※この作品はR-18です。

fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ   作:鰻天ぷら

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外伝 フィリア編②

澄み切った青空の下、はちみつ色の石造りの家々が遠くに見える、コッツウォルズのなだらかな緑の丘。

かつてアイリスフィールがアストルフォの圧倒的な熱に触れ、初めて「感情」と「女としての情欲」を知ったその思い出の場所に、今日は豪奢なピクニックシートが広げられていた。

 

「……ふふっ。何度来ても、ここは本当に美しい場所ですわね。ロンドンの屋敷で桜様たちとお茶会をするのも好きですが、たまにはこうして、四人だけであの方を独占するのも……悪くありませんわ」

 

純白のワンピースに身を包んだアイリスフィールは、芝生の上にゆったりと横座りし、自らの膝の上にアストルフォの頭を乗せて、愛おしそうにその桜色の髪を撫でていた。

彼女の赤い瞳は、兵器としての冷たさなど微塵も残っていない。ただ愛する男の温もりを全身で感じ、その幸せにドロドロに浸りきった、極上の妻の顔だった。

 

「 アイリスフィールの膝枕、すっごく柔らかくていい匂いがする! 太陽の下でお昼寝なんて最高だね!」

 

アストルフォは、アイリスフィールの豊かな太ももに頬をすり寄せ、無邪気な笑顔で目を細めている。

その顔が動くたびに、彼の熱い吐息がアイリスフィールの薄いワンピース越しに太ももの内側へと吹きかかり、彼女の魔術回路の芯を直接くすぐった。

 

「んっ……ぁ……っ。アストルフォ様……っ。そんな風に、お顔を動かされたら……私、こんな明るいお外なのに、お腹の奥が……きゅって、疼いてしまいますわ……っ」

 

アイリスフィールは、頬をほんのりと桜色に染め、堪えきれない甘い吐息を漏らした。

 

「ア、アイリスフィール様っ! いくら私たちしかいないとはいえ、お外でそのような……っ、はしたないお声は……っ!」

 

少し離れた場所で、サンドイッチの入ったバスケットを開けていたセラが、顔から火が出るほど赤面して抗議する。

しかし、彼女自身の声も、どこか上擦って熱を帯びていた。

 

「セラ、お顔が真っ赤だよ。お日様に当たって暑いの? こっちおいで、ボクが汗拭いてあげる!」

 

アストルフォが、アイリスフィールの膝から身体を起こし、セラに向かって両手を広げた。

 

「ひゃうっ……!? い、いえ、私はお世話係ですから、そのような……っ!」

 

セラは慌てて後ずさろうとしたが、その背中を、いつの間にか後ろに立っていたリーゼリットがドンと押した。

 

「……セラ、素直じゃない。アストルフォ、私も。ぽかぽか、ほしい」

 

リーゼリットは、セラをアストルフォの胸の中へと突き飛ばすと、自分もごく自然な動作でアストルフォの背中側に回り込み、コアラのようにぴたりと抱きついた。

 

「わぷっ! リズ、ナイスキャッチ! セラも、おいで!」

 

アストルフォは、胸の中に飛び込んできたセラの細い腰をがっしりと抱き留め、背中のリーゼリットごと、三人を一つの熱の塊に巻き込んでしまった。

 

「あぁっ……! アストルフォ、様……っ」

 

ドン、と胸板にぶつかった瞬間、セラのエプロンドレス越しに、彼の火傷しそうなほどの圧倒的な体温が流れ込んでくる。

鼻腔を犯す、むせ返るような薔薇の香りと、濃密なオスのフェロモン。

 

「セラ、いつも真面目にお世話してくれてありがとう。……でも、ボクの前では、ただの可愛いセラでいいんだよ」

 

至近距離で交差する視線。彼のアメジストの瞳に見つめられ、甘い声で全肯定された瞬間、セラの「メイドとしての良心」は音を立てて崩れ去った。

 

「あ……ぅ……っ。私……っ、貴方の、その熱がないと……もう、夜も眠れないくらい、おかしくなってしまって……っ」

 

セラは完全に足の力を失い、自ら彼の首に腕を絡ませて、情欲に潤んだ瞳で彼の唇を求めた。

 

「うん! セラの冷たいところ、ボクがいっぱいいっぱい温めてあげる!」

 

青空の下、アストルフォの熱い唇が、セラの震える唇を深く塞ぐ。

 

「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ」

「……アストルフォ、私にも。熱いお口、して」

 

背中のリーゼリットも、甘い声で彼におねだりをし、アイリスフィールはそんな彼らを、自らも胸の奥を激しく疼かせながら、最高に幸せそうな笑顔で見つめていた。

 

感情を持たなかったアインツベルンのホムンクルスたちが、一人のオスの熱量によって、完全に理性を溶かされた雌として快楽と愛情を貪り合う。

それは、コッツウォルズの美しい自然の中で咲き誇る、極限まで甘く、淫らな光景だった。

 

***

 

「はぁーっ、お弁当すっごく美味しかった! 桜たちが作ってくれたサンドイッチ、最高だったね!」

 

ピクニックシートの上で、アストルフォが満腹のお腹をさすりながら大の字に寝転がる。

アイリスフィールたちも、彼の匂いと熱に存分に満たされ、乱れた服を直しながら柔らかな微笑みを浮かべていた。

 

その時だった。

アストルフォが、ふと寝転がったまま、小首を傾げて風の匂いを嗅いだ。

 

「……ん? なんだろう、この匂い」

 

彼はむくりと起き上がり、丘の下の方――風上に向かって紫水晶の瞳を細めた。

 

「どうなさいました、アストルフォ様?」

 

アイリスフィールが不思議そうに尋ねる。

 

「……なんかすっごく、冷たくて、寂しい匂いがする。お花の匂いじゃない。……誰か、泣いてるみたいな……」

 

野生の直感、あるいは、助けを求める者を絶対に見逃さないシャルルマーニュの騎士としての本能。

アストルフォは、立ち上がると、迷うことなく風が吹いてくる丘の斜面へと駆け出した。

 

「アストルフォ様!? 急にどうされたのですか!」

「待って、アストルフォ! 私たちも行く!」

 

アイリスフィールたちも慌てて立ち上がり、彼を追って緑の草原を駆け下りる。

 

丘の斜面を少し下り、背の高い草花が生い茂るくぼみに出たところで、アストルフォはピタリと足を止めた。

 

「……あ」

 

後から追いついたアイリスフィールたちが、彼に重なるようにしてその視線の先を見た瞬間、全員の息がハッと詰まった。

 

そこには、緑の草花に埋もれるようにして、一人の少女が倒れ伏していたのだ。

土に汚れた白い衣服。土気色に青ざめ、ピクリとも動かない華奢な身体。

そして何より、その色素の薄い髪と、魔力枯渇によって極限まで冷え切った生体反応は、アイリスフィールたちにとって、あまりにも見覚えのあるものだった。

 

「嘘……。あの子、まさか……私たちと同じ、アインツベルンの……!?」

 

セラが、信じられないものを見たように口元を両手で覆う。

 

「……魔力、ほとんどない。すごく、冷たくなってる」

 

リーゼリットが、倒れている少女(フィリア)の側に駆け寄り、その手首に触れて青ざめた。

 

ホムンクルスが、アインツベルンの城外で魔力枯渇を起こす。それはすなわち、機能停止(死)を意味している。

なぜ彼女がこんな異国の地に一人で倒れているのか。疑問は尽きなかったが、アイリスフィールの脳裏には「冷たい城の掟」が過った。

 

(城から逃げ出した不良品……? アハト翁なら、絶対に見捨てて放置するはず……)

 

だが、彼らはもう、そんな冷酷な掟に縛られた人形ではない。

 

「アストルフォ様! この子、早くしないと魔術回路が完全に死滅してしまいますわ!」

 

アイリスフィールが叫ぶより早く。

 

「大丈夫! ボクが絶対に助ける!」

 

アストルフォは、躊躇うことなくフィリアの冷え切った身体を抱き起こし、自らの広い胸板の中へとすっぽりと包み込んだ。

 

「あ……」

 

かすかに、フィリアの口から乾いた吐息が漏れた。

 

「キミ、すっごく冷たいね。一人で、いっぱい怖い思いしたんでしょ? もう大丈夫だよ。ボクが、キミのこと温めてあげる」

 

アストルフォは、自らの魔術回路を全開にし、彼が持つ「規格外の生命力」と「火傷しそうなほどの圧倒的なオスの熱量」を、フィリアの冷え切った身体へと直接、大量に流し込み始めた。

 

それは、枯れ果てた大地に、激しく、甘い熱帯のスコールを降らせるような行為。

 

「んっ……ぁ……ぁあ……っ」

 

意識を失っていたはずのフィリアの身体が、ビクンッと大きく跳ねた。

彼女の停止しかけていた魔術回路のコアに、アストルフォの純度百パーセントの熱とフェロモンが叩き込まれ、強制的に再起動させられていく。

 

孤独と虚無の中で冷たく死んでいくはずだった少女の心に、絶対的な太陽の光が、容赦なく、そしてとてつもない優しさで差し込み始めていた――。

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