札と札、重ねて【裏】 作:哀馬SAM
後半は蛇足なファイトだよ
休日の朝。
アラームに頼らず自分のタイミングで起きるちょっと贅沢な始まり。
なのだが今日は何故か身体が重い。
視線を布団に向けると何やら人間一人分盛り上がっている。
「……はぁ」
布団を捲るとやはり、そこには一糸まとわぬ姿のカドさんが僕の上で穏やかな寝息を立てていた。
あの日以来、彼女はそこまで頻度は多く無いが理由をつけて僕の家に泊まるようになった。
なぜ同じベッドで寝ているのかはまぁ……あの日彼女にベッドを譲って自分はソファで寝たら朝には俺の上にいたんだよね。
それからは僕はカドさんの為にもベッドで寝るようにしている。
……あと時々言葉巧みに流されて行為も。
付き合ってもいない男女が何度も同衾は流石によろしく無いだろうし、そろそろ腹を括らなければならないだろう。
「……カドさん。起きてください」
「──ぅぅん……すぅ……すぅ……」
そっと彼女の肩を揺らす。
いくら揺らしても起きる気配がしない。
彼女が退かない限りベッドから出られないためどうしようか悩む。
叩き起こすにはなんか申し訳ないし……。
考えているうちに、俺の上で寝ていたカドさんが身じろぐ。
「……もうあさか? だんなさ……む?」
「……おはようございます、カドさん」
瞼を擦りながら起き上がる彼女の顔を覗き込む。
しばらく見つめ合うが、何故かカドさんは顔を赤くして顔を逸らした。
「そ、そんなに見つめられると困る……」
「えっと……ベッドから出たいので退いてくれますか?」
ムッとした表情でカドさんはすぐに俺を睨むとそのまま抱きついてくる。
急な彼女の行動に驚いて勢いのまま押し倒されると、そのまま俺は彼女に唇を奪われた。
「……んむ……ぷはっ、ん……」
これで何度目だろう。
と言うか今のカドさんは全裸だから目に悪いな。
生理現象としての朝勃ちが本格的な臨戦態勢になってきている。
多分今回もこのまま流れでしてしまうだろう。
「なぁ……」
「ダメです」
思わず反射で断ってしまった。
彼女のとろんと溶けたような目を見れば言いたいことは大体わかる。
「んむっ!!」
「──むぐっ!?」
俺の返答が望んでいたものではなかったためか、彼女は再び俺の唇を塞いだ。
先ほどよりも舌を絡ませてくる。
ただ、体格差故か、全力で吸っている様だがその力は弱い。
だから簡単に返り討ちにできる。
途中からカドさんは俺の方を叩いて離して欲しいと訴えかけてくるが、それを無視して続ける。
「……ぷはっ……はぁ……はぁ……」
やっと解放されて彼女は俯いて肩で息をしているた。
初めのうちは彼女に好きな様にされていたが、今だとテクニックを覚えてここまでできる様になっちゃったんだよね。
「そんなに睨まなくても……と言うか恨むなら俺にやり方を覚えさせた自分を恨んでくださいよ」
悔しそうにこちらを睨んでくる彼女に、どうしてか湧き上がる不思議な感情がある。
キスだけで腰が砕けた彼女を優しくベッドに押し倒す。
「だ、ダメでは無かったのか?」
期待に満ちた上目遣いの表情で彼女はこちらを見上げている。
俺よりも遥かに歳が上の女性が、今はただの少女にしか見えなかった。
「嫌でしたか? ならここまでにしておきますね」
「ま、待て! だ、誰も嫌だとは言っておらん!」
カドさんは俺の手首を掴む。
俺を見る目が潤んでいて、余裕の無い慌て様だ。
「俺、本当はするつもりじゃ無かったんです。でも……もう我慢できないですよ、カドさん」
「ま、まだ吾のこ、ここ、心の準備が──」
カドさんに覆いかぶさると、彼女の小さな身体は俺の影に収まってしまった。
大きく見開かれた赤い瞳を眺めながら挿入の準備をする。
彼女の割れ目に指が触れた瞬間、俺は思わず手を引いた。
その時。糸を引く感触が微かにあった。
「……もう濡れていますね」
俺がそう言うと彼女は恥ずかしそうに視線を逸らす。
痛くならない様に解そうと思ったが、必要なかったみたいだ。
届く範囲に隠し置いておいたコンドームの箱から一つ取り出して装着しようとする。
「あ、吾がお前さんの魔羅にゴムを着けてやろう……」
一瞬だけ彼女から視線を外した瞬間彼女が俺の耳元で囁いた。
そして手探りで受け取ったコンドームを装着させてくれる。
手探りだったため、終わるまで焦ったさがあったが、それは後でお返しすれば良いだろう。
それに、小さな手がぎこちない動きで……と言うシチュエーションに興奮を覚えている自分がいる。
「それじゃ……そろそろ挿入れますよ」
「ひゃうっ!?」
あえてカドさんの耳元で囁く。
何度も彼女と行為を重ねていると自然と弱いところは覚えてしまう。
例えばさっきやった通り、カドさんは耳元で囁かれると良い反応をしてくれるし、あとは首筋を舐めたりすると……。
「あうっ♡」
これもまた、可愛らしく鳴く。
それに中の方も、膣の中間あたりの、いわゆるGスポットと呼ばれる箇所を責められるのが好きなようだ。
現にそこを突くたびに彼女の膣がキュッと強く締め付けてくる。
「や、やめっ♡ そこ……っ♡ を゛じゅ、重点にっ♡ 突くなぁ……あっ♡」
「でも好きですよね?」
締め付けが強くなる分こっちも限界が来るのが早くなるから、休憩も兼ねてあえて手前で止める。
すると今度は物欲しげにこちらを見つめる様になった。
「……どうかしました?」
わざとらしく質問をすると、カドさんは頬を紅く染めながら視線を俺から逸らす。
重点に突くなと言われたからそうしただけなのに何処が不満なのだろうか。
「お、大人を揶揄うでないぞしょうね──……くぅっ♡!?」
申し訳ないけれど、毎回彼女のこう言った反応が見たくてつい、意地悪をしてしまう。
性欲旺盛の男子高校生の身体を舐めるなよ。
肉体の好みはあれど少しでもエロスを感じると勝手に溜まっていくからな。
「も、もう少しやっ♡ 優しく……っ♡」
特にカドさんは幼い見た目ながらも妖艶な雰囲気があって嫌いな男の子はいないと思う。
それに、今みたいに大の大人が余裕が無い状態であると言うシチュエーションは刺さるものがある。
断じて俺はロリコンでは無いのだけれど、たまたま興奮したのがカドさんだった。そう自分に言い聞かせながらゴム越しとはいえ、彼女の中に精を何度も吐き出す。
「ま、まだまだ元気だな……お゛っ♡ こ、こらっ♡ 何故また元気に腰を──〜〜っ♡♡!?!?」
抜いた拍子に、不意打ちで普段彼女から聞かない喘ぎ声に再び元気になってしまった。
そしてゴムを付け直してもう一度。
あの後も何度も彼女と貪り合い、気付けば時間はあっという間に過ぎていた。
寝室から洗面所へ。
洗面台には2人分のコップと歯ブラシがある。
「そう言えば随分とカドさんの私物が増えたなぁ……」
汗を流し終えた後に片方の歯ブラシを手に取って歯を磨く。
他に増えたものはタオルや洗濯用のネット、それと女性ものの衣服。
あと省エネモードでは彼女の身長は鏡に映らないほど低いので折り畳みの足場も。
「何かと少年の家の位置が便利でなぁ……」
「そうなんですねぇ……。あ、良かったらスペアキー渡しましょうか?
いらした時に僕が不在だったり寝てたりして鍵開けられなかったら大変ですし」
「っ!?」
ガタッ、と足場から落ちそうになる彼女を慌てて支える。
何か変な事を言ったかな?
「大丈夫ですか?」
「す、すまん何でもない……。そ、それで本当に吾に鍵を渡すつもりか?」
「そうですね。いつも来る時は連絡を下さるので事前に鍵を開けておいたりしてますがやっぱり防犯上不安なので渡しておいた方がいいかなと」
口を濯ぎ固まっている彼女の返答を待つ。
僕から顔をそらして考えているけれど、鏡にやや赤くなっている横顔が写っているんだよね。
「……う、うむ。ならば貰っておこう。ち、誓って変な事には使わんからな!」
「そこは大人であるカドさんを信用しているので大丈夫ですよ」
「──〜〜っ!?!?!?」
押し倒された拍子にぶつけた腰が痛い。と言うか、鍵を渡しただけで襲われるとは思わなかった。
腰が回復したカドさんと2人で朝食を摂り終えて、今日はどうしようか話し合う。
因みに今日はMeeKingは女子会だかお泊まり会だなんかでバイトはお休みである。
発端はユウキちゃんらしく、彼女の学校の友人も巻き込んで唯一の大人である店長の家に泊まるんだとか。不安が大きいけれど彼女たちなら何とかなるだろう。
何故か僕も誘われたけれど男が参加しちゃ駄目でしょユウキちゃん。
そして大会もない為今日は1日暇なのである。
「吾も今日は何もないからなぁ……」
「今日はそっちのパターンなんですね」
翌日の仕事で僕の家が近い場合か、翌日の予定が何もない場合の2択。
市長って結構多忙で休みがないイメージだったけれどここまで休めるのだろうか?
「最近の吾は“しごできうーまん”じゃからな。スケジュールの調整なぞ慣れればお茶の子さいさいだ」
ムフッと胸を張って自信満々に答える。
待って何で考えていることがわかったんだこの人。
「……まぁ、そうでなければ市長の人気が出ていませんからね」
「そうじゃ? 吾はすごいだろ?」
ふと、何となく流していたテレビに目を奪われる。
どうやら新弾が出るようで、堂々と広告されていた。
「おや、新弾がでるのか」
「みたいですね。日程は……今日じゃねぇか!?」
ま、まぁ最近は忙しかったしこういう時もあるよな。
ネットで収録されているカードの情報を調べる。
「へー、新弾で新しいテーマが出るんですね」
「どちらかと言えばテーマにした様にも見えるのぅ」
とりあえず今日の予定は決まったとカドさんの方を見ると、まだ何も言っていないのに、彼女はついて来る気満々だった。
いつのまにか着替えを済ませて期待の眼差しをこちらに向けてくる。
「……分かりました。お昼はついでに外食にします?」
「そうじゃなぁ……ついでに開封式もその時にしようか」
「ならパックゴミをまとめておくゴミ袋も用意しておきますね」
カードショップに到着する。
他のところは新弾目当てで人が溢れかえっていて入れそうになかったが、やっと見つけたこのカードショップは比較的落ち着いていた。
まぁいつもよりは人が多いのだけれど。
入店し、2人で迷わずに新弾のボックスを個数上限まで買う。
本来なら店でそのまま開封して使わないカードは売りたかったが、スペースがないのでカドさんがさっき言った通り、お昼の時に手頃なレストランで開けた方がいいな。
「開封のためのスペースが無くなるってよく分かりましたね」
「ふっふっふっ、これも経験よ」
あ、何度かあったんだな。
隣を歩くカドさんに視線を向ける。
彼女に歩幅を合わせて歩いているため、あまり景色の進みは速くないが、それでもどこか楽しい。
それに、自然と繋がれる手から感じる熱が──不意に俺の後頭部に衝撃が走る。
脳が揺さぶられて一瞬だけ視界が白くなった。
「ハァ……ハァ……。カドたん、今、僕が助けてあげるよ!!」
背後から聞き覚えのある声。
鍛えていたため倒れることはなかったがそれでも頭に響くものは響く。
「お、お前は!?」
身体が強張っているのか、男が伸ばす手から逃げられない彼女の腕を掴んで咄嗟に抱き寄せる。
隣にいてくれたおかげてすぐに男の手を回避できたが、結果、男はさらに機嫌を悪くした。
「か、カドたんを放せ! あ、あの時はこの男に言わされてたんだよね! ぼ、ぼぼ僕がこんなやつ懲らしめてやる!!」
「何の話だよ」
「……すまん。此奴に諦めて欲しくて以前に放った言葉が逆効果だった」
ボードを構えて殺意を向けてくる。
男はアンティに敗者は勝者への服従を宣言して以前よりも濃い闇を広げた。
「カドたんを洗脳するなんて許せない……!! 僕のターン!!」
男は聞く耳を持たずにターンを開始する。
使用しているデッキは……場に出てきた幻獣は<無垢なる法 ローリッタ>……って事は<
現状のプールで考えうるデッキは【ロリコン】か【ロリコンビート】か【
カドさんへの執着から薄々思っていたけれどこいつのデッキからしてそういった嗜好の持ち主なのだろう。
咄嗟にセットしたデッキがアレで、プロのファイターの彼女に見せるには不安だが何とかなるだろう。
「しょ、少年、気を付け──」
「大丈夫ですよ。勝ちに行くんで」
ターンが進み、ライフはある程度減ってしまったが着実に俺のデッキは復号へと向かっている。
相手の場には<侮り傲る罪姫 スペルディア・ローリッタ>と<喰み貪る罪姫 グラ・ローリッタ>、<法へ迫る影
メタ効果を持つ
復号しつつ幾つか妨害札を釣り上げておいて良かった。
「俺のターン、レディ・アップキープ・ドローフェイズ」
引いたカードと色彩を確認して、このカードが通れば復号が完了する。
だから手始めに……釣り上げる。
「色彩をセットします。そしてコスト4の魔法<滅びの闇>をプレ──」
「さ、させるわけないだろ!! コスト3、瞬間魔法<遍く罪の法>でその効果を封じる!!」
あっさり釣れた。
今1番警戒していた魔法が使われて、この後の妨害の心配が無くなった。
「……秘宝<増殖の仕組み>をプレイ」
前のターンにセットした魔石<硝子の戦闘靴>。
1コストと手札コストで起動できる秘宝<植物戦鬼の故郷>。
場の幻獣をコストに2点のコストを得る秘宝<薪の剣火>。
そしてコントロールしている
「1コストと手札を1枚捨てて秘宝<植物戦鬼の故郷>を起動。1/1のゴブリントークンを1体生成する。
そして秘宝<薪の剣火>を起動。ゴブリントークンを薪に、2コスト得る。
コントロールしている幻獣が死亡したため秘宝<増殖の仕組み>で1ドロー」
手札を交換しつつコストを生成していく。
徐々に膨れ上がっていくコスト。
そばにいるカドさんが何か呟いた気がするが、それは後で伺えばいいか。
「──ドロー。そして墓地へ送られた<ウタの化身>がデッキに戻る」
<ウタの化身>がデッキに戻った事によってデッキが自動でシャッフルされる。
そしてこれをコストが360になるまで繰り返す。
目の前の光景が信じられないような顔をする男。
「──ドロー……はしない」
手札を使い切らせたはいいが、本番はここから。
この先は<侮り傲る罪姫 スペルディア・ローリッタ>の妨害が待っている。
相手の色彩はダメージを与えていないからそこまで多く無いが、<法へ迫る影
故に手始めに──。
「2コスト支払い<テスタロッサの墓守>をプレイ。通りますか?」
「──っ!? だ、ダメだ! スペルディアたんの効果で墓地の<色香の法>を除外して効果を適応する!」
本来は色彩2つと発動する墓地の魔法の除外なのだが、<法へ迫る影
まぁ1つは支払わなければいけないから結構考えて使わないといけないテーマなんだよな<罪姫>って。
……で、いきなりコスト4を消費したか。
「では18コスト支払い、魔石<凍れる海の底>の凍結カウンター9個を撤去」
「な、何を──!?」
本来のファイトでは感じられない冷気。
故に彼の本能を刺激したのだろう。
「カウンターの乗っていない<凍れる海の底>を生贄に捧げることにより、眠れる支配者が氷河期からの冬眠から目覚める」
「だ、ダメだダメだ!! スペルディアたんの効果で墓地の<遍く罪の法>の効果を適応する!」
「ではそれに
逆順処理により相手の無効効果を無効にして展開が通る。
まともに組むなら汎用の妨害札も入れて<嘆き哀しむ罪姫 グラヴィス・ローリッタ>も並べて立てていた筈なんだよな。
「<ク・ウルウ>という名前を持つアビス・クリーチャー・トークンを生成。
そしてこのトークンは10/10のステータスと貫通、【双撃】を持ちます」
相手の色彩はもう使えないため【
召喚酔いがあるためこのままでは攻撃出来ないがそのための<硝子の戦闘靴>だ。
「コスト1を支払い<硝子の戦闘靴>を<ク・ウルウ>に装備。これにより【速攻】を得ます。通りますか?」
「あ、ああ、あ……」
<ク・ウルウ>の巨体に圧倒されているのか、それとも放心しているのか。
しかし対応が無いようなのでこのまま決める。
「通りますね。……では【速攻】を得た<ク・ウルウ>で攻撃!!」
「ぐぁぁぁぁああああ!!!!!!」
貫通があるとはいえブロックする素振りも無く<ク・ウルウ>の拳が男に刺さった。
その衝撃が凄まじかったのか、男は尻餅をついてその後気絶する。
闇のカードらしき物を使っていた割にはプレイングがイマイチだったな。
決着がつき、デッキとボードを仕舞うとカドさんが背後から突撃してくる。
「何を無茶な事を……!!」
「っと、別に無茶なんてして無いですよ」
ふと、男の方に視線を向けると、彼のデッキが地面に散らばっていた。
俺たちを包む闇の外側がやけに騒がしいが、それよりも気になるものが目に入る。
地面に散乱したカードの裏面。
いつものLifeのカードのデザインではない。
俺の袖を掴むカドさんと一緒に落ちているカードを拾うと、それが裏面に鎖のような柄が描かれたスリーブだと分かる。
「これは……」
「スリーブですね」
しかし、何故が少しずつ薄れてきている気がする。
中身のカードには傷はない様だ。
「……巷で噂になっていやカードとの共鳴を強制させるスリーブじゃなこれは」
「え、そんな物があるんですか」
カドさんはスマホを取り出してスリーブを撮影すると、いつも持ち歩いているのか真空パックの小袋に入れて回収する。
そしてやっと闇が晴れると、警察と大勢の野次馬に囲まれていた。
現場には失禁している意識の無い男とカドさん、そして俺の3人。
俺と彼女との関係性が無さすぎる。
「ここは吾に任せておけ」
俺の焦りを察知したのか、カドさんは小さな声でそう言うと知り合いであろう警察の人と話し始めた。
その間、部下と思われる人たちは散らばったカードを回収している。
「ご無事ですか、常盤市長」
「吾は問題ない」
「ところでそちらの青年は……?」
「この少年は吾の“ぼでぃーがーど”だ。そうじゃろフツオ?」
そう言いながら彼女はチラリとこちらを見て話を合わせるよう合図する。
だから変な事を口走らないように俺は無言で軽くお辞儀をするだけにした。
私服でもいわゆるオフィスカジュアルと呼ばれる様な雰囲気の服を着ておいて正解だった。
まぁ、カドさんが選んだ服なんだけど。
「そうだったのですね。ではそちらに倒れているのが……」
「そう言う事じゃな。……っと、そろそろ時間が惜しいな。詳しい話は後日でも構わんか?」
カドさんはわざとらしく時間を確認してこの場を離れようとする。
警察も特に引き止める理由がないからか、すんなりと解放してくれた。
しばらく歩いて俺たちはレストランに入った。
途中でライフが結構削られていた為心配されたが、たかがライフが減っただけでファイトが出来なくなるほど気雲流の道場でやわな修行を受けていないと答えておいた。
「……ところで先ほどお前さんが使っていたデッキなんじゃが」
「あー……エニグマの事ですね」
注文した料理が運ばれてくるまで早速パックを開封していると、向かいに座っている彼女からエニグマの話題を持ち出される。
一旦開封する手を止めて彼女の方を見ると、彼女も開封の手を止めて俺をじっと見ていた。
「“えにぐま”……嗚呼、
どうやらカドさんはエニグマに興味がある様子。
ならばここは布教も兼ねて解説してみるか……?
「まだまだ不完全なデッキですけどね」
一旦剥いたパックがらやカードを退けてエニグマを広げる。
パッと見ただけではまとまりが無いように見えるカードの束。
彼女にエニグマのコンセプトとそれぞれのカードの役割を話していると、彼女が俺に向ける視線が徐々に化け物を見るようなものに変わり始める。
最終的には頭を抱えて「魔王」がどうのこうの呟いていた。解せぬ。
「──とまぁ、現状のカードプールで組めるのがこんな所ですかね」
「そ、そうか……」
説明も終わり、デッキをケースに仕舞うとちょうど注文していた料理が運ばれてくる。
パック開封の続きは食べてからにするか。
パックも剥き終え、使わないカードをカードショップに寄り道して売って帰宅。
一部のカードはカドさんが欲しそうな目で見ていたのでトレードしてもらった。
ちなみにカドさんは今夜も泊まるつもりらしい。まぁ、今日はあんなが事あったし不安だよな。
「とりあえず夕食は後で買いに行くとして……おっと」
背後から軽い衝撃が背中に響く。
視線を下に向けるとカドさんの華奢な腕が俺の腰にあった。
どうやら抱きつかれたらしい。
腰あたりには顔をグリグリと押しつけられて少しくすぐったい。
「……カドさん?」
「すまんがもう少し……このままにさせてくれ」
状況は様々だが、カドさんが僕に引っ付いてきてこう言う時はそう言う文句である。
それは何度も彼女と身体を重ねていくうちに覚えた。
……ゆえに、今夜も長くなりそうだ。
幻覚
厄介ファンはやっぱり処理しておかないとね