fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
本当です、信じてください!
極東の冬木市でのドタバタな霊脈防衛戦(という名の弟・雁夜のハーレム見学)から、一ヶ月。
季節はすっかり深秋から初冬へと移り変わり、ロンドン郊外のエーデルフェルト別邸は、冷たい外気とは無縁の、むせ返るような温かい『熱』に包まれていた。
夜の広大なリビング。
暖炉の火がパチパチと爆ぜる音だけが響く中、冠位指定の魔法使い・蒼崎青子は、最高級のペルシャ絨毯の上に力なくへたり込んでいた。
「あ……はぁっ、はぁっ……あんたって、本当に……馬鹿みたいに、熱いんだから……っ」
彼女の豊かな胸は激しく上下し、いつもは強気で勝気な青い瞳が、今は完全に焦点を失い、トロンと甘く濁りきっている。
そんな彼女の背中から、深く、そして逃げ場のないほどの力強さで抱きしめているのは、桜色の髪を揺らす太陽の騎士――アストルフォだった。
「青子、まだ身体の奥、震えてるよ。……すっごく可愛い」
アストルフォの大きく熱い手が、青子のはだけた衣服の隙間から滑り込み、彼女の汗ばんだ柔らかな腹部を優しく撫で回す。
ただのスキンシップではない。一ヶ月前、「息子の智識がふらっと旅に出てしまった」と聞いてから、アストルフォはどこか落ち着かない様子だった。青子は「あの子には私の血が流れてるんだから大丈夫よ」と笑い飛ばしていたが、アストルフォの親としての心配(寂しさ)は消えなかった。
だから青子は、彼のその寂しさを埋めるように、この一ヶ月間、夜な夜な彼に思いきり甘えさせ、自らの身体の奥深くまでその熱を注ぎ込ませていたのだ。
「んんっ……! ぁ、あぁっ……アストルフォ、そこ、だめ……っ! 私、また、頭が真っ白に……っ」
青子が、魔法使いとしての威厳も何もかも忘れ、ただ愛する男の熱に蕩かされるだけのメスとして甘い悲鳴を上げた、その時だった。
「お父様、青子お義母様。……夜の団欒中に申し訳ありません。智識お兄様から、エアメールが届きました」
リビングの扉がわずかに開き、黒髪を上品に揺らした美遊が、一枚の分厚い封筒を手にして静かに入ってきた。
美遊の瞳は、目の前で繰り広げられている両親たちの濃厚な愛情表現に少しだけ頬を染めつつも、桜譲りの落ち着いた気品でスッと封筒を差し出した。
「えっ!? 智識から!?」
アストルフォは、先程までの艶やかなオスの顔から一転、パァッと顔を輝かせて青子から身を離した。
「はぁ……はぁっ。もう、いいところで……っ。でも、あいつからの手紙なんて珍しいじゃない」
青子は火照る身体をどうにか起こし、乱れた服を直しながら封筒を受け取った。
リビングの騒ぎを聞きつけ、イリヤやクロエ、そして橙子や凛たちも「智識から連絡があったの!?」とワラワラと集まってくる。
青子が封を切って中から取り出したのは、一枚の便箋と、大判の写真だった。
『親父、母さん、元気にしてるか?
俺は今、南米のバル・ベルデという国にいる。ここ、気候もいいし飯も美味いんだけどさ。マフィアと腐敗した政府が裏で癒着してて、ちょっとムカついたから、親父譲りの体力と母さん譲りの魔弾で、組織を丸ごとぶっ潰してやったよ。
そしたら、そのボスの娘だった双子の姉妹(すっげぇ美人)が俺に惚れ込んでさ。「貴方が私たちの新しいボス(旦那様)よ!」って泣いてすがりついてくるから、放っておけなくて。
ついでに、俺を捕まえに来た現地の超エリート美人婦警と、政府の裏で動いてた凄腕の女魔術師(この人も凄え美人)も、なんだかんだで俺の熱(フェロモン)に当てられたみたいで、全員俺の嫁になるって言い出してさ。
というわけで、俺、この国の裏と表のトップとして、しばらくここに居座ることにしたわ! 孫の顔が見たくなったら、いつでも遊びに来てくれよな!』
「「「…………」」」
便箋を読み上げた青子の声が途切れると、リビングに不気味な沈黙が落ちた。
「……ははっ」
最初に笑い出したのは、青子だった。
「あははははっ! あいつ、私の魔術回路(チート)と、あんたのそのバケモノみたいなフェロモンを使って、海外で国を一つ乗っ取って、ハーレム作って王様やってるじゃないの!! 本当に……規格外の馬鹿息子に育ってくれたわ!!」
青子は、心配など微塵もなかったと言わんばかりに、誇らしげに高笑いした。
「ちょっ、ちょっと青子! 笑い事じゃないわよ!? 雁夜は冬木でおとなしく(?)やってるからいいけど、智識のやつ、海外のカルテルをぶっ潰して女どもを根こそぎ落としてるって……!」
凛が頭を抱える。
「……さすがはアストルフォの息子ね。歩く特異点か何かかしら」
橙子が、呆れたようにタバコに火をつけた。
「でも、よかったーっ! 智識、ちゃんとご飯食べてたんだね! それに、お嫁さんが四人もできたなんて、すっごくおめでたいよ!」
アストルフォは、マフィア壊滅などの物騒な単語は完全にスルーして、「息子が元気で幸せそう」という事実だけで、嬉し泣きしそうなほど喜んでいる。
「ふふっ。お父様の息子ですから、どんな修羅場でも絶対に女の子を不幸にしないという信頼がありますわ。……お父様、安心しましたね」
美遊が、アストルフォの広い背中にそっと手を添え、微笑みかける。
「うん! ありがとう美遊! ボク、すっごく安心した!」
「……ねえ、ちょっと待って。同封されてるこの写真なんだけど」
クロエが、青子の手からひょいと写真を抜き取って、目を丸くした。
そこに写っていたのは、アストルフォに似た桜色の髪をワイルドに伸ばし、南国の太陽の下でニカッと笑う智識の姿。
そして彼にベッタリと抱きついている、グラマラスな双子の姉妹、制服を着崩したクールな婦警、妖艶な現地の魔術師。
……だが、クロエが指差したのは、そのさらに横で、なぜか一人だけド派手な着物に刀を二本差し、満面の笑みでうどん(らしきもの)を啜っている女だった。
「誰よ、この女侍みたいなの。現地の人間にしちゃ、どう見ても日本人…よね?そんな服装だし……新手のコスプレ女子かしら?」
クロエの言葉に、全員が写真を覗き込む。
「ええ? 智識の手紙には、四人って書いてあったけど……この侍のお姉さんについては何も……あ、写真の裏に何か書いてあるよ」
イリヤが、写真を裏返した。
そこには、智識とは明らかに違う、流麗で飄々とした筆致でこう書かれていた。
『やっほー! アストルフォ君の奥さんたち、初めまして! 私、新免武蔵守藤原玄信……まあ、武蔵ちゃんって呼んでよ!
いやー、色んな世界を漂流(ドリフト)してたらさ、空からこの国に落っこちちゃって。そしたら、智識君からすっごいキラキラした、命を全肯定する最高の気配(匂い)がしたんだよね!ほんで義によって彼に助太刀した次第!
伊織君との世界も最高だったけど……凄く居心地いいから私も智識君の五人目のお嫁さんとしてもらわれることにしたよ! 日本料理店のうどんも美味いし、最高の終着点だね! よろしくー!』
「「「…………はぁ!?」」」
ロンドンの魔窟の女王たちが、全員揃って絶叫した。
「な、なんなんですのこの女は!? 漂流!? 伊織って一体誰!? ていうか、ちゃっかり五人目の嫁に収まってるじゃないの!!」
ルヴィアが扇子を叩き折らんばかりの勢いで叫ぶ。
「……並行世界を渡り歩く、剪定事象の剣豪……。まさか、そんな神話級の英霊(イレギュラー)まで、フェロモンで無自覚に絡め取って、その因果(漂流)すら強制的に終わらせたっていうの……?」
橙子が、今度こそ本気で頭痛を覚えたようにこめかみを押さえた。
「あはは! 武蔵ちゃんっていうんだね! 智識もパパみたいに、すっごく賑やかな家族を作ったんだね!」
一人だけ、アストルフォは純度百パーセントの笑顔で喜んでいた。
冬木の雁夜が、知性と色気で静かに支配する「王」だとしたら。
南米の智識は、運命すら強引に引き寄せて笑顔に変える、第二の「太陽」だった。
息子たちは皆、父親の巨大な背中を追い越し、それぞれの地で、彼らなりの「愛の魔窟」を築き上げている。
「……もう。本当に、あんたの血はどうなってるのよ」
青子が、呆れたように笑いながら、アストルフォの広い胸板にコテンと頭を預けた。
「でも……安心した。あの子はもう、立派な男よ。私たちの心配なんていらないくらいにね」
「うん。……青子、ありがとう。ボクたちの子を、あんなに立派に産んで、育ててくれて」
アストルフォは、青子の腰を強く抱き寄せ、その髪に深くキスを落とした。
息子への心配が完全に消え去り、そこにあるのは、共に親としての役目を一つ終えた妻への、果てしない感謝と情欲だった。
「ひゃうっ……! あ、アストルフォ……みんな、見てるのに……っ」
青子の顔が、瞬時に真っ赤に染まる。
「いーの! だってボク、すっごく幸せなんだもん! 青子、お部屋に行こ! 朝までいっぱいいっぱい、愛し合お!」
「ちょ、待っ……んんッ!!」
アストルフォは、抵抗する青子を軽々と抱き上げ、そのまま寝室へと向かって歩き出した。
その背中を見送るイリヤや美遊、そして凛や桜たちの顔には、呆れと、隠しきれない極上の幸福感が浮かんでいた。