fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
冬木市、円蔵山・地下大空洞。
かつて大聖杯が鎮座し、そして2005年にアストルフォと凛が濃密な魔力同調(愛の営み)を行い、清浄な「遠坂とアストルフォの色」に染め上げた冬木最大の霊脈の結節点。
その神聖な祭壇の前に、三人の侵入者が陣取っていた。
豪奢なドレスを着崩した、金髪で高飛車な顔つきの双子の魔術師姉妹。そして、その後ろに無表情で控える、両手に黒鍵(概念武装)を構えた凄腕の戦闘メイドだ。
「ふふっ。時計塔の連中は目が節穴ですわね。極東の田舎町に、これほど膨大で『甘く澄んだ』魔力資源が放置されているなんて」
「ええ、お姉様。この霊脈を私たちの工房に接続(バイパス)すれば、名門エーデルフェルトにも引けを取らない権力を得られますわ!」
双子の姉妹が、祭壇に杭のような魔術礼装を打ち込もうと高笑いした、その時。
「――そこまでにしてくれないかな。他人の家の庭(ベッド)を荒らすのは、三流のやることだぜ」
静かな、しかし大空洞の空気を一瞬で制圧するほどの冷たく重い声が響いた。
闇の中から現れたのは、桜色の髪を揺らす冬木の若き管理者――遠坂雁夜と、彼の後ろに控えるイリヤ、美遊、クロエの三姉妹。そして、雁夜に寄り添うように立つ、五人の『規格外のヒロインたち』だった。
「なっ……何者ですの!? この結界は、私たちが……」
「結界? ああ、あんな紙切れみたいな術式、シオンが歩きながら三秒で解いたよ」
雁夜が、皮肉げに鼻で笑う。
「計算終了(コンピュート・コンプリート)。……敵性魔術師三名。魔力出力、アトラスの基準では計測する価値もありません。……雁夜、私がエーテライトで五秒で無力化しましょうか?」
シオン・エルトナム・ソカリスが、冷徹な目で双子を分析しながら、指先から不可視の糸(エーテライト)をチラつかせた。
「いやいや、シオンちゃん! ここは私の鉄拳で……!」
藤丸立香が、準備運動をしながら元気よく前に出ようとする。
「ちょっ、二人とも張り切りすぎっス! 雁夜氏の負担になるから、適当に私が防壁張って終わらせるっスよ!」
ジナコ=カリギリが、タブレット端末を叩きながら面倒くさそうにあくびをした。
「……あなたち、誰の許可を得て雁夜の隣で仕切っているのかしら? この小娘どもの臓物は、私(わたし)の幻術で綺麗な花火に変えてあげるわ」
フランチェスカが、三日月のような笑みを浮かべて指先を鳴らす。
「おやめなさい、フランチェスカ。貴方の幻術は趣味が悪すぎますわ。……ここは私のアトラスの錬金術で、彼女たちの魔術回路ごと綺麗に『再構築』して差し上げます」
シアリム・エルトナム・レイアトラシアが、優雅な所作で魔銃(バレル・レプリカの模造品)を構えた。
「な、なんなのよコイツら……っ! ただのガキのくせに、ふざけた魔力圧を……っ! クレア、やりなさい!」
双子の姉が叫ぶと同時に、戦闘メイドが恐るべき速度で地を蹴り、雁夜の首を狙って黒鍵を振り下ろした。
――だが。
『ガキィィィンッ!!』
「……遅いわね。メイドとしての躾がなってないんじゃない?」
メイドの凶刃は、雁夜に届く遥か手前で、クロエのガンドによってあっさりと弾き飛ばされていた。
「美遊」
「はい、イリヤお姉様」
イリヤが指先で光の魔力弾(リヒトクライス)を乱れ撃ち、美遊が桜譲りの優雅さで虚数属性の魔力波を放つ。
ただの牽制。だというのに、それだけで双子の張っていた防御結界はガラスのように粉砕され、姉妹は悲鳴を上げて地面に尻餅をついた。
「ひぃっ……!?」
「な、なにこれ……っ、化け物……っ!」
「……姉さんたち、立香たちも。もういいよ、下がって」
腰を抜かした双子と、クロエに刃を折られて立ち尽くすメイド。
その三人の前に、雁夜がゆっくりと歩み出た。
『カツン』という足音が、冷たい地下空洞に響く。
「この場所はね。昔、僕の父さんと母さんが愛し合って、綺麗にしてくれた大切な場所なんだ。……それを、安っぽい野心で汚そうとしたこと。冬木の管理者として、しっかり『教育』してやるよ」
雁夜の万華鏡のような瞳が、双子とメイドを真っ直ぐに射抜いた。
瞬間。
彼の内側で厳重にロックされていた『オスの熱量(フェロモン)』が、ピンポイントで目の前の三人だけを対象に、爆発的に解放された。
「え……っ?」
双子の姉妹とメイドの背髄に、ゾクッ、と。
これまでの人生で一度も味わったことのない、暴力的なまでの『熱』と『甘い匂い』が直撃した。
「な、に……これ……っ。あ、つ……っ!」
「はぁっ、はぁっ……魔力が、練れな……っ!」
先程まで威勢よく吠えていた双子の顔が、一瞬にして林檎のように真っ赤に染まった。
魔術を放とうとする回路の回転が、雁夜から放たれるねっとりとしたフェロモンの前にドロドロと溶け落ちていく。恐怖ではない。これは、圧倒的なオスの生命力によって、強制的に『庇護されるべき雌』としての本能を呼び覚まされる、甘い暴力。
「あ……ぁあっ……」
凄腕のはずのメイドも、武器を取り落とし、ガタガタと内股を震わせてその場にへたり込んだ。
雁夜は、抵抗する気力すら失った双子の姉妹の間に跪き、彼女たちの震える顎を、両手でふわりと優しく持ち上げた。
「そんなに震えて、どうしたの? 魔術師なら、最後まで諦めちゃダメだろ?」
雁夜の声は、先程の冷徹さから一転し、父親(アストルフォ)そっくりの、底抜けに甘く、女の子をただ無条件に慈しむようなとろける音色へと反転していた。
「ひゃうッ……!?」
雁夜の親指が、双子の唇をそっと撫でる。
「あ……っ、や、やめ……っ! 私、わたしたちは、名門の……っ!」
「んんっ……! ぁ、はぁっ……だめ、そんな熱い手で、触らな……っ♡」
顎を撫でられただけ。たったそれだけなのに、彼の手のひらから伝わる異常なほどの『体温』が、彼女たちの冷たい野心を完全に焼き切り、子宮の奥底を激しく収縮させた。
誇り高き姉妹の口から、威厳の欠片もない、発情した猫のように甘く上擦った嬌声が漏れる。
「ごめんね、痛かった? ……でも、悪いことをした子には、ちゃんとお仕置きしないとね」
雁夜が至近距離でふわりと微笑み、その甘い吐息を姉妹とメイドの顔に直接吹きかけた。
(だめ……っ、なんなの、コイツ……っ!? さっきまでの冷たい目……なのに、この甘い熱は……っ! こんな熱に中てられたら、私、私の理性が……っ!!)
「ん……ぁ、あぁぁっ……! すみま、せん……っ、私が、悪かった、から……っ!」
「もっと……っ、もっと、私を、あつくしてぇ……っ♡」
わずか数十秒。
野心に燃えていた双子の魔術師と凄腕のメイドは、若き獅子の放つ規格外の肯定感とフェロモンの直撃を受け、完全に理性を手放した。彼女たちは涙と涎で顔を濡らしながら、自ら雁夜の足元にすがりつき、交尾をねだるだけのただのメスへと成り果てたのだった。
***
「……終わったよ。シオン、霊脈のパスの修復を手伝ってくれるか?」
「ええ。貴方の熱で彼女たちの回路が完全にショートしているので、繋ぎ直すのは簡単です」
雁夜が、足元で「あぁっ……雁夜さまぁ……っ」と身悶えする三人(完全に陥落済み)を放置して立ち上がると、イリヤたちが呆れたような、しかしどこか誇らしげな拍手を送った。
「見事ね、雁夜! まるで昔のパパを見てるみたいだったわ!」
イリヤが、満面の笑みで雁夜の背中を叩く。
「ええ。ですが、かつてのお父様のように無自覚ではなく、完全に狙いを定めて『堕とし』にいっていました。……雁夜、貴方は本当に、恐ろしい魔術師(オトコ)に育ちましたね」
美遊が、感心したようにクスリと笑う。
「これで冬木も安泰ね! ……でも雁夜、あんたこれ以上女増やしてどうするのよ? ロンドンのママたちみたいに、毎日搾り取られて死ぬわよ?」
クロエがニヤニヤと笑いながら、雁夜の背後に控える五人の恋人(+新しく増えた三人)を指差した。
「ずるいです義姉様たち! 雁夜のメインヒロイン(?)はこの藤丸立香なんですから!」
「いやいや、雁夜氏の正妻はこのジナコっスよ!」
「計算が合いませんね。彼の熱量を最も効率的に管理できるのは私です」
「ふふっ、私が一番彼を知り尽くしているのに」
立香やシオンたちが、即座に嫉妬の火花を散らして雁夜の腕に群がり始める。
「あー、もうっ……! 姉さんたち、笑ってないで助けてくれよ!」
雁夜は、八人の女たちからのむせ返るような愛欲とフェロモンの要求に揉まれながら、幸せな、そして少しだけ胃の痛くなるような悲鳴を上げた。
「ふふっ、頑張ってね、冬木の管理者さん!」
イリヤ達は、そんな弟のドタバタな修羅場を微笑ましく見つめながら、地下大空洞を後にするのであった