fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
ロンドンの重たい灰色の雲を切り裂くように、数台の黒塗りの高級車がエーデルフェルト別邸の車寄せに滑り込んだ。
コッツウォルズ地方での「視察(という名のアインツベルン陣営陥落の儀式)」を終えたアストルフォたちが、愛の城へと帰還を果たしたのだ。
「ただいまー! みんな、お留守番ありがとう! 新しい家族を連れてきたよー!」
エントランスの重厚な扉が開くなり、桜色の騎士の底抜けに明るい声が広大なホールに響き渡った。
出迎えたのは、別邸を預かっていたヒロインたちだ。
「おかえりなさいませ、アストルフォさん。……そして、初めまして。北の雪のお姫様たち」
完璧なカーテシー(淑女の礼)と共に微笑んだのは、黒髪を揺らす桜だった。
彼女の背後には、車椅子に乗ったフィオレ、純朴な笑顔を浮かべるレティシア、そしてエプロン姿のバゼットや、時計塔から戻っていたライネスとオルガマリーの姿が並んでいる。
「……初めまして。アイリスフィール・フォン・アインツベルンです。……この度、アストルフォ様に心も身体もすべてを捧げ、このお屋敷の末席に連なることとなりました」
純白のドレスに身を包んだアイリスフィールは、一切の迷いがない、しかしひどく熱を帯びた女の顔で一礼した。
彼女の両脇には、顔を真っ赤にして主の背中に隠れようとするセラと、すでにアストルフォの腕にしっかりと抱きついているリーゼリットが控えている。
「ふふっ。末席だなんてご謙遜を。……貴女のその、首元に咲いた真っ赤な愛の印と、とろけるような甘い匂い。……あの方がどれほど貴女を深く、激しく愛したか、痛いほどに伝わってきますわ」
桜が、極上の共犯者の笑みを浮かべてアイリスフィールの手を取った。
冷たかったはずのホムンクルスの手は、今やアストルフォの熱に当てられ、人間以上に温かい血を通わせている。
「ええ。……私の論理回路は、あの方の圧倒的な熱量によって完全に焼き切れてしまいました。……ここは、狂っています。ですが……この温かさを知ってしまったら、もう二度と、あの冷たい雪の城には戻れません」
アイリスフィールもまた、桜の手を握り返し、ふわりと艶やかに微笑んだ。
「見事なものじゃないか。これで、時計塔の現代魔術科(私)に続き、聖杯戦争の御三家(遠坂、アインツベルン)までが、たった一人の騎士のベッドの下に平伏したというわけだ」
ライネスが、呆れたように、しかし心底楽しそうにクスクスと笑う。
「まったくね。このお屋敷の魔力密度、もう異常事態よ。……でも、悪くないわ」
まだ幼いオルガマリーが、アストルフォの背中に子供のように抱きつきながら、彼の首筋に自らの頬をすり寄せる。冷たい父に見捨てられた彼女にとって、ここが世界で唯一の、そして絶対に手放したくない『お兄ちゃん』のいる帰る場所なのだ。
「ほら、お茶会にするわよ! セラとリズも、メイドの仕事なんてしなくていいから、こっちに来て座りなさい!」
凛がコートを脱ぎ捨てながら、すっかりこの家の女主人(の一人)としての顔で二人をソファーへと促す。
「は、はい……っ! 遠坂様……っ」
「……リン、ごはん作った? 食べる」
セラが戸惑いながらも頷き、リーゼリットはすでに食卓へと向かっていた。
魔術の頂点を争い、殺し合う運命もあった女たち。
それが今、一切の嫉妬も争いもなく、ただ「アストルフォに愛されている」という絶対的な共通項だけで深く結びつき、むせ返るような甘い匂いを放つ一つの巨大な家族として完成していた。
***
夜の帳が完全に下り、ロンドン特有の冷たい雨が窓ガラスを叩き始めた頃。
幼いオルガマリーが自室で健やかな寝息を立て始めたのを見計らい、別邸の最奥にある、二十人以上が横になれそうなほどの広大な主寝室では、大人たちだけの時間が始まっていた。
分厚い絨毯と無数のクッション、そして最高級のシルクのシーツが敷き詰められたその空間は、すでに暖炉の火の暖かさを遥かに超える、狂おしいほどの『熱』に支配されていた。
「アストルフォ、様……っ」
広大なベッドの中央。アイリスフィールは薄いネグリジェ一枚の姿で、アストルフォのがっしりとした胸板の上に乗り、彼の首に腕を絡ませていた。
周囲には、桜や凛、ルヴィアや青子たち……彼を愛するすべてのヒロインたちが、思い思いのくつろいだ(そしてひどく無防備な)格好で、彼に身を寄せ、その肌に触れている。
「アイリスフィール。ロンドンのお家、どう? 寒くない?」
アストルフォの大きな手が、アイリスフィールの銀色の髪を撫で、そのまま彼女の滑らかな背中へと滑り込む。
「寒く、ありません……っ。だって、貴方の手が……こんなに、熱くて……それに、皆様の体温も、すごく……っ」
アイリスフィールの赤い瞳が、情欲でトロンと濁る。
アストルフォに抱きしめられている彼女の背中を、隣に寝そべっている桜と凛が、愛おしそうに撫でていた。
「ふふっ。アイリスフィールさん、お肌がすごく綺麗。……でも、アストルフォさんに触れられているところだけ、真っ赤に染まってて、すっごく可愛らしいです」
桜のひんやりとした指先が、アイリスフィールの太ももをそっと撫でる。
「ちょっと桜、あんまりいじめないであげなさいよ。……まあ、この男の熱に当てられたら、お人形さんでもこうなっちゃうのは、私が一番よく知ってるけどね」
凛が、アストルフォの反対側の腕にすがりつきながら、アイリスフィールの頬に優しくキスを落とす。
「あぁっ……皆様……っ、私……っ」
敵だったはずの女たちから向けられる、底なしの慈愛と同調の情欲。
アストルフォという絶対的な太陽を中心に、彼女たちの魔力と体温が一つに混じり合い、巨大な快楽の渦となってアイリスフィールの理性(論理)を白く塗り潰していく。
「みんな、アイリスフィールのこと大好きだって! ボクも、アイリスフィールのこと、みーんなのこと、世界で一番愛してるよ!」
アストルフォは極上の笑顔を浮かべ、彼の上に跨るアイリスフィールの首筋に、熱い唇を押し当てた。
「んひぃッ……!! ぁ、ああっ……! アストルフォ様……っ」
彼の舌が皮膚を這い、ちゅっ、と音を立てて柔らかな肉を吸い上げる。
アイリスフィールの口から、抑えきれない高く甘い嬌声が漏れた。
「アイリスフィール様が……あんな、蕩けたお顔で……っ」
少し離れたクッションの上で、セラが自らの胸元をギュッと握りしめ、顔を真っ赤にしてその光景を見つめていた。
彼女の隣では、リーゼリットがすでにアストルフォの足元に丸くなり、彼のふくらはぎに頬をすり寄せて心地よさそうに目を閉じている。
「セラ。貴女も、我慢しなくていいのよ」
青子が、セラの背中をぽんと叩き、妖艶に微笑む。
「あいつの熱、欲しいんでしょ? ほら、飛び込んできなさいな。今日は新しい家族の歓迎会なんだから」
「あ……ぅ……っ、蒼崎、様……っ。私、は……っ」
セラは涙目で抵抗しようとしたが、アストルフォがアイリスフィールを抱きしめたまま、こちらに向かって手を差し伸べてきた。
「セラ! こっちおいで! ボクの隣、空いてるよ!」
その無邪気で、圧倒的な肯定感に満ちた声。
セラの魔術回路の最後に残っていた一本の線が、プツンと音を立てて切れ去った。
「アストルフォ様ぁ……っ!!」
セラは自らネグリジェの裾を乱しながらベッドへと這い進み、アストルフォの差し出された腕の中へと文字通り飛び込んだ。
「よしよし、セラもすっごくいい匂い。いっぱい頑張って、我慢してたんだね。えらいえらい」
「あぁぁっ……! すき、です……っ、私、も……っ、貴方の熱で、めちゃくちゃに、してください……っ」
アストルフォの大きな手が、セラの柔らかな胸の膨らみを下から力強く揉み上げ、同時に、彼の上にいるアイリスフィールの最も熱を帯びた秘所へと、容赦なくその陽根を沈み込ませていく。
「んあぁぁぁぁっ……!! ぁ……あ……っ!! アストルフォ様ぁっ!!」
「はぁっ……あ……っ! 奥まで、狂っちゃう……っ!」
アイリスフィールとセラの、狂おしいほどの甘い嬌声が、広大な寝室に響き渡る。
それに呼応するように、凛やルヴィア、桜たちも自らの火照った身体を彼へと擦り寄せ、さらなる快楽を乞い始めた。
「ボクのお姫様たち! 朝まで、みーんな一緒に、いっぱいいっぱいドロドロに溶けちゃおうね!」
ロンドンの冷たい雨の夜。
エーデルフェルトの広大な寝室は、世界最高峰の女たちがすべての鎧と使命を脱ぎ捨て、ただ一人の騎士がもたらす果てしない愛と熱の濁流に呑み込まれる、究極の愛の巣へと完全に変貌していた。
彼女たちの嬌声と、甘い蜜の匂いは、朝日が昇るまで途切れることなく、夜の闇を溶かし続けていったのだった――。