fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
週末のロンドン。
厚い雲の隙間から、珍しく柔らかな陽光が差し込んでいる。
テムズ川のほとり、巨大な観覧車『ロンドン・アイ』の足元で、遠坂凛は少し落ち着かない様子でスマートフォンの画面と時計を交互に見ていた。
「もう……遅いわね。待ち合わせは午後一時だって、あんなに念押ししたのに……っ」
今日の凛は、いつもの赤いコートではない。
この日のために(密かにルヴィアや桜にバレないよう一人でこっそり買いに行った)、白のオフショルダーのニットに、ボルドーのフレアスカートという、ひどく女の子らしくて可憐なデート服に身を包んでいた。
冬木での激務を終え、ロンドンに到着して早々に陥落した彼女への、アストルフォからの「二人きりのロンドン観光」という最高のご褒美だった。
「やあやあ! 凛、お待たせ!」
「っ! アストル……」
振り返った凛の言葉が、一瞬途切れる。
そこには、いつもの甲冑やラフな部屋着ではなく、桜たちの見立てでシックな秋物のジャケットを着こなした、見違えるように格好良いアストルフォの姿があった。
中性的な可愛らしさと、歴戦の騎士としての逞しい骨格が絶妙にマッチし、道行く女性たちが思わず振り返るほどの美男子ぶりだ。
「ごめんね、お花屋さんで凛に似合う花を探してたら、ちょっと遅くなっちゃった!」
アストルフォは、真っ赤な一輪の薔薇を、極上の笑顔と共に凛に差し出した。
「あ……」
凛の顔が一瞬で林檎のように赤く染まる。
「べ、別に……気にしてないわよ。その、お花……ありがとう」
「凛、今日のお洋服すっごく可愛い! 白いフワフワ、凛の綺麗な黒髪にすっごく似合ってる!」
アストルフォは一切の衒いもなく褒めちぎり、自然な動作で凛の左手を取り、指を絡ませて(恋人繋ぎで)しっかりと握りしめた。
「ひゃっ……! ちょ、急に手……っ」
「だって、人がいっぱいいるから、はぐれちゃったら大変でしょ? ほら、行こ!」
凛の抗議などどこ吹く風で、アストルフォは彼女の手を引いて歩き出す。
彼の手のひらから伝わってくる、火傷しそうなほどの熱。
冬木では常に「遠坂の当主」として先頭を歩かなければならなかった凛にとって、こうして誰かの広い背中を見つめ、少し強引に手を引かれるという経験は、あまりにも新鮮で、そして心臓が溶けそうなほどに甘いものだった。
タワーブリッジを散策し、おしゃれなオープンカフェでアフタヌーンティーを楽しみ、アストルフォに「あーん」でスコーンを食べさせられ(周囲の目を気にして顔を真っ赤にしながらも)、凛はこれまでの人生で最も平和で、幸せな時間を満喫していた。
やがて夕暮れ時。
二人は、夕日に染まるロンドンの街を一望できる巨大な観覧車、ロンドン・アイのゴンドラ(完全貸切状態の個室)に乗り込んだ。
ゆっくりと高度を上げていく密室。
夕日の赤い光が、ゴンドラの中をロマンチックに照らし出している。
「……綺麗ね。冬木の景色とは、全然違うわ」
凛が窓ガラスに手をつき、眼下に広がる街並みを見下ろしてぽつりと呟いた。
「凛は、冬木でもずっと、こうやって高いところから街を守ってたの?」
アストルフォが、凛の背後からそっと近づき、彼女の華奢な肩を両手で優しく包み込んだ。
「ひゃっ……」
「一人で、ずっと頑張ってたんだね。偉いよ、凛」
アストルフォの顔が、凛の肩口に沈み込む。
その低く、鼓膜を直接溶かすような甘い声と、彼女の身体をすっぽりと包み込む途方もない『オスの熱』。
凛の身体の奥底で、昼間は抑え込んでいた情欲の火種が、一気に燃え上がった。
「アストルフォ……っ」
凛は振り返り、自ら彼の広い胸板にすがりついた。
「私……ずっと、誰かに……こうして欲しかったのかも。当主だからって、強がらなくていい……ただの女の子として、甘えさせてくれる場所が……」
「うん。ボクの胸の中は、いつだって凛の特等席だよ。……凛の重たい荷物、全部ボクが半分持ってあげるから」
アストルフォの紫水晶の瞳が、情欲と底なしの愛情で濁り、凛を見つめ下ろす。
「凛、大好き。……キミの全部、ボクに見せて?」
「あ……はい……っ。私を、もっと……貴方の熱で、いっぱいに、して……っ」
夕日に照らされたゴンドラの密室。
アストルフォの熱い唇が、凛の震える唇を貪るように深く塞いだ。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ、はぁっ!」
舌と舌が絡み合い、甘い唾液が交換される卑猥な水音が、静かな空間に響き渡る。
アストルフォの大きな手が、凛のオフショルダーのニットの肩をさらにずり下げ、露わになった雪のように白いデコルテに、ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて熱いキスマークをいくつも刻み込んでいく。
「あぁぁっ……! はぁっ……あ……っ! アストルフォ……っ、だめ、そんなところ、強く吸われたら……っ!」
「だめじゃないよ。凛、すっごくいい匂いがする。ボクに触られて、身体の芯まで熱くなってるね」
彼の手が、ニットの裾から直接素肌へと滑り込み、彼女の柔らかな胸の膨らみを下から力強く揉み上げた。
「んひぃッ……!! ぁ、ああっ……!」
ビクンッ!と、凛の身体が弓なりに反る。
逃げ場のない空中の密室。眼下にロンドンの絶景が広がる中で、誇り高き遠坂の令嬢は完全に理性を手放し、最強の魔法使いや君主たちと同じように、ただ彼から与えられる極上の快楽に白目を剥きそうになりながら啼き叫ぶだけの『メス』へと堕ちていく。
「凛のここ……すっごく温かい。ボクのこと欲しがって、トクトク鳴ってる」
アストルフォの指先が、フレアスカートの奥、最も熱を帯びた秘所へと容赦なく滑り込む。
「あぁっ! ぁ、あ……っ! アストルフォの手……熱い、熱いです……っ! 奥まで、狂ってしまいそう……っ!」
「狂っちゃえ、凛。……ボクの熱で、キミの頭の中、真っ白にしてあげる」
観覧車が頂点に達する頃。
夕日を背に受けたゴンドラの中には、完璧な魔術師の鎧を完全に脱ぎ捨て、愛する騎士の熱に身も心もドロドロに溶かされ、幸福と快楽の絶頂に何度も呑み込まれる遠坂凛の、淫靡な甘い嬌声だけが響き渡り続けていたのだった――。