※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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セラ&リーゼリット編①

コッツウォルズに借り受けた壮麗なマナーハウス。

その一室に設けられた即席の魔術通信陣の前で、遠坂凛は赤いコートの腕組みをし、優雅に脚を組んで座っていた。その隣には、扇子を揺らすルヴィアゼリッタと、タバコを燻らせる蒼崎青子が陣取っている。

 

水晶球の向こうに映るのは、雪に閉ざされたアインツベルン城の奥深く。

深く皺の刻まれた顔に、隠しきれない疲労と苦渋を滲ませたユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン――アハト翁の姿があった。

 

『……最高傑作たるアイリスフィールが、たかが一晩で「女」として骨抜きにされ、我らが悲願を放棄したと。……そのような戯言、信じられると思うか』

 

アハト翁の冷たい声が響く。しかし、その声には以前ほどの絶対的な威厳はなかった。

 

「戯言じゃないわよ。現に、彼女は今、あいつの膝の上で満面の笑みでアップルパイを食べさせてもらってるわ。……まあ、信じたくない気持ちはわかるけどね。私たちも最初はそうだったし」

 

凛が、少しだけ自分たちの黒歴史を思い出しながら(そして首筋のキスマークを隠すように襟を直しながら)肩を竦めた。

 

「おわかりでしょう、アインツベルンの御老体。貴方たちがどんなに冷徹な人形を作ろうと、あの方の放つ『オスの熱量』の前にはすべて無意味ですの。……ですが、絶望するのは早いですわよ?」

 

ルヴィアが、底意地の悪い笑みを深める。

 

「あの英霊(アストルフォ)は、今やアイリスフィールを『自分の家族』として完全に保護下に置いています。……つまり、貴方たちがこれ以上強硬手段に出なければ、アインツベルンの最高傑作は、最強の騎士の庇護下で安全に生き続ける。そして……彼の規格外の魔力パスの一部は、アイリスフィールを通じてアインツベルンにも還元される可能性があるということですわ」

 

ルヴィアの言葉に、アハト翁の表情が僅かに動いた。

大聖杯への執着を捨てることはできない。しかし、アストルフォを敵に回せば、時計塔の有力者たち(エルメロイ、可能性は低いがアニムスフィア、そして目の前のエーデルフェルトと遠坂、さらには魔法使い)までをも敵に回すことになる。

手駒を完全に失うよりは、屈辱を呑んででも、彼らとの繋がりを(クモの糸より細い極細の糸であっても)残しておく方が合理的だ。彼の冷徹な論理回路が、そう弾き出した。

 

『……条件は、なんだ』

 

絞り出すようなアハト翁の声。

 

「話が早くて助かるわ」

 

青子がタバコの煙を吹き出しながら、ニヤリと笑った。

 

「アイリスフィール、そして護衛のホムンクルス二名の『自由』を完全に保証すること。彼女たちへの命令権の破棄。……そして、彼女たちが私たちの『お城(ハーレム)』で快適に過ごすための、生活費、魔術研究費、その他諸々の諸経費として……アインツベルンの莫大な資産から、毎月これだけの額を無条件で援助してもらうわよ」

 

凛が提示した羊皮紙の金額を見た瞬間、アハト翁の顔が微かに引き攣った。

それは「援助」などという可愛らしいものではない。名門の財を何だと思っているのかと叫びたくなるほどの、完全なる「たかり(莫大な養育費の請求)」であった。

 

『……よかろう。ただし、アイリスフィールの生存報告と魔力データの提出は定期的に行え。……通信を切る』

 

水晶球の光が、プツンと途絶えた。

 

「ちょろいものね。これで、あいつらのドレス代も紅茶代も、全部北の古狸のポケットマネーで賄えるわ」

 

凛が得意げに笑う。彼女たちもまた、愛する騎士と、新しく増えた「家族」のために、魔術師としての権謀術数を存分に振るっていたのだった。

 

***

 

一方その頃。

マナーハウスの裏庭、美しく手入れされた薔薇のアーチの影で、二人のメイドが言い争っていた。

 

「だめです、リズ! 貴女、自分が何をしようとしているのかわかっているのですか!」

 

セラが、純白のエプロンドレスの裾を乱しながら、目の前の相棒――リーゼリットの腕を必死に掴んで引き留めていた。

 

「……セラ、うるさい」

 

リーゼリットは、感情の読めない赤い瞳でセラを見つめ返す。

彼女の視線の先には、庭のベンチに座り、ロンドンの陽光を浴びながら気持ちよさそうにうたた寝をしているアストルフォの姿があった。

 

「うるさいではありません! 私たちはアイリスフィール様の護衛であり、アインツベルンのメイドです! 主が……あのような破廉恥な状態に陥ってしまった以上、私たちが理性を保たなければ……っ」

 

「……アイリ、すごく幸せそう。笑ってた。ぽかぽかしてた」

 

リーゼリットは、セラの言葉など全く意に介さず、淡々と呟く。

 

「……っ」

 

セラは言葉に詰まった。

昨夜の扉越しの嬌声。そして今朝の、アイリスフィールの花が咲いたような笑顔。

それらは、感情を持たないはずのセラたちの胸の奥にも、奇妙で、むず痒い、甘い波紋を広げ続けていたのだ。

 

「……リズも、あの熱、ほしい。ぽかぽか、する。……だから、もらいに行く」

 

リーゼリットは、セラの拘束をいとも容易く(彼女の膂力は極めて高い)振りほどき、静かな足取りでアストルフォの眠るベンチへと歩き出してしまった。

 

「ああっ、リズ! お待ちなさい!」

 

セラは慌ててその後を追う。しかし、彼女自身の足もまた、アストルフォの放つ特有の甘い匂いに引き寄せられるように、無自覚にふらついていた。

 

ベンチに近づくにつれ、むせ返るような薔薇の香りと、彼の体温が空気を伝って肌を撫でてくる。

 

「……アストルフォ」

 

リーゼリットは、眠る彼の目の前に立ち、その無防備な顔を静かに見つめた。

そして、一切の躊躇なく、自らの冷たい手を伸ばし、彼の温かい頬にぴたりと当てたのだ。

 

「……んんっ? あ、リズだ! やあやあ、おはよう!」

 

アストルフォは驚く様子もなく、紫水晶の瞳をゆっくりと開けると、極上の笑顔でリーゼリットを見上げた。

 

「……おはよう。……アストルフォ、熱い。ぽかぽか、する」

 

リーゼリットは、自分の手に伝わってくる火傷しそうなほどの体温に、赤い瞳を微かに細め、心地よさそうに身をすり寄せた。

 

「ひゃああっ!? リ、リズ!! 貴女、初対面に近い殿方の顔に、なんという破廉恥な触り方を……っ! 離れなさい!」

 

遅れて追いついたセラが、顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「破廉恥じゃないよ! リズの手、すっごく冷たかったから、ボクが温めてあげてるんだもん!」

 

アストルフォは、頬に当てられたリーゼリットの手を自らの両手で包み込み、そのまま彼女の細い腰に腕を回して、自分の膝の上へと強引に引き寄せてしまった。

 

「あ……」

 

すとん、と。

リーゼリットの小柄な身体が、アストルフォのがっしりとした太ももの上に収まる。

メイド服のスカートがふわりと広がり、彼女の無防備な背中が彼の分厚い胸板にぴたりと密着した。

 

「な、ななな……っ!?」

 

セラは、そのあまりにも自然で、かつ扇情的な密着ぶりに、言葉を失い、完全にその場に立ち尽くしてしまった。

止めに入らなければならない。メイドとしての理性がそう叫んでいるのに、アストルフォの周囲を満たす圧倒的なオスのフェロモンと、底なしの肯定感の空気に呑まれ、一歩も動くことができないのだ。

 

「リズ、いつも大きなお斧持って、アイリスフィールを守ってくれてたんだよね。……重たかったでしょ? 偉いね、リズ」

 

アストルフォの低く、甘い声が、リーゼリットの耳元で紡がれる。

彼の手が、彼女の銀色の髪を優しく、慈しむように撫で下ろす。

 

「……んっ……」

 

感情の起伏が乏しいはずのリーゼリットの口から、微かな、しかしはっきりとした甘い吐息が漏れた。

 

アインツベルンの城では、彼女はただの「機能」だった。力仕事と護衛のための道具。

誰も、彼女が重たい斧を持つことを「偉いね」と褒めてくれたことなどなかった。

その言葉が、彼から伝わる異常なまでの熱量と共に、彼女の魔術回路の最も深い部分(心)を、静かに、しかし確実に溶かし始めていく。

 

「……アストルフォ。もっと、ほしい。……熱い、感情……ほしい」

 

リーゼリットは、アストルフォの胸板に自らの背中を強く押し付け、自らの意思で彼を求めた。

彼女の赤い瞳は、すでに無機質な光を失い、彼から与えられる未知の快感と熱を乞う、一人の雌としての艶を帯びている。

 

「うん、いいよ。リズの冷たいところ、ボクが全部、いっぱいいっぱい熱くしてあげる」

 

アストルフォの顔が、リーゼリットの白い首筋へと沈み込む。

 

「あ……ぁ……っ」

 

彼の熱い唇が、彼女の皮膚に直接触れ、ちゅっ、と音を立てて甘噛みをする。

今まで知らなかった強烈な電流のような快感が、リーゼリットの全身を貫いた。

彼女の小さな身体が、彼に抱かれたままビクンッと大きく跳ねる。

 

「リズ、すっごくいい匂い。ボクに触られて、身体の芯まで熱くなってるね」

 

アストルフォの手が、彼女のメイド服のリボンを器用に解き、背中のファスナーをゆっくりと滑り下ろす。

 

「んっ……あ……っ。アストルフォ、手……熱い……っ。お腹の奥、むずむず、する……っ」

 

リーゼリットは、初めて味わう情欲の波に思考を白く濁らせながら、自らの意思で彼の愛撫を受け入れ、もっと深く触れてほしいと身をよじり始めた。

 

「あぁ……っ、アイリスフィール様、に続いて……リズまで……っ。あんな、蕩けたお顔に……っ」

 

その一部始終を至近距離で見せつけられていたセラは、両手で顔を覆いながらも、指の隙間からその光景から目を離すことができなかった。

主と相棒が、次々と彼という底なし沼に沈んでいく。

その絶望感よりも遥かに強く、セラ自身の身体の奥底で、「私も、あの熱に触れてみたい」という恐ろしいほどの甘い疼きが、マグマのように膨れ上がってしまっていた。

 

薔薇の咲き乱れる昼下がりの庭園。

アストルフォの腕の中で、感情を知らなかったホムンクルスの少女は、自らの機能を完全に放棄し、ただ彼から与えられる極上の愛と快楽に身を委ねるだけの、無防備で可憐な女の子へと溶かされていくのだった――。

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