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
西暦2026年、秋。
ロンドン郊外、エーデルフェルト別邸。
色づいた木々の葉が、高く澄んだ秋空を舞い落ちる庭園を、三人の美しい乙女たちが歩いていた。
「……ふふっ、ママたち、今日も本当に綺麗だったね」
銀色の髪を風に揺らしながら、柔らかく微笑んだのはイリヤスフィール)。
アイリスフィールとアストルフォの間に生まれた彼女は、薔薇色の頬を持つ美しい大人の女性へと成長していた。
「ええ。……というより、私が言うのもなんだけど、うちのママたち、少し異常じゃないかしら?」
イリヤの隣で、豊かに成長した胸元を揺らし、少しだけ呆れたようにため息をついたのは、クロエだ。ルヴィアゼリッタとアストルフォの血を引く彼女は、母親譲りの豪快さと金髪、そして豊満な胸という悪魔的な魅力を放っている。
「クロエの言う通りです。私のお母様(桜)も、アイリお義母様も、ルヴィアお義母様も……完全に『中年』と呼ばれる年齢に達しているはずなのに、白髪一本、シワやシミ一つありません。……それどころか、私たちが子供の頃より、さらに女としての色香が深まっているように見えます」
黒髪を上品にまとめた美遊が、静かに頷いた。
桜・エーデルフェルトの愛娘として真っ直ぐに育った彼女は、母親の清楚さと、どこか重たいまでの深い愛情をしっかりと受け継いでいる。
娘たちの言う通りだった。
先ほどまでサロンで紅茶を飲んでいた母たちは、まるで時間が止まったかのような――いや、時間という概念すら『愛の熱』でねじ伏せたかのような、圧倒的な美貌を誇っていた。アニメや絵本の中にしか存在しないような「異常なまでに若く美しい人妻(母)」たち。
それは間違いなく、彼女たちの夫であるアストルフォとの、健康的な(そして常軌を逸して濃厚な)夜の営みによる恩恵だった。
「パパのフェロモン、昔と少し変わったよね」
イリヤが、少しだけ頬を赤く染めて呟いた。
「昔はもう、歩いてるだけで無差別にピンク色の空間を作って、私たち子供でもクラクラしちゃうくらいだったのに。……今は、すっごく静か。でも……」
「ええ。衰えたんじゃない。……より深く、重たく、コントロールできる領域に『進化』したのよ」
クロエが、真剣な顔で引き取った。
現在のアストルフォは、無自覚に周囲にフェロモンを撒き散らすことをやめていた。
それは決して彼の熱量が冷めたわけではない。愛する妻たちや、自らが守るべき対象だけに、自身の純度百パーセントの熱情を「狙い撃ち」で注ぎ込めるようになったのだ。
広範囲を照らす夏の太陽から、深淵までをピンポイントで沸騰させる、底なしのマグマへ。
だからこそ、彼の愛情を一身に受ける妻たちは、細胞の奥底から活性化し、永遠に枯れない美しい花のように咲き誇り続けているのである。
「それにしても……驚いたね。まさか、あんなに若いお義母様ができるなんて」
イリヤの言葉に、美遊とクロエも少しだけ複雑な顔を見合わせた。
別邸を出る直前。彼女たちは、サロンの奥のソファで、アストルフォの逞しい腕の中にすっぽりと収まっている『一人の少女』に別れの挨拶をしてきたばかりだった。
彼女の名は、エレナ。時計塔の有力な名門魔術師の令嬢であり、ルヴィアの政治的判断(政略結婚)によって、最近エーデルフェルト家に嫁いできたばかりの、18歳の少女だ。
つまり、大人になったイリヤたちにとって、彼女は『自分たちより年下の、新しい義母(パパの奥さん)』なのである。
『パパ……私たち、そろそろ冬木に向けて出発するね』
『あ、イリヤ! 美遊、クロエ! 気をつけていってらっしゃい! 雁夜にもよろしくね!』
数十分前の光景が、イリヤの脳裏に蘇る。
満面の笑みで手を振るアストルフォの腕の中で、18歳の新しい義母(エレナ)は、完全に腰を抜かし、瞳をトロトロに濁らせて彼にすがりついていた。
『ひゃうっ……あ、あぁっ……アストルフォ、様……っ。私、もう、頭が……っ』
エレナは、名門の令嬢として厳しい魔術の鍛錬を積んできたはずだった。政略結婚という冷たい現実にも、誇りを持って耐える覚悟だったのだろう。
しかし、そんな彼女の悲壮な決意は、アストルフォの進化した『深く、甘く、逃げ場のない全肯定のフェロモン』の直撃を受け、初夜のわずか数時間で跡形もなくドロドロに溶かされてしまっていた。
今の彼女は、名門の誇りなど忘れ果て、ただ「この大きくて温かい男の人に、もっと奥まで愛してほしい」と乞うだけの、幸せな発情期の子猫となっていた。
『ふふっ、エレナはすっごく可愛いね。……みんなが帰ってくるまで、ボクがずっと、エレナの緊張をほぐして温めてあげるからね』
『んんっ……あ、ぁあ……っ、はいっ、もっと、私を、あつくしてぇ……っ♡』
アストルフォが、エレナの耳元で甘く囁きながら、彼女の華奢な腰を優しく、しかし絶対に逃げられない力強さで撫で上げる。
その手つき一つ、呼吸一つから放たれる熱量が、見ているイリヤたちの下腹部までキュンと疼かせるほどに、濃密で暴力的だった。
『……もう、パパったら。エレナお義母様、完全に骨抜きじゃない』
イリヤたちは、呆れと戸惑い、そして新しい家族を不憫に(そして心底羨ましく)思いながら、彼女の緊張が少しでも早く解けるようにと、そっと微笑んでサロンを後にしたのだった。
「……ま、パパがエレナちゃんを幸せにするのは間違いないわ。私たちは、大人しく極東の旅行を楽しみましょ」
クロエが、秋の空に向かって大きく背伸びをした。
「雁夜に会うのも久しぶりだしね!」
こうして、規格外の太陽の熱気に包まれたロンドンの魔窟に背を向け、三人の次世代の乙女たちは、秋の極東――冬木市へと旅立ったのである。
***
数日後。
日本の極東、冬木市。
「わあ……! すっごく綺麗な街だね!」
イリヤが、冬木駅のロータリーに降り立ち、高く澄んだ秋空と、海と山に囲まれた美しい街並みを見渡して歓声を上げた。
「イリヤ姉様、あまりはしゃぐと転びますよ。……でも、本当に。空気がとても澄んでいます」
美遊が、トランクを引きながら静かに微笑む。
「当然よ。この冬木の霊脈は、二十年くらい前に、パパとママたちが、すっごく念入りに『魔力同調(ラブラブ)』して、綺麗に染め上げた場所なんだから」
クロエが、悪戯っぽく笑いながらウインクをした。
かつて、2005年の冬木旅行。
円蔵山の地下大空洞で、時計塔のトップ魔術師たちが総出で霊脈のパスを繋ぎ直す中、アストルフォが魔力切れの凛を背後から抱きしめ、濃密すぎる熱量と愛情を子宮の奥底に直接注ぎ込んだあの出来事。
その清浄な(そして極限まで甘い)魔力の残滓は、今もなおこの冬木の大地を穏やかに守り続けているのだ。
「その綺麗になった冬木を、今度は雁夜が管理者(セカンドオーナー)として治めてるんだもんね。……なんだか、不思議な気分」
イリヤが、少しだけ感慨深そうに呟いた。
「ええ。聞くところによると、雁夜もパパのフェロモンをしっかり受け継いで、冬木でずいぶんと『賑やかなこと』になっているらしいわよ?」
クロエが、ニヤニヤと笑いながら手元のスマートフォンを操作する。
「フランチェスカっていう厄介な幻術師を骨抜きにして恋人にしただけじゃなくて……なんか、藤丸立香とか、ジナコ=カリギリとか、シオンとかいう、色んな女の子たちが、雁夜のフェロモンにやられて遠坂邸に居着いてるらしいわ」
「ええっ!? 雁夜、まだ18歳なのに……パパの血、濃すぎない!?」
イリヤが目を丸くする。
「……やはり、エーデルフェルトや遠坂の血筋よりも、お父様の血の『雌を惹きつける引力』の方が、根本的に理を越えているのですね」
美遊が、どこか納得したように真顔で頷いた。
「まあ、雁夜の女たちがどれだけ規格外でも、うちのロンドンの魔窟(ママたち)に比べたら可愛いものよ。……さあ、行きましょ! 弟の立派な成長ぶりと、その修羅場を、お姉ちゃんたちがたっぷり祝福してあげなくちゃね!」
クロエの号令と共に、イリヤと美遊も弾けるような笑顔で頷いた。
秋の爽やかな風が吹き抜ける冬木の街を、三人の美しい乙女たちが歩き出す。
偉大なる太陽の騎士の血と、最強の母たちの気品を受け継ぐ彼女たちの極東訪問が、遠坂雁夜とそのヒロインたちにとって、更なるドタバタ(騒動)の幕開けとなることは、まだ誰も知らない。