※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

61 / 181
今回と次回は少し時間軸を遡ります。
遠坂凛編⑥から⑦の間を想定しております。


インターバル⑬

エーデルフェルト別邸、客室(遠坂凛に与えられた部屋)。

分厚い遮光カーテンの隙間から、眩しい朝日が差し込んでいる。

 

「……んっ……ぅ……」

 

最高級の天蓋付きベッドのシーツの海の中で、遠坂凛は、全身の骨が溶けてしまったかのような重い気怠さと、腰の奥でジンジンと脈打つ甘い痛みに目を覚ました。

 

「あ……」

 

昨夜の記憶が、鮮烈な熱と声と共に脳裏に蘇る。

エーデルフェルト邸に乗り込み、アストルフォの圧倒的な肯定感とオスのフェロモンに抗いきれず、自ら彼にすがりついて泣き叫んだこと。

そして、彼に抱き抱えられたまま、このベッドで朝が来るまで、何度も、何度も、頭がおかしくなるほどに愛され尽くしたこと。

 

(私……っ。本当に、あいつの……あいつの女に、なっちゃったんだ……っ)

 

凛は顔を真っ赤にしてシーツを頭から被ろうとした、その時だった。

 

「――おはようございます、お姉ちゃん」

 

「ひゃあっ!?」

ベッドのすぐ横から声が響き、凛は弾かれたように顔を出した。

そこには、純白のエプロンドレスに身を包み、銀のトレイに温かい紅茶とスコーンを乗せた、黒髪の少女――妹の桜が、極上の微笑みを浮かべて立っていた。

 

「さ、桜……っ!? あ、あんた、いつからそこに……っ」

凛は慌ててシーツで自らの裸体(キスマークだらけの肌)を隠そうとする。

 

「ふふっ。つい先程ですよ。アストルフォさんが、『凛がいっぱいいっぱい泣いて疲れちゃったみたいだから、朝ごはんお願い!』って、嬉しそうにリビングにいらしたので」

 

「~~~~ッ!! あのバカ騎士、なんてこと言いふらしてんのよ!!」

顔から火が出るどころか、全身が沸騰しそうなほどの羞恥に、凛はシーツの上から枕をバンバンと叩いた。

 

桜はベッドサイドにトレイを置き、ゆったりとした足取りで、凛のベッドの端に腰を下ろした。

かつて冬木にいた頃の、少し自信なさげで、姉の背中を遠くから見つめていた幼い少女の頃の面影はない。

エーデルフェルトの令嬢としての気品と、何よりも「一人の男に完全に愛され、満たされきっている女」特有の、むせ返るような艶と余裕が、今の桜からは放たれていた。

 

「……お姉ちゃん。身体、痛くないですか? アストルフォさん、お姉ちゃんがずっと我慢してたのを知ってたから、昨日は特別に激しく、深く……愛を注いでくれたみたいですし」

「っ……!! さ、桜っ! あんた、実の姉に向かって、なんて破廉恥なことを……っ!」

 

凛は涙目で抗議するが、桜はクスリと妖艶に笑って、シーツの上から凛の足を優しく撫でた。

 

「破廉恥なのはお互い様ですよ、お姉ちゃん。……だって、お姉ちゃんの身体から、アストルフォさんのあの甘い匂いが、こんなに強く漂っているんですもの」

 

桜の顔が近づき、凛の首筋に残る色濃いキスマークを、紫の瞳でじっと見つめる。

 

「……っ」

 

凛は言い返せなかった。事実、彼女の身体は、魔術回路の芯からアストルフォの熱に染め上げられ、今も彼を思い出して微かに疼いてしまっているのだから。

 

「冬木で一人で頑張って、無理をして、このロンドンまで乗り込んできて……。本当に、お疲れ様でした、お姉ちゃん」

 

桜のひんやりとした手が、凛の汗ばんだ前髪を優しく梳く。

 

「でも、もう一人で戦わなくてもいいんですよ。……ここは、私たちだけの『お城』です。意地を張って生きる必要なんて、どこにもない。……お姉ちゃんも、私と同じように、彼の中でドロドロに溶けて、ただ幸せな女の子になればいいんです」

「桜……」

 

妹からの、底なし沼への完全な歓迎。

かつては自分が守らなければと思っていた妹が、今は自分よりもずっと「女」として成熟し、この狂った幸福の城の先輩として自分を迎え入れてくれている。

 

凛の瞳から、ポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。

 

「……あんた、本当に……生意気になったわね。……ルヴィアの悪影響じゃないの……っ」

「ふふっ。お義姉様の指導ももちろんですが……一番は、あの方の愛の深さのせいですね」

 

凛はシーツの中で身をよじり、桜の手に自分の頬をすり寄せた。

 

「……負けたわよ。完全に、私の負け。……でも、一つだけ言っておくわ」

 

凛の青い瞳に、遠坂の女としての、決して消えない負けん気の炎が灯る。

 

「私をこの沼に引きずり込んだこと、後悔させてやるわ。……夜のベッドでは、あんたやルヴィアなんかに、絶対に負けないんだからね……っ!」

「あら。それは楽しみですね、お姉ちゃん。……でも、あの方の体力(熱量)を舐めていると、また今朝のように腰が立たなくなりますよ?」

 

二人の姉妹は、互いにアストルフォのキスマークを刻まれた肌を見つめ合いながら、狂おしくも幸せな共犯者としての笑い声を、朝の光に満ちた部屋に響き合わせたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。