※この作品はR-18です。

月姫 -Re:Birth Saint Grail-   作:HAOSU

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「(琥珀色の毒茶を淹れながら)……ようこそ、離れの地下へ。
本作品は、型月の『ぬるい幸せ』を事象破却(デリート)するために産み落とされました。
120本の回路、断面図レイヤー7枚、そして琥珀による120並列の飼育。
ハーメルンの深淵を歩む貴方の脳を、0.1秒で焼き切るために用意された劇薬です。
さあ、一緒に、終わらない『お茶会』のスペア(ジェネリック)になりましょう♡」


第1話:『事象の産声 ―120の杭、あるいは母の胎内―』

視界が、不快な虹色のノイズに爆ぜた。

 網膜の裏側に、見たこともない複雑な幾何学模様が、神経を焼き切りながら刻み込まれていく。熱い。脳漿が沸騰し、頭蓋骨の内側から「自分」というデータが溢れ出しそうな圧迫感。少年は、自分の悲鳴すらノイズに掻き消される無機質な空間で、初めてその眼を開いた。

「……あ、あ、がっ……!!」

 背骨の裏側、120本の「杭」が一本ずつ打ち込まれるような激痛。

 それは、彼がこの世界に産み落とされた証――魔術回路120本の強制起動だった。

 魔術の知識など、彼には一切与えられていない。ただ、身体を流れる魔力が「暴力」として肉体を内側から損壊させていく。剥き出しの神経が、通常の7倍の感度で絶望を拾い上げる。

「あらあら……。ようやくお目覚めですか、消失(きゆる)さん」

 鼓膜に直接注ぎ込まれるような、ねっとりと甘い、けれど逃げ場のない声。

 視界のノイズが晴れた先、そこには「完璧な笑顔」を浮かべたメイド服の女性が立っていた。彼女が手にするティーカップからは、安らぎと、それ以上の「毒」を予感させる薬草の香りが漂っている。

「……琥珀、……さん……?」

「ええ。貴方の、たった一人の『管理者』ですよ。……さあ、最初の責任(意味深)を取りに行きましょうか」

 琥珀が細い指先で消失の頬をなぞる。その指は氷のように冷たく、けれど消失の120本の回路は、その接触を「全能の支配」として演算した。

 連れて行かれたのは、血の臭いが染み付いた地下の実験場。そこには、かつて「人間」だったはずの肉塊が、不自然な角度で転がっていた。事象が破損し、生と死の境界線を失った情報のバグ。

「消失さん。貴方の右目には、この世界の『汚れ』を消し去る力があります。……さあ、あそこにいる『バグ』を、消して(破却して)ください」

 消失は、反射的に右目のリミッターを外した。

『事象破却の魔眼(アイリス・デリート)』、起動。

 120本の回路が、一斉にショートするような閃光を放つ。脳内に表示されるのは、無機質なカウントダウン。

【残り時間:00:05】

 一秒。視界に入るすべての物質が、断面図のようなレイヤーに分解される。

 二秒。消失は、目の前の「肉塊」を構成する内包歴史を120並列で読み取った。誰の娘だったか、何を愛していたか。そのデータが、通常の7倍の密度で脳を焼く。

 三秒。本人の意志とは無関係に、回路が演算を完了する。

 四秒。グチャリ、という「音」すら発生しない。

 対象はノイズとなって、世界から「瞬時に」消失した。

 五秒。世界が暗転する。虹色の光が消え、消失の右目からは鮮血が滴り落ちた。

「……はぁ、……はぁ……!!」

 消失は膝をつき、激しく嘔吐した。

 魔術知識のない彼にとって、回路の全稼働は文字通りの自傷行為だ。剥き出しになった回路が皮膚を焼き、右腕の肉が7倍の密度で爆ぜ(グロ)、断面からは焼け焦げた神経の束が露出している。

「よくできました、消失さん。これで世界は、少しだけ『綺麗』になりましたよ」

 琥珀が歩み寄り、消失のズタズタになった腕を、迷いなく素手で掴んだ。

 悲鳴を上げる暇もない。彼女の指先から流し込まれる「お薬」が、消失の痛覚を麻痺させ、同時に精神を深く、深く曇らせていく。

「……消失さん。明日、また新しいジェネリック(腕)が届きますよ。……今度の貴方の肉体は、もっと丈夫だといいですね♡」

 琥珀の笑顔は、この世で最も美しく、そして最も救いがない。

 少年の意識は、甘い薬草の香りに包まれながら、深い、深い、ノイズの海へと沈んでいった。

 

 

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