※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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インターバル④

エーデルフェルトのロンドン郊外別邸。その最奥に設えられた、並の権力者の寝室すら凌駕する広大な天蓋付きベッド。

窓から差し込む朝の柔らかな光が、乱れに乱れた最高級のシルクのシーツと、幾重にも絡み合う白い肢体を白日の下に晒していた。

 

昨夜、大浴場から始まった狂乱の宴は、場所をこの巨大なベッドへと移した後も、尽きることのない彼の熱量によって朝方まで延々と続いていた。

部屋には、薔薇の香油の匂いと、七人の女たちが彼の下で限界まで喘ぎ、絞り出した甘い情欲の残り香が、むせ返るほどに充満している。

 

「……んっ、ふぁ……」

 

微かな寝息の中、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテがゆっくりと重いまぶたを開けた。

彼女の小柄な身体は、背後からアストルフォの逞しい腕にがっちりと抱き込まれ、彼の胸板に背中をぴったりと押し付けられている。さらに、彼女の正面にはバゼットが丸くなるようにして眠り、アストルフォのもう片方の腕にすっぽりと収まっていた。

足元にはフィオレとレティシアが彼の脚に絡みつき、少し離れたところで青子、ルヴィア、桜が、互いの体温を分け合うようにして安らかな寝息を立てている。

 

(……信じられない。これが、エルメロイの次期当主(姫君)の朝の目覚めだなんて)

 

ライネスは、自らの素肌に残る無数の赤い愛痕と、腰の奥でジンジンと脈打つ甘い痛みに、顔をカッと熱くした。

昨夜、自分は彼に何度「もっと」とねだっただろうか。時計塔の誰も見たことのない、よだれを垂らし、目を剥いて快楽に溺れるだけの雌の顔。それを彼に、そしてこの女たちに完璧に晒してしまった。

 

しかし。

 

「……んんっ、ライネス……いい匂い……」

 

背後のアストルフォが寝言を呟きながら、ライネスのうなじに顔を埋め、ちゅっ、と無意識に甘いキスを落とした。

「ひゃっ!?」

 

同時に、彼のがっしりとした手が、シーツの下でライネスの柔らかな胸の膨らみをふわりと包み込む。

寝ぼけ眼の無自覚な愛撫。だが、彼の高い体温と、指先から伝わる圧倒的な『オス』の引力に、ライネスの身体はビクンと跳ね、昨夜の狂乱の記憶が瞬時に蘇って子宮の奥が熱く疼き始めた。

 

「あ、こら……っ。朝から、なんて破廉恥な……っ」

 

口では抗議しながらも、ライネスはその手を振り払うことができない。むしろ、彼の手のひらに自らの膨らみを押し付けるように、背中を彼の方へすり寄せてしまう。

 

「ん……ライネス? もう朝……?」

 

アストルフォがゆっくりと紫水晶の瞳を開けた。

「……ああ。君のそのデタラメな体力のせいで、私は寝不足の極みだけれどね」

 

「えへへ、ごめんね。でも、ライネスもバゼットも、みんないっぱいいっぱい声出してて、すっごく可愛かったよ!」

 

アストルフォは全く悪びれず、ライネスの首筋に再び唇を這わせた。

 

「ひぃっ……! ば、馬鹿なことを言うな……っ、あ……っ」

「んっ……アストル、フォ……?」

 

ライネスの嬌声に反応して、正面で眠っていたバゼットも目を覚ました。

彼女は自分がアストルフォの腕の中にいること、そしてすぐ目の前にかつて自分に指示を出していた次期当主であるライネスが、彼に愛撫されて赤面している姿を見て、ボフッと音を立てて顔を茹でダコのように赤くした。

 

「ラ、ライネス様……っ! 申し訳ありません、私、このような……っ!」

 

バゼットが慌てて身を起こそうとするが、アストルフォの腕がそれを許さない。

 

「だーめ! バゼットもライネスも、ボクの大切なお姫様なんだから、朝の挨拶しなきゃ!」

アストルフォはライネスの胸を揉みしだいたまま、バゼットの震える唇を強引に塞いだ。

「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ」

 

「っ……あぁ……っ、目の前で、そんな……っ、バゼットの、卑猥な音……っ」

ライネスは、自分が背後から責められながら、正面でかつての部下が快楽に喘ぐ姿を見せつけられるという、極限の背徳感に完全に理性を焼き切られた。

 

「あ、あぁっ! だめ、アストルフォ……これ以上は、私……また、狂って……っ!」

「狂っちゃえ! 朝まで我慢したんだから、いっぱいいっぱい、ボクの熱、お腹の中に入れてあげる!」

 

「あぁぁっ……!!」

 

朝の清々しい光が差し込む中、ベッドの上では再び、七人の女たちと一人の騎士による、限界ギリギリの甘く濃厚な朝の営みが再開された。

誰が誰を出し抜くでもなく、ただ純粋に彼からの圧倒的な愛を共有する。この狂おしくも幸せな光景は、すでに彼女たちにとっての「新しい日常」となっていた。

 

***

 

「……で。これから、どうするつもりなのよ、アストルフォ」

 

数時間後。

広大なダイニングルームで、エーデルフェルト家のシェフが用意した豪勢なブランチを囲みながら、蒼崎青子がコーヒーカップを片手に切り出した。

彼女はゆったりとしたガウンを羽織り、首筋にはくっきりと赤いキスマークを残している。

 

テーブルには、同じように満ち足りた、けれどどこか気怠げな色気を放つヒロインたちが勢揃いしていた。

時計塔の執務室に戻る準備を整えたライネスが、優雅に紅茶を傾けながら青子の言葉に頷く。

 

「青崎青子の言う通りだ。私が現代魔術科(うち)で工作を行い、バゼットが護衛としてここに常駐する。ルヴィアゼリッタの結界もある。……我々の安全は、ひとまず確保されたと言っていい。だが、君をずっとこの屋敷に閉じ込めておくわけにはいかないだろう?」

 

ライネスの視線を受けたアストルフォは、もぐもぐとパンケーキを頬張りながら、キョトンと首を傾げた。

 

「え? なんで? ボク、みんなとお風呂入ったり、ベッドでいっぱいいっぱいゴロゴロしたりするの、すっごく楽しいよ?」

「……あのね。あんたはシャルルマーニュ十二勇士の騎士でしょ。ただのヒモになりたいわけじゃないんでしょう?」

 

青子が呆れたようにため息をつく。

 

「もちろん、アストルフォさんがずっとここにいてくださるなら、私たちは幸せですけれど……」

 

桜が、彼の口元についたクリームをナプキンで優しく拭き取りながら微笑む。

 

「でも、アストルフォ様は風のような方です。私たちが鳥籠に閉じ込めてしまえば、きっといつか、その輝きが失われてしまいますわ」

 

レティシアも、聖女の依り代としての深い慈愛の瞳で彼を見つめた。

 

彼女たちは全員、彼の本質を完全に理解していた。

彼は誰か一人を愛するのではなく、世界中を飛び回り、出会ったすべての人間(特に女の子)に無差別に愛と熱を振りまく、自由な英霊なのだ。

 

「そっか……うん! みんながそう言ってくれるなら、ボク、決めた!」

 

アストルフォはパンケーキを飲み込み、元気よく立ち上がった。

 

「ボク、ロンドンの街をお散歩(パトロール)する!」

「……は?」

 

ライネスの動きが止まった。

 

「だから、お散歩! ここはイギリス、つまりボクのパパ(イングランド王オットー)の国だからね! ボクはイングランドの王子として、街の平和を守ったり、困ってる女の子を助けたり、みんなに美味しいケーキや可愛いお洋服を買ってきたりするよ!」

 

胸を張り、自信満々に宣言するアストルフォ。

そのあまりにも無邪気で、魔術世界の常識(神秘の秘匿など)を一切無視した提案に、ダイニングは一瞬、しんと静まり返った。

 

「……本気ですの?」

 

ルヴィアが頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

 

「彼を街に放てば、間違いなく数時間で新しい女をたぶらかして連れて帰ってきますわよ……?」

 

「あり得るわね。というか、絶対そうなるわ」

 

青子が苦笑交じりに同意する。

 

「な、ならば私が! 護衛として、二十四時間彼に同行しますっ!」

 

バゼットが勢いよく立ち上がり、顔を赤くして志願した。

「私は元執行者。街での隠密行動はお手の物です。アストルフォが目立つ真似をしないよう、私が手綱を……っ」

 

「バゼットが一緒ならすっごく心強いよ! いろんなところ、デートしようね!」

アストルフォがバゼットの手にギュッと自分の手を重ねると、バゼットの「手綱を握る」という決意は一瞬で溶け去り、「あ、はい……デート、どこまでも……っ」と完全に腑抜けた声を出してしまった。

 

「……だめだね、これじゃあ逆効果だ。バゼットが嬉々として彼をあちこち連れ回す未来しか見えないよ」

ライネスが呆れたように息を吐く。

 

「でも、いいんじゃないですか?」

 

フィオレが、紅茶のカップを置いて優しく微笑んだ。

 

「私たちはもう、彼が他の誰かを愛したからといって、嫉妬で狂うような段階は過ぎました。……彼が外でどんな騒ぎを起こそうと、どんな人を救おうと、最後に帰ってくる『温かい場所』が、このお屋敷であればいいんです」

 

フィオレの言葉に、桜もルヴィアも、そして青子も、ゆっくりと頷いた。

「……そうね。私たちがこれだけ強固な城(ハーレム)を作ったんだもの。彼が外で拾ってきた迷子くらい、何人でも養ってあげる度量はあるわよ」

「エーデルフェルトの財力を舐めないでいただきたいですわね。お部屋など、いくらでも増築して差し上げますわ」

 

彼女たちの、狂気にも似た、しかし絶対的な信頼と連帯感。

ライネスは、その空気に当てられ、思わず天を仰いだ。

 

「……兄上が知ったら、間違いなく発狂するだろうね。時計塔のお膝元で、特許泥棒と元執行者と次期当主が結託して、一人の英霊のための『巨大な愛の巣』を運営し始めるなんて」

 

しかし、ライネスの唇にも、隠しきれない妖艶な笑みが浮かんでいた。

 

「まあいい。トリムマウの分体を数匹、君の護衛(監視)につけさせてもらうよ。時計塔の保守派が君に手を出してきたら、私が現代魔術科の権限で徹底的に潰してやる。……存分に、このロンドンの街を引っ掻き回してくれたまえ、私の可愛い騎士殿」

 

「やったーー!! ライネス、みんな、大好き!!」

 

アストルフォはテーブル越しに身を乗り出し、ライネスの頬に熱烈なキスを落とした。

 

「ひゃっ……! こ、こら、食事中だぞ……っ!」

「ボク、いっぱいいっぱい面白いこと探してくるからね! 帰ってきたら、みんなでまたお風呂入ろーね!」

 

こうして、ロンドンにおけるアストルフォの『日常』が決定した。

時計塔の陰謀が渦巻く霧の都で、彼はイングランドの王子(自称)として自由気ままに街を闊歩し、ヒロインたちは彼の帰る場所を死守しながら、さらにその影響力を時計塔内部へと拡大していく。

 

それは、魔術世界の常識からすればあまりにも歪で、狂った日常。

しかし、彼らからすれば、これ以上なく幸福で、甘く、熱に満ちた日々の始まりだった。

 

そして、彼らが知らない時計塔のさらに深部。

天体科(アニムスフィア)の奥深くで、ある一人の気位の高い幼き令嬢が、ロンドン市内で頻発する「現代魔術科の不審な動き」と「正体不明の魔力波形」の調査に、自ら乗り出そうとしていたことなど、この時の彼らは知る由もなかった――。

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