fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
エーデルフェルト別邸の、レティシアに与えられた豪奢な私室。
アンティークの重厚なマホガニーデスクに向かい、フランス出身の少女は、ルヴィアから贈られた最高級の万年筆を握りしめ、故郷の家族へ宛てた手紙(日記)をしたためていた。
便箋には、インクの染みと共に、彼女の素朴で、けれどどこか熱を帯びた文字が連なっている。
『お父様、お母様。
そちらでは、まだ寒い日が続いているでしょうか。私は今、ロンドンというとても大きな街の、お城のように立派なお屋敷で暮らしています。
信じられないかもしれませんが、今、私の周りにいる方々は、皆、絵本に出てくるようなすごい人たちばかりなのです。
お屋敷の持ち主であるルヴィア様は、大富豪でとても気高く、私にたくさんの綺麗なお洋服を買ってくださいました。
蒼崎青子様は、「魔法使い」というすごい肩書きの持ち主で、いつも格好良くて頼りになります。
桜様は、私と同じくらいの歳なのに、お料理もお茶淹れも完璧で、いつも優しく微笑んでくれます。
ルーマニアで出会ったフィオレ様も一緒ですし、時計塔という魔術の学校の現代魔術科を裏で束ねる次期当主のライネス様、冷酷なお父様に見捨てられ、自らの意志でこの温かい家族の輪に入ってきた十一歳のオルガマリーちゃん、そしてバゼット様という元・執行者の方まで、皆さんが同じ屋根の下で、家族のように笑い合っています。
皆、元々は住む世界も、背負っているものも違う、雲の上の魔術師の方々です。
でも、そんなすごい方々が、今は一切の争いも嫉妬もなく、信じられないくらい仲良く、身を寄せ合って生きているのです。
その理由は、たった一つ。
……アストルフォ様です。
お父様、お母様。
アストルフォ様は、かつてジャンヌ様が私の身体をお借りしていた時に出会った、桜色の髪をした騎士様です。
彼は、魔術師として完璧でなければならなかったあの強くて美しい方々の、分厚い鎧や心の氷を、そのデタラメなほどの「優しさ」と「熱」で、全部、跡形もなく溶かしてしまいました。
夜になると、このお屋敷は、彼がもたらす熱で信じられないくらい甘い匂いに包まれます。
ルヴィア様も、ライネス様も、青子様も、バゼット様も……昼間はあんなに凛々しい大人の女性たちなのに、彼に触れられただけで、まるで魔法にかけられたように、とろとろに溶けた甘い声を出して、彼にすがりついてしまうのです。
(もちろん、まだ幼いオルガマリーちゃんに対しては、アストルフォ様はどこまでも純粋で絶対的な『優しいお兄ちゃん』として、一切の打算のない温かい愛情だけで包み込んであげているのですが)
もちろん……私も、その魔法にかけられた一人です。
私はただの女学生で、ジャンヌ様の器としての役割が終われば、また何もない空っぽの私に戻るのだと思っていました。
でも、アストルフォ様は違いました。
『キミは器なんかじゃない。ボクの大切なお姫様だ』と、私自身のことを真っ直ぐに見つめ、抱きしめてくださったのです。
彼の大きな手が私の肌に触れ、その火傷しそうなほど熱い唇が重なると、私の頭の中はいつも真っ白になってしまいます。
彼が私の中の、一番深くて熱いところまでいっぱいに満たしてくれると、私はもう、自分がしがない一学生だったことすら忘れて、ただ快楽に喘ぎ、彼を求めることしかできなくなって……』
「……レティシア?」
「ひゃああっ!?」
不意に背後から声をかけられ、レティシアは弾かれたように万年筆を取り落とした。
いつの間にか、彼女の座る椅子の背後に、アストルフォが立っていた。
彼は私室のドアをノックもせずに(あるいはレティシアが手紙に夢中で気づかなかったのか)忍び込み、彼女の肩口から、書きかけの便箋を興味深そうに覗き込んでいた。
「ア、アストルフォ様っ!? い、いつからそこに……っ」
レティシアは顔を真っ赤にして、慌てて両手で便箋を隠そうとした。
しかし、アストルフォのがっしりとした両腕が、背後から彼女の華奢な身体を椅子ごとすっぽりと抱きすくめてしまう。
「えへへ、今来たところ! レティシア、お父さんとお母さんに手紙書いてたの? 偉いね!」
「あ、はい……っ。ご心配を、おかけしているかと、思いまして……っ」
背中から伝わってくる、彼特有の異常なまでの高い体温。
そして、鼻腔をくすぐる、花のように甘く、それでいて濃厚な『オス』の匂い。
ただ背後から抱きしめられただけだというのに、手紙に書いていた通り、レティシアの子宮の奥がドクン、と熱く甘い疼きを上げ始めた。
「でもさ、レティシア」
アストルフォの顔が、彼女の耳元へと沈み込む。
その熱い吐息が、彼女の敏感な耳たぶを直接掠めた。
「『彼が私の秘部の一番深くて熱いところまで満たしてくれると、ただ快楽に喘いでしまう』って……お父さんたちに、そんなことまで報告しちゃうの?」
「~~~~~ッ!!」
読まれていた。あの、自分でも無意識のうちに情欲のままに書き殴ってしまった、破廉恥極まりない一文を。
レティシアの顔から火が出そうになる。
「ち、違いますっ! これは、その……! 書き間違いで、ただ彼らがどれほどアストルフォ様に救われているかを説明しようとして、言葉が、その……っ!」
涙目で必死に弁解しようとするレティシアだが、アストルフォは「ふふっ」と低く、艶やかな男の笑い声を漏らし、彼女の耳たぶを唇でちゅっ、と甘噛みした。
「んひぃッ……!!」
「書き間違いじゃないでしょ? レティシアの身体、こんなに正直に反応してる」
アストルフォの大きな手が、彼女の着ていた薄手のネグリジェの胸元から、するりと内側へと滑り込んだ。
「あぁっ! だめ、アストルフォ様……っ。まだ、お手紙の途中……っ」
「お手紙は、明日書けばいいよ。だってキミ、今こんなにボクの熱、欲しがってトクトク鳴ってるもん」
彼の手のひらが、一切の抵抗を許さない力強さで、彼女の柔らかな胸の膨らみを下から揉み上げ、敏感な頂を指の腹で執拗に弾き転がした。
「あぁぁっ……! ぁ、あ……っ! アストルフォ様の手……熱い、です……っ!」
全寮制の学校で築き上げた価値観など、彼のもたらす圧倒的な快感の前には何の意味も持たなかった。
かつて聖女の魂を宿した清らかな身体は、今や完全に彼の愛撫に飼い慣らされ、彼の指先が触れるたびに、甘い蜜を溢れさせて快楽を乞うだけの『メス』へと作り変えられている。
「レティシア、すっごくいい匂い。ボクのこと考えてお手紙書いてくれてたから、身体の芯まで熱くなってるね」
アストルフォの顔が彼女の首筋へと這い下り、鎖骨のくぼみに熱い舌を這わせる。
「んっ……あ、はぁっ……! だって……アストルフォ様が、私を……こんな、淫らな身体に……っ!」
「淫らじゃないよ。ボクに愛されて、世界で一番可愛いお姫様になったんだ。……ほら、手紙に書いた通り、もっとボクの熱で、キミの頭の中、真っ白にしてあげる」
アストルフォは彼女を椅子から軽々と抱き上げると、そのまま部屋の奥にあるベッドへと放り投げた。
「ひゃああっ!」
弾むスプリング。
仰向けに倒れ込んだレティシアの上に、桜色の騎士が圧倒的なオスの熱量を持って覆い被さる。
紫水晶の瞳が、情欲と底なしの愛情で濁り、彼女を真っ直ぐに射抜いていた。
「あ、アストルフォ様……私……っ」
「レティシア……大好きだよ。キミの全部、ボクがもーっといっぱいいっぱいにしてあげる」
彼の唇が、レティシアの震える唇を貪るように塞いだ。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ!」
デスクの上に残された、故郷への手紙。
その続きが書かれることは、この夜はもう二度となかった。
ロンドンの冷たい夜風が窓を揺らす中、レティシアの部屋からは、純朴な女学生の面影を完全に捨て去り、愛する騎士から与えられる極上の快楽に理性を溶かされた、狂おしいほどに甘い嬌声だけが、朝まで響き渡り続けていた――。