※この作品はR-18です。

A級冒険者パーティーの追放から始まる追走   作:鴨鶴嘴

1 / 1
第1話

 迷宮都市エーリアス──保有する異なる属性の三つのダンジョンには貴金属や古代の失われた技術の魔道具が眠っており、ベテランからビギナー冒険者の一攫千金話がごまんと聞けるこのロマンの地には、まるで誘蛾灯のように世界中の若者達をダンジョンへと駆り立てる魅力があり、一瞬の判断を誤ればその命を燃やして磨り潰す地獄の顎のようだ。

 

 そんなエーリアスで、人並みの市民程度に稼ぐことは慣れてしまえばわりと容易いことだったりする。だからこそ、深度が増すほどに徘徊する魔物達や罠が凶悪になるダンジョンの最深部まで攻略しようとする一部の冒険者は酔狂な死にたがりとしてベテラン冒険者達からは冷ややかに笑われ、華々しい生き様に憧れるビギナー冒険者達を供給する為の広告塔として扱われていた。

 

 もしも戦場で背中を預けるなら、小賢しくて華奢な美男美女よりも、負傷した仲間を脇に抱えて走れる単純で屈強な男の方がいい。ベテラン冒険者が見込みのあるビギナー冒険者がパーティーに女性を加えようとしているのを見かけたとき、気さくに食事を奢って「やめておけ」と一度だけ忠告をして、ビギナーを脱して憧れの仕事から現実に順応してきた頃に仲間への勧誘をするのは、よくある光景だったりする。

 

「クラモリ。最近のお前はどうも成長が停滞していて、戦力が俺達の水準に追いついていないとみんなが感じている。その自覚はあるか?」

 

「……それは、本気で言っているのか?俺の役割はパーティーの安全と退路の確保であって、その役割を今日まで高水準で維持してきたと自負しているよ」

 

 トントントン、と机を指で叩いて幼稚な不機嫌を意思表示して的外れなことを言うリーダーのクレインにムッとしつつも冷静に反論をしたが、正面から深いため息が聞こえた。

 

「論点のすり替えか……話にならないな。それは足手まといな現状に焦りもせず、鍛練を怠る理由にはならないだろう」

 

「そうかよ。……それで、今から俺が筋トレでもすればお前は満足なのか?」

 

「いや、それこそ今さら遅い努力だろう。俺達の間に開いた差はもう、広がることはあっても縮むことは永遠にないのは、職業による成長の格差という現実が証明しているからな」

 

 個別で話があると呼ばれた酒場、嫌な予感はここ最近の俺への態度から察していたが、クレインの発した言葉で賑やかだった酒場が、しん、と静まり返った。

 

「格差ときたか。つまりお前は、仲間である俺のことをずっと格下だと見下していたんだな?」

 

「エーリアスに来て三年が経って、ビギナー冒険者だったあの頃とはもう違うんだ。いつまでも事実から目を逸らしていたら、ダンジョン制覇を成し遂げるなんて偉業は不可能だろう。だからこそ、リーダーである俺が非情な決断をする必要があるんだ」

 

 無自覚だろうが、クレインがダンジョン制覇と口にした瞬間、酒場の空気が弛緩した。職業差別な発言にピリついていた空気は長生きは出来ないだろう夢に焦がれた若者への哀れみに変化していた。

 

 それでも、俺にとってクレインは三年も苦楽を共にした仲間だった。死地だって何度も乗り越えてきた。だからこそ、この失望は俺の声帯を震わせて、悔しくて堪えるものがあった。

 

「クラモリ、リーダーの権限によってお前をパーティーから追放する。……俺だって別に、お前のことが憎いわけじゃないんだ。これからも、同郷の友人のままでいられたら」

 

「それは無理だろ、俺とお前は対等じゃないんだから。だからもう、お互いの為にも《縁切り》だ」

 

 なんだよその顔は、俺はもう心底うんざりなんだ。肩書きがその人の性格を変えるなんて言うが、それがダブルスタンダードの免罪符になるワケが無いのに。

 

 右手の人差し指と中指を交差して、縦に振り下ろす。これが見納めになる呆けた顔のクレインがすぐに俺を見失い、自分の分の代金を払った俺は酒場を出て宿屋に帰った。

 

 英雄譚に出てくる勇者のような若者が憧れる看板的な存在でダンジョン制覇を目指す若い冒険者パーティーの育成、それがエーリアスの冒険者ギルドから個別に依頼された俺の役割だったが、たったの三年で後遺症の残る怪我も無くパーティー評価Aランクまで行けたのだから、十分すぎる成果だろう。

 

「さっきの酒場でのやりとり、見ていたぜ。あれは災難だったな。もし、働き口に困っていたら、俺達のパーティーに加入しないか?」

 

 建物の陰に背を預けていた褐色の肌に目の周りには赤い刺青、銀髪で長身の男が路地から出てきて、肩をすくめて軽薄に笑う。宿への帰り道を先回りしていたこの男を警戒する。

 

「俺はダンジョン制覇を目指している」

 

「……あー、そうなのか。ん、頑張れよな!」

 

 目の前で俺の株価が暴落しているのがよく分かる。ぎこちない笑顔でサムズアップした男はそそくさと帰っていった。

 

 それからは宿に戻って、これからのことを考えて計画を練り、買い物をしていると直ぐに日が沈んで、手配や買い物の続きをしてもう一日が潰れた。

 

「先日、Aランク冒険者パーティー【崩沫の月歌】が解散となりました」

 

「へぇ、そうなんですか。今日はギルドからの指名依頼が継続不可になったことの報告と、これまでの働きで確定した報酬を受け取りに来ました」

 

 面倒事が落ち着いて3日ぶりに冒険者ギルドに顔を出し、ビキビキ、と青筋が浮いている美人受付嬢の笑顔を面の皮の厚さでスルーして金銭を要求すると、枚数を数え終えた後に、ズドン!と金貨の入った袋を目の前に叩きつけられた。

 

「Aランク冒険者パーティーの最後がこんな結末だなんて……本当に、残念です」

 

 実際にダンジョンに潜る冒険者以外のミーハーな反応なんてこんなものかと思いつつ、袋を受け取った俺は依頼の貼り出された掲示板の前を素通りする。

 

「もう、冒険者をやめちゃうんですか?」

 

「いや、冒険者として活動する場所を変えようと思う。だから今日でサヨナラだ。元気でな!」

 

 黙っているつもりだったが、なんだかんだ三年の付き合いがある受付嬢に嘘で誤魔化すようなことでもなかったので、これからのことを話した。居合わせた顔馴染みとも簡単な別れの挨拶をして、馬車を待たせていた駅に着いてからは馭者と必要な会話をして門を出て、遠ざかる街の景色に思い出が泡沫のように浮かんでは、望んだ夢は月のように輝いていて……総括すれば、いい思い出だったなぁ。

 

 とある貴族の別荘地、オークション会場にて。

 

「21番200万が出ました!200万です!これは決定か!?」

 

「500万」

 

「おおっと、4番500万が出ました!これはもう確定でしょう!……落札です!本日の二番目はオークションでも定番となりつつある人気魔道具、性反転の鉾でしたが、4番のお客様が500万での落札となりました!」

 

 君は完全に縁を切ったつもりなんだろうけれど、《縁切り》には抜け道があることを以前に教えてくれたことがあったよね。

 

「クラモリ……無理をした君が、いつか傷つく姿を見たくなかっただけなんだよ。ごめんね。クレインはもうすぐいなくなるけど、すぐに会いに行くからね」

 

 エーリアス上空800mにて。

 

「……信じられない。一度も私の家に寄らずに、エーリアスを出るなんて」

 

 政治の道具でしかなかった私の敵を全員遠ざけてくれて、その後も自由な生き方を教えてくれて……私のことが大好きだから救ってくれたのに、素っ気ない態度で好意を必至に隠しているのが愛らしかった──けど、これはさすがに違うんじゃない?クラモリのことだから、「俺なんかじゃ……」って卑屈になっての判断なんだろうけど、あーもう!イライラするわねっ!

 

「愛してる、って言いなさいよバカッ」

 

 そうしたら、私も素直になって……いひひっ♪

 

 エーリアスの宿屋、青柳亭にて。

 

「……わふ♪ご主人様の匂いがしますぅー」

 

 半年以上同じ部屋を借りていましたので、予想は出来ていましたが……この成果は想像以上ですっ!……おお゛んっ……すぅーーっ。

 

「……お腹の毛が薄いところを、ご主人様に撫でてほしいのです……」

 

 バカのクレインがご主人様と喧嘩別れをしてざまーみろ!と思っていましたが、匂いをしっかり覚えたのでそろそろ追いかけないと!

 

「狩り遊びで追うのは得意なのです!」

 

 昂った野生の本能でご主人様を勢いで襲ってしまうかもですが……わふぅ。

 

「用意──ドンッ!!」

 

 銀色の弾丸が、大地を駆け抜ける。

 

 エーリアスの冒険者ギルドにて。

 

「ハンナ、本当に辞めちゃうの?」

 

「うん、一度冷静に考えてみたんだけど、私の経歴と能力ならどこでもそれなりの収入は得られるワケだから、もう二度と現れないかもしれない運命の人を今追いかけないことの方が後悔が大きいってことに気づいたの」

 

「……ハンナ、それって冷静じゃないよ」

 

「かもね。でも、クラモリさんはいつかダンジョンを制覇する人なのよ。有名になったそのときに、私はあの人の側で支えてあげたいの」

 

「そっか……昔から勇者フリークだもんね。分かった、本当はここにいてほしいけど……友人だもん、ハンナのこと応援するねっ!」

 

「ありがとう!生活が落ち着いたら必ず手紙を送るから」

 

 エーリアスの三つのダンジョンが交差する深淵にて。

 

「……は?キレそう。妾のお気に入りの気配がダンジョンから遠退いているんだが?ダンジョン制覇の話はどうなったのじゃ!」

 

「恐れながら申し上げます。どうやら所属する冒険者パーティーで仲間割れがあり、他の地にてダンジョン制覇を目指すようであります」

 

 褐色の肌と目には赤いタトゥー、銀髪に長身の男はその額から生える角を隠すことなく曝け出し、不機嫌な迷宮の絶対的な強者である主人に酷く怯えていた。

 

「屈辱じゃ。……お前がもっと魅力的な姿で、勧誘に成功していればこのような結果にならなかったのではないか。……違うか?」

 

「いえ、その通りでございますっ!!努力不足をお許しくださいっ!!」

 

「では、今日より男を捨てよ。そしてどんな手を使ってでも、妾のダンジョンへ連れ戻すのじゃ!」

 

「ははあっ!!」

 

 聖都リーヌ・ヴェリス、宣託の間にて。

 

『エーリアスの地より出ずる黎明ありて、その名をクラモリとすれば、迫る暗雲多し、なればこそ囲いて──ときに乙女──捧げ、安寧の地に導くであろう』

 

 これほどはっきりとした宣託を女神様より告げられたことは初めてのことで、自分が選ばれたのはただ他に適した人材がいなかっただけなのだと、このときまで信仰心の薄かった大司教は己の使命を知り、興奮を隠せないでいた。……守らねば!クラモリという世界に黎明をもたらし安寧に導く者を!

 

「人を集め、宣託の正しい解釈を検討しなくては。空白に埋まる言葉も考えましょう」

 

 ◆

 

「GARRRR……」

 

 今夜はここで野宿をすることになり、馭者の男には俺の能力を先に伝えていたので、外側から馬車を囲うように地面に枝で線を引き終える。脂の多そうな手頃な乾いた枝でも探そうと付近の森を歩いて枝を拾い集めていると、獣の唸り声を聞いて俺は素早く地面に円を描いてその内側に入る。しばらく様子をみて、倒せそうな獣なら不意を突いて倒してしまおう。

 

「GUAWOW!!」

 

「──は?」

 

 相手からこちらは見えないし、強い嫌悪感によって円の内側に入ることは出来ないはずなのに。飛び込んできた銀色の獣にマウントポジションを奪われ、首を噛まれて──死。

 

 イメージが先行して顔が青ざめて、獣の荒い呼吸の息遣いと垂れたよだれの生臭さが……既視感があった。もしかして。

 

「コハク……ここまで追ってきたのか?」

 

 その名の通りに琥珀色の瞳は瞳孔が縦に割れていて、興奮で膨らんだ銀色の毛並みは野生の獣とは思えない美しさだった。

 

 ブンブン!と振った尻尾で俺の太股を叩きながら、ペロペロと顔をなめ回してくる白狼から獣のラインが消えていき、神獣化を解除したコハクが馬乗りになっていた。

 

「ばうわう……わふぅ♪」

 

「ストップ、その姿で舐めるのは犯罪だ」

 

 神獣化しているときは大型犬とのじゃれ合いって感じだけど、普段のコハクは二人っきりのときだけ駄犬化して、みんなの前ではミステリアス(何も考えていないだけ)で小柄な銀髪琥珀眼美少女という感じなので、真っ赤な小さな舌で顔を舐められる男性という絵面は犯罪臭がかなりヤバい。

 

「ここはエーリアスの外なので、問題無いのれす♪はむはむっ、れろれろ……」

 

 この駄犬はこういうときだけ機転が回るなぁ!と思いつつ、俺の唇を甘噛みして、舌を入れてだ液を流し込んでくるコハクの目がギンギンに滾っているのを見て、マウントポジションを奪っていることで本能的に興奮しているのを理解する。

 

「落ち着けって」

 

 両手で胴体を掴んで引き剥がし、片手で頭を軽く押さえつけていると、次第に落ち着いてきた様子だった。

 

「ねぇ……ご主人様、コハクとはもう遊んでくれないの?」

 

「あーそうだな……。俺はエーリアスを出て行くけど、コハクの意思で俺について来るなら、どっちでもいいぞ」

 

「わふぅ♪コハクはご主人様に捨てられたワケじゃなかったのですぅ~♪」

 

 今日一番の笑顔でダイブするように胸に飛び込んできたコハクを受け止めるとそのまま倒れ、俺の腹の上で弾み、カクカク、と無邪気に腰をぶつけてくるのが気まずかった。

 

「駄目だと断られたら、ご主人様の子種だけは貰って故郷に帰るつもりだったのですよ。……うぅ~っ///こんなにもチャンスなのにぃ。コハクのパンパンが上手なの、ご主人様にたくさん知って貰いたいのにぃ~」

 

 服に擦り付けるようにスリスリと発汗したコハクの体からは、発情したフェロモンが分泌されているのだろう。

 

 熱っぽい潤んだ上目遣いの破壊力に、うっ……と呻きそうになる。

 

「コハクのこと、俺は勝手に妹みたいに思っていたんだ」

 

「あうわう……わふぅ♪それはとっても嬉しいのですぅ♪コハクの村では、次の族長が決まったら……。あ、いいことを思いついたのですっ!近くにコハクの生まれ育った村があるので、そこへ寄り道をしてくれるなら、ご主人様にコハクの家族を紹介したいのですぅ!」

 

 夜が明けて。

 

「……予定の変更、ですか?でしたら、すみません。向こうで大事な商談がありますので、ここでお別れとなります」

 

「いや、無理を承知で頼んだのはこっちなので、謝る必要はないです。こちらこそ、護衛も兼ねていたのに申し訳ない。違約金はきっちりと払いますので」

 

 馭者の男に払いすぎな気もしたが金貨を一枚渡して円満に別れて、神獣化したコハクの背中に乗って、その優れた脚力と風の加護で枝葉は仰け反り、森の獣道を銀の弾丸のように駆け抜けていった。

 

「お母さーーん!コハクお姉ちゃんが、外から男を連れてきたーー!」

 

「……まぁまぁまぁまぁ!やだわ、どうしましょう。化粧もしていないのに。恥ずかしいわ」

 

「え、化粧をしていないのにその美白なんですか?」

 

「うふふっ、ありがとね」

 

「おうおう!わしの嫁におべっかか?いい度胸じゃのう!」

 

「いつもお世話になっております。コハクさんとは同じ冒険者のパーティーをやらせてもらっていて、先日パーティーが解散となってしまったのですが、成り行きでその後も行動を共にすることになりまして、本日はコハクさんのご家族にご挨拶をして日頃の感謝をお伝えに参りました。こちらは心ばかりの品ですが、一瓶飲めば極寒の川に落ちても一晩生き延びるというノーマンリザードの火酒と王都で流行りの人気店で買ったブルーベリージャムの瓶詰めです。どちらも俺の《収納》空間で保管していた物ですので、安心してください」

 

「お前、お前……なかなかかなり、見所があるじゃねーか!気に入ったぞ!お前らっ、コハクの連れてきた客人を歓迎しろよ!」

 

 コハクの父親に背中をバンバン叩かれて、家に招き入れられてほっと安心する。

 

「でもよぉ親父。ソイツ弱そうだぜ?……ほら、簡単に喉笛を噛み千切れそうだ」

 

 家の中から神獣化した雄の白狼が飛び出してきて、俺からマウントポジションを取ろうとしている──その意味を理解した上で、俺は右手の人差し指と中指を交差する。

 

「《縁切り》は、したくなかったんですけどね」

 

 白狼の顎は自らの意思で空振りをして、口を開いてしばらく唖然としつつ、とてもここにはいられない気分になって立ち去っていった。

 

「あの奇妙な術はなんだ?」

 

「片手で印を結んで縁切りをすると、生物が対象の場合は俺を瞬時に見失って、近づくことが出来なくなります。大人しくする素振りを見せても、寝首をかかれてはたまらないので、念を入れさせてもらいました」

 

「なるほどなぁ……ふむ。血継因子の神獣化は無理だが、《狼人化》という秘伝の術がある。俺が稽古をつけて《狼人化》を習得出来たなら、そのときはお前を家族に迎え入れよう」

 

 コハクの父親の理知的なその様子に、俺が何に対して怒るのか、誠実さは、実力はどうなのか、さては試しやがったな?とは言わなかった。

 

「実際のところ戦闘力の低さは、今の俺の課題でした。その稽古をつけていただけるのなら、願ってもないことです。よろしくお願いします!」

 

「おうよ!自分の弱さを知っている獣は、不利な戦い方を避けるから手強いもんだ。お前の成長が今から楽しみだぜ。……まだ、名乗ってなかったな。俺の名は万殺のオウリクと言えば、戦場では誰もが震え上がったもんだ。お前、名前はなんだ?」

 

「蔵守爻助です。名前を明かすと面倒な魔術がありますので、人前ではクラモリと。コウスケとは呼ばないでいただきたいです」

 

「その名前の響き……そうか、お前があの。分かったぜクラモリ!」

 

 それからは、さっそく火酒を飲んでみたオウリクさんが「体が熱ぃっ!!」と川に飛び込んで子供達と遊び、その間に女性陣が焼き上げた菓子にブルーベリージャムが使われていたのが大好評で、子供達が小躍りを始めたのが可愛らしかった。「この焼き菓子は、花嫁修行の料理なんですよ」とコハクの母親からぼそりと言われたときは、少し肝が冷えたが。

 

 翌日から《狼人化》の修行が始まり、森の奥地で謎の白い木の実を種ごと噛み砕け!と渡されて、カリッ、と辛い味が口の中に広がって……意識が吹き飛んでいる間に狼の姿となっていた俺はオウリクさんの掌打で体が宙を舞い、砕け散った樹木の山の上に倒れて空を見上げていると、朝日が昇っていた。

 

 それが3日と続き、エネルギーが不足した体は狼と人の姿が中立となって、初めて安定した。その変化のバランスを術式として記録し、久しぶりの食事と満足な睡眠で元気を取り戻した後から種を噛み砕いても変化が中立で安定するようになった。

 

 特殊な訓練で発汗がコントロール出来るように、種無しで《狼人化》が出来れば完成だと言われたが、まったく出来る気がしない。それがある日からあっさり出来るようになっていて、毎日種を食べて狼人への変化を繰り返してきたことで、体が順応したということだろう。

 

「クラモリが《狼人化》を出来るようになったのは認めるが、《鎧爪》と《鉄牙》を使えるようにならんことには……まだまだ足りん!この程度では、白狼族の長の座を継がせるワケにはいかんな!」

 

「……白狼族の長?そんな話は初耳ですが」

 

「あ、しまったつい」

 

「はぁ……お父さん」

 

 ハードさがエスカレートしていく修行に何とか食らいついて水浴びをして飯を食って寝る日々のかつてない充足感で気づかないフリをしてきたが、族長なんて無関係なしがらみに巻き込まれそうとなれば話は変わってくる。

 

「だって、クラモリは俺が理性の無いわんこの頃から育てたんだぞ!?磨けば光るこの才覚を、他所にやるなんて……考えられん!クラモリ、お前はすでに俺の息子だァッ!!」

 

「あのオウリクに、そこまで言わせるとは……」と他家の白狼族達もザワつくようになり、「うちの年頃な娘と結婚しないか?」と言われたときにはコハクが間に入ってなんとか断ってくれたが、勘弁してくれ!と言いたくなった。

 

「クラモリさんクラモリさん、今日から七日後は白狼族にとって特別な満月の夜。ですから今晩からは、どうぞあちらの小屋で寝泊まりくださいませ」

 

 コハクの母親、アセビさんがちょいと手招いて指を指す小屋には窓がなく、暗室なのでよく眠れそうではあるな、と深く考えずに返事をすると、アセビさんがニッコリと笑みを深めた。

 

 チッ、と湿気た音が耳元でして、ぼんやりと部屋が明るくなる。戸の開く音や空気の流れの変化に気づけなかったことにショックを覚えつつ、上体を起こすと枕元に座るアセビさんが揺れる小さな火の光に浮かび上がっていた。

 

「こんなところ、オクリクさんにみられて誤解されたらまずいでしょう。……どうしてアセビさんが、ここにいるんです?」

 

「私の夫はクラモリさんを息子と呼び、他家の皆の前で次期族長の候補として認めました。……既に、求婚もされたそうですね?コハクは勝手に断ったそうですが、他家との絆を深め子を成すのは族長候補となる強き雄にとって大事な務めなのです。ですから、族長候補となる雄の家族がまず、身内で子作りの練習相手となるのが習わしなのです」

 

 するりするりと衣服が床に落ち、大きく揺れる火は俺の動揺を映す鏡のようで、三十路を過ぎても美しいうっすらと肉づきのいいアセビさんの身体の陰影が浮かび上がり、ぬらぬらと既に濡れている小陰唇を自ら押し拡げて蜜音を鳴らす指が淫らなのにどこか神秘的で。

 

 アセビさんの声に従い、手のひらに導かれるまま挿入し、ジュブッ、と肉の孔に沈む水音がして、腰を振るだけで上手だと褒められる。その余裕のある顔を曇らせたいと思ってしまって、《縁結び》の呪いを使い、男女の肉欲的な繋がりを強化する。俺が孕ませたいと願って腰を振ればその思いは相手に伝播して、逃げ場なく反響を繰り返すことで相手はそれを自分の本心かのように錯覚をするのだ。

 

 ──皆が欲しがってたクラモリくんの童貞を、こんなおばさんまんこがもらっちゃったわぁ♡やだぁ……さっきからいいところ突いてくるッお゛っ♡やべいぐっ♡出されたら絶対孕むっ♡排卵したら六つ子生まれちゃうっ♡じっくりと目を見てキスで蕩けてく顔を見せてよっ!!

 

 ──なんだこの毒電波はっ!?練習だって言ってたのに、アセビさんの方が俺の子を生む気マンマンじゃないか!

 

「あら、気づいた?これが本気の子作り交尾だって♡ほら、早く出しなさい。濃厚ザーメンだせーーっ♡」パンパンパンパン……

 

「熱っ深っ……ッ……待って」

 

「駄目よっ中に全部出すの。駄目なんだからね?出しなさいよほら、びゅーーっ、びゅーーっ、びゅーーっ」

 

 ビュルル、ビュルルルルルルルル!!

 

 ・・・・・コポォ♡

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。