※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

85 / 181
第一部完結編③

アイリスフィールの奇跡的な妊娠と出産から、月日は穏やかに、そしてあっという間に流れていった。

あれから約8年。

ロンドン郊外のエーデルフェルト別邸に広がる、見渡す限りの広大な庭園には、うららかな春の陽光と、絶えることのない賑やかな笑い声が満ち溢れていた。

 

「パパー! まてーっ!」

「あはははっ! イリヤ、すっごく足が速くなったね! でもパパは捕まらないぞー!」

 

緑の芝生の上を、桜色の髪を揺らす太陽のような騎士――アストルフォが、満面の笑みで駆け回っている。

 

彼を追いかけているのは、雪のように白い髪をツインテールに結んだ、元気いっぱいの少女。アイリスフィールとアストルフォの第一子、イリヤスフィール(8歳)である。

ホムンクルスの短命の呪いなど微塵も感じさせない、薔薇色の頬をした彼女は、普通の人間と同じように健やかに、そして活発に成長していた。

 

「ああっ、イリヤお姉ちゃんずるいです! パパ、私にもギューってしてください!」

 

イリヤの後を追って、黒髪を揺らしながら一生懸命に走ってくるのは、桜の愛娘である「美遊」。エーデルフェルトの令嬢としての気品を幼くして持ち合わせながらも、父親の前では甘えん坊な可憐な少女だ。

 

「オーッホッホッホ! 美遊、遅いですわよ! パパの背中はあたくしが一番にいただきますわーっ!」

 

さらにその横から、金色の髪をなびかせ、小悪魔のような笑い声を上げて飛び出してきたのは、ルヴィアゼリッタの娘「クロエ」。母親譲りの豪快さと父親の身体能力を受け継いだ彼女は、文字通り跳躍してアストルフォの背中へとダイブした。

 

「わぷっ! クロエ、ナイスジャンプ! よーし、三人まとめて高い高いだーっ!」

 

アストルフォは全くよろけることなく、クロエを背負ったまま、イリヤと美遊を両腕で抱え上げ、春の空に向かって高く持ち上げた。

 

「「「きゃあぁぁぁっ! あははははっ!」」」

 

子供たちの弾けるような歓声と、彼らが振りまく無尽蔵の幸福のオーラ。

その光景を、庭園を見下ろす広大なテラスから、世界最高峰の『母たち』が、極上の紅茶を傾けながら愛おしそうに眺めていた。

 

「……ふふっ。本当に、イリヤはあの方に似てお転婆に育ちましたわ。あんなに走って、転ばないかしら」

 

アイリスフィールは、銀色の髪を春風に揺らしながら、艶然と微笑んだ。

8年の歳月が流れても、彼女の美貌は一切衰えるどころか、愛する男に抱かれ続け、母としての悦びを知ったことで、以前よりもさらに深く、むせ返るような女の艶を帯びている。

 

「イリヤお姉ちゃんが引っ張ってくれるから、うちの美遊もあんなに楽しそうに笑うんです。……でも、クロエちゃんは少しお行儀が悪くてよ、ルヴィアお姉様?」

 

隣の席で、桜がクスリと笑いながらティーカップを置く。彼女の膝の上には、二人目の子供がすやすやと眠っていた。

 

「あら、クロエのあのダイナミックさこそ、次期エーデルフェルト当主にふさわしい器の証明ですわ! 美遊こそ、少し内気すぎるのではありませんこと?」

 

ルヴィアが扇子を広げて言い返す。かつての血みどろの魔術抗争など見る影もない、ただの平和で満ち足りた「ママ友(兼、同じ男の妻)」としての幸せなマウントの取り合いだ。

 

「……あんたたち、毎日毎日飽きもせずよくやるわね」

 

少し離れたデッキチェアで、凛が呆れたように溜息をつく。

彼女の胸元には、アストルフォと同じ桜色の髪をした小さな男の子が抱かれていた。凛もまた、彼という絶対的な熱に完全に溶かされ、骨の髄まで愛し抜かれた結果、立派な『母』としての柔らかい表情を浮かべている。

 

テラスには彼女たちだけではない。

 

「ほら、お茶のお代わりよ。今日は愛歌たちが特製のケーキを焼いてるから、お腹空かせておきなさいよね」

 

青子が、魔法使いの威厳などどこへやら、すっかりこの大家族の頼れる姉御肌として立ち回っている。

 

フィオレやレティシア、バゼットたちも、それぞれが産んだ(あるいはこれから産まれる)子供たちのお世話をしながら、温かい日差しを満喫していた。

そして、かつては十一歳の怯える子供だったオルガマリーは、今や美しい銀髪を伸ばし、大人の色気を纏った立派な『レディ(妻)』へと成長していた。

 

「まったく、子供たちは元気でいいけれど。……夜になれば、あの無尽蔵の体力(熱)が、全部私たちに向けられるのだと思うと……っ」

 

オルガマリーは、豊かに成長した自らの胸元に手を当て、アストルフォの姿を見つめながら、情欲にトロンと濁った金色の瞳で熱い吐息を漏らした。

隣に座る現代魔術科の次期当主、ライネスがそれを見てクスクスと悪戯っぽく笑う。

 

「ふふっ、その通りじゃないか。昔は『お兄ちゃん』と呼んで後ろをついて回っていたくせに、すっかり骨の髄まで『女』にされてしまったね、オルガマリー。……まあ、私も昨夜は彼に何度も頭の芯までドロドロに溶かされて、ひどい声で泣かされてしまったのだから、人のことは言えないのだけれど」

 

ライネスの淫靡な惚気に、オルガマリーは顔を真っ赤にしながらも、「あの方の熱なしでは生きていけないのは、貴女も同じでしょう……っ」と妖艶に微笑み返した。

 

奥のキッチンからは、沙条愛歌や綾香、玲瓏館美沙夜、フィリアといった面々が、楽しそうに料理の準備を進める音が聞こえてきた。

 

「……ねえ、アイリ」

 

ふと、凛がアストルフォの姿を見つめながら、ぽつりと呟いた。

 

「あれから8年も経つのに……あの馬鹿の体力と、放ってくる『熱』、全然衰えないわよね。……むしろ、子供たちと遊んで汗ばんでるあの姿を見るだけで、私……お腹の奥が、ぎゅって熱くなるっていうか……」

 

凛は、無自覚に自らの太ももをきゅっと擦り合わせた。

 

愛する夫であり、子供たちの父親。だというのに、彼の太く逞しい腕や、無邪気な笑顔の裏にある絶対的な『オスの引力』に触れるたび、彼女たちの魔術回路の芯は初夜の時のように甘く疼き、ドロドロに溶かされてしまうのだ。

 

「ええ……わかりますわ、遠坂。私も、あの方の足音を聞くだけで、子宮の奥が甘く痺れて……今夜もまた、あの激しい熱で私の中をぐちゃぐちゃに満たしてほしいと、理性が叫んでしまうのですから」

 

アイリスフィールもまた、自らの豊かな胸元に手を当て、情欲に濡れた赤い瞳でアストルフォを見つめ返した。

桜やルヴィア、オルガマリーたちも、無言で深く頷き、頬を火照らせている。

 

彼女たちは、妻になっても、母になっても。永遠に、アストルフォという太陽に焦がれ続ける「恋するメス」のままなのだ。

 

「やあやあ! みんな、お待たせ! 愛歌ちゃんたちの特製ランチができたって!」

 

アストルフォが、両腕に子供たちを抱えたまま、テラスへと駆け上がってきた。

彼から放たれる、汗と太陽の匂い、そしてむせ返るようなフェロモンに、ヒロインたちの呼吸が一斉に熱を帯びる。

 

「パパ! ごはんー!」

「今日はお庭でピクニックですわ!」

 

子供たちが元気いっぱいにテーブルへと向かっていく。

 

「さあ、みんなでご飯にし……」

 

アストルフォが極上の笑顔で言いかけた、まさにその時だった。

 

『――ピンポーン』

 

エーデルフェルト別邸の、強固な魔術防衛結界に守られているはずの正面ゲートのチャイムが、なぜかごく自然に、軽やかに鳴り響いた。

 

「……え? 結界の警報が鳴ってないわよ。誰かの魔力パスを登録したお客様?」

 

凛が不思議そうに眉をひそめる。

 

「あら、今日は兄上(Ⅱ世)も時計塔の会議のはずだけど……。メイドたち、ゲートを開けて確認してくれるかい?」

 

ライネスの指示で、セラがモニターを確認し、首を傾げながらゲートのロックを解除した。

 

数分後。

庭園の入り口から、静かな足音が近づいてきた。

 

「主の導きにより、この迷える子羊たちの園に祝福を。……まったく、探しましたよ。こんな魔力と愛欲の匂いが充満した屋敷に、あの方がいらっしゃるとは」

 

現れたのは、修道服に身を包んだ、銀色の髪と黄金の瞳を持つ極めて美しい女性――カレン・オルテンシアだった。

神聖な出で立ちでありながら、その瞳の奥にはどこか底意地の悪い、人を食ったような冷たい光が宿っている。

 

「聖堂教会の……シスター? なぜ、こんなところに」

 

青子が警戒して立ち上がり、ヒロインたちも一斉に魔術回路を起動させかけた。

 

しかし。

全員の視線は、カレンの顔ではなく、彼女の腕の中に抱かれている『小さな存在』へと釘付けになった。

 

カレンの腕の中で、スヤスヤと眠っている2歳くらいの幼児。

その子の髪は、見間違えようのない、鮮やかな『桜色(ピンク)』。

そして、微かに開いた瞳の色は、アストルフォと全く同じ、美しい『紫水晶(アメジスト)』だったのだ。

 

「……え?」

 

凛の声が、裏返った。

 

「ち、ちょっと待って……。その子……まさか……」

 

桜が、顔面を蒼白(あるいは極度の混乱で真っ赤)にして震え上がる。

 

カレンは、ヒロインたちの絶望的(?)な視線を一身に浴びながら、一切の感情を交えない平坦な声で、とんでもない爆弾を投下した。

 

「ええ。ご推察の通りです。……以前、私が悪魔憑きの祓魔任務で深手を負い、路地裏で倒れていた時。どこからともなく現れたこの桜色の騎士様が、私を助け、そして一晩中、その『規格外の愛』で私の冷たい身体を温め、癒やしてくださいました」

 

カレンは、抱いている赤子の頭をそっと撫でた。

 

「これは、その夜に授かった主からの贈り物。……神に仕える身でありながら、あの方の狂おしいほどの愛撫に理性を白く焼き切られ、朝まで嬌声を上げてしまった懺悔は済ませております。……本日は、この子の父親に認知と、莫大な養育費を請求しに参りました」

 

「なっ……」

「な、ななななっ……!?」

 

テラスにいた十数名のヒロインたちの顔が一瞬にして凍りつき、直後、般若のような(しかしどこか呆れ果てた)修羅の顔へと変貌した。

 

「あんたって馬鹿はァァァァッ!! 私たちがちょっと目を離した隙に、教会のシスターにまで手を出してたのォォォッ!?」

 

凛が絶叫し、クッションをアストルフォに向かって全力で投げつける。

 

「い、いつの間に……っ! わたくしという妻がいながら……っ! (でも、あの方の底なしの体力ならあり得ますわ……っ)」

 

ルヴィアが頭を抱え、アイリスフィールや桜、オルガマリーたちも「もう……アストルフォさんったら……っ」と顔を赤くして崩れ落ちている。

 

阿鼻叫喚の嵐。

しかし、その修羅場の中心にいる桜色の騎士は、全く悪びれることなく、むしろ瞳をキラキラと輝かせてカレンの元へと駆け寄った。

 

「わあーっ!! ボクの赤ちゃんだ!! すっごく可愛い!! カレン、わざわざ連れてきてくれてありがとう!!」

 

アストルフォは、カレンが請求書を突きつける隙も与えず、彼女の細い腰ごと、赤ん坊を力強く抱きしめた。

 

「ひゃうっ……!?」

 

カレンの平坦だった仮面が、一瞬で崩れ去った。

久々に触れる、火傷しそうなほどの圧倒的な体温と、鼓膜を直接犯す甘い声。

 

「アストルフォ、様……っ。あ、私は、養育費の交渉に……っ」

「カレンも、今日からボクたちの家族だね! さあ、みんなで一緒にお昼ごはん食べよう!」

「んんっ……ぁ……っ」

 

修道女としての冷たい理性は、彼の放つむせ返るようなオスのフェロモンの前に、わずか数秒でドロドロに溶かされ、カレンの黄金の瞳は瞬く間に情欲の涙で潤んでしまった。

 

「……はぁ。もう、本当に……どうしようもないわね、うちの旦那様は」

 

その光景を見て、凛はついに怒る気力も失い、呆れたように笑い出した。

 

「ええ。でも……だからこそ、私たちはあの方から永遠に離れられないのですわ」

 

アイリスフィールがクスリと笑い、桜やルヴィア、すべてのヒロインたちが、呆れながらも極上の幸福感に満ちた笑顔を咲かせる。

 

「パパー! ごはん冷めちゃうよー!」

 

イリヤや美遊たちが、元気な声で呼んでいる。

 

「今行くよー! カレンも、新しい赤ちゃんも、みんな一緒に行こっか!」

 

エーデルフェルト別邸の春の空に、底抜けに明るい笑い声がどこまでも高く響き渡る。

 

一人の規格外の騎士がもたらした、無限の熱量と肯定感。それは、すべての因縁を溶かし、理を超え、これからも際限なく愛と命を増やし続けていく。

決して終わることのない、極限まで甘く、そして狂おしいほどに幸せな『愛の城』の日常は、これからも永遠に続いていくのだった――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。