fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
夜の帳が下りたミレニア城塞。かつては魔術師たちの野心と陰謀が渦巻いていたこの城も、今は静寂という名の平穏に包まれている。
フィオレの私室。月明かりだけが差し込む薄暗い部屋の中で、彼女は天蓋付きのベッドの縁に腰掛けていた。
入浴を終え、薄手のシルクのネグリジェを身に纏ったフィオレは、自らの動かない両脚を見つめていた。魔術回路を失い、ただの肉の塊となった脚。魔術師としての誇りも、ユグドミルレニアの当主としての重責も手放した今の自分には、何が残っているのだろうか。
「……空っぽ、ね」
ぽつりと零れ落ちた呟きは、夜の静寂に吸い込まれて消えた。
昼間、温室でアストルフォに与えられた熱情の記憶が蘇る。彼の真っ直ぐな瞳、甘い吐息、触れられた肌から伝わる火傷しそうなほどの熱。それは確かに彼女の空虚を埋めてくれたが、同時に、一人の「女」としての強烈な焦燥感をも連れてきた。
私のような、脚も動かない、魔術の才も失った不完全な娘が、あんなにも眩しく美しい英霊の隣にいていいのだろうか。
「――フィオレ、起きてる?」
ノックの音とともに、扉の向こうから聞き慣れた軽やかな声が響いた。返事をする間もなく、ガチャリと扉が開く。
そこには、昼間の鎧姿から一転し、ゆったりとした白いシャツに身を包んだアストルフォが立っていた。少しだけ開いた胸元からは、中性的で華奢に見えながらもしなやかな筋肉のラインが覗いている。
「アストルフォ……どうしたの、こんな夜更けに」
「キミが呼んでる気がしたからさ。……ほら、やっぱり。すごく寂しそうな顔してる」
アストルフォは迷いなく部屋に足を踏み入れると、ベッドの縁に座るフィオレの前にふわりと膝をついた。月明かりに照らされた彼の紫水晶の瞳が、フィオレの心の奥底を見透かすように揺らめく。
「寂しくなんて、ないわ。ただ……少し、考えていただけ」
「キミの悪い癖だね。一人で難しく考えて、自分で自分をちっぽけにしちゃうところ」
アストルフォの大きな手が、フィオレの細い足首をそっと包み込んだ。
ビクッ、とフィオレの肩が跳ねる。感覚の薄い脚のはずなのに、彼の手のひらの熱だけは、まるで直接神経に触れられているかのように鮮明に伝わってくるのだ。
「や、やめて……見ないで」
フィオレは咄嗟にネグリジェの裾を引っ張り、脚を隠そうとした。
「魔術回路も通っていない、動かない脚よ。醜いわ……あなたのような綺麗な人が、触れていいものじゃない……っ」
それは、彼女が心の底に押し隠していた、最も脆い部分からの悲鳴だった。
しかし、アストルフォはその手をどけるどころか、さらに強い力でフィオレの脚を抱き寄せた。
「醜いわけないじゃないか。これは、キミが今まで一生懸命生きてきた証だよ。……ボクはね、魔術師としての『フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア』じゃなくて、一人の女の子としての『フィオレ』に触れたいんだ」
そう囁くと、アストルフォはフィオレの足の甲に、恭しく、そしてひどく熱っぽい口付けを落とした。
チュッ、という小さな音が夜の部屋に響く。
「あっ……!」
足の甲から足首、そしてふくらはぎへ。
アストルフォの唇が、柔らかな肌を這うように上っていく。シルクのネグリジェの裾がゆっくりと捲り上げられ、白磁のように滑らかな太ももがあらわになる。
「アストルフォ……あ、んっ……だめ、そんなところ……っ」
「だめじゃない。キミの全部、ボクが愛してあげるって言ったでしょ?」
膝の裏側、そしてさらに奥深くの柔らかい内腿へ。
アストルフォの唇が触れるたび、フィオレの身体の奥底から、これまで感じたことのないような甘い痺れが這い上がってくる。動かないはずの脚が、彼の愛撫に呼応するように微かに震えを帯び始めた。
「んんっ……ふぁ……あ……っ」
限界まで捲り上げられたネグリジェの奥、素肌の熱が最も高まっている場所のすぐ近くに、アストルフォの吐息がかかる。
フィオレはたまらず両手で顔を覆い、甘い喘ぎ声を漏らした。彼が与える圧倒的な快感と、全身を肯定されるような深い愛情の前に、彼女が築き上げていた理性の壁は完全に崩れ去っていた。
「フィオレ、顔を見せて?」
アストルフォはゆっくりと立ち上がると、ベッドの上に身体を乗り出し、フィオレを押し倒すように覆い被さった。
背中がふかふかのマットレスに沈み込む。至近距離で見つめ合う二人の視線が、熱を帯びて激しく絡み合う。
「キミの全部、ボクに預けて。……もう、一人で不安になんてさせないから」
甘く、ひどくオス味を帯びた低い声。
アストルフォの唇が、フィオレの震える唇を深く塞いだ。
昼間のキスよりもさらに濃厚で、貪欲な口付け。彼の舌がフィオレの口腔内をくまなく舐め回し、甘い唾液を絡め取る。息を継ぐ暇も与えられず、フィオレの頭の中は真っ白に染まっていく。
「んちゅ……あっ、んんっ……ふぁ……アストル、フォ……っ」
唇が離れた瞬間、銀の糸が艶かしく引かれた。
アストルフォの手が、ネグリジェの薄い生地越しにフィオレの身体を撫で回す。華奢な肩から、豊かなふくらみを持つ胸元へ。彼の手のひらが形を確かめるようにそこを包み込むと、フィオレは弓なりに背中を反らせて甘い声を上げた。
「ああっ……! そ、こは……だめ、んあっ……!」
「すごく柔らかい……フィオレ、キミの心音、すごくドキドキしてるよ。ボクと同じだね」
アストルフォの指先が、布越しに敏感な頂を弾く。
そのたびに、フィオレの口からは嬌声が止めどなく溢れ出した。魔術師としての抑制などとうに消え失せ、ただ一人の女として、彼が与える快楽の波に呑み込まれていく。
「アストルフォ……好き、好きよ……私を、あなたのものに、して……っ」
涙ぐんだ琥珀色の瞳で懇願するフィオレ。
その艶やかな表情を見たアストルフォの瞳に、決定的な情熱の火が灯る。
「……うん。いっぱいいっぱい、愛してあげる」
アストルフォの手が、ネグリジェの肩紐をゆっくりと滑り落とす。
月明かりに照らされたフィオレの素肌に、彼は再び深く、熱烈なキスを落としていった。
静寂に包まれたミレニア城塞の一室で、二人の重なり合う吐息と甘い水音だけが、夜明けまで絶え間なく響き続けていた――。