fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドン、エーデルフェルト邸の豪奢な大広間。
空間転移の眩暈から回復したフィオレとレティシアが目を開けると、そこには、彼女たちの想像を絶する光景が広がっていた。
「……ここ、は……?」
「す、すごいお屋敷……王様のお城みたい……」
車椅子の上で呆然とするフィオレと、学校の制服姿で萎縮するレティシア。
彼女たちの前に立っていたのは、極上のシルクのドレスを身に纏ったルヴィアゼリッタ、桜、そして黒いシャツ姿で圧倒的な存在感を放つ蒼崎青子だった。
「……ようこそ、わたくしたちの仮宿へ。ルーマニアのユグドミレニア元当主殿、そして、フランスの聖女の元依り代殿」
ルヴィアが一歩前に出て、完璧なカーテシー(淑女の礼)を見せた。
その圧倒的な美しさと魔力による威圧感に、フィオレはゴクリと息を呑み、レティシアは小さく身を縮こまらせた。
「あの、あなたは……? アストルフォ、これはいったい……」
「えへへ! 紹介するね! こっちはルヴィア、桜、それに青子! ボクがロンドンで見つけた、すっごく可愛くて大切なお姫様たちだよ!」
一切の悪びれもなく、アストルフォは満面の笑みで言い放った。
その瞬間、フィオレとレティシアの顔が、文字通り蒼白になった。
「た、大切なお姫様……って……あなた、私というものがありながら……っ!」(フィオレ)
「アストルフォ様……ロンドンで、こんなにお綺麗な方々と……そんな……」(レティシア)
二人の瞳に、明確な絶望と激しい嫉妬の炎が宿る。
自分たちは、彼にとってただの通過点だったのか。その残酷な事実に打ちのめされそうになった時、青子が呆れたようにため息をつき、桜が優しく微笑みながら二人の元へ歩み寄ってきた。
「勘違いしないで。私たちは、あんたたちから彼を奪い取ったわけじゃないわ」
青子がタバコに火をつける仕草をしながら、ふっと笑う。
「奪い取ったのではないなら、何なのですか……! 空間転移まで使って私を呼び出しておいて、新しい恋人の見せびらかしですか!?」
フィオレが涙声で叫ぶ。
その震えるフィオレの手に、桜がそっと自分の手を重ねた。
「違います、フィオレさん。……私たちも、彼に救われて、彼の熱から逃れられなくなってしまった……ただの共犯者です」
「……え?」
「彼は、誰か一人を選ぶなんて絶対にしない。それを無理に縛り付ければ、彼は死んでしまう。……だから、お義姉様(ルヴィア)と蒼崎先生が、こうして道を作ったんです。彼がいつでも、私たち『全員』を愛せるように」
桜の静かで、けれど確かな狂気を孕んだ熱っぽい言葉に、フィオレとレティシアは息を呑んだ。
これほどまでに美しく、魔術世界で頂点に立つような女性たちが、一人の英霊の愛を「共有」することを完全に受け入れ、あまつさえそのためのインフラまで構築したというのか。
「さあ、ご挨拶はここまでにして。……サクラ、皆様を奥の特別室へ。アストルフォ、あなたもですわ」
ルヴィアが扇子をパチンと閉じ、極上に甘く、艶やかな笑みを浮かべた。
「これより、わたくしたちエーデルフェルトの総力を挙げた『夜会』を始めますわ。……あなたたちも、彼を愛しているのなら、遠慮は無用ですわよ?」
***
エーデルフェルト邸の最奥に設えられた、広大で豪奢な特別室。
床には最高級のペルシャ絨毯が敷き詰められ、部屋の中央には、五、六人が横になってもまだ余りあるほどの巨大な特注のベッド(天蓋付き)が鎮座していた。
部屋に満ちているのは、濃厚な薔薇の香油の匂いと、暖炉の暖かな熱気。
そして何より、五人の極上の美女たちと、一人の騎士が織りなす、じっとりと絡みつくような『情欲』の空気だった。
「んんっ……ふぁ……ぁ……アストル、フォ……っ」
ベッドの中央。
アストルフォの膝の上に跨るように座らされているのは、レティシアだった。
質素な村娘のワンピースはすでに肩まで乱れ、彼女の白く健康的な背中を、アストルフォのがっしりとした両腕が抱きしめている。
「レティシア、ずっと会いたかったよ。キミの匂い、すごく落ち着く……」
アストルフォの唇が、レティシアのうなじから耳たぶへと這い、ちゅっ、と淫らな水音を立てて甘噛みする。
「ひゃああっ! あ、あぁっ……だめ、皆さんが、見ているのに……っ!」
顔を真っ赤にして涙目で周囲を見渡すレティシア。
彼女のすぐ隣には、シルクのネグリジェ姿の青子が横たわり、片手で頬杖をつきながら、とろんと熱を帯びた瞳で二人の絡み合いを見つめていた。
「いいのよ、レティシア。私たち、もうみんな『家族』みたいなものなんだから。……ほら、もっと声、出していいのよ」
青子の手が伸び、レティシアの震える太ももを優しく、煽るように撫で上げる。
「ひぃっ……! あ、蒼崎先生まで……っ、あぁっ……!」
「ずるいわよ、青子。わたくしも……」
背後からは、ルヴィアがアストルフォの広い背中にぴたりと張り付き、彼の桜色の髪に顔を埋めてその匂いを深く吸い込んでいた。
「ルヴィア、くすぐったいよ。でも、ルヴィアのお胸、すごく柔らかくて気持ちいい」
「んっ……馬鹿、そんなこと、皆の前で……っ、でも……もっと、わたくしのことも……っ」
ルヴィアの腕がアストルフォの胸板に回され、彼女の豊かな双眸が彼の背中の筋肉に押し付けられる。
その狂おしいほどの熱狂の中心で、フィオレは車椅子からベッドの端へと移され、自分の動かない両脚を見つめながら、微かに身を震わせていた。
こんな美しい人たちの中に、脚も動かない不完全な自分が混ざっていいのだろうか。再び顔を出しそうになったその劣等感を、アストルフォは見逃さなかった。
彼はレティシアの腰を優しく下ろすと、ベッドの上を這うようにしてフィオレの元へ近づいた。
「……アストルフォ?」
「フィオレ。一人でそんな悲しい顔しないで。キミは、ボクがルーマニアで見つけた、一番最初のお姫様なんだから」
アストルフォはフィオレの前に片膝をつき、彼女の感覚のない白く細い脚を、両手で大切に包み込んだ。
「あ……」
「冷たくなってる。……ボクが、いっぱいいっぱい温めてあげる」
アストルフォの唇が、フィオレの足の甲から、足首、そしてふくらはぎへと、恭しく、ひどく熱っぽいキスを落としていく。
魔術回路が通っていないはずの脚。しかし、彼の唇が触れるたびに、そこから強烈な電流のような快感が、フィオレの身体の奥底へと直接流れ込んでくる。
「ああっ……! そ、こは……だめ、んんっ……!」
「すごく綺麗だよ、フィオレ。キミの全部が、愛おしい」
アストルフォの顔が上がり、フィオレの唇を深く、貪欲に塞ぐ。
「んちゅ……あっ、はぁっ……あ……っ」
息も絶え絶えになるフィオレの身体を、今度は背後から、桜が優しく抱きしめた。
「フィオレさん。冷たいのは、脚だけですか……? 私も、一緒に温めてあげますね」
桜の滑らかな手が、フィオレの薄手の衣服の隙間から滑り込み、彼女の火照った素肌を優しく撫で回す。
「ひゃっ……! さ、桜さん……!? あ、あぁっ……!」
前からはアストルフォの限界まで熱を帯びた舌が口腔を蹂躙し、後ろからは桜の優しい愛撫がフィオレの理性を容赦なく剥ぎ取っていく。
五人の女たち。
魔術世界の頂点に立つ者、神の依り代だった者、名門の重圧を背負う者。
本来なら決して交わることのなかった彼女たちの運命は、一人の自由で規格外な英霊の『底なしの愛』によって完全に結びつき、ドロドロの甘い熱の渦へと溶け合っていた。
「みんな……大好きだよ。ボクの全部、みんなにあげるから……っ!」
アストルフォの情欲に満ちた低い声が部屋に響く。
もはや誰が誰に嫉妬するでもない。ただ、彼から与えられる圧倒的な快楽と、互いの肌から伝わる女同士の体温の共鳴に、全員の理性が完全に焼き切れた。
「アストルフォ……! アストルフォ……っ!!」
誰かの嬌声が上がれば、別の誰かの甘い吐息が重なる。
ベッドの上で幾重にも絡み合う白い肢体と、その中心で無限の熱を放ち続ける桜色の騎士。
ロンドンの夜の帳の下、エーデルフェルトの最も安全な結界の中で、言葉では到底言い表せないほどの、狂おしくも純粋な愛と快楽の宴が、朝の光が差し込むまで途切れることなく続いていったのだった――。