fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ!」
ロンドンの郊外に建つエーデルフェルト別邸。その広大なメインリビングの中央に鎮座するふかふかの巨大なソファで、時計塔の若き次期当主(姫君)、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテは、自らアストルフォの首に腕を回し、その熱い唇を貪るように塞いでいた。
互いの舌が絡み合い、甘い唾液が交換される卑猥な水音が響く。
アストルフォから放たれる圧倒的なオスのフェロモンと、火傷しそうなほどの体温が、ライネスの冷徹な計算式をドロドロに溶かしていく。
しかし。
彼のがっしりとした手が、彼女の背中のホックに触れ、最後の防壁である純白のランジェリーを外そうとした、その瞬間だった。
(……っ! ば、馬鹿な……私が、こんな……皆の、見ている前で……っ!)
ライネスの脳裏に、自らが背負う「エルメロイ」の重圧と、次期当主としての最後の矜持が、強烈な閃光のようにフラッシュバックした。
ここで彼に完全に身を剥がされれば、自分はもう二度と、あの陰湿な時計塔で他者を見下ろして笑うサディストには戻れなくなる。ただの、一人の男の熱に狂わされた雌に成り下がってしまう。
「ま……待っ、待ってくれたまえ……っ!!」
ライネスは、自らの唇を重ねていたアストルフォの胸を、ありったけの力を込めて押し返した。
「おっと」
アストルフォは彼女の抵抗に逆らわず、少しだけ上体を起こした。
「はぁっ……はぁっ……! だ、だめだ……っ。私、は……っ」
ライネスは乱れた純白の下着姿のまま、ソファの端へと身をすくませ、両腕で自らの胸元を必死に隠した。
彼女の青い瞳には、涙が浮かび、全身が小刻みに震えている。
「これ以上は……っ、だめだ。……頼む、私を……これ以上、惨めにしないでくれたまえ……っ」
それは、命令ではなかった。
時計塔の誰も聞いたことのない、若き姫君の、ひどく弱々しく、切実な哀願だった。
「皆が、見ている……っ。蒼崎青子も、エーデルフェルトの当主も……。私が、こんな無様な姿を晒していると知れたら……兄上の、顔に泥を塗ることに……っ」
ライネスの瞳から、ついに大粒の涙がポロリとこぼれ落ちた。
他者を盤上の駒として扱い、余裕の笑みを浮かべていた彼女の、本当の素顔。
たった十代の少女が、崩壊寸前の名門を立て直すために、どれほどの孤独と恐怖を押し殺して「次期当主」の仮面を被り続けてきたか。その脆すぎる本音が、アストルフォの熱の前に、ついに決壊したのだ。
その虚しくも哀しい最後の抵抗を見て、周囲で見守っていたヒロインたちの表情から、からかうような色がスッと消えた。
「……本当に、意地っ張りな子。まるで、少し前の自分を見ているみたいですわ」
ルヴィアが、扇子を静かに閉じ、慈愛に満ちた瞳でライネスを見つめる。
「ええ。背負うものが大きすぎると、自分が『女の子』だってことすら忘れちゃうのよね」
青子もまた、ワイングラスをテーブルに置き、優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、ライネスさん。……私たちは、誰もあなたのことを笑ったりしません」
桜が、柔らかな声で語りかける。
「ええ。アストルフォ様の前で鎧を脱ぐことは、決して惨めなことなんかじゃありませんから」
レティシアが、深く頷く。
「……っ、お前たち……」
ライネスは、彼女たちからの思いがけない温かい言葉に、言葉を詰まらせた。
そこには、時計塔のような陰湿な嘲笑や、弱みを握ろうとする打算は一切なかった。ただ、同じように重圧に苦しみ、そして彼に救われた者同士の、絶対的な共感と肯定だけがあったのだ。
「ライネス」
アストルフォが、再びゆっくりとライネスに近づいた。
彼は無理に彼女を押し倒すことはせず、彼女の目の前で片膝をつき、震える両手を優しく、ひどく大切に包み込んだ。
「あ……アストル、フォ……」
「誰もキミのこと、惨めだなんて思わないよ。キミが兄さんを大切に思ってるのも、エルメロイを守ろうと必死に頑張ってきたのも、全部知ってる。……キミは、すごく強くて、綺麗だ」
アストルフォの紫水晶の瞳が、ライネスの涙に濡れた青い瞳を真っ直ぐに射抜く。
「でもね。もう、一人で震えなくていいんだよ」
アストルフォは、ライネスの手を引いて、再び自分の方へと抱き寄せた。
今度は、ライネスは抵抗しなかった。
彼の分厚い胸板に頬を押し付けられると、そこから伝わってくる圧倒的な熱と、規則正しい心音が、彼女の恐怖をドロドロに溶かしていく。
「誰の目も気にしたくないなら……ボクが、キミの視界を全部、ボクだけで隠してあげる」
アストルフォが、ライネスの小柄な身体をすっぽりと覆い隠すように、ソファの上で彼女に覆い被さった。
シャンデリアの光が遮られ、ライネスの視界は、彼の桜色の髪と、熱を帯びた瞳だけで完全に埋め尽くされる。
「アストルフォ……っ、あ……っ」
「ボクのことだけ見て。ボクの熱だけ感じて。……キミの全部、ボクがいっぱいに満たしてあげるから」
カチャリ、と。
今度こそ、ライネスの純白のランジェリーのホックが外された。
冷たい空気に一瞬だけ晒された彼女の滑らかな素肌は、直後に、アストルフォの火傷しそうなほどの熱い手のひらによって、優しく、しかし容赦なく撫で上げられた。
「ひゃああっ!! ぁ、あ……熱い……っ!!」
ライネスの口から、もはや抑えきれない、高らかな嬌声が弾けた。
アストルフォの長い指先が、彼女の華奢な背中から、脇腹を滑り、露わになった柔らかな胸元へと這い上がる。
「ライネス……すごく柔らかい。雪みたいに真っ白な肌……すっごく、可愛いよ」
「あぁぁっ……! だめ、そんなに……っ、触られ、たら……っ! 私……っ、おかしく、なってしまう……っ!」
「おかしくなっちゃえ。ボクが、ライネスを世界で一番幸せなお姫様にしてあげる」
アストルフォの顔が沈み込み、彼女の敏感な頂を、滑らかな舌で優しく舐め上げ、そしてちゅっ、と強く吸い上げた。
「んひぃぃッ!! ぁああっ!! アストルフォッ……!!」
脳髄を直接揺さぶられるような、強烈な快感の電流。
ライネスの背中が弓なりに反り返り、彼女はたまらずアストルフォの桜色の髪を両手で掻き毟るように強く抱きしめた。
次期当主としての計算も、兄への体裁も、すべてが真っ白に吹き飛んだ。ただ、目の前の彼が与えてくれる極上の快楽だけが、彼女の世界のすべてになった。
「あ、はぁっ……! もっと……っ、もっと、私を……っ、貴方の熱で……ぐちゃぐちゃに、して……っ!」
涙と快感でぐちゃぐちゃになった顔で、ライネスはついに本能のままに彼を求めた。
完璧なエルメロイの姫君の仮面は完全に砕け散り、そこにはただ、騎士の底なしの愛に溺れ、熱を乞う一人の『メス』としての少女がいた。
アストルフォは極上の笑顔を浮かべ、「うん! いっぱいいっぱい、愛してあげる!」と応えると、彼女の滑らかな太ももを撫で上げ、最も熱を帯びた秘所のすぐ近くへと指を滑り込ませた。
「ひぃっ……! あ、あぁぁっ……! そ、こ……っ!」
「ライネス、こんなに熱くなって……ボクのこと、すごく待ってたんだね。可愛いよ、ボクのライネス……っ」
時計塔の若き支配者の、完全なる陥落。
エーデルフェルト別邸のリビングに、彼女の泣き叫ぶような、甘く淫らな嬌声が、夜が明けるまでどこまでも高く響き渡り続けていた――。