fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドンの分厚い雲をすり抜け、夜の帳が静かに霧の都を包み込み始めていた。
エルメロイ派の姫君の腹芸と、エーデルフェルトの莫大な資金力、そして蒼崎青子の規格外の魔術。それらが複雑に絡み合い、時計塔の保守派を完全に沈黙させたことで、アストルフォ一行の拠点であるエーデルフェルト別邸は、より強固で自由な「愛の魔城」へとその機能を拡張させていた。
「……素晴らしいですわ。やはり、わたくしたちの愛の巣は、これくらい広大で堅牢でなくては」
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは、ガウン一枚の姿で、大理石が敷き詰められた広大な空間を見渡し、満足げに微笑んだ。
そこは、別邸の地下に新たに構築・拡張された、古代ローマの浴場(テルマエ)を思わせる途方もなく巨大な大浴場だった。湯船には最高級の薔薇の花びらが惜しげもなく浮かべられ、魔力によって常に最適な温度と、むせ返るような甘い香油の匂いが満ちている。
「お義姉様、本当にすごいです。……これなら、これから家族が何人増えても全然窮屈じゃありませんね」
桜が、ほのかに上気した頬を押さえながら、お湯の張られた巨大な浴槽の縁に腰掛けていた。彼女の滑らかな白い肌を、湯気が妖艶に撫でていく。
「それにしても、見事なものね。時計塔の監視網をライネスに塞がせたのをいいことに、地下にこんな大掛かりな『ハーレム専用の大浴場』をでっち上げるなんて」
蒼崎青子が、豊かな胸の谷間を隠すこともせず、お湯に肩まで浸かりながらふうっと息を吐いた。
彼女の隣では、フィオレが車椅子から降り、お湯の浮力に身を任せて、自分の細い脚を優しくさすっている。その後ろから、レティシアがフィオレの長い髪を丁寧に梳かしていた。
「ふふっ。でも、すべては次期当主(ライネス)様のおかげね。彼女が現代魔術科の権力で蓋をしてくれなかったら、今でも暗殺者の相手をしていたかもしれないわ」
青子の言葉に呼応するように、大浴場の入り口の空間が微かに歪み、銀色の転移陣が光を放った。
現れたのは、時計塔の執務室から直行してきたライネス・エルメロイ・アーチゾルテだった。
彼女は纏っていた豪奢な次期当主のドレスを歩きながら次々と脱ぎ捨て、一切の躊躇なく、水銀のメイド(トリムマウ)にそれを受け取らせる。
「兄上に、山のような書類と報告書を押し付けてきたところだよ。……ああ、本当に時計塔の空気は息が詰まる。早く、君たちのその甘い毒沼に浸かりたくて、魔術回路が焼き切れそうだった」
全裸となったライネスは、小柄ながらも均整のとれた、雪のように白い肢体を隠すこともせず、妖艶な笑みを浮かべて湯船へと足を踏み入れた。
「ようこそ、ライネスさん。……今日はお疲れ様でした」
桜が優しく微笑みかけ、ライネスも「ああ、ただいま。サクラ」と、姫君の仮面を完全に下ろした、年相応の愛らしい顔で応える。
かつては殺し合い、騙し合い、権力闘争の中で生きてきた魔術世界の女たち。
それが今や、一切の嫉妬も敵意もなく、ただ一つの「熱」を共有する家族として、同じ湯船で肌を寄せ合っている。それは、魔術の歴史において奇跡としか言いようのない光景だった。
しかし、その奇跡の中心たる存在が、まだここにいない。
「……あいつ、遅いわね。脱衣所で何を手間取ってるのかしら」
青子が首を傾げた、その時だった。
「バゼット、そんなに引っ張らないでよ! ボク、自分で歩けるから!」
「だ、だめですっ! 貴方は、その……無防備すぎます! 皆さんが待っているのですから、せめてタオルを……っ!」
大浴場の入り口から、顔を茹でダコのように真っ赤にしたバゼットが、アストルフォの手を引いて現れた。
バゼットはなぜか湯着(バスタオル)を身体にぐるぐると巻きつけ、必死にアストルフォの下半身を別のタオルで隠そうと格闘している。
対するアストルフォは、完全に生まれたままの姿で、全く悪びれる様子もなくニコニコと笑っていた。
「わぁっ! すっごい大きなお風呂! ルヴィア、これキミが作ったの!? すっごいね!!」
アストルフォはバゼットの制止を振り切り、タオルの拘束から抜け出すと、そのままザバーンッ!と豪快に湯船へと飛び込んだ。
「ひゃあっ!?」
「ちょっと、アストルフォ! お湯が跳ねるじゃない!」
水飛沫が上がり、女性陣が嬌声を上げる。
「あはは! ごめんごめん! でも、すっごく気持ちいい!」
桜色の髪を濡らし、紫水晶の瞳をキラキラと輝かせる騎士。
彼が湯に浸かった瞬間、ただでさえ温かかった大浴場のお湯が、彼から発せられる途方もない『熱量』によって、一気に濃厚なまでに甘い温度へと跳ね上がった。
ただの物理的な熱ではない。彼の存在そのものから滲み出す、女の理性を直接溶かすような、濃厚なオスのフェロモン。
「……っ」
湯船に浸かっていた五人の美女たちの呼吸が、一瞬にして浅く、熱を帯びたものに変わる。
「ほら、バゼットも早くおいでよ! 一緒に入ろ!」
アストルフォが、湯船の縁で立ち尽くすバゼットに向かって手を伸ばした。
「わ、私は……っ。ここで、皆さんの背中を流す係を……っ」
「そんな係、ないよ! ボクがバゼットの背中、洗ってあげるから!」
「ひゃっ!?」
アストルフォの腕が伸び、バゼットの巻いていたバスタオルの端を引いた。
ハラリ、と。
鍛え上げられた長身と、それに不釣り合いなほど豊かな胸の膨らみが露わになり、バゼットは「あぁっ!」と情けない声を上げて、そのままお湯の中へと引きずり込まれた。
ザバーン!
「んぶっ……げほっ、アストル、フォ……っ!」
お湯から顔を出したバゼットの身体を、アストルフォが正面からしっかりと抱きしめる。
「ふふっ、捕まえた。……バゼット、すっごく身体熱くなってる。お風呂に入る前から、ボクのこと考えてたでしょ?」
「ち、違い……ます……っ。私は、ただ……っ」
「嘘だ。キミのここ、ボクの胸に当たって、すっごくドキドキしてる」
アストルフォの素肌と、バゼットの素肌が、お湯の中でぴったりと密着する。
彼の滑らかな脚が、バゼットの太ももの間にスリリと入り込み、最も敏感な部分を微かに擦り上げた。
「んんひぃッ!! ぁ、あ……っ!」
お湯の温かさと、彼の常軌を逸した体温。そして直接的な摩擦に、バゼットの口から、執行者の面影など微塵もない、ひどく甘ったるい嬌声が弾けた。
「……ちょっと。あんた、バゼットばかり贔屓するのは感心しないわね」
背後から、しなやかな腕がアストルフォの首に絡みついた。
青子が、彼の背中に自らの豊かな双眸を押し付け、耳元で妖艶に囁く。
「私にも、あんたのそのデタラメな愛……ちゃんと分けてもらうわよ?」
「蒼崎先生だけずるいですわ。……アストルフォ。わたくしにも、もっとあなたの愛を……っ」
ルヴィアも横から近づき、お湯の中でアストルフォの右腕を自らの胸元へと引き寄せた。
「あ、ルヴィアのお胸、お湯の中だとさらにフワフワだ……!」
「んっ……馬鹿、そんな、直接……揉まないで……っ」
ルヴィアが顔を赤くして身をよじるが、彼の手を振り払うことはせず、むしろ自らその愛撫を深めるように身体を預けていく。
「アストルフォ……私、足の先まで、あなたの愛が欲しいの……」
フィオレが、レティシアに支えられながら、お湯の中を這うようにしてアストルフォの元へ近づく。
「フィオレ! うん、脚、冷えないようにボクがいっぱいいっぱい温めてあげる!」
アストルフォはバゼットを抱きしめたまま、空いた左手でフィオレの白い脚を優しく、けれど執拗に撫で上げた。
「あぁっ……! アストルフォ……そこ、は……っ」
魔力回路が通っていないはずの脚から、彼の手を通じて、強烈な快感の電流がフィオレの子宮へと直接流れ込んでいく。
「私も……アストルフォさん……私も、触ってください……っ」
「アストルフォ様……私のことも、いっぱいにしてください……っ」
桜とレティシアもたまらず、彼の背中や腰にしがみつき、その熱い肌にすり寄るように自らの身体を押し付けた。
そして、最後に残ったライネスは、少し離れた場所から、顔を真っ赤にしてその光景――一人の桜色の騎士を中心にして、絶世の美女たちが理性を手放し、ドロドロに溶け合っている狂宴――を見つめていた。
「(……信じられない。時計塔の常識からすれば、完全に気が狂っているとしか思えない光景だ。だが……)」
ライネスの身体の奥底、子宮の最も深い部分が、彼の匂いと熱気を感知して、狂おしいほどに疼いている。
「ライネス!」
アストルフォが、美女美少女たちに絡みつかれながらも、ライネスに向かって極上の笑顔を向けた。
「あんなところで一人ぼっちでいないで、こっちにおいでよ! 今日はキミが、時計塔で一番頑張ったんだから。……ボクが、一番いっぱいいっぱい、ご褒美あげるから!」
「……っ」
その言葉は、次期当主としての彼女の最後の理性の糸を、音を立てて断ち切った。
「……ああ、そうだね。私は今日、誰よりも働いた。……だから、君の全部を独占する権利があるはずだ」
ライネスはお湯を蹴立ててアストルフォの元へ歩み寄り、彼に群がるヒロインたちの隙間を縫って、彼の正面――バゼットのすぐ隣の特等席へと入り込んだ。
「さあ、私に『ご褒美』をくれたまえ、アストルフォ。……私の身体の奥が、君の熱を欲して、おかしくなりそうなんだ……っ」
ライネスが自らアストルフォの首に腕を回し、その熱い唇を貪るように塞いだ。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ」
それを合図にするかのように、大浴場は狂おしいほどの愛と快楽の場へと変貌した。
お湯が激しく跳ねる音。
七人の女たちが、彼の一挙手一投足に身をよじらせ、甘い喘ぎ声を上げる。
「あ、あぁっ! だめ、アストルフォ、そんなに奥まで……っ」
「んひぃっ! あ、熱い、貴方の、そこ……っ、あぁっ!」
「もっと……もっと、ボクのこと、みんなでいっぱいいっぱいにして……っ!」
誰が誰の肌に触れているのかもわからない。
ただ、中心にいるアストルフォの圧倒的な無限の愛情と、それを全身で受け止めるヒロインたちの情熱だけが、地下の空間をドロドロに溶かしていく。
唇を塞がれ、胸を揉まれ、太ももを撫でられ、そして最も深い部分へ、彼の熱の塊が沈み込んでいく。
魔術師としての矜持も、聖女の誇りも、執行者の掟も、姫君の仮面も。
すべてはこの夜、薔薇の浮かぶ湯船の中で完全に溶け去り、彼女たちはただ一人、「アストルフォに愛される女」として、何度も何度も絶頂の波に呑み込まれながら、朝が来るまで永遠に続くかのような快楽の底へと沈んでいったのだった――。