ToLOVEる 生まれ変わった意味を探して 作:雪だるま2世
「わかりました、沙姫様……はい、こちらの事はお任せください……では、お父様とごゆっくり………」
日差しが照りつける中、私は沙姫様に電話で話していた。
内容は、沙姫様がお父様…劉我様と急に食事の予定ができたというもので、学校への休みの連絡をして欲しいと頼まれた。
「…今日は…暑くなりそうだな……」
その為、私は沙姫様にお仕えする必要が無くなってしまい沙姫様から″凛も自由な時間を過ごしなさい″と言われてしまった。
「…彼に…稽古をつけてもらえるだろうか…」
私の携帯の画面には″時雨優斗″と表示されている。
…急に稽古のメールをしてたら迷惑だろうか…いや彼なら、快く引き受けてくれるだろうな。
「…なんて送ればいいんだ」
好きな人にメールを送るというものが、これ程まで大変だったのだな。
私はメールの文章を考えて打つだけなのにかなりの時間を使ってしまった。
◇
~美柑side~
「っ───…あれ、優兄?」
朝、私が起きるといつも一緒に寝ているはずの優兄の姿がなく、優兄のベッドには私の他にナナさんとモモさんがすやすやと寝ているだけ…
目覚まし時計を見ても、学校までまだ全然時間がある。
…いつもなら、こんな時間に起きないはず…まさか、また誰かとデート……いや、学校だし、それはありえないか。
私はナナさんとモモさんが起きないようにベットから降りて、リビングへ向かう。
(あれ?リビングにいない…あ、いた、庭で花に水やりしてたんだ)
優兄が丁寧に花に水を上げている姿がリビングの窓から見えた。
「優──っ!?」
優兄に話しかけようとした時、一瞬だけ優兄の姿が薄ぼんやりと透明になった。
私の目の前から消えてしまうような、そんな感じがして不安になる。
「…優兄」
「美柑───」
優兄を抱きしめるように手を伸ばすと私を見て微笑んだ優兄が目の前で消えてしまった。
「…え?どこ?優兄!!」
「…ごめん、美柑」
後ろから優兄の謝る声が聞こえてくる。
「急に消えたからびっくりしたよ、優兄───え?その女の人、誰?」
私が後ろを向くと優兄の隣に知らない女の人がいた。
「…この人と付き合う事になった」
「…え?急に何言ってるの…?」
「彼女が悲しむから…もうエッチな事はしないで欲しい」
「…待ってよ…待ってよ!優兄!!」
私を置いて優兄は女の人と歩き去っていく。
私は優兄に手を伸ばして掴もうとするけど、いくら走っても優兄には届かない。
「…イヤ…イヤだよ!優兄!!」
私が叫んだ瞬間、優兄と女の人は消えて視界が暗転する。
[…やっと繋がった───あなたにお願いがあるの───]
「…え?」
知らない声が聞こえてくると同時に目を開くと周りそこは先程まで居たはずの場所ではなくて…彩南高校の校庭だった。
…ここは優兄達の学校…何でここにいるの?
「…なんでヤミさん達がボロボロになってるの?」
周りを見るとボロボロになったヤミさんやララさん達が膝を着いていた。
…何…これ…さっきからどうなってるの?優兄が知らない人と付き合ったり、みんなボロボロだったり、何が起きてるの?
「グハッ…月城……っ」
「残念だったね~その突きはもう私には届かないよ~優斗くん」
「…うそっ」
大好きな人の声がする方を向くとそこには、大好きな人の因縁の相手…月城に胸を刃で貫かれている優兄の姿があった。
「…優秀な君なら~─────っで動けなくなったタイミングで突きをしてくると思ったんだ~」
「……っ」
「読み通りだったねぇ~」
優兄の胸に刺さった刃をグリグリと回しながら、楽しそうに話す。
「精々、あの世を楽しむといいよ」
「…やめて…お願い…やめてぇぇぇ───っ!!」
私の声は届かず、優兄の胸に貫かれた刃は一気に
引き抜かれると同時に優兄は力なく地面に倒れてしまう。
「うそ…やだ…やだ…優兄!目を開けてよ!優兄!!」
地面に倒れた優兄を抱き抱えて声をかける。
抱き抱えた手につく赤い血と虚ろな目を見て嫌でも理解してしまった───優兄が死んでしまったという事に…
「嫌ァ…嫌ァァァァァァァ──────っ!!」
私は優兄の死体を抱きしめて泣き叫ぶ。
優兄はもう二度、私を見て微笑んでくれない、私と話してくれない…キスする事も…エッチする事も…一緒に幸せになる事もできない。
[…これは起こるかもしれない未来…お願い…優斗が殺されないように…目を離さないで…]
「ぇ…え?」
再び知らない声が聞こえてくると同時に抱えていた優兄が消える。
周りを見渡すと彩南高校の校庭だったはずの場所が、たくさんの小動物いて、辺りには綺麗な花が一面に咲き誇っている綺麗なお花畑になっていた。
[…私には…もう守ることができないから…あなた達にしか頼めないの…]
「あなたは…」
声の方を見るとお花畑の中心に白の綺麗な髪で修道服を着ている女性が立っている。
…綺麗な人……なんで優兄を知ってるの?それに目を離さないでってどういうこと?
[…あなた達が……私の代わりに…安心できるように頭を撫でてあげて……守ってあげて……優斗を愛してあげて……結城美柑さん…]
「なんで私の名前を───」
「───かん───み───美柑っ!!」
「…え?」
私の声を遮って、必死で私の名前を呼ぶ優兄の声が聞こえてくる。
[…優斗をよろしくね…]
白髪の女性が言った言葉を最後に私の視界は暗転した。
「美柑っ!」
私を呼ぶ声が聞こえて目を開けるとパジャマ姿の優兄がいた。
「…優兄?」
「大丈───美柑?」
「…っ…生きてる…良かったぁ…」
私は優兄を抱きしめて心臓の音を聞く。
ドクドクと正常に聞こえる心臓の音を聞いて私はあれは夢だったんだと安心して泣いてしまった。
「だ…大丈夫か?美柑」
「…美柑さん、すごく魘されていましたけど」
「……大丈夫……でも少しだけ…このままがいい」
泣きながら優兄を抱きしめた私を見て、ナナさんとモモさんが心配そうな顔で声をかける。
夢で見たあの人が誰だったか分からないけど、優兄から目を離せば、いつかあんなふうに死んでしまうかもしれない。
でも…私は高校生じゃないから、ずっと一緒にいる事ができない…夢のように知らない所で優兄が死んでしまうかもしれない…そんなの絶対に嫌だ。
「……っ」
「…大丈夫だよ…美柑」
優兄のパジャマを握りしめると優しい声で優兄が頭を撫でてくれる。
「俺は…ここにいるから…生きてるから…」
私は優兄と過ごしているこの時間を守り抜きたい…大好きな優兄と幸せになりたい。
「私の前から…居なくならないで…」
「…絶対に居なくならない」
優兄は居なくならないと言ってくれるけど、きっと誰かを助ける為なら…自分の命を捨ててしまう。
「…死なないで、優兄」
私は泣き止むまでのしばらく間、私は優兄を抱きしめていた。
◇
泣き止んだ私は優兄が作ってくれた朝ごはんを食べて学校に向かった。
「おはよー」
「やっほ───」
学校の正門を通って昇降口に入ると周りから挨拶したり、楽しそうな話をする声が聞こえてくる。
「…なんであんな夢見たんだろう」
私は靴を脱ぎながら、今朝見た夢の事を考えていた。
「それに…あの女の人は…もしかして優兄の…」
頭に思い浮かぶのは、優兄の過去の話を聞いた時に出てきた人物で優兄にとって姉の様な大切な人。
「…雨宮優華さん」
修道服も着てたし、きっと雨宮優華さんだ…でも、なんで夢に出てきたの?会ったこともないのに…それに起こるかもしれない未来ってどうゆう事…
確かに優兄を触った感触は夢じゃないような…実際に起きてしまったと勘違いするくらいにはリアルだった。
「ん?」
上履きに履き替えようと下駄箱を開けると、下駄箱の中にはたくさんの手紙が入っていた。
(また男子からの手紙……前にフッた子もいるじゃん…好きな人がいるって言ったのになぁ)
手紙に書かれていたのは″好きです″や″ぜひメアド交換してください!″といった感じの言葉が書かれたラブレター。
(優兄もラブレターをよく貰ってたな、告白だって私以上に…)
───…この人と付き合う事になった
───彼女が悲しむから…もうエッチな事はしないで欲しい
「…っ!」
今朝の夢を思い出す。
優兄に彼女が出来て、私を見なくなってどこか遠くに行ってしまう…辛い夢。
…嫌だ…そんなの…嫌だよ…ずっと私と一緒にいたのに…私が誰よりも最初に好きになったのに…
「…取らないで…私の優兄を奪わないで…」
最近では私の知らないところで優兄はキスされたり…エッチな事をされたりしていて、その度に他の人を好きになってしまうんじゃないかと思うと辛かった…
私じゃない、他の人を好きになったら…私を見てくれなくなってしまう…一緒にいられなくなってしまうって思ったから…
だから優兄がモモさんにキスをされたり、ナナさんを抱きしめたりした時は同じことをして上書きした…そして私を見てくれるようにエッチな事も過激な事をするようになった…
(どうしたんだろ、いつからこんなに余裕がなくなっちゃったんだろ、私……)
優兄の事が好きな人達が増えたから…?ナナさんとモモさんが優兄の家に住むようになったから…?それとも最近、他の人の優兄へのアプローチが過激だから?
「むぅ──…」
授業中、黒板を見ながら色々と考えたが答えは出なかった。
「じゃーね!美柑ちゃん」
「…うん、また明日…」
学校が終わり、サチとマミと別れてから買い物に向かう。
「えーと、アレも買ったしコレも…あとは…」
私は買い物カートを動かしながら、食材や日用品を入れていく。
「そーだ、優兄のアイス!一日1個って言ってるのにいつの間にかいっぱい食べちゃうんだから…」
優兄が好きなチョコレートのアイスに手を伸ばす。
アイスや甘い物を食べる時、優兄は私に怒られないようにこっそり隠れて食べる。
私が″食べたでしょ!″っとアイスの事を問い詰めると視線を逸らして誤魔化して…その姿も普段と違って子供みたいで可愛くて…
「…喜ぶかな、優兄」
買い物カートにアイスの箱を入れて、レジに向かう途中ある商品を見つけた。
(これってコンドーム…避妊する為の…)
優兄のお義父さんの件が終わってから、優兄に想いを寄せてる人達のアプローチが過激になってきてる。
御門先生とは最後までヤってないとは言ってたけど、御門先生や籾岡さんや古手川さんが優兄を押し倒したように、優兄を襲おうとする人は必ず増えてくる。
買い物を終えた私はレジ袋をもって炎天下の中、考える。
…きっとこのままじゃ、夢みたいに他の人と優兄が結ばれて…優兄が私の元から離れて行っちゃう気がする──────……
(そっか…だから私…余裕がないんだ)
「!?」
あれっ…何?景色がぐるぐる…あっ…違う?わたっ…私の方…?
身体がふらつき、景色が歪む。
(やば…っ)
「美柑────っ!」
大好きな人の声が聞こえてくると、誰かが倒れかけた私を優しく支えてくれた。
「日差しにやられたようだな、少し休ませて体を冷やした方がいい、優斗の家より、私の家の方が近い、そこで休ませよう」
「っ!ありがとうございます、九条先輩」
あれ……この人…確か…
◇
「んっ…んんっ♡」
冷たいシャワー…気持ちいい…
倒れかけた私を誰かがお屋敷までお姫様抱っこで運んでくれて、私はそこでシャワーを借りている。
「…きっと、優兄だ」
さっきまで景色がぐるぐるとしていて顔まで見えなかったけど、誰か助けてくれたのか、声とお姫様抱っこの感触だけでわかった。
「調子はどうだ?」
「…!あ…はい!だいぶ頭がスッキリしました!」
「そうか、それは良かった…今日は暑かったからな。私も汗をかいてしまった…」
お風呂から出た私に話しかけてくれたのは黒い綺麗な髪を後ろで束ねた女の人。
ちゃんと話したことは無いけど天条院さんの別荘やタイムレインズの時に何度かお世話になったから覚えている。
「ドライヤーはそこにある」
「あ…はいっ」
キレイな人…何かクールな所がちょっとだけヤミさんに似てるかも……
「着替え終わったら、優斗に顔を見せるといい、君をずっと心配していたからな」
「…っ!わかりました」
やっぱりあの声は優兄だった。
私は髪を乾かして服を着替えてから優兄を探す。
「美柑っ!!」
「…優兄」
優兄を探して武家屋敷を歩いていると、縁側に座っていた優兄が私を見つけてこちらへ向かってくる。
額に流れる汗とワイシャツが透けて見える肌、きっと私を抱えてここまで走ってくれたんだ。
「私は大丈夫だよ」
「本当に?フラフラしてない?」
優兄は焦った表情で私を肩を掴んでどこも異常がないか確認してくる。
ちょっと前まで、割れ物を触るように私達に接していた優兄に少し似ている…
───…あなた達が……私の代わりに…安心できるように…頭を撫でてあげて……守ってあげて……優斗を愛してあげて……結城美柑さん…
…安心できるように頭を撫でる…
「熱はないか?やっぱりもう少し冷やした方が… いやでも冷やしすぎてもよくないか、なら───」
「優兄、心配してくれてありがとう、私は本当に大丈夫だよ」
夢で雨宮優華さんに言われた事を思い出した私は、優兄が安心できるように頭を撫でる。
「落ち着いた?」
「…あぁ…ごめん、取り乱した」
私に頭を撫でられた優兄は少し経つと、落ち着きを取り戻す。
…そっか、優兄が私達の頭を撫でたりしてたのは安心させる為……きっと前世の優兄は不安だった時、優華さんに頭を撫でてもらってたんだ。
「とりあえず、座ろっか、優兄」
「…そうだね」
私と優兄は縁側に並んで座る、心地いい風が風鈴を揺らし、綺麗な音が鳴る。
「は─────っ…涼しい…」
「………」
心地いい風を感じながら、隣を見ると後ろに手をついた優兄は目を閉じて風を感じていた。
さっきから思ってたけど、優兄…肌着着てないんだ…ワイシャツが透けてて…ちょっと色っぽい…
(そんな無防備だから襲われちゃうんだよ、優兄)
私と優兄の家かリトの家なら、このまま優兄を襲ってた。
「ここはよく風が通るんだ、日が暮れるまで休んでいくといい」
「すみません、何から何まで…えっと…」
「九条凛だ」
「あ…私、結城美柑です!結城リトの…」
「ああ、妹だろう、覚えているよ。海などで何度か会ったな…こうしてちゃんと話すのは初めてだが…」
凛さんはお茶とコップを持って縁側に座る。
「優斗、君はシャワーを浴びてくるといい」
「でも、九条先輩の家のシャワーを男の俺が借りるのは───」
「…別に気にしないさ、それにその格好は少し目に悪い…ついでに着替えてきた方がいい」
「え?あ、透けてたのか…」
頬を赤く染めて目を逸らした凛さんを見た優兄は、自分のワイシャツが透けていることに気づいた。
…気づいてなかったんだ
「…すみません、シャワーお借りします」
優兄はそう言って立ち上がると、お風呂場へ向かっていく。
「あの…今日は天条院さん達と一緒じゃなかったんですか?」
「ああ…沙姫様はお父上と食事の予定があってね、綾も私も別行動さ」
「へ────っ」
だから天条院さんといなかったんだ…じゃあなんで優兄と一緒にいたんだろ…
「足…もっと楽にしていいよ」
「あ…でもっ…す…すみません、失礼します」
正座にがて…
凛さんに楽にしていいと言われた私は正座をやめて足を楽にする。
「君はしっかりしているな、兄とは大違いだ」
「リト?」
「あの男ときたら事あるごとに誰かにワイセツな行動を…近づくだけで危険な男だ」
「あ……」
「それに以前、私と沙姫様を突き飛ばして私達は優斗のお尻を直接…」
「…えっ?」
凛さん、もしかして優兄のお尻触ったの?それにその感じだと天条院さんも触ってる。
「…と、済まない妹の君に話す事度はないな」
「い…いえ、事実ですし…」
リトが学校でも相変わらずなのはわかったけど…今はそれよりも気になる事がある。
「凛さんはどうして今日、優兄と一緒にいたんですか?」
「…彼から…剣技を習っていたんだ」
「え、剣技?」
てっきりデートをしてるのかと思っていた私にとって予想外な回答だった。
「…デートじゃなかったんですね」
「デ…デ…デート!?私はそんなやましい事は…一回したから…もう…しない…っ」
凛さんは最初は動揺しながら話していたが、後半になるにつれ辛そうな顔をする。
一回した?私の知らない時に一回したのデート?
それに…凛さんのこの反応…やっぱり優兄の事、好きなのかな…でもなんだか少し悲し顔をしてる気が…
「…凛さんは優兄が好きなんですか」
「っ!?そ…それは…」
私の言葉を聞いた凛さんは身体をピクっとさせた後、驚いた表情で私を見る。
「…どうなんですか?」
「わ…私は……優斗が…好き……だ」
やっぱり、凛さんも好きなんだ…もし、こんなキレイな人に襲ったら…優兄も好きになっちゃうのかな…
「…君も好きなんだろ」
「…はい」
「…安心してくれ、私は優斗の事を諦めるつもりだ…」
「え?」
震えた声で話す凛さんは、今にも泣きそうで顔をしていた。
…泣きそうになるくらい好きなのに…なんで凛さんは諦めるの?
「…なんで諦めるんですか?」
「…沙姫様が優斗を好きな事には気づいているだろう?」
「はい、様子を見たらなんとなくですが…」
「私が沙姫様の為に…この想いに……蓋をしないといけない…」
「それは…どうして?」
「沙姫様は私にとって大切な存在だ…私の想いのせいで悲しませてしまえば…私は……っ」
凛さんは拳を握りしめながら、涙目になる。
きっと凛さんは諦めたくないんだ…でも天条院さんの為に諦めようって頑張ってる…
───…優斗…やっと…抱きしめられました…
───…美柑…すみません…優斗と…寝かせてください
───……優斗を見つけてくれて…ありがとう…ございます…美…柑…
ヤミさんも凛さんみたいに私に遠慮してるのかな…
「それなのに…こうして諦められず、会っている…私は最低だ…」
「最低なんて、そんな事ないですよ…それに、凛さんの想いを知っても天条院さんなら、きっと許してくれますよ…だから!」
ヤミさんと凛さんが重なってしまった。
もしヤミさんが凛さんと同じ事を思って遠慮していたら、私は辛い…だって私の為に親友が大好きな人の事を諦めようとしているのだから…
「…選ばれるのは、たった一人だ…」
「…っ!?」
凛さんの言葉を聞いた私は、何も言えなくなってしまった。
そっか…ヤミさんと共闘したけど、最終的に選ばれるのはたった一人なんだ…
ヤミさんと優兄が付き合ったら、私は優兄を諦める事ができるのかな……いや…私はできない…諦められないよ…
「…優斗が誰を選ぶのかは分からない…もし…沙姫様が少しでも選ばれる可能性が上がるなら、私は優斗を…」
「諦める必要はありませんよ?」
「「え?」」
凛さんの言葉を遮り聞き覚えのある声が、空から聞こえてくる。
…この声…まさか…
「君は確か…」
「…モモさん」
屋根の上から姿を表したモモさんは笑顔で私たちに近づいてくる。
…モモさんはまさか最初から…
「聞いてたの?私と凛さんの話」
「はい、ゴメンなさい、気になってしまって…」
モモさんは盗み聞きをしていた事を私達に向かって謝る。
「でも、本当に誰も優斗さんを諦める必要はないんですよ?」
「…それは何故だ」
モモさんの言葉を聞いた凛さんはありえないといった表情でモモさんを見る。
誰も諦める必要はないって、そんな事が出来るわけ…
「優斗さんのハーレムを作れば全てが解決しますよ」
「は?」
「…えっ?」
モモさんの話を聞いた私と凛さんは困惑する。
ハーレムって…一人の男性が複数の女性と付き合う、あれ?…そんなの無理に決まってるじゃん。
「…モモさん、日本は一夫一妻だから、そんな事はできないよ?」
「フフ…優斗さんと同じことを言うんですね、美柑さん。でも日本ではですよ?宇宙では一夫多妻の方が多いんです」
…宇宙では…ってまさか!
「…気づきましたか?ほかの惑星…例えばデビルークなどで結婚してしまえば、何も問題ありません」
「なっ!?正気か!!」
「はい、正気ですよ」
モモさんは″何か問題でもありますか″っと笑顔を浮かべる。
「ハーレムを作れば、ヤミさんや天条院さんと一緒に幸せになれる…大好きな人を諦める必要なんてないんですよ?」
「………」
「それは…そうかもしれないが…」
優兄がハーレムを作れば、ヤミさんと一緒に幸せになれる。
…優兄は誰の元へも行かない…皆の元にいてくれる…
「…それだけじゃありませんよ」
「…え?」
「…優斗さんは誰か一人を選ぶ前に誰かを助けようとして死んでしまうかもしれない」
「「っ!?」」
「ハーレムを作れば、優斗さんが私達の事を考えて、自分を犠牲にする事が無くなるかもしれない…私達で繋ぎ止める事が出来るかもしれないんですよ?」
優兄を…繋ぎ止める…
ハーレムを作れば、優兄が死にかける可能性も無茶する可能性も減るかもしれない…
RPGの世界で優兄は一度、ナナさんとモモさんを助ける為に私達の目の前で死んだ。
タイムレインズの時も私達を逃がして、ビルの崩落に巻き込まれて死にかけた。
夢でも…あるかもしれない起こるかもしれない未来の死を雨宮優華さんに見せられた。
…夢で見た悲劇を止められるかもしれない。
「モモさん、優兄はハーレムの事はなんて言ってるの?」
「…俺にはできないって言ってます」
「…ほかにハーレムの事を話した人は?」
「ヤミさんと古手川さんと御門先生の三人に話しています」
「っ!?」
ハーレムの事、ヤミさんにも話してたんだ…
「…ヤミさんはなんて?」
「ヤミさんには、優斗さんが賛同していないならできるわけないと言われてしまいました」
「…もし、優兄がハーレムに賛同したら?」
「…優斗さんに愛されて、美柑さんがハーレムに肯定的なら、賛同してくれるかもしれません」
確かにそれなら、ヤミさんがハーレムに賛同する可能性はあるかもしれない。
でも、私が賛同しても優兄がハーレムに賛同しなければ意味が無い。
「古手川さんにもハーレムなんてハレンチな!と言われましたが、優斗さんが賛同すれば問題ないかと…」
「…御門先生は?」
「御門先生はハーレムに賛同してくれています」
「なっ!?」
凛さんは御門先生がハーレムに賛同している事に驚く。
「…わかった、私も優兄と居られるなら…ヤミさんと幸せになれるなら…ハーレムでもいい」
優兄が生きていてくれるなら…ヤミさんと幸せになれるなら…私はハーレムでもいい。
「っ!?美柑!!本気なのか!きっと優斗は君の事を特別に思っている!このまま行けば、選ばれるのは美柑!君だ!!」
「……」
優兄が私を選ぶ…
───美柑、これだけは忘れないでくれ、俺の中で美柑が一番なんだ
───美柑とは生まれた時から一緒に居るから、まだ家族愛か恋心かどちらか分からないけど、これだけは言える
───大好きだ、美柑
彩南ウォーターランドで優兄に抱きしめられた時に言われた告白の様な言葉…
「私は今日、倒れた君を優斗が助けた時に確信した…優斗はまだ自分の想いに気づいていないだけで、美柑の事が───」
「…私はそれでも…ハーレムでいいんです」
「…何故だ?」
「だって親友が───ヤミさんが悲しむから…」
「っ!?」
ハーレムが出来れば、優兄とヤミさんと幸せになれる。
「凛さんは賛同しないんですか?」
「…優斗が賛同していないのに…私は……それに沙姫様だって……」
「…優兄なら、大丈夫ですよ、私が賛同させますから」
「「…え?」」
凛さんとモモさんは私の言葉に驚く。
なんでモモさんまで驚いてるの?
「優兄がハーレムに賛同すれば、凛さんも賛同しますか?」
「…私は…すまない…少し考えさせてくれ」
そういった凛さんは頭を抱える。
いきなりの事で頭が混乱しているのかも…
「…美柑さん、どうやって賛同させるんですか?」
「…朝になればわかるよ、モモさん」
優兄にハーレム以外の逃げ道を私が潰せばいい…
「…だから、朝までナナさんを引き付けて欲しい…夜から朝まで優兄と二人で居させて?」
「っ!わかりました、ナナと私はお姉様の部屋で今日は過ごしますね♡」
何かを察したモモさんは笑顔で答える。
「朝まで…美柑、まさか君は───」
「九条先輩、シャワーありがとうございました…あれ、モモ?なんでいるの?」
凛さんの言葉を遮るように優兄が凛さんにお礼を言いながら縁側に向かってくる。
「あ、私は偶然お2人をお見かけしたので…」
「…偶然ね」
優兄はモモさんを見て何か警戒する。
「優兄、そんなことより日が暮れてきたし、そろそろ帰ろ?」
「…もうそんな時間か…」
優兄は携帯電話の時間を見て呟く。
凛さんの家に置かせてもらっていた荷物やランドセルを背負って帰る支度をする。
「今日はホントにありがとうございました───!」
「九条先輩、今日は本当に助かりました。それとすみません、今日出来なかった稽古はまた今度埋め合わせします」
「…ああ、構わない……優斗」
「…なんですか?」
「…頑張れ」
河川敷まで見送りに来てくれた凛さんは優兄に最後にそう言って去っていく。
「俺は…何を頑張ればいいんだ?」
「なんだろうね、優兄」
優兄は何も知らない、私が今日の夜…優兄に何をしようとしているのかを…
「あ、お姉様!今日ナナと泊まりに行きますね!!」
モモさんは帰っている途中にララさんに電話で泊まりに行く事を伝えると電話越しからわかるくらい嬉しいそうなララさんの声が聞こえてきた。
「今日リトの家に泊まるの?」
「はい、たまには姉妹水入らずで一緒に寝ようかと!」
「…なら俺達も───」
「優斗さんも久しぶりに美柑さんとお二人で過ごしてみてはいかがですか?」
「そうだよ、優兄。二人で過ごす機会なんて最近なかったんだしさ」
「…まあ、それもそうか」
その後も警戒心のない優兄は、私に″今日の夜何食べようか?″なんて話をしていて、狙われていることには一切気づかなかった。
◇
「なぁ、モモ。なんでいきなり姉上の部屋に泊まりに行くんだ?」
「ナナ、たまにはいいじゃない、お姉様と三人の部屋で寝るのなんて久しぶりなのよ?」
「そうだけどさァー」
家に帰ってしばらくするとモモさんはナナさんを連れてリトの家に泊まる準備を始める。
「お姉様も楽しみにしてるんだし、行きましょ、ナナ」
「…なんか怪しいんだよなァ」
「ほら、いいから!」
「ちょっ!押すなよモモ!!」
モモさんに押されて玄関から出ていくナナさん。
「美柑さん、これ使ってください♡」
ナナさんが出ていったあと、モモさんは戻ってきて私にデダイヤルを渡す。
「これは?」
「…優斗さんを調教する為に使おうとしていた物が入ってますから自由に使ってくださいね」
「ありがとう、モモさん」
軽くデダイヤルの操作法を教えたモモさんは″楽しい夜を″と言ってリトの家に向かっていった。
モモさんを見送った私は洗面所に向かう。
「………」
お風呂場から聞こえてくるシャワーの音…優兄は今お風呂に入ってシャワーを浴びている。
私はパジャマとパンツを脱いでお風呂の扉をゆっくり開けた。
「…っ!!美柑!?」
「優兄っ!!」
「ちょっ!危ないっ!?」
私は中に入ってシャワーを浴びている優兄をそのまま押し倒した。
次回はこの続きです。
関係ありませんが、ジャンプGIGA買いました。そして古手川さんのフィギュアも買っちゃいました。
誤字報告ありがとうございます。