fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドンの中心部にそびえ立つ、エーデルフェルト本邸。
その地下深く、本来ならば一族の秘匿すべき儀式にのみ使われる大魔術工房は、この数日間で様相を完全に変えていた。
床一面に描かれたのは、蒼崎青子の持つ規格外の魔術理論と、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの莫大な資金力、そして時計塔から引きずり出した空間転移のパテントを融合させた、前代未聞の『長距離固定転移陣(ゲート)』である。
「……出力安定。魔力炉心、エーデルフェルトの霊脈から正常に供給中。蒼崎先生、術式の固定化、完了いたしましたわ」
「上出来よ、お嬢様。これだけの規模の空間跳躍を恒久的に維持するなんて、時計塔の連中が見たら泡を吹いて倒れるでしょうね」
額に微かな汗を浮かべたルヴィアと、余裕の笑みを浮かべる青子。
その二人の背後で、アストルフォは今か今かと待ちきれない様子で、尻尾を振る大型犬のようにソワソワと足踏みをしていた。
「開く!? もう開く!? ボク、早く二人に会いたい!」
「ええ、もう繋がっているわ。……さあ、行ってらっしゃい、私たちのとんでもない騎士様」
青子が指を鳴らすと同時に、魔法陣から青白い光の柱が立ち上り、空間がグニャリと歪んで二つの『扉』が形成された。
一つは、ルーマニア・トゥリファスのミレニア城塞へ。
もう一つは、フランス東部・田園地帯の全寮制学校へ。
「やったーー!! 行ってくるね!」
アストルフォは一切の躊躇なく、まずはルーマニアへと繋がる光の扉へと飛び込んでいった。
***
ルーマニア、ミレニア城塞の温室。
車椅子に座り、膝掛けをして静かに本を読んでいたフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは、突如として空間が割れ、見慣れた桜色のつむじ風が飛び出してきたことに、大きく目を見開いた。
「フィオレーー!! 迎えに来たよ!!」
「ア、アストルフォ……!? え、嘘、どうして空間が……っ、きゃあっ!」
驚くフィオレの車椅子の前に着地するなり、アストルフォは彼女の細い身体を力強く抱きしめ、そのまま本が落ちるのも構わず、彼女の唇に熱烈なキスを落とした。
「んんっ……!? ぁ……っ、んちゅ……っ」
久しぶりに触れる、火傷しそうなほどの彼の熱と、甘い吐息。
魔術師としての警戒も何もなく、フィオレの身体は一瞬で彼から与えられる快楽の記憶を呼び覚まし、ドロドロに溶かされていく。
「はぁっ、んっ……アストルフォ……っ、息が……」
「ごめん、待ちきれなくて! ボク、フィオレにずっと会いたかったんだ! さあ、一緒に行こう! キミに紹介したい、ボクの大切な女の子たちがいっぱいいるんだ!」
「……え?」
フィオレが事態を呑み込む間もなく、アストルフォは彼女を車椅子ごと抱え上げ、再び光の扉へと飛び込んだ。
***
フランス東部、のどかな田園地帯にひっそりと建つ全寮制学校。
茜色に染まる夕暮れ時、自室でその日の課題を終えたレティシアは、羽ペンを置き、ふうと小さく甘い息を吐いた。
制服のブラウスの胸元を、無意識に手で押さえる。
あの日、窓から突然飛び込んできた彼に、朝が来るまで全身をめちゃくちゃに甘やかされ、愛し抜かれた記憶。彼が旅立ってからまだ数日しか経っていないというのに、彼女の身体は、すでに彼がもたらす『火傷しそうなほどの熱』を渇望して、子宮の奥底からジンジンと疼き続けていた。
「アストルフォ……もう、あなたの熱がないと、私……」
その名前を、熱を帯びた声で唇に乗せた、まさにその瞬間だった。
彼女の背後の空間が、音もなく、陽炎のように揺らいだ。
「レ・ティ・シ・ア!」
「ひゃあっ!?」
背後から目隠しをするように、しかし、決して逃がさないオスの力強さで、がっしりと腰を抱きすくめられた。
悲鳴を上げかけたレティシアだったが、耳元で囁かれたその甘い声と、彼女をすっぽりと包み込むむせ返るような薔薇の香りに、身体の強張りは瞬時に、そしてドロドロに解け落ちた。
「ア、アストルフォ……っ!? 嘘、だって、また旅に出たばかりじゃ……っ」
「えへへ、我慢できなくなっちゃった! キミのこと、絶対に寂しくさせないって約束したでしょ?」
彼のがっしりとした胸板が、レティシアの華奢な背中にぴったりと押し当てられる。制服越しに伝わってくる、彼特有の異常なまでの『陽の体温』。
たったそれだけの接触で、レティシアの膝から完全に力が抜け、彼女は彼の腕の中に崩れ落ちるように体重を預けてしまった。
「あぁっ……アストルフォ、の匂い……っ、あつい……っ」
「ほら、キミも一緒に来て! すっごく楽しいお茶会(家族の集まり)が始まるから!」
「お、お茶会……? わっ、ちょっと待ってくださ……私の、荷物……きゃああっ!」
アストルフォは、完全に腰が砕けてしまったレティシアの太ももの裏にサッと腕を回すと、軽々とお姫様抱っこで抱き上げた。
そして、彼女の抗議(という名の甘い喘ぎ)を極上の笑顔で封じ込めると、背後に開かれた『エーデルフェルト別邸へと繋がる光の扉』へと、一切の躊躇なく足を踏み入れた。
田舎の学生寮の静かな部屋には、つい先ほどまでそこにあったはずの、少女の甘い吐息の余韻だけが微かに残されていた――。