fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
窓から差し込む青白い月光が、乱れたシーツと二人の絡み合うシルエットを滑らかに照らし出していた。
遠くから微かに聞こえる地中海の波音すら、今の青子には遠い別世界の出来事のように思えた。耳に届くのは、すぐ耳元で落ちるアストルフォの荒い吐息と、自分の口からとめどなく溢れ出す、甘く熱を帯びた声だけだ。
「あっ……んっ、はぁっ……! アストル、フォ……っ!」
ベッドに沈み込む青子のしなやかな裸身は、幾度となく死線を潜り抜けてきた武闘派の魔法使いとしての洗練された筋肉のラインと、一人の成熟した女性としての豊かな曲線が同居する、息を呑むほどに美しいものだった。
しかし、その滑らかな肌のあちこちには、過去の激戦を物語る微かな傷跡が残っている。青子は無意識のうちに、その痕から彼の視線を逸らそうと身をよじった。
『魔法使い』としての呪われた宿命の証。こんな男の傷のようなものを、美の結晶のような英霊に見られたくなかった。
だが、アストルフォの行動は、青子のちっぽけな羞恥心をいとも容易く叩き割った。
「隠さないで、青子」
彼は青子の両手首を片手で優しく、しかし絶対に逃げられない力でふわりと頭上に縫い留めた。
そして、月明かりに照らされた青子の脇腹に残る古い傷跡へと、躊躇うことなくその滑らかな唇を落としたのだ。
「あっ……! そ、こは……汚いから、見ないで……っ」
「汚くないよ。ちっとも」
傷跡を愛おしむように舌先でなぞり、ちゅっ、と吸い付く。
その瞬間、青子の背筋を強烈な電流のような快感が駆け抜けた。
「ひゃっ……あ、んんっ……!」
「これは、キミが今まで一人で、一生懸命に世界と戦ってきた証だ。……痛かったね、青子。一人で、ずっと寂しかったね」
ぽつりと落とされたその言葉に、青子の瞳から再び大粒の涙が溢れ出した。
痛かった。辛かった。逃げ出したかった。でも、誰も『蒼崎青子』にそんな泣き言を許してはくれなかった。彼女自身も、絶対に弱音を吐かないと心に鋼の鎧を着せていた。
その鎧の継ぎ目を、彼はあまりにも純粋な愛情で、いとも簡単に溶かしてしまった。
「……っ、あんたって奴は、本当に……! ずるい、ずるいわよ……そんな風に、言われたら……私っ……」
「ずるくていいよ。今夜は、キミのその強がり、全部ボクが甘くして溶かしてあげるから」
アストルフォの顔が上がり、涙で濡れた青子の瞳を真っ直ぐに射抜いた。
紫水晶の瞳の奥で揺らめくのは、無邪気な少年の面影を完全に捨て去った、一人の強烈な『オス』の情欲と独占欲だった。
彼は拘束していた青子の手を解放すると、彼女の指先に自分の指を深く絡ませ、十指をきつく結び合わせた。
「んんっ……ふぁ……ぁ!」
再び重なり合う唇。今度は、先ほどまでの優しさとは違う。
アストルフォの熱い舌が、青子の口腔の柔らかな粘膜を容赦なく蹂躙し、彼女の甘い唾液を貪り尽くす。息を吸い込む隙すら与えられないほどの深く野蛮な口付けに、青子の脳髄が甘く痺れ、視界がチカチカと明滅する。
彼のがっしりとした胸板が、青子の豊かな胸の膨らみに直接押し付けられる。人間離れした英霊の途方もない体温と、張り詰めた筋肉の硬さが、青子の柔らかな肌を直接擦り上げる。
皮膚と皮膚が密着し、擦れ合うたびに生じる甘美な摩擦。
「あ、はぁっ……! あ、熱い……っ、あんたの、全部……すごく、熱くて……っ!」
「青子……キミの中、ボクの熱でいっぱいになってる……。すごく柔らかくて、いい匂いがするよ……っ」
アストルフォの大きな手が、青子の腰の滑らかなカーブをなぞり、そのまま引き寄せるように強く抱き込んだ。
二人の身体の隙間が完全にゼロになり、青子の最も熱を帯びた秘所に、彼自身の圧倒的な熱の塊が、布の隔たりすらなく直接押し当てられる。
「ひっ……! あ、あぁっ……! だめっ、そんなに強く、押し付けられ、たら……私っ……!」
「だめじゃない。青子も、こんなに震えてる。……ボクのこと、欲しいんでしょ?」
意地悪く、けれど極上に甘い声で耳元に囁かれ、青子の理性の糸は完全に焼き切れた。
『第五魔法』の使い手としての威厳も、世界を放浪する魔術師としての矜持も、今の彼女には何一つ残っていなかった。ただ、目の前にいる、自分を丸ごと肯定し、底知れぬ愛で満たしてくれるこの美しい騎士のすべてが欲しかった。
「……ええ、そうよ。欲しいわ。あんたのせいよ、アストルフォ……私を、ただの女にした責任……」
青子は涙と汗に濡れた顔で、艶然と微笑んだ。それは、最強の魔法使いが見せた、生涯で最も無防備で、最も色香に満ちた『メス』の顔だった。
「朝まで……絶対に、私を離さないで……っ!」
「――望むところだよ、ボクの青子っ!!」
青子の懇願を合図に、アストルフォは彼女の身体の奥深くへと、その途方もない熱と存在のすべてを叩き込んだ。
「あぁぁっ……!! あ、アストルフォ……っ!! んんっ、あぁっ……!」
南欧の小さなホテルの角部屋。
月明かりの下、激しく軋むベッドの音と、二人の肌が打ち据えられる卑猥な水音、そして魔法使いの少女が今まで決して上げたことのない、泣きじゃくるような甘い嬌声が、夜の闇にどこまでも濃密に溶け込んでいった。
青子の心の中に巣食っていた終わりのない孤独は、彼がもたらす圧倒的な快楽と熱の奔流によって、跡形もなく白く塗り潰されていったのだった――。