2人で過ごした大事な思い出のある場所を巡る
2人で手を繋いで歩いた公園
色々あった映画館
そして学校
その全てをゆっくりと周りかつての幸せを噛み締める
「もう終わりにしなきゃな」
覚悟を決める
無気力のまま学校に通っていて部活もろくに行けていない
木崎からも顔色を心配されない日がないし腫れ物を見るような目で周りから見られる生活にポキリと心が折れる音が明確に聞こえた
俺──矢凪暁人──は家を出ることに決めた
未練はある
でももうどうしようない
今はただ俺の事何も知らない場所に行きたい
だから全て捨てて遠くに行くことに決めた
着の身着のまま学校帰りに思い出巡りをした後に
最後に静かに家へ帰り両親への手紙とコト姉への緑の紙と指輪をテーブルの上においておいた
コト姉の両親にも謝罪の手紙を書きポストへ入れておいた
「さよなら、コト姉」
家を出てどのくらい経っただろうか電車に揺られ北へ向かうとそこは一面銀世界だった
「さむ!」
薄着のまま家を出てきたのであまりの寒さに身体が震える
それでもどこかスッキリした気持ちでフラフラとあてどなく慣れない雪道を歩く
「いってぇぇ〜〜」
と大きな悲鳴が聞こえる
慌てて声の方を向くと腰を抑えて疼くまる中年の男性がいた
「だ、大丈夫ですか!?」
駆け寄り声をかけると
「す、すまねぇ雪かきしてたら腰やっちまった……」
イツツと目の端に涙を浮かべるおっちゃんに
「と、とりあえず救急車呼びましょう!!」
とスマホを取り出そうとするが
家に置いてあった事を思い出す
「く、おじさんケータイもってる!?」
「あ、ああ、それとおじさんじゃねぇお兄さんと呼べガキンチョ」
「そんな冗談言えるんなら大丈夫そうだな」
そんなやりとりをしつつお兄さんのケータイを借り救急車を呼ぶのだった
「いやぁ悪いな、助かったよ兄ちゃん!」
鎮痛剤を打ち一先ず痛みが落ち着いたお兄さんはがははと豪快に笑いながら俺の肩を叩く
「痛いっすって、まあなんとか無事で良かったです」
じゃあと言い病院を後にしようとするも
「おい! 兄ちゃん! 見ねぇ顔だけどこの辺の奴じゃないだろ」
「ええ、まぁ」
「それにしてもその格好、風邪ひくぞ? 上着はねぇのか?」
「はい」
田舎特有の距離の近さに内心びびりつつも答えると
「正気か? 泊まる場所は?」
「これから探そうかと」
「おいおい……雪国舐めてんのか? 死ぬぞ?」
真面目な顔で言われてちょっとちびりそうになるが
「まぁその時はその時です」
まぁどうでもいいかなと返す
「はぁ!?」
心底驚いた顔で改めて俺の顔をまじまじと見るお兄さん
「あんた、名前は?」
「矢凪暁人です」
「暁人、お前うちに来い」
「え?」
「決まりだ」
いきなりの言葉に目を白黒させていると何やら廊下からバタバタと音が聞こえる
「お父さん!!」
「あなた!!」
飛び込んで来たのは母娘だったようだ
「おう、心配かけて悪りぃな」
片手を上げ元気そうに笑うお兄さん
「もー心配させないでよお父さん!」
「全くですよ……」
「……」
気まず! しれっと今のうちにと
「丁度いいや、紹介する今日から畑の手伝いで雇うことになった矢凪暁人だ。訳ありで住み込みで雇うことになったからよろしくな」
「「「は!?」」」
「きゅ、急に何言ってんの!? てか誰?」
「あ、すみません通りすがりです」
「はぁ?」
「今回救急車呼んでくれて助けてくれた奴だ」
「それを先に言ってよ!!」
「言わなかったか?」
「言ってない!」
仲良し過ぎてびっくりだ
「まぁ、この度は主人が大変お世話になったみたいで」
「あ、いえいえ俺は救急車呼んだだけですから」
母さんくらいの歳の人からペコペコと頭を下げられるとどうも落ち着かない
「矢凪さんでしたか? それでこれからどうするおつもりで?」
「とりあえずブラブラ宿を探そうかと思ってます」
あんまりお金も無いし安い場所探さないとな
「え?」
「あらまぁ大変! とりあえずうちにいらっしゃい」
「はい?」
「外見てみろ暁人」
促されるまま外を見ると
ビュオーー‼︎!
「わぁ……」
雲が暗いなぁなぁとは思っていたがまさかここまでの吹雪になっているとは思わなかった
「この中で歩いて宿探す気か?」
「死ぬよ?」
「直球」
この親にしてこの娘ありか
「まぁこっから先どうすっかは明日以降決めればいい」
そう言うと椅子からゆっくりと立ち上がる
「あ、急だと危ないですよ」
それを見て身体が反射的に動く
「おう、ありがとう」
「ー」
素直に礼を言われたのなんかいつ以来だろ
「……じゃこっちよ」
娘さんの後をついて車に乗せてもらい一先ず今日は厄介になる事に決めた
お兄さん──範馬 勇次さん──の家へお邪魔すると
「すぐに夕飯温めるから待っててね」
とお母さん──範馬 咲さん──がパタパタとスリッパの音を立ててキッチンへ向かう
「あ、手伝うよ母さん」
娘さん──範馬 愛──さんがその後をついていく
それを見送りつつ勇治さんを定位置らしい椅子へ座らせる
「ありがとな」
「いえいえ」
「んで、暁人お前いま幾つなんだ?」
「1○です」
「なんだまだ酒も飲めねぇ歳かよ」
「ええまぁ」
そう言いながら勇治さんは戸棚を開け酒瓶を取り出
「とりあえず今日はつきあ「あなた?」すみませんでした」
そうとしたがすぐにしまった
弱! と言うか咲さんが思ったより強い!
「暁人はどっから来たんだ?」
「○○の方から」
「はあ? なんでそんなとこから? どうやって」
「青春切符使って鈍行でひたすらあてどなく乗ってたらたまたま雪が見えて」
そうただの気まぐれだ
「お前……真面目そうな顔してなかなかファンキーな奴だな」
面白いものを見つけたかのように笑う勇治さん
「はーい、ご飯あったまりましたよ!」
「お、今日は鍋か! いいねぇやっぱ「あなた?」なんでもないです」
天丼かよと心の中でツッコミを入れつつ
目の前にドンと置かれた御馳走にびっくりする
「もしかしてアンコウですか?」
「あらよくわかったわね? ○○のほうだと珍しいんじゃなかったかしら?」
「ええ、でもテレビで何度かコトねッ」
懐かしい記憶が出てきそうになるもそれより先に喪失感で胸が埋め尽くされる
「??」
「……いえテレビで何度かみて美味しそうだなと話していたので印象に残っているだけです」
「なーに辛気臭い顔してんだ暁人! んな時はほれ!!」
取り皿もつと豪快に鍋の具を掬い盛り付けると目の前に置き
「美味いもん食って腹一杯にすりゃ元気も出るぞ! 遠慮せず食え!」
「──それ私が貰ってきた奴だけどね」
先程から空気のように一言も発さずマイペースに鍋をつついていた愛さんがボソリという
「え? 愛さんが?」
「うん、ちょっと友達のお父さんがたまたま貰ったけど食べきれないからってお裾分けしてくれたの」
「なるほど」
「んな細けぇこたぁ良いんだよ取り敢えず食え」
「は、はぁ……いただきます」
色々と心の中でツッコミすぎて疲れてきたのでとりあえず目の前の御馳走に遠慮せずかぶりつく事にした
瞬間口いっぱいに広がる魚介の旨みの暴力に
「うっま!!」
口から感想が癖で勝手に言葉がでてきてしまうが
とりあえず何も考え無いようにしながら食べ進めるのだった
夜皆が寝静まった頃外の雪も落ち着き今は怖いくらいの静けさしかない状態となった
ふとした瞬間によぎるコト姉の事
その度に沸き出てくる喪失感と吐き気
「おぇ」
っと我ながら汚い声と共にせっかくの御馳走が栄養となる前に口から出てしまう
「久々に楽しかったんだけどなぁ」
どうしても何をしても消えない記憶のせいで体重がみるみるうちに落ちていってしまっていた
「とりあえず今のうちにと」
荷物をまとめまた少なくなった荷物と幾らかのお礼の気持ちをテーブルに置き
「ありがとうございました、お邪魔しました」
「──何してるの?」
家から一歩出ようとした瞬間静かだった世界に音が響く
「……愛さん?」