fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドンの中心部、高級ブティックが立ち並ぶメイフェア地区。
普段は時計塔の冷たい石壁の中で、魔術と政治の権力闘争に身を置く少女たちが、今日ばかりは一切の重圧を忘れ、一人の「普通の女の子」として街を歩いていた。
「ふふっ。やはり、他派閥の目を気にせず堂々と買い物を楽しめるというのは、悪くない気分じゃないか」
現代魔術科(ノーリッジ)を裏で牛耳るエルメロイの次期当主(姫君)、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。
彼女は、豪奢なゴシック調の私服に身を包み、機嫌良さそうに石畳を歩いている。
「……そ、そうね。息抜きも必要よ。アニムスフィアの令嬢たるもの、最新の流行にも目を通しておかなければならないし……っ」
その隣を歩くのは、オルガマリー・アニムスフィア。
彼女もまた、気品溢れる銀糸の髪を揺らし、仕立ての良い上品な子供用のワンピース姿で、少しだけ頬を上気させていた。
ロンドンの街角で、振り返らない者はいないほどの絶世の美少女と、愛らしい銀髪の幼い少女。
しかし、周囲の視線を集めている最大の理由は、彼女たちの容姿だけではなかった。
「ライネス、オルガマリー! 次はあのお店に行こうよ! すっごく可愛いフリフリのお洋服が飾ってあるよ!」
桜色の髪を三つ編みにした騎士――アストルフォが、両手に山のようなブランドの紙袋を抱えながら、二人の間に入ってニコニコと笑っていたのだ。
しかも、ライネスは彼のがっしりとした片腕に自らの豊かな胸の膨らみをぴったりと押し付けるようにして腕を組み、もう片方の手は、オルガマリーが迷子にならないようにと、彼女の小さな両手でぎゅっと握りしめられていた。
「アストルフォ……っ、声が大きいわよ! 街中で、そんなに……っ」
オルガマリーは顔を真っ赤にして周囲の目を気にするが、彼と繋いだ手を離そうとは絶対にしない。冷酷な父・マリスビリーに見捨てられ、絶望の淵にいた彼女を救い出してくれたこの「絶対的なお兄ちゃん」の温もりに、彼女は完全に依存しきっていた。
「いいじゃないか、オルガマリー。今日は私たちが、この世界で一番有能な『使い魔』を独占できる日だ。……存分に、エスコートしてもらおうじゃないか」
ライネスが、アストルフォの腕に自らの頬をすり寄せ、蠱惑的な瞳で彼を見上げる。
「うん! 二人とも、どんなお洋服でもボクが買ってあげるからね! ライネスも、可愛い妹のオルガマリーも、ボクの大切なお姫様だから!」
アストルフォの屈託のない、純度百パーセントの肯定。
その言葉一つで、エルメロイの姫君と、幼きアニムスフィア家の少女の心臓が、ドクンッと大きく跳ねる。
重圧に押し潰されそうになりながら生きてきた彼女たちにとって、彼が与えてくれるこの「絶対的な安心感と熱」は、どんな魔術よりも強力な媚薬(あるいは救済)だった。
やがて三人は、完全予約制の超高級ブティックの、広大なVIP専用フィッティングルームへと案内された。
「わぁっ! オルガマリーには絶対これがいちばん似合うよ! ほら、奥の試着室で着替えておいで!」
アストルフォが、フリルがたくさんついた可愛らしいドレスを何着もオルガマリーに手渡す。
「も、もう……っ。子供扱いしないでよね……っ。でも……ありがとう、お兄ちゃん」
オルガマリーは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうにドレスを受け取り、そそくさとVIPルームのさらに奥にある、個別の試着ブースへと入っていった。
彼女の姿が完全にブースのカーテンの向こうに消えたのを確認した瞬間。
「……トリムマウ、入り口を封鎖。ついでに、オルガマリーがいる奥の試着室への音も『完全に遮断』したまえ」
ライネスの声色が、外を歩いていた時の少女のものから、ひどく艶めかしく、情欲に濡れた女の声へと変わった。
重厚な扉がロックされ、完全な防音結界が張り巡らされる。
「んっ……ふふっ。邪魔者は消えたよ。……待ちきれない騎士殿だこと」
広大なフィッティングルームの壁一面に張られた鏡。
そこに映し出されたのは、桜色の騎士の逞しい胸板に背中を預けられ、あっという間に顔を極限まで紅潮させているエルメロイの姫君の姿だった。
「ライネス、すっごくいい匂い。ボクと腕組んでる時から、ずっとドキドキしてたでしょ?」
アストルフォの大きな手が、ライネスのドレスのファスナーに触れ、ゆっくりと、しかし一切の躊躇なく下ろしていく。
「アストルフォ……! 私の全部、君に……っ!」
彼の熱い唇が、露わになったライネスの白い首筋に落ちる。
ちゅっ、と音を立てて皮膚を吸い上げ、真っ赤な印を刻み込む。
「んひぃッ……!! ぁ、あ……っ」
ライネスの膝から一瞬で力が抜け、彼女は完全にアストルフォの腕の中に崩れ落ちそうになった。
「アストルフォ。……私に、君の熱を……たっぷりと、注いでおくれ」
ライネスは自らドレスの肩紐をずり下げ、アストルフォの両腕を、自らの胸元へと引き寄せた。
「時計塔のお仕事、いっぱい頑張ったもんね。ボクが、頭の中が真っ白になるまで、いっぱいいっぱいご褒美あげる」
アストルフォの両手が、ライネスの最高級の下着越しに、柔らかな双丘を下から力強く揉み上げる。
「んっ……ぁ……っ! だめ、そんなに強く、いじられたら……私、おかしくなって……っ!」
鏡越しに視線が交差する。
時計塔の執務室では決して見せることのない、目をトロンと濁らせて快楽を乞う、ただの雌の顔。
ライネスは、自分がどれほど淫らな顔をしているかを鏡で突きつけられながら、それでも彼から与えられる常軌を逸した快感に、理性をドロドロに溶かされていく。
「ライネス、すっごく綺麗。……ボクの熱、奥まで届いてる?」
アストルフォの指先が、最も熱を帯びた秘所のすぐ近くを、衣服越しにじっとりと撫で回す。
「届いてる……っ! 届いてるから……っ! お願い、早く……私の中を、君でいっぱいに、してくれたまえ……っ!」
完全防音の結界が張られた、VIPルーム。
手前の空間では、時計塔の若き支配者が、愛する騎士の圧倒的な熱量と肯定感の前に完全に屈服し、狂おしいほどに甘い嬌声を上げながら、何度も快楽の波に呑み込まれていた。
一方、防音結界の向こう側――。
奥の試着ブースの中で、十一歳のオルガマリーは、可愛らしいドレスに身を包みながら、鏡の前で一人、顔を真っ赤にして胸を押さえていた。
(……可愛い。お兄ちゃん、これを見て……私を、綺麗だって言ってくれるかしら)
外で繰り広げられている大人の情事など、純粋な彼女は知る由もない。
ただ、冷たい父に見捨てられた自分を拾い上げ、絶対的な愛を与えてくれる彼のために。いつか自分が立派な大人になった暁には、誰よりも美しい『彼のお嫁さん』になってみせる。
そんな甘く、純粋な未来への誓いを、幼い令嬢は鏡の中の自分に向かって、ひそかに立てていたのだった――。