fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
コッツウォルズの美しい緑の丘。
冷たい土の上に倒れ伏し、魔力枯渇によって命の灯火が消えかけていたフィリアの身体を、アストルフォの太く逞しい腕がすっぽりと包み込んでいた。
「キミ、すっごく冷たいね。一人で、いっぱい怖い思いしたんでしょ? もう大丈夫だよ。ボクが、キミのこと温めてあげる」
アストルフォは、フィリアの華奢な背中と膝裏に腕を回して自らの広い胸板に密着させると、自身の持つ無尽蔵の生命力である陽根――純度百パーセントのオスの熱量と魔力を、彼女の干からびた魔術回路へと一気に、かつ優しく流し込み始めた。
「んっ……ぁ……ぁあ……っ」
意識を失っていたはずのフィリアの身体が、ビクンッと大きく跳ねる。
それは、ただの魔力供給などではない。冷徹なアインツベルンの城で『兵器』として作られ、誰の温もりも知らずに生きてきた彼女の冷たい身体の奥底(コア)へ、太陽そのもののような圧倒的な熱の塊が直接叩き込まれたのだ。
「あぁっ……! ぁ、はぁっ……!」
フィリアの土気色だった頬に、瞬く間に赤みが差し始める。
アストルフォから注ぎ込まれる魔力は、むせ返るような薔薇の香りと、彼女のホムンクルスとしての理性を真っ白に焼き切る強烈なフェロモンを伴っていた。凍りついていた血流が沸騰するように巡り始め、彼女の下腹部から、今まで感じたことのない『強烈な快感と疼き』が全身の神経を駆け巡る。
「アストルフォ様……っ。もう少し、ゆっくりと……っ。干からびた回路に貴方の熱を注ぎすぎると、その子の理性が吹き飛んでしまいますわ……っ」
アイリスフィールが、ハンカチでフィリアの額に浮かんだ汗を拭いながら、心配そうに(しかし、かつての自分も同じように彼にドロドロに溶かされたことを思い出し、頬を赤く染めながら)声をかけた。
「うん! でも、この子、お腹の奥がすっごく冷え切ってたから。……いっぱいいっぱい、温めてあげないと」
アストルフォの顔がフィリアの首筋に近づき、その熱い吐息が彼女の産毛を直接撫でる。
「んんひぃッ……!!」
フィリアの喉から、人形らしからぬ、ひどく艶めかしく無防備な悲鳴が漏れた。
彼女の指先がピクピクと痙攣し、無意識のうちに、自らを犯す(満たす)その圧倒的な熱源であるアストルフォの服の胸元を、ギュッと強く握りしめる。
「……よかった。魔力のパス、完全に繋がった」
リーゼリットが、フィリアの脈を確認し、安堵の息を吐く。
「本当に……。もしアストルフォ様が見つけてくださらなければ、この子は冷たい土の中で……。同じ故郷で作られた姉妹として、到底見過ごせませんわ」
セラもまた、涙ぐみながらフィリアの冷たかった手をさすっていた。
やがて。
致死量とも言える熱と愛情を注ぎ込まれたフィリアのまぶたが、微かに震え、ゆっくりと開かれた。
「……あ……れ……?」
ぼんやりとした視界。
冷たくて、暗い死の淵にいたはずだった。
しかし、彼女の目に最初に飛び込んできたのは、見たこともないほどに透き通った紫水晶(アメジスト)の瞳と、世界中の光をすべて集めたような、極上の笑顔だった。
「やあやあ! お目覚めだね! ボクはアストルフォ! キミ、お名前は?」
「……っ」
フィリアは、自分がその見知らぬ青年の胸の中にすっぽりと抱き抱えられていることに気づいた。
背中からも、太ももからも、彼のがっしりとした筋肉の感触と、火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。逃げ出そうにも、身体の奥深くまで彼の匂いと魔力で完全に満たされ、腰の芯が甘く痺れて力が入らない。
「あ、貴方、は……。私、は……死んだ、はずじゃ……っ」
フィリアの声は掠れ、ひどく頼りなかった。
「死なせないよ! だってキミ、すっごく綺麗で、可愛い女の子だもん! ボクがキミのこと、見つけてあげたんだから!」
アストルフォは、迷うことなく彼女の存在そのものを全肯定し、大きな手でフィリアの頭を優しく撫でた。
「かわいい……女の子……?」
フィリアの赤い瞳が、信じられないものを見るように見開かれる。
自分は、聖杯の器。不要になれば捨てられる、ただの道具。
そんな自分を、この人は真っ直ぐに見つめ、「可愛い女の子」だと言ってのけたのだ。
「……貴女のお名前は?」
不意に、アストルフォの背後から、同じ赤い瞳と銀の髪を持つ、圧倒的な女の艶と母性を纏ったアイリスフィールが顔を覗かせた。
「……あ。貴女、は……私と、同じ……」
「ええ。アイリスフィール・フォン・アインツベルンです。……もう大丈夫よ。貴女は、世界で一番温かくて、優しい王子様に見つけてもらったのだから」
アイリスフィールは、聖母のような微笑みでフィリアの頬に触れた。
「……フィリア……。私の名前、は……フィリア、です……っ」
自分と同じはずのホムンクルスが、どうしてこんなにも人間らしく、幸せそうに、愛に満ちた顔をしているのか。フィリアの論理回路は完全に混乱していたが、アストルフォの胸の温もりだけが、彼女にとって唯一の「絶対的な現実」としてそこにあった。
「フィリアっていうんだね! すっごくいいお名前! さあ、ここはお外で少し肌寒いから、ボクたちのお家に行こう!」
アストルフォは、フィリアをお姫様抱っこしたまま軽々と立ち上がった。
「ひゃうっ……!」
身体が宙に浮き、彼への密着度がさらに増す。フィリアは落ちないように、反射的に彼のがっしりとした首に腕を回してしまった。
「あ、あの……降ろして、ください……。私、自分の足で……っ」
「だめ! フィリアはまだお腹の奥がトクトク鳴ってるし、足も震えてるでしょ。ボクがしっかり抱っこしててあげるから、安心して身を任せてね」
「あ……ぅ……っ」
彼の言う通りだった。彼の腕の中から出れば、またあの凍えるような虚無と孤独に戻ってしまう。それが恐ろしくて、フィリアは抗う言葉を失い、自ら彼の胸板に顔を埋めるようにしてすがりついてしまった。
***
数十分後。
アストルフォたちは、コッツウォルズの美しい村の奥にひっそりと佇む、豪奢なマナーハウス(英国貴族の古いカントリーハウスを改装した高級宿)へと到着した。
ここはかつて、アイリスフィールがアストルフォと初めて夜を共にし、冷たい人形から「彼なしでは生きられない女」へと完全に作り変えられた思い出の場所だった。
「さあ、着いたよ! フィリア、ベッドに寝かせてあげるね」
案内された最高級のスイートルーム。
天蓋付きのふかふかのベッドに、アストルフォはフィリアをそっと降ろした。
シーツの柔らかい感触に包まれても、フィリアの身体はまだ微かに震えていた。彼女の視線は、ずっと自分を抱きしめて熱を与え続けてくれていたアストルフォの腕を、名残惜しそうに追ってしまう。
「……セラ、リーゼリット。フィリアの汚れた服を着替えさせてあげて。温かいスープもお願いね」
アイリスフィールが手際よく指示を出す。
「はい、アイリスフィール様。……フィリア、怖がらないで。私たちも、貴女と同じアインツベルンのホムンクルスよ。今は、あの方に……身も心も捧げた、家族だけれど」
セラが、優しく微笑みながらフィリアの服のボタンに手をかける。
「……っ。あの方、は……あの熱い人は、一体……何者、なのですか……?」
フィリアは、セラたちに身体を預けながら、部屋の奥でアイリスフィールと楽しそうに笑い合っている桜色の騎士の姿を、熱を帯びた瞳でじっと見つめていた。
「アストルフォ様はね、私たちの『すべて』よ」
アイリスフィールが、ベッドの側に歩み寄り、フィリアの手を優しく握った。
「使命も、悲しい運命も、冷たい身体も。……あの方の腕に抱かれれば、すべてが甘く溶けてなくなってしまうの。貴女も、彼が与えてくれた熱で、もうとっくに気づいているはずよ? 自分のお腹の奥が、彼を求めて疼いてしまっていることに」
「あ……っ」
図星を突かれ、フィリアの顔が恥じらいと情欲で真っ赤に染まる。
魔力供給という名目で叩き込まれた、あの常軌を逸したオスのフェロモン。彼女の純潔な回路は、すでに彼の匂いを完全に記憶し、もっと深く、もっと激しくその熱で満たしてほしいと、女としての本能を悲鳴のように上げ続けていた。
「キガエ、終わった。フィリア、可愛い」
リーゼリットが、純白の清潔なネグリジェをフィリアに着せ、満足そうに頷く。
「お着替え終わった!? フィリア、すっごく似合ってるよ!」
アストルフォが、ベッドの側に飛び乗るようにして近づいてきた。
「ひゃっ……!」
彼が近づいただけで、ネグリジェ越しの素肌がピリピリと熱を帯びる。
「まだ手先が少し冷たいね。……大丈夫、今日はボクが、朝までずっと一緒にベッドに入って、フィリアのこと温めてあげるからね」
アストルフォは、極上の笑顔でとんでもないことを宣言し、フィリアの華奢な身体をシーツの上から再びすっぽりと抱きしめた。
「あぁっ……! 騎士、様……っ。だめ、です……私、そんな風に、優しく……されたら……っ」
コッツウォルズの静かなマナーハウス。
冷たい運命から逃げ出し、孤独に死を待つだけだった少女は、圧倒的な熱と愛情の前にすべての防壁を破壊され、自らその甘い快楽の沼へと、音を立てて堕ちていこうとしていたのだった――。