fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
型月の女性キャラをオリキャラのヒロインしたのは私の判断だ。
だが私は謝らない
冬木市、高台に建つ遠坂邸。
秋の爽やかな風が吹く外の空気とは打って変わり、重厚な玄関の扉を開けた瞬間、イリヤスフィール、美遊、クロエの三人は、むせ返るような『熱気』に思わず息を呑んだ。
「……うわぁ。ロンドンのお家(魔窟)と同じ匂いがする。でも、パパの匂いより少しだけ……重たくて、じっとりしてるっていうか」
イリヤが、頬を微かに上気させながら呟く。
「ええ。アストルフォ様のフェロモンが『すべてを照らす太陽』だとしたら、これは『逃げ場のない深海の熱水鉱床』のような……。奥底からジワジワと理性を溶かしにくる、危険な匂いです」
美遊も、自身の黒髪を抑えながら、下腹部の奥がキュンと甘く疼くのを必死に堪えていた。
「ふふっ、さすがは凛お義母様とパパの最高傑作ね。さあ、可愛い弟がどんな『お城』を築いているのか、お姉ちゃんたちが見てあげましょうか」
クロエが小悪魔的な笑みを浮かべ、リビングの重厚な両開き扉を勢いよく押し開けた。
「お邪魔しまーす! 雁夜、ロンドンからお姉ちゃんたちが来てあげたわ……って、うおっ!?」
リビングに踏み込んだクロエの足が、ピタリと止まる。
イリヤと美遊も、その光景を見てポカンと口を開けた。
「……あ、姉さんたち! いらっしゃい、ロンドンからわざわざありがとう……っ! 悪いんだけど、今ちょっと、身動きが取れなくて……っ」
広大なリビングの中央。最高級の革張りソファの上で、桜色の髪を持つ18歳の青年――遠坂雁夜が、文字通り『女たちの海』に溺れかけていた。
「うにゅぅ……雁夜氏ぃ……もう動きたくないっス……。一生このぬくぬくの膝の上で、ゲームだけして生きていくっス……」
雁夜の股の間にすっぽりと収まり、彼の腹に背中を預けながら携帯ゲーム機をピコピコと叩いているのは、丸みを帯びたマシュマロボディのジナコ=カリギリだった。
「こらジナコ、あんまり体重かけたら雁夜が疲れるだろ? ほら、少し姿勢を……」
雁夜が苦笑しながら、ジナコの柔らかいお腹に手を回し、ポンポンと優しく撫でる。
「ひゃうっ!? ……あ、あぁっ……雁夜氏の手、あっつ……っ。だめっス、そこ撫でられたら、カルマごと溶けちゃうっスぅ……」
ただ撫でられただけ。それだけで、ジナコの指先から力が抜け、ゲーム機が絨毯に滑り落ちる。彼女は完全に骨抜きにされた猫のように、雁夜の手のひらにすり寄って甘い吐息を漏らした。
「ずるいよジナコちゃん! 雁夜、私も! 私も霊脈調査で体力すっからかんなの! 雁夜の愛でチャージして!」
横から元気いっぱいに飛びついてきたのは、オレンジ色の髪を束ねた女性――藤丸立香だ。彼女は持ち前の凄まじいバイタリティで雁夜の右腕に抱きつき、その豊かな胸の膨らみを遠慮なく押し付けている。
「わかった、わかったから立香。ほら、お疲れ様」
雁夜が立香の頭を引き寄せ、そのうなじに顔を埋めて、深く、甘い体温を直接流し込むように息を吹きかける。
「んんッ……! ぁ、はぁっ……! ああっ、すごい、雁夜の愛……魔術回路が溢れちゃう……っ」
数々の死線を潜り抜けてきたはずの立香の顔が、一瞬にして情欲に染まり、だらしない笑みを浮かべて雁夜の肩にすがりつく。
「チッ……二人とも、少しは自重しなさい。……雁夜、私のエーテライトの接続が少し不安定です。再調整(チューニング)を要求します」
冷静な声で言い放ちながら、雁夜の左側にぴたりと密着してきたのは、アトラス院の制服を着崩したシオン・エルトナム・ソカリスだった。彼女の表情は知的で計算高く見えるが、その耳まで真っ赤に染まっているのを、イリヤたちは見逃さなかった。
「シオン、エーテライトの不調じゃないだろ。……君自身が、僕を欲しがってるだけじゃないか?」
雁夜の紫水晶の瞳が、少しだけ意地悪く、しかし底なしの甘さでシオンを見つめる。
彼の手がシオンの首筋に触れ、そのまま背筋をなぞるように滑り落ちた。
「ひっ……!? ……演算が、追いつか……っ、ぁ、あぁっ……!」
「素直になりなよ、シオン。君の計算式なんて、僕が全部溶かしてあげるから」
「んんっ……だ、だめ……っ」
世界最高峰の頭脳を持つはずの錬金術師が、18歳の若き獅子の指先一つで、抗うことすらできずに雌の顔へと堕とされていく。
「あらあら。シオンったら、相変わらず雁夜様の前では、アトラスの教えなど微塵も役に立っていませんのね」
その光景を、ソファの背もたれから妖艶に身を乗り出して見つめていたのは、シオンの同門(先祖)にあたるシアリム・エルトナム・レイアトラシアだった。
彼女は優雅に微笑みながらも、その視線は雁夜の首筋から離れない。
「雁夜様。私の計算では、貴方のその圧倒的なフェロモンは、私たちを壊すことなく、永遠に極上の快楽の中へ縛り付ける完全な『檻』ですわ。……さあ、私にもその熱を」
「フフッ、抜け駆けは許さないよ。雁夜は私のなんだから! ねっ、雁夜?」
さらに背後から、かつての最悪の幻術師・フランチェスカが、雁夜の首に腕を絡ませて、その耳たぶを甘く噛む。
「……あー、もう。みんな、少し落ち着いてくれ。姉さんたちが引いてるじゃないか」
雁夜は、五人の規格外の乙女たちからのむせ返るような愛欲とフェロモンの要求を、その広い器(父さん譲りの生命力と、母さん譲りの魔力制御)で完全に受け止めながら、苦笑交じりにイリヤたちを見た。
「「「…………」」」
イリヤ、美遊、クロエの三人は、完全に呆気にとられていた。
父であるアストルフォが、ロンドンの魔窟で数え切れないほどの妻たちとイチャイチャしている光景には慣れているはずだった。しかし、雁夜のそれは少し違う。
アストルフォが無自覚に降り注ぐ「太陽」だとしたら、雁夜は自らの意思で的確に相手の急所(理性の防壁)を溶かしにいく「緻密な猛獣」だったのだ。
「……雁夜。あんた、立派になりすぎよ」
クロエが、顔を引きつらせながら拍手をした。
「まさか、アトラスの錬金術師まで骨抜きにして、冬木にこんな自分だけの『お城』を作ってるなんてね」
「ははっ……父さん(アストルフォ)の背中を見て育ったからね。これくらいはできないと、遠坂の次期当主は務まらないだろ?」
雁夜は、ジナコの頭を撫で、立香の腰を抱き寄せながら、余裕のある笑みを浮かべた。
「それに、こいつらはみんな、少し頑張りすぎたり、寂しがり屋だったりするから。……僕の熱で温めてあげないと、ダメになっちゃうんだ」
「んんっ……雁夜の匂い、すき……っ」
「雁夜氏の膝の上、最高っス……」
シオンもフランチェスカも、彼から放たれる圧倒的な肯定感と熱量の前に、もはや会話に参加する気力すらなく、ひたすらに彼の体温を貪っている。
「……本当に、パパにそっくり。でも、凛お義母さまの『悪魔的な計算高さ』もしっかり受け継いでる。これは……ロンドンのママたちも真っ青の、とんでもない魔性の男に育っちゃったわね」
イリヤが、呆れを通り越して感心したようにため息をついた。
「イリヤ義姉様、美遊義姉様、クロエ義姉様! 雁夜は渡しませんからね! 私が一番のメインヒロイン(?)なんですから!」
立香が、雁夜の腕の中から元気よく宣言する。
「何言ってるんだい立香ちゃん! 最初に雁夜の熱でメスに堕とされたのは私だよ! 義姉様たち、私はフランチェスカ・プレラーティって言います! 以後お見知り置きを!」
フランチェスカも負けじとマウントを取る。
「はいはい、わかったわかった。私たちは可愛い弟の顔を見に来ただけだから、取ったりしないわよ」
クロエが苦笑しながら手を振る。
その時だった。
雁夜の表情が、スッと『魔術師の管理者』としての冷徹な顔つきに切り替わった。
彼に抱きついているシオンとシアリムも、同時にハッとして顔を上げる。
「……シオン、シアリム。今の揺れ、観測したか?」
「ええ。円蔵山の地下……大聖杯の跡地付近の霊脈パスに、外部からの強引な干渉(クラッキング)を確認しました」
シオンが、先程までの蕩けた表情を瞬時に引き締め、虚空にホログラムの演算式を展開する。
「父さんたちが綺麗にした霊脈を、またどこの身の程知らずがいじろうとしてるんだか」
雁夜が、ゆっくりとソファから立ち上がった。
その瞬間、彼から放たれるフェロモンがスッと鳴りを潜め、代わりに冷たく、研ぎ澄まされた膨大な魔力が部屋中に満ちる。
甘やかしてくれる「オス」から、冬木を統べる「王」への切り替わり。そのギャップに、ジナコも立香も、再びキュンと胸を射抜かれて顔を赤くしている。
「姉さんたち。せっかく来てくれたのに悪いけど、少し『仕事』に付き合ってもらってもいいかな?」
雁夜が、振り返ってイリヤたちに微笑んだ。
「もちろんよ! うちの陣営の霊脈を荒らす輩なんて、私たちがぶっ飛ばしてあげるわ!」
イリヤが自信満々に胸を張る。
「ええ。それに……久しぶりに、私たちも冬木の魔力(アストルフォの温もり)を感じたいですから」
美遊も、静かに魔術礼装を展開した。
かくして、偉大なる太陽の血を引く姉弟たちと、規格外の女性たちによる、冬木の霊脈防衛戦(という名の一方的な蹂躙劇)が、今まさに幕を開けようとしていた。