※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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遠坂凛編⑤

ロンドン郊外、エーデルフェルト別邸の温室(サンルーム)。

色とりどりの蘭が咲き乱れ、むせ返るような花の香りが充満する密室の中央で、遠坂凛は息を呑んで立ち尽くしていた。

 

「やあやあ! おかえり、凛! ずっと待ってたよ!」

 

胸元をはだけさせた艶めかしい部屋着姿で、無邪気に手を振る桜色の騎士。

昼間、広場で自分を抱き留めたあの男が、なぜ自分が「唯一の死角」と見定めたはずのこの場所にいるのか。

凛の優秀な頭脳が、数秒遅れて残酷な事実を弾き出した。

 

(……罠。私の潜入計画は、最初から筒抜けだったっていうの……っ!? あのルヴィアや、青崎青子たちが……この男のために、わざわざ私を誘い込む結界を張ったっていうの!?)

 

「な、なんで……貴方が、ここに……っ!」

凛は後ずさりしながら、赤いコートのポケットから最高純度の魔力を込めた宝石(ルビー)を三つ、指の間に挟み込んだ。

 

「来るなっ……! 貴方が何者かは、エルメロイⅡ世から聞いたわ! 私の妹やルヴィアたちをたぶらかした、色欲の英霊……っ! さっさと桜を返しなさい! さもないと、この温室ごと貴方を消し炭にするわよ!」

 

強がって声を張り上げる凛。しかし、彼女の指先は微かに震えていた。

彼がゆっくりと一歩踏み出すたびに、広場で感じたあの火傷しそうなほどの『熱』と、甘いオスのフェロモンが、温室の空気を伝って彼女の肌を直接撫で回してくるからだ。

 

「消し炭になんてならないよ。だって凛、ボクにそんなことしたくないでしょ?」

 

アストルフォは、向けられた宝石の脅威など全く意に介さず、ニコニコと笑いながらさらに距離を詰めてくる。

 

「くっ……! 警告はしたわよ! 『ガンド』ッ!!」

 

凛は威嚇のつもりで、彼の足元を狙って魔力弾を放った。

しかし。

 

パァンッ!

 

アストルフォは、まるで飛んできたボールをキャッチするかのように、素手でその魔力弾をいとも容易く弾き飛ばしてしまった。

 

「え……っ?」

「はい、おしまい! 凛、外は寒かったでしょ? 手、冷たくなってるよ」

「ひゃっ……!?」

 

次の瞬間には、アストルフォは凛の目の前――ゼロ距離にまで到達していた。

彼のがっしりとした両手が、凛の宝石を握ったままの震える両手を、ふわりと、けれど絶対に逃げられない力強さで包み込んだ。

 

「あ、あつ……っ。だ、だめ、離して……っ!」

 

ロンドンの冷たい雨に打たれていた凛の指先から、彼の異常なまでの体温が、まるで劇薬のように一気に流れ込んでくる。

 

(だめ……っ、魔力が、練れない……! この男の熱に触れているだけで、頭の中が、白く……っ)

 

凛の膝がガクンと震え、彼女はたまらず彼のがっしりとした胸板に手をついてしまった。

 

「凛、すごくいい匂い。雨の匂いと、凛の甘い匂いが混ざって、ボク、すっごくドキドキしてる」

 

アストルフォの顔が近づき、紫水晶の瞳が凛を真っ直ぐに射抜く。

 

「ボク、桜から聞いたよ。凛は桜のお姉ちゃんなんでしょ? 冬木で、ずっと一人で頑張ってきたんだよね。……偉いね、凜」

「……ッ!!」

 

その、一切の打算もない純粋な肯定の言葉。

遠坂の当主として、弱音を吐くことを許されなかった彼女の心の最も脆い部分を、彼は正確に、そして果てしなく優しく撫でてきた。

凛の青い瞳から、不意に涙が込み上げそうになる。

 

「や、やめて……っ。私は、妹を……桜を助けに来たのよ……っ。貴方みたいな男に、桜を……」

『――ふふっ。本当に傑作だね、遠坂の次期当主殿』

 

突如、温室に設置された通信用の魔術礼装から、蠱惑的な、そして底意地の悪い少女の声が響き渡った。

 

「っ!? この声……ライネス・エルメロイ……!?」

『ご名答。君の完璧な潜入計画は、最初から私たちの盤上だったというわけさ。……だが、勘違いしないでくれたまえ。私たちは君を害するつもりなど毛頭ない。むしろ、愛する家族の「妹」の危機(?)に駆けつけた君の姉としての情愛に、心から敬意を表しているのだよ』

 

ライネスのくすくすという笑い声に混じって、もう一人、凛にとって最も聞き慣れた、けれど『今まで聞いたことのないほどに甘く、艶めかしい声』が響いた。

 

『お姉ちゃん。……わざわざロンドンまで、私に会いに来てくれたんですね』

「桜……っ!? 桜なの!? 無事なのね! 今すぐ助けてあげるから……っ!」

『助ける? ふふっ……お姉ちゃんは、相変わらず早とちりですね』

 

スピーカー越しの桜の声には、洗脳されているような虚ろさは一切なかった。

あるのは、心の底からの幸福感と、一人の男に愛され尽くした女特有の、むせ返るような余裕だけだ。

 

『私は、これまでの人生で一番、幸せですよ。ルヴィアお義姉様と一緒に、アストルフォさんに毎日いっぱいいっぱい愛されて……自分がエーデルフェルトの令嬢だったことすら忘れてしまうくらい、心も身体も、ドロドロに溶かされているんですから』

 

「な……っ!? さ、桜……あんた、自分が何を言ってるのか……っ!?」

 

凛は顔を真っ赤にして絶句した。あの控えめだった妹が、自分からそんな破廉恥な言葉を口にするなんて。

 

『お姉ちゃん。……お父様の奇行に振り回されながら、冬木の管理、ずっと一人で大変だったでしょう? もう、強がらなくていいんですよ』

 

桜の声が、ひどく優しく、そして甘い誘惑を帯びて凛の鼓膜を撫でる。

 

『お姉ちゃんも、早くこっち(底なし沼)にいらっしゃい。……アストルフォさんの熱、本当にすごいんですよ? 頭の先から足の先まで、自分の理性が全部焼き切れて、ただ快楽に溺れるだけの雌になっちゃうんですから。……さあ、アストルフォさん。私のだぁい好きなお姉ちゃんを、うんと甘やかしてあげてくださいね』

 

プツン、と。通信が切れる。

温室に、再び静寂と、アストルフォの圧倒的な熱気だけが残された。

 

「……嘘……でしょ。桜が、あんな……あんな声で……」

凛の足から完全に力が抜け、彼女はその場にへたり込もうとした。

 

しかし、アストルフォの太く逞しい腕が、彼女の細い腰をしっかりと抱き留め、自らの身体へと引き寄せた。

「ほら、桜も言ってたでしょ? 凛はもう、一人で戦わなくていいんだよ」

 

「あ……アストルフォ……っ」

 

妹を救うという唯一の大義名分(言い訳)を完全に奪われた凛。

彼女に残されたのは、目の前にいる圧倒的な熱を放つオスの引力と、それに抗い切れない自分自身の『女としての情欲』だけだった。

 

「凛のここ、すっごくトクトク鳴ってる。……ボクの熱、欲しい?」

 

アストルフォの大きな手が、凛の赤いコートのボタンを外し、その内側にある薄手のタートルネック越しに、彼女の柔らかな背中を撫で上げた。

 

「ひゃああっ!! ぁ……あ、熱い……っ!!」

 

ビクンッ!と、凛の身体が弓なりに反る。

服の上からだというのに、彼の指先が触れた場所から、強烈な快感の電流が直接脳髄と子宮へと流れ込んでくる。

 

「だ、だめ……っ。私、は……遠坂の……っ」

「遠坂の当主でも、桜のお姉ちゃんでもいいよ。でも、ボクの腕の中では、ただの『可愛い凛』でいて?」

 

アストルフォの顔が近づき、彼のアメジストの瞳が、凛の涙ぐんだ青い瞳を至近距離で見つめ返す。

その底なしの優しさと、強烈な雄のフェロモンに、凛の心の中に最後に残っていたプライドの氷壁が、音を立てて完全に崩れ去った。

 

「あ……ぁっ……ぁあ……っ」

 

凛の両腕が、震えながら持ち上がり、ゆっくりとアストルフォの首元へと回された。

 

「私……ずっと、寂しかった……っ。誰かに……甘えた、かった……っ!」

 

ついに口から零れ落ちた、真実の弱音。

アストルフォは極上の笑顔を浮かべ、「うん、知ってるよ」と囁きながら、彼女の震える唇を、深く、貪るように塞いだ。

 

「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ、はぁっ!」

舌と舌が絡み合い、甘い唾液が交換される。

凛の身体から急速に力が抜け、彼女は完全にアストルフォの胸板に体重を預けた。

 

「凛、すっごく甘い……。もっと、キミのこと温めてあげる」

 

アストルフォの手が、彼女のタートルネックの裾から直接素肌へと滑り込み、今まで誰にも触れられたことのない純潔の双丘を下から力強く揉み上げた。

 

「んひぃぃッ!! ぁああっ!! 好き……っ、熱い……っ! アストルフォの熱……っ!」

 

魔術師としての計算も、姉としての矜持も、すべてが快楽の濁流に呑み込まれ、白く白く塗り潰されていく。

彼女は自ら彼の桜色の髪を掻き毟るように抱きしめ、もっと強く、もっと深く触れてほしいと、自らの秘所を彼の身体へと擦り付け始めた。

 

「凛……大好きだよ。キミの冷たいところ、全部ボクが溶かしてあげる」

 

ロンドンの冷たい雨が降る夜。

エーデルフェルトの温室の中で、赤い悪魔と呼ばれた誇り高き令嬢は、自らの意思でその鎧を脱ぎ捨て、狂おしいほどに彼を求める一人の恋する乙女へと、完全に作り変えられていったのだった――。

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