シャワー室のスリットドアの向こう側にいたのは───『ヴィーク』だった。
ヴィーク「やっぱり……『音』で、分かるんですよ…………シャワーのお湯は出しっぱなしなのに、身動きする音が一切聞こえなくて──「あっ!また忘れた……」って、固まっているの分かりました……私のシャンプー貸しますか??」
ありがたい!!私の髪型は、最近の若い男の子の間で流行している──『マッシュカット』というやつである。したがって、ボディソープで洗えなくもないのだが……極力避けたいところだ。私は彼女の『申し出』に、感謝を述べる。
ルル「あ!!すみません……あれ……『借りたもの』って、返さなきゃいけないですよね……でも、シャンプーの場合って──どうすればいいんだろう??使わせてもらった分と同量のシャンプーを──後で、ボトルかなんかに詰めて、お返しする感じでしょうか……」
ヴィーク「もう……まだ寝ぼけているんじゃないですか!!?いいですよ!!お気持ちだけで結構です!!!!」
ヴィークは愛想笑いをこぼしながら、スリットドアを少し開けると
「手を差し出して!!!!」
と呟く。私は、利き手である『左手』の掌を小さく差し出す。その瞬間、私の髪の毛のボリュームに──ちょうどいい量のシャンプーがプッシュされた。
…………
私は朝のシャワーを終え、スリットドアを開ける。
脱衣かごの中に、軽く畳んでおいたバスタオルを、右手で掴み取る。まずは、バスタオルを左腕に当てて、左半身から水滴を拭き取っていく。
顔周りの水滴を拭き取り、ふと隣のシャワー室の正面に置いてある、ヴィークの脱衣カゴを覗き込んだ。
乱雑に脱ぎ捨てられたであろう───パジャマ(かわいらしい熊のプリント付き)。そして、そんな寝間着の下に身に着けるには、相応しくないであろう───黒いレース生地の『Tバック』が、共にしまわれていた。
ヴィークは身長が──『152cm』と女性としても、かなり小柄な方だ。年齢は私の1つ年下で、『18歳』になったばかり。
バストは、かなり小さく──正直いうと『ぺったんこ』だ。おそらくブラジャーを着用していないのだろう。だから、脱衣カゴの中にも…Tバックは入っているのに、『ブラジャー』が入っていないのだ。
とここで、次の瞬間……ひまわりが、風にそよぎながら奏でる『メロディー』かと……勘違いしそうなほどに、かわいらしい声が───エコーをギンギンにかけた状態で、目の前のシャワールームから聞こえてくる。
ヴィーク「ルルさん……のぞいちゃダメですよ……!!!!もう……雰囲気でわかるんですからね!!!!」
先ほどのシャンプーの件で分かると思うが、ヴィークはとても察しがいい。
ぱっと見は──あどけなさが残る『可憐な少女』である。だが、とても気配り上手なのだ。彼女は『メイド』としてこの『屋敷』にやって来てから、半年も経たないうちに……『メイド長補佐』の役職を与えられる──という異例の出世を成し遂げている。
一言で言うなら──彼女は視野が広い。
私は特性上……物事に熱中し始めると、周りが見えなくなってしまい、周囲の人間を困らせてしまうことが多々ある。特に仕事中は……
そんな時、ヴィークは私の心理状態を察して動いてくれる。
「ルルさん!!!!お鍋を焦がさないために、見ていてくれてありがとうございます!!!!そっちは私がやりますので、そろそろお皿の準備に取り掛かっていただけますか??」
これは、昨日のやりとりだ。
夕食の準備で、『厨房』が慌ただしい中──私は、どの業務に手をつけたらいいか……分からなくなり、混乱状態に陥っていた。しかし、何もせずに『棒立ち』になるわけにはいかない。とりあえず目の前にある『大きなお鍋』を焦げないように、かき混ぜていた時だった。
声の主は、キングサイズのベッドすら、覆いつくせそうなほど───広く、真っ白な『テーブルクロス』を敷いていた……ヴィーク。彼女は、横眼で私の様子を逐一観察していたのだろう。
そして、私が何に手をつけたら良いか分からず、『まごつきかけていた』──のを感じ取った。周囲の同僚に対して、私に悪い印象を与えないための『枕詞』まで添えつつ、その場で優先度が高い業務を──的確に指示してくれたのだ。
私は……彼女のそういう『人柄』が好きだ。というか……大好きだ。
私はスリットドアの向こう側にいるヴィークに、改めて感謝の念を送る。その後、シャワールームに直結しているメイド衣装部屋へ、脱衣カゴを両手に抱えながら赴く。
…………
私は衣装部屋に足を踏み入れた。入口の向かい側のスペースには、ハンガーを掛けて様々な衣装が、並べてある。パーティ用のドレスや、替えのエプロン……他にも冬用のコートなどなど。自身のロッカーの前に立つと、脱衣カゴを置いてロッカーを開放する。
ルル「やっぱり、かわいいなぁ~〜」
ロッカーの中には、ハンガーにかけられた───『フリフリのメイド服』が収納されていた。 ほどほどにゴシックではあるものの、過度に華美ではない。
白と黒を基調とした───シンプルなデザインのメイド服だ。
このメイド服を見ると、「今日も頑張るぞ!!」──と仕事スイッチが入る。
私はハンガーごとメイド服をロッカーから取り出し、着替えを始めた。
そして、着替えがほとんど完了し、「あとはカチューシャを装着するだけ」……ロッカーの向かいの壁一面に張り付けられた───『大きな姿見』越しに、頭に装着したカチューシャの位置を調整する。
……うん……バッチリだ!!
カチューシャの位置は1ミリ単位で完璧だ……今朝見た『夢の中の自分』のように──激しく動き回ってしまうと、直ぐにズレちゃうんだろうけど……いや余計なことを考えるのはやめよう。
身だしなみを整えた私は、一足先に『リビング』へと向かった。
ヴィークちゃん……とてもしっかりしていて面倒見の良い性格ですね!!
今日もルルくんのいつも通りの日常が始まる……かと思いきや今朝の『夢』のことが未だに気がかりなようです。
第三話では、どんな人物が登場するのでしょうか??