fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
豪華な天蓋付きのベッドの中。
最高級のシルクのシーツに包まれながら、玲瓏館美沙夜は、自らの隣でスヤスヤと無邪気な寝息を立てる桜色の髪の騎士の寝顔を、熱を帯びた瞳で見つめていた。
(……信じられない。この私が、出会って数日も経たない男の腕の中で、こんなにも満ち足りた朝を迎えることになるなんて)
美沙夜は、そっと自らの首筋に触れた。そこには、昨夜彼によって執拗に刻み込まれた、所有印とも呼べる無数の赤い痕が熱を持っていた。
ほんの昨日まで、彼女は完璧な魔術師であり、玲瓏館を背負う気高き令嬢だった。すべてを計算し、利用し、自らの足元に跪かせる。それが彼女の生き方だったはずだ。
だが、あの夜。自らが用意したゲストハウスのホールで、彼に腕を掴まれ、その瞳に見つめられた瞬間から――私の世界は完全に狂ってしまった。
***
(回想)
『ミサヤの身体、すっごく震えてる。……寒いの?』
自らが仕掛けた結界も、毒も、すべてが彼という「太陽」の前に児戯のごとく無効化されたあの瞬間。
アストルフォに腰を抱き寄せられた私は、もはや魔術を紡ぐことすらできず、ただ彼の放つ圧倒的な体温と、むせ返るようなオスのフェロモンに呼吸を奪われていた。
『こ、来ないで……っ。私は、玲瓏館の……っ』
虚勢だった。使い魔を通じて疑似体験してしまったあの甘い毒が、本物の熱として直接肌に触れたことで、私の魔術回路は完全にショートし、ただ彼を求める本能だけが子宮の奥底で暴れ狂っていたのだ。
『ミサヤ、お顔が真っ赤だよ。お仕事のお話なんてやめて、ボクといっぱい遊ぼう?』
気がつけば、私は自らの足で立つこともできず、彼に軽々とお姫様抱っこされていた。
『ひゃああっ!?』
『あらあら、美沙夜さん。貴女も随分と素直になられたのね』
『ふふっ、お姉ちゃん。あの方の熱に触れれば、どんなお嬢様でも一瞬で『ただの女の子』になってしまいますわ』
遠坂、エーデルフェルト、間桐(桜)。私と同格、あるいはそれ以上の権力を誇る彼女たちが、まるで私の無様な敗北を歓迎するかのように、クスクスと艶やかな笑い声を上げてついてくる。
ゲストハウスの奥、VIP用の巨大な寝室。
ふかふかのベッドに降ろされた私は、逃げ出そうとするどころか、彼の腕が離れてしまった瞬間に訪れた「強烈な寒さ(喪失感)」に、無意識に手を伸ばしてしまっていた。
『だめ……っ。こんなの、おかしい……っ。私、は……っ』
『ミサヤの黒いドレス、すっごく綺麗だけど、今は邪魔だね。……ボクの熱、直接いっぱいいっぱい教えてあげる』
彼のがっしりとした手が、私のイブニングドレスの背中のファスナーをゆっくりと滑り下ろした。
空気に晒された素肌に、彼の手のひらが直接触れる。
『んひぃッ……!! ぁ、ああっ……! アストルフォ……っ』
ただ撫でられただけ。それなのに、背筋を貫く快感は、私がこれまで培ってきた魔術の理論も、令嬢としての矜持も、すべてを真っ白に焼き切るのに十分すぎた。
『ミサヤ、すっごくいい匂い。ボクに触られて、身体の奥がキュって鳴ってるよ』
彼の顔が近づき、私の敏感な耳たぶを甘噛みし、そのまま首筋へと熱い口付けを落としていく。
『あぁぁっ……! ぁ、はぁっ……! だめ……っ、遠坂たちが、見ているのに……っ』
『見られてもいいじゃない。私だって、最初の夜はこんな風に、彼にドロドロに溶かされたんだから』
遠坂が、ベッドの端に腰掛け、情欲に濡れた瞳で私を見下ろしている。
『ええ。美沙夜さん、貴女のその意地っ張りな仮面が剥がれ落ちていく顔……とても可愛らしくてよ』
ルヴィアゼリッタが、私の太ももをそっと撫でながら、彼と同じように甘い熱を伝えてくる。
ああ、そうか。
私はこの時、完全に理解した。彼女たちがなぜ、あれほどまでに彼に狂わされ、恥辱を捨てて愛を乞うメスへと成り下がったのかを。
彼がもたらすのは、ただの快楽ではない。
「キミは、玲瓏館のお姫様なんかじゃなくて、ボクの世界で一番可愛いミサヤだよ」という、存在そのものを全肯定する、底なしの愛と熱量。
重圧に耐え続けてきた私の心の一番脆い部分を、彼は容赦なく、そしてとてつもない優しさでこじ開け、愛という名のマグマで満たしていくのだ。
『アストルフォ……っ。私、を……っ、もっと、貴方の熱で……っ。頭の中、ぐちゃぐちゃになるくらい……っ』
私は自らドレスを脱ぎ捨て、彼の広い胸板にすがりついた。
『うん……! ミサヤの冷たいところ、全部ボクが温めてあげる!』
その後の記憶は、白目を剥きそうになるほどの快楽と、彼の甘い匂い、そして遠坂たちと共に彼を貪り合うという、背徳的で極上の幸福の波に何度も何度も呑み込まれたことしか覚えていない。
***
(現在)
「……んんっ? ミサヤ、もう起きちゃったの?」
不意に、隣で寝ていたアストルフォが目をこすりながら起き上がり、私を背後からすっぽりと抱きしめた。
「ひゃうっ……!」
彼の朝の体温が、私の背中から直接流れ込んでくる。昨夜あれほど愛し合ったというのに、彼に触れられただけで、私の身体は再び条件反射のように甘い蜜を溢れさせ、彼を求めて疼き始めてしまった。
「ア、アストルフォ……っ。まだ、朝よ……っ」
私は顔を真っ赤にしながら、しかし彼に抱かれた腕を解こうとはせず、むしろ自らの柔らかな身体を彼に押し付けた。
「だって、ミサヤのお肌、すっごくツルツルで気持ちいいんだもん。……それに、ミサヤも、ボクのこと欲しがって、お腹の奥がトクトク鳴ってるよ?」
彼の手が、シーツの下で私の胸の膨らみを下からそっと揉み上げる。
「あぁっ……! ぁ、あ……っ! だめ……っ、貴方という人は、本当に……っ」
「あら。美沙夜さん、もう朝練の開始かしら? 抜け駆けは許しませんわよ」
隣の巨大なベッドスペースから、目を覚ましたルヴィアや遠坂、桜たちが、艶やかな笑顔を浮かべてこちらへ這い寄ってくる。
「……ふふっ。いいわよ。私だって、もう玲瓏館の当主としての顔なんて、このベッドの上では思い出すこともでないもの」
私は、完全に敗北と幸福を受け入れた極上のメスの顔で微笑み、アストルフォの首に腕を絡ませて、自らその熱い唇を奪いにいった。
東京という大都会の喧騒から完全に切り離された、この甘く狂った愛の城。
私は、この規格外の王子様の圧倒的な熱に永遠に繋がれ、彼なしでは生きられないヒロインとして、この先もずっと、彼にドロドロに溶かされ続けるのだ――。