fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
遠坂凛編⑥から⑦の間を想定しております。
エーデルフェルト別邸、客室(遠坂凛に与えられた部屋)。
分厚い遮光カーテンの隙間から、眩しい朝日が差し込んでいる。
「……んっ……ぅ……」
最高級の天蓋付きベッドのシーツの海の中で、遠坂凛は、全身の骨が溶けてしまったかのような重い気怠さと、腰の奥でジンジンと脈打つ甘い痛みに目を覚ました。
「あ……」
昨夜の記憶が、鮮烈な熱と声と共に脳裏に蘇る。
エーデルフェルト邸に乗り込み、アストルフォの圧倒的な肯定感とオスのフェロモンに抗いきれず、自ら彼にすがりついて泣き叫んだこと。
そして、彼に抱き抱えられたまま、このベッドで朝が来るまで、何度も、何度も、頭がおかしくなるほどに愛され尽くしたこと。
(私……っ。本当に、あいつの……あいつの女に、なっちゃったんだ……っ)
凛は顔を真っ赤にしてシーツを頭から被ろうとした、その時だった。
「――おはようございます、お姉ちゃん」
「ひゃあっ!?」
ベッドのすぐ横から声が響き、凛は弾かれたように顔を出した。
そこには、純白のエプロンドレスに身を包み、銀のトレイに温かい紅茶とスコーンを乗せた、黒髪の少女――妹の桜が、極上の微笑みを浮かべて立っていた。
「さ、桜……っ!? あ、あんた、いつからそこに……っ」
凛は慌ててシーツで自らの裸体(キスマークだらけの肌)を隠そうとする。
「ふふっ。つい先程ですよ。アストルフォさんが、『凛がいっぱいいっぱい泣いて疲れちゃったみたいだから、朝ごはんお願い!』って、嬉しそうにリビングにいらしたので」
「~~~~ッ!! あのバカ騎士、なんてこと言いふらしてんのよ!!」
顔から火が出るどころか、全身が沸騰しそうなほどの羞恥に、凛はシーツの上から枕をバンバンと叩いた。
桜はベッドサイドにトレイを置き、ゆったりとした足取りで、凛のベッドの端に腰を下ろした。
かつて冬木にいた頃の、少し自信なさげで、姉の背中を遠くから見つめていた幼い少女の頃の面影はない。
エーデルフェルトの令嬢としての気品と、何よりも「一人の男に完全に愛され、満たされきっている女」特有の、むせ返るような艶と余裕が、今の桜からは放たれていた。
「……お姉ちゃん。身体、痛くないですか? アストルフォさん、お姉ちゃんがずっと我慢してたのを知ってたから、昨日は特別に激しく、深く……愛を注いでくれたみたいですし」
「っ……!! さ、桜っ! あんた、実の姉に向かって、なんて破廉恥なことを……っ!」
凛は涙目で抗議するが、桜はクスリと妖艶に笑って、シーツの上から凛の足を優しく撫でた。
「破廉恥なのはお互い様ですよ、お姉ちゃん。……だって、お姉ちゃんの身体から、アストルフォさんのあの甘い匂いが、こんなに強く漂っているんですもの」
桜の顔が近づき、凛の首筋に残る色濃いキスマークを、紫の瞳でじっと見つめる。
「……っ」
凛は言い返せなかった。事実、彼女の身体は、魔術回路の芯からアストルフォの熱に染め上げられ、今も彼を思い出して微かに疼いてしまっているのだから。
「冬木で一人で頑張って、無理をして、このロンドンまで乗り込んできて……。本当に、お疲れ様でした、お姉ちゃん」
桜のひんやりとした手が、凛の汗ばんだ前髪を優しく梳く。
「でも、もう一人で戦わなくてもいいんですよ。……ここは、私たちだけの『お城』です。意地を張って生きる必要なんて、どこにもない。……お姉ちゃんも、私と同じように、彼の中でドロドロに溶けて、ただ幸せな女の子になればいいんです」
「桜……」
妹からの、底なし沼への完全な歓迎。
かつては自分が守らなければと思っていた妹が、今は自分よりもずっと「女」として成熟し、この狂った幸福の城の先輩として自分を迎え入れてくれている。
凛の瞳から、ポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。
「……あんた、本当に……生意気になったわね。……ルヴィアの悪影響じゃないの……っ」
「ふふっ。お義姉様の指導ももちろんですが……一番は、あの方の愛の深さのせいですね」
凛はシーツの中で身をよじり、桜の手に自分の頬をすり寄せた。
「……負けたわよ。完全に、私の負け。……でも、一つだけ言っておくわ」
凛の青い瞳に、遠坂の女としての、決して消えない負けん気の炎が灯る。
「私をこの沼に引きずり込んだこと、後悔させてやるわ。……夜のベッドでは、あんたやルヴィアなんかに、絶対に負けないんだからね……っ!」
「あら。それは楽しみですね、お姉ちゃん。……でも、あの方の体力(熱量)を舐めていると、また今朝のように腰が立たなくなりますよ?」
二人の姉妹は、互いにアストルフォのキスマークを刻まれた肌を見つめ合いながら、狂おしくも幸せな共犯者としての笑い声を、朝の光に満ちた部屋に響き合わせたのだった。