fate/Apocrypha偽書 千人斬りのアストルフォ 作:鰻天ぷら
主寝室の重厚なマホガニーの扉を、オルガマリーは音を立てずに押し開けた。
分厚い絨毯が敷き詰められた広大な空間。その最奥にある天蓋付きの防音ベッドルームから、微かな寝息と、むせ返るようなオスの熱気が漏れ出している。
先程までここで、凛たちがどれほど激しく愛されていたのか。その甘い残り香が、オルガマリーの鼻腔をくすぐり、彼女の下腹部をきゅっと収縮させた。
一歩、また一歩。
裸足の裏から伝わる床の冷たさとは裏腹に、彼女の身体は媚薬の香水と極度の緊張で、芯から沸騰しているように熱かった。
天蓋のカーテンをそっと開ける。
そこには、シーツを腰に半ば掛けたまま、仰向けで微睡むアストルフォの姿があった。
激しい情事を終えた後だというのに、彼のがっしりとした胸板は力強く上下し、疲れを知らない圧倒的な生命力を放っている。汗ばんだ肌が、間接照明のわずかな光を浴びて艶めかしく光っていた。
「……ん? 誰……?」
気配を感じ取ったのか、アストルフォがゆっくりと紫水晶の瞳を開けた。
薄暗闇の中、ベッドの傍らに立つ銀髪のシルエットを認める。
「オルガマリー? どうしたの、こんな夜中に。……怖い夢でも見た?」
その、底抜けに優しく、どこまでも「幼い妹」を案じるような無邪気な声。
かつての彼女なら、その声に甘えて彼の腕の中に潜り込み、頭を撫でてもらうだけで満足していた。冷酷な父・マリスビリーに見捨てられ、魔術の道具としての価値すら失いかけていた空っぽの自分を、ただ無条件の愛で満たしてくれた彼。
でも、今は違う。
「……お兄ちゃんじゃ、ありません」
オルガマリーは、震える声で紡いだ。
「え?」
「お兄ちゃんじゃなくて……アストルフォ様。……貴方に、会いに来ました」
オルガマリーは、決意の炎を宿した金色の瞳で彼を見つめ返し、震える足でベッドの上へと這い上がった。
柔らかいマットレスが沈み込む。彼女は、起き上がろうとしたアストルフォの広い胸板に両手をつき、そのまま彼を仰向けに押し倒すようにして、その逞しい腰の上に跨った。
「オルガ、マリー……?」
驚きに目を丸くする彼の上で、オルガマリーが羽織っていた薄いガウンが、肩から滑り落ちた。
現れたのは、雪のように白い素肌と、それを妖艶に締め付ける漆黒のシルクランジェリー。豊かに成長した胸の膨らみが、浅い呼吸に合わせて艶かしく上下している。
同時に、首筋と太ももの内側に仕込まれたエーデルフェルト秘伝の香水が、彼女自身の甘い体臭と混ざり合い、濃厚な雌の香りとなってアストルフォの鼻腔を直接甘く撫でた。
「わあ……。オルガマリー、すっごくいい匂い。それに、そのお洋服……」
アストルフォの瞳に、わずかに「男」としての色が混じり始める。至近距離で見下ろしてくる彼女の姿が、もはや守るべき子供ではなく、彼を誘惑する一人の美しい女であることを、彼の本能が正確に読み取ったのだ。
「……私、もう子供じゃありません」
オルガマリーは、彼のがっしりとした胸板に触れた両手から、火傷しそうなほどの熱が逆流してくるのを感じながら、必死に声を張り上げた。
「……父様に捨てられて、泣いていたあの日の私じゃない。……時計塔の講義だって、誰よりも優秀な成績を修めているわ。……身体だって、もう、立派な大人よ……っ」
「うん。知ってるよ。オルガマリーは、すっごく綺麗で賢いお姫様になったね」
「だったら!」
オルガマリーの瞳から、ポロリと熱い涙がこぼれ、アストルフォの胸に落ちた。
「だったら、どうして私を女として見てくれないの……っ! 皆が貴方に抱きしめられて、甘い声を出して、貴方の子供を宿していくのに……どうして私だけ、いつまでも『可愛い妹』のままなの……っ!」
彼女の心の底に澱のように溜まっていた、焦燥と嫉妬。そして、それ以上に大きすぎる彼への愛。
彼女は自ら顔を近づけ、アストルフォの熱い吐息がかかる距離で、情欲に濡れた瞳で彼を見つめた。
「私を、抱いて……っ。貴方のその熱で、私の中の冷たいところを全部、溶かしてよ……っ。私を、貴方なしじゃ生きていけない『女』にして……っ!」
電撃的で、不器用で、悲痛なほどの告白。
その真っ直ぐな想いを真正面からぶつけられ、アストルフォは一瞬だけ目を瞬かせた。
そして、彼の唇に、これまで彼女に向けていた「お兄ちゃん」としての笑顔とは全く違う、ひどく甘く、そして危険なオスの笑みが浮かんだ。
「……そっか。オルガマリーは、もうボクのお嫁さんになる準備、すっかりできちゃってたんだね」
アストルフォの大きな手が、彼女の細い腰を左右からがっしりと掴んだ。
「ひゃうっ……!」
彼の手のひらから放たれる圧倒的な体温が、シルクの生地を容易くすり抜け、オルガマリーの素肌へと直接流れ込んでくる。
「ずっと、大切に守ってあげようと思ってたのに。……こんなにすっごく甘い匂いさせて、ボクの上に跨って……誘ってきたのは、オルガマリーの方だからね?」
「あ……っ、アストルフォ……様……っ」
彼の手が、腰から背中の滑らかなラインをなぞり、ランジェリーのホックのあたりをじっとりと撫で回す。
ただそれだけの接触。しかし、今まで「兄」としてしか触れてこなかった彼の手が、明確な情欲と独占欲を伴って自らの肌を愛撫しているという事実が、オルガマリーの脳髄を強烈な快感で焼き切っていく。
「オルガマリーの身体、ボクに触られて、すっごく熱くなって震えてる。……ボクの熱、奥まで届いてる?」
「届いて、ます……っ。あぁっ……貴方の手が、私を……っ」
彼の紫水晶の瞳が、至近距離でオルガマリーを甘く、深く絡め取る。
アストルフォは、彼女の腰をぐっと引き寄せ、自らの熱く硬い中心を、彼女の最も熱を帯びた秘所へと服越しにぴたりと押し当てた。
「んんひぃッ……!! ぁ、ああっ……!」
オルガマリーの全身を、未体験の甘い電流が突き抜けた。彼女は完全に腰の力を失い、自らアストルフォの逞しい胸板へと崩れ落ちる。
「ボクも、ずっと我慢してたんだよ。……オルガマリーが大人になって、ボクの胸に飛び込んで来てくれるの。……ボクの世界で一番気高くて可愛いお姫様、頭の中が真っ白になるまで、いっぱいいっぱい愛してあげる」
アストルフォの熱い吐息が、オルガマリーの敏感な耳たぶを直接掠め、ちゅっ、と音を立てて柔らかな皮膚を吸い上げた。
「あぁぁっ……! ぁ、んんっ……!! だめ、そんなところ……っ、私、おかしく……っ」
初めて知る、本物の雄の熱と、彼から注がれる果てしない愛欲。
オルガマリーの理性はすでにドロドロに溶け去り、彼女は自ら背伸びをして、アストルフォの熱い唇を求めて震える唇を重ねようとしていた。
「んんっ……!! ぁ……っ、んちゅ……っ、ふぁ……っ」
重厚な扉の向こうで、少女が完全に大人の女へと生まれ変わる濃密な夜が、今まさに幕を開けようとしていた――。