fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドンの郊外に建つ、エーデルフェルト家の広大な別邸。
その一室に設けられた書斎で、バゼット・フラガ・マクレミッツは、万年筆を握りしめながら、額に滲む汗を拭っていた。
彼女の目の前には、時計塔の現代魔術科――ロード・エルメロイⅡ世とライネスへ宛てた、定期監視報告書の羊皮紙が広げられている。
『報告書:対象(はぐれ英霊・アストルフォ)の監視状況について
報告者:バゼット・フラガ・マクレミッツ
対象は依然として、極めて危険な精神干渉(未知の甘い芳香および、常軌を逸した体温を伴う接触)を常時展開している。
当職は、対象の魔術的脅威を封じ込めるため、昼夜を問わず超至近距離(同一のベッド、および入浴時の密着状態)での監視を命がけで続行中である。
対象の攻撃(執拗な愛撫と口付け)は苛烈を極め、当職は幾度も意識を白濁させられ、幾度となく限界(絶頂)へと追い込まれた。しかし、当職は執行者としての矜持を以て、これ以上の被害を時計塔に広げないため、我が身を挺して対象の熱を受け止め続ける所存である。
結論として、当職はこの危険な潜入任務を、今後も無期限に継続するよう強く具申する――』
「……よし。これで、非の打ち所のない完璧な報告書だ。ロードも、私がどれほど過酷な任務を強いられているか、理解してくださるだろう……っ」
バゼットは真剣な面持ちでそう呟き、深く頷いた。
しかし、その「過酷な任務を強いられている執行者」の現在の格好はといえば。
ルヴィアゼリッタが面白半分に用意した、ひどく布地の少ない、フリルたっぷりの『裸エプロン』に近いメイド服姿であった。
鍛え上げられた長身と、それに不釣り合いなほど豊かな胸の谷間が、フリルの隙間から無防備にこぼれ落ちそうになっている。その素肌のあちこちには、昨夜彼につけられた真っ赤なキスマークが、花びらのように鮮やかに咲き誇っていた。
時計塔の誰もが恐れた「血と硝煙の猟犬」の面影など、微塵もない。
あるのはただ、一人の男に完全に心と身体を明け渡し、骨の髄まで愛され尽くして、デレデレに甘やかされている『極上のメス』の姿だけだった。
「……ふふっ。アストルフォ……昨日の夜も、すごく優しくて……熱かった……な」
バゼットは報告書から目を離し、自分の胸元に残る赤い痕を指先でなぞりながら、ふにゃりと、かつての彼女からは想像もつかないような、だらしなくも幸せそうな笑みをこぼした。
封印指定の執行者として、感情を殺し、ただ敵を殴り殺すだけの機械として生きてきた過去。
誰かに甘えることも、女の子としての幸せを望むことも、絶対に許されなかった。
しかし、あの桜色の騎士は、彼女の分厚い氷の鎧を、一瞬の打算もない純粋な肯定と、圧倒的な熱量で溶かし去ってしまった。
『バゼットは強いけど、女の子なんだから、もっとボクに甘えていいんだよ』
その一言と、彼から注がれ続ける底なしの愛情によって、バゼットは今、生まれて初めて「自分が女であることの喜び」に打ち震えながら生きていた。
「なにが過酷な任務、ですか……。本当は私、彼から離れたくないだけの、ただのずるい女なのに……っ」
自嘲気味に、しかしひどく幸せそうに呟いた、その時だった。
「バゼット! なにしてるのー?」
「ひゃああっ!?」
背後から突然、がっしりとした熱い腕が回され、バゼットの豊かな双丘を、エプロンの上からむぎゅっと力強く抱きしめた。
「ア、アストルフォ……っ!? いつからそこに……っ」
「えへへ、今! バゼット、すっごく真剣な顔してお手紙書いてるから、後ろからこっそり来ちゃった!」
背中に密着する、彼の分厚い胸板。
そこから伝わってくる火傷しそうなほどの体温と、むせ返るようなオスのフェロモンが、バゼットの呼吸を瞬時に浅く、熱を帯びたものに変えてしまう。
アストルフォは、バゼットの肩越しに、デスクの上の報告書を覗き込んだ。
「えーっと? 『対象の攻撃は苛烈を極め』……? 『幾度も意識を白濁させられ』……? なになに、これってボクのこと?」
「あぁっ! み、見ないでくださいっ! これは、時計塔への、その……偽装工作のための、公式な書類で……っ!」
バゼットは顔を茹でタコのように真っ赤にして、慌てて両手で羊皮紙を隠した。
「偽装工作? ふーん……でも、バゼット」
アストルフォの顔が、バゼットのうなじへと沈み込む。
その滑らかで熱い唇が、彼女の耳たぶを甘噛みした。
「んひぃッ……!!」
「嘘ばっかり書いてるね。ボクのこと『危険な脅威』だなんて。……バゼット、ボクに触られて、すっごく気持ちよくて、自分から『もっと』って泣いてたじゃないか」
「~~~~~ッ!!」
図星を突かれ、さらに耳元で囁かれた破壊力に、バゼットの魔術回路がショートする。
「そ、それは……っ! 貴方が、私の理性を……めちゃくちゃにするから……っ!」
「そう? じゃあ、もっとめちゃくちゃにしてあげよっか?」
アストルフォの大きな手が、バゼットのエプロンの背中の紐を、するりと解いた。
ハラリ、と。
彼女の唯一の衣服であったエプロンが滑り落ち、鍛え抜かれた、しかしひどく艶めかしい女性的な曲線が、昼下がりの書斎の空気に晒される。
「ああっ! アストルフォ、だめです……っ、誰かが来たら……っ」
「誰も来ないよ。みんな、バゼットがお仕事(笑)してるの邪魔しちゃ悪いって、気遣ってくれてるもん」
アストルフォはバゼットの身体を椅子ごと回転させ、彼女の太ももの間に自らの脚を割り込ませた。
至近距離で交差する、紫水晶の瞳と、青灰色の瞳。
「バゼット。キミは執行者なんかじゃない。ボクの大切な、世界で一番可愛いお姫様だよ」
「アストル、フォ……っ、ああ……っ」
彼から放たれる圧倒的な『オス』の熱量と、絶対的な肯定の言葉。
バゼットの青灰色の瞳から、執行者としての最後の抵抗が完全に溶け落ち、とろとろに濁った情欲の色だけが浮かび上がる。
「私……嘘を、書いていました……。私、貴方という脅威に……完全に、屈服しています……っ。貴方の愛が、欲しくて、たまらない……っ」
涙目で告白するバゼット。
「えへへ。素直でよろしい!」
アストルフォは極上の笑顔を浮かべ、彼女の震える唇を貪るように塞いだ。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ、はぁっ!」
舌と舌が深く絡み合い、甘い唾液が交換される卑猥な水音が書斎に響き渡る。
アストルフォの長い指先が、彼女の露わになった豊かな胸の膨らみを下から揉み上げ、敏感な頂を親指で執拗に弾き転がした。
「んひぃぃッ!! ぁああっ!! 好き……っ、アストルフォ……っ、すき、です……っ!」
「ボクも、バゼットのこと、いっぱいいっぱい愛してるよ。キミの身体の奥まで、ボクの熱で満たしてあげる」
彼の手が、バゼットの引き締まった腹筋をなぞり、そのまま最も熱を帯びた秘所へと容赦なく滑り込む。
「あぁぁっ! ぁ、あ……っ! アストルフォの手……熱い、熱いです……っ! 奥まで、狂ってしまいそう……っ!」
時計塔の猟犬と呼ばれた女は、今や完全に彼の指先の動き一つで快楽の波に呑み込まれ、白目を剥きそうになるほどに乱れるだけの『メス』へと成り果てていた。
デスクからずり落ちそうになる彼女の身体を、アストルフォが強引に抱き上げ、そのまま書斎の床に敷かれた分厚い絨毯の上へと押し倒す。
「バゼット、キミのお手紙、あとでちゃんとボクが続き書いてあげるね。『ボクのお嫁さんになったから、もう時計塔には帰りません』って!」
「あ……はい……っ! 帰りません……っ、私、ずっと……貴方の側で……っ、あぁぁぁっ!!」
もっともらしい偽装の報告書は、二人の激しい動きによって床に舞い落ち、くしゃくしゃに踏み躙られていく。
時計塔の陰謀などどこ吹く風。
ロンドンの昼下がり、バゼット・フラガ・マクレミッツは、一切の過去の重圧を忘れ、愛する騎士から与えられる快楽の底へと、ただひたすらに、幸福に満ちた嬌声を上げながら沈み続けていったのだった――。