搾精都市神浜~魔法少女たちのエッチな短編集~ 作:黒蓮/クロハス
今日は帰ったら絶対オナニー。
梓みふゆは夕暮れの住宅街を早足で歩いていた。赤みがかったブラウンのオフショルダーブラウスが歩調に合わせて揺れて、黒いショートパンツから伸びた白い脚が、いつもより大股で地面を蹴っている。肩口のフリルが風を孕んで膨らむたび、露わになった鎖骨の上を夕陽がオレンジ色に染めた。
今日は帰ったら絶対オナニー。
頭の中はそれしかなかった。予備校の授業が二コマ、自習室で過去問を三年分、帰りの電車で英単語帳を百ページ。疲れた。脳が溶ける。こういう日はもう、アレに限る。
——しかも。
今日は届いているはずなのだ。三日前にスマートフォンの画面を何度もスクロールして、レビューを読み比べて、在庫を確認して、震える指でポチった——電動バイブ。お届け予定日、本日。不在票なんて入っていたら泣く。
足が速まる。
呉服屋の娘が、マギウスの翼の幹部が、薬学部志望の浪人生が、住宅街の歩道を小走りで駆けている。頭頂部のぴょこんと跳ねた毛が、動物の耳みたいにぴこぴこ揺れていた。黒い薔薇の髪飾りがかたかたと鳴る。
今日は帰ったら絶対オナニー。
三回目。みふゆの脳内ではもう呪文になっていた。疲れた日はオナニーに限る。ワタシは十九歳の大人だし、自分の身体のことは自分で一番よくわかっているし、ストレス解消に自慰行為を用いるのは医学的にも正しい判断であり、つまりこれは健康管理の一環であって、やましいことなんて何ひとつ——。
言い訳が長い。やましくないなら言い訳は要らない。みふゆ自身もそれはわかっていたが、わかっていてもやめられないのが言い訳というものだった。
角を曲がる。見慣れたマンションの外観。エントランスを抜けて、エレベーターのボタンを押す。上昇する箱の中で、みふゆはブラウスの襟元を正した。鏡に映る自分の顔が、ほんのり紅潮している。
——落ち着きなさい、梓みふゆ。オナニーするだけでしょう。
エレベーターが止まる。廊下を歩く。鍵を回す。
「ただいま~」
上機嫌な声が玄関に響いた。ブーツを脱ぎながら、みふゆの視線は真っ先に玄関脇の床を走査する。
——ない。
段ボール箱がない。不在票もない。ということは——リビングに置いてある? 宅配ボックスに入りきらなくて、管理人さんが預かってくれた? いやそんな大きな箱じゃないはずだし——
スリッパに足を入れて、リビングへ続く廊下を歩く。灯花が用意してくれたこの家は、一人暮らしの浪人生には広すぎる間取りで、廊下の照明が白い壁に反射して目に眩しい。
リビングのドアを開けた。
「おかえりみふゆ~」
心臓が止まった。
ソファの上に、里見灯花が座っていた。赤いチェックのゴスロリドレスの裾をふわりと広げて、黒いリボンで飾った茶色のロングヘアを揺らして、赤い瞳を三日月形に細めて——その小さな手に。
ピンク色の、紡錘形の、どこからどう見ても言い逃れのできない形状をした電動バイブが、握られていた。
「これはなにかにゃぁ~?ww」
世界が終わった。
みふゆの顔から一瞬で血の気が引いて、それから逆流するように耳の先まで真っ赤に染まった。足元から冷水を浴びせられたような衝撃が背筋を駆け上がって、両手が反射的に口を塞ぐ。
「なっ——ど、どうして灯花がここに——!?」
「今日はわたくしがみふゆに勉強を教えにくる日でしょ? 忘れてたの?」
忘れていた。完全に忘れていた。オナニーのことしか考えていなかったから。
「荷物届いてたから開けちゃった」
「か、勝手に開けないでください!」
「宛名に梓みふゆって書いてあったから、みふゆのだと思って~」
「だからって——!」
灯花がバイブをくるくると指先で回した。ピンク色のシリコンが照明を反射してつやつやと光る。その動きを目で追いながら、みふゆの脳はフル回転で言い訳を生成していた。
「ち、違うんです灯花、それはワタシのじゃなくて——」
「みふゆ宛てだよ?」
「友人に頼まれて受け取っただけで——」
「履歴、スマホに残ってるよね?」
「——肩こりをほぐすためのマッサージ機で」
「へえ~w」
灯花が電動バイブのスイッチを入れた。ぶぅぅぅん、と低い振動音がリビングに響く。灯花はそれをみふゆの目の前に突き出して、にっこりと微笑んだ。
「肩こりにこれを使うんだ? へぇ~?」
「…………」
言い訳の余地が、完全に消滅した。
みふゆは廊下の壁に背中をつけたまま、ずるずるとしゃがみ込んだ。白い髪が顔にかかって、その奥で翡翠色の瞳が虚空を見つめている。十九歳のプライドが音を立てて崩れていくのが、自分でもわかった。
「言われてた宿題はやったの?」
灯花がバイブのスイッチを切って、ソファの肘掛けに腰かけ直した。小さな脚をぶらぶらと揺らしながら、赤い瞳がみふゆを見下ろしている。
「……灯花がくるまでに終わらせるつもりで……」
「とかいって、帰ってきたらオナニーするつもりだったでしょw」
図星だった。図星すぎて声が出なかった。
十二歳の小学生に、十九歳の浪人生が、オナニーの目論みを見抜かれて正座している。しかも小学生の方がソファに座っていて、浪人生の方が床にいる。上下関係が完全にひっくり返っていた。
「みふゆ」
灯花の声が、少しだけ真面目なトーンに変わった。
「勉強してテストに合格するまで、オナニー禁止だよ」
「…………え?」
「聞こえなかった? オナニー禁止。合格するまで」
みふゆが顔を上げた。まだ赤い頬の上で、翡翠の瞳がぱちぱちと瞬く。
「いっ——いくらなんでもそれは! ワタシだって大人です、自制くらいできます!」
「本当に?」
「します! しますとも! 灯花にそこまで管理されなくても——」
「じゃあ、これつけてもらうにゃ」
灯花がゴスロリドレスのポケットから何かを取り出した。
金属の、冷たい光沢。腰から股を覆う形状の、精密な造りの——
貞操帯。
「な……なんで灯花がそんなもの持って……」
「自制できるなら、つけても困らないよね~?」
灯花の論法は完璧だった。自制できると自分で言ったのだから、物理的な拘束具をつけられても問題ないはず。断れば「自制できない」と認めることになる。断らなければ貞操帯をつけられる。どちらに転んでも灯花の勝ち。
「つけないなら、勉強も教えないにゃ~。受験どうするの?」
最後のカードを切られた。
受験。母親の期待。薬学部。浪人している今の自分が、これ以上失敗したら——その先にある未来の重さが、みふゆの肩にのしかかった。
「…………わかり、ました」
声が消え入りそうだった。
「ん? 聞こえないにゃ~?」
「わかりました……つけます……」
「よろしい」
灯花が満足げに頷いて、ソファから飛び降りた。ゴスロリドレスの裾がふわりと広がって、小さなブーツがフローリングをこつんと鳴らす。
「じゃ、スカート脱いで。あ、みふゆスカートじゃないか。ショートパンツ脱いで」
「……灯花の前で?」
「装着するのはわたくしだよ? 自分じゃ鍵が閉められない構造だもの」
もはや抵抗する気力も残っていなかった。みふゆは震える手でショートパンツのボタンを外して、するすると脚の下まで滑らせた。その下の下着にも、灯花の視線が無遠慮に注がれる。
「下着も」
「…………」
翡翠色の瞳がぎゅっと閉じられた。唇を噛んで、みふゆは最後の布地を足元に落とした。
灯花の赤い瞳が、みふゆの露わになった下半身をまっすぐに見つめた。科学者の目。標本を観察する研究者の目。十二歳の少女がそんな目をしていることの不気味さに、みふゆの肌が粟立つ。
「みふゆのおまんこ、きれいだにゃ~」
「そういうこと言わないでくださいっ!」
「事実を言ってるだけだよ~? くふふ」
灯花の小さな指が貞操帯の金具を開いた。
ひんやりとした金属がみふゆの腰に触れた瞬間、全身にぞわりと鳥肌が走った。冷たい。鉄と何か別の合金の、人肌から熱を奪い取るような温度。灯花の手が事務的に、しかし正確に、金属のパーツをみふゆの身体に沿わせていく。
腰を囲むベルト部分が締まる。股を通るプレートが、性器の上にぴたりとフィットした。クリトリスの膨らみもおまんこの割れ目も、冷たい金属に隙間なく覆われて、外気から完全に遮断される。灯花の設計は精密だった。排泄用の小さな穴以外、肌に触れる余地がどこにもない。
カチッ。
ロックがかかった。
乾いた金属音がリビングに響いて、みふゆの背骨を貫いた。灯花がスマートフォンを取り出して画面をタップすると、貞操帯の内部で小さな電子音がピッと鳴った。
「ロック完了。解除はわたくしのスマホからしかできないからね」
「…………」
「遠隔モニタリングもついてるよ~。バイタルデータ、湿度、振動。なにか変なことしたら全部わかるにゃ~」
みふゆは黙ってショートパンツを穿き直した。布地の下で金属のプレートが太腿の内側に触れるたびに、冷たい感触が神経を刺す。
ソファに腰を下ろした。
座った瞬間、股の間で貞操帯の硬い感触が押し返してきた。ソファのクッションは柔らかいのに、そこだけが金属の拒絶を返してくる。みふゆのおまんこは確かにそこにあるのに、自分の手では——もう触れない。
窓の外では夕陽がマンションの壁を赤く染めていた。室内の空気がほんの少しだけ冷えたような気がして、みふゆは自分の腕を抱いた。
「じゃ、勉強始めるにゃ~」
灯花がテーブルの上に教科書を広げた。赤いチェックのドレスの裾がふわりと揺れて、小さな手が化学式の並んだページを開く。何事もなかったかのように。
みふゆは渋い顔でシャーペンを握った。股の間の金属がじわりと体温を吸って、ようやく肌の温度に近づき始めている。でもその馴染み方がかえって不気味だった。まるで最初からそこにあったかのように、貞操帯がみふゆの身体の一部になろうとしている。
——地獄の禁欲生活が、今日から始まった。
◇ ◇ ◇
禁欲三日目の夜だった。
デスクライトの白い光がノートの上に円を描いている。みふゆは化学の問題集を開いて、シャーペンの芯を紙の上に押し当てていた。酸化還元反応の計算問題。電子の移動を矢印で示せ。灯花に出された宿題の期限は明後日で、まだ半分も終わっていない。
集中しなければ。
——集中できない。
電子が移動する。eのマイナスが右辺に。酸化数が増える。ペンが止まる。
右手がいつの間にかノートから離れていた。シャーペンを持ったまま、手がふらふらと降りていって、太腿の上に着地する。太腿の内側。柔らかい肌の上を指が滑って、そのまま奥へ——
かちん、と金属に触れた。
冷たい。
はっ、と目が覚めるように意識が戻った。みふゆは自分の手を見下ろして、それからデスクの上のノートを見て、また手を見た。酸化還元の計算問題を解いていたはずの指が、いつの間にか股間に伸びていた。貞操帯の金属プレートに、指先が張りつくように押し当てられている。
——何をしてるんだワタシは。
慌てて手を引いて、シャーペンを握り直す。ノートに視線を戻す。電子の移動。酸化数。えーっと、酸化数が増えるのが酸化で、減るのが還元で——
やちよが浮かんだ。
何の脈絡もなく、七海やちよの顔が脳裏をよぎった。別になんでもない思い出。一緒にキッチンに立ったときの後ろ姿。青い長い髪を束ねて、エプロンの紐が腰の後ろで蝶結びになっていて。振り返ったとき、鎖骨の上に汗の粒がひとつ光っていた——
その汗の粒が、みふゆの脳の中でゆっくりと転がり落ちた。鎖骨から胸元へ。エプロンの布地の下へ。見えないところへ消えていく。追いかけたい。その先が見たい。やっちゃんの肌に指を這わせて、汗の行方を——
——やっちゃんがシャワーを浴びている。すりガラスの向こうに、細い輪郭がぼんやりと透けている。湯気の奥で長い髪が肌に貼りついて、水が腰を伝って、太腿の間を流れ落ちて——タオルが落ちた。振り返ったやっちゃんの身体が、湯気の隙間から——
ダメ。
みふゆは教科書に目を戻した。電子の移動。酸化還元。以下の空欄を適切な語句で埋めよ。空欄。空欄を、埋めよ。埋めたい。何かで、埋めたい。空っぽが、嫌だ。おまんこの中が空っぽなのが——
——違う。空欄だ。化学の空欄の話をしている。
次の問題。「( )が電子を放出し、( )が電子を受け取る反応を酸化還元反応という」。放出する。受け取る。与える。受け入れる。入れる。入れてほしい。
——やっちゃんの指が空欄を埋めてくれる。やっちゃんの細い指がみふゆのおまんこの中に滑り込んで、空っぽだった場所をゆっくりと満たして——
がん、と音がした。
みふゆがおでこを机に打ちつけていた。問題集の上に白い髪が散らばって、頭頂部のぴょこんと跳ねた毛がぺしゃんと潰れている。
——バカか。バカなのかワタシは。酸化還元の問題を解いていて、なぜやっちゃんの指がおまんこに入ってくるんだ。論理の飛躍にも程がある。三日。たった三日。たった三日触れていないだけで、脳がこんなにも——
椅子を引いて立ち上がった。キッチンに行って冷蔵庫を開けて、麦茶を注いで一気に飲み干す。冷たい液体が喉を流れ落ちても、身体の奥の熱は消えなかった。おまんこが疼いている。金属の向こう側で、自分の肉が勝手に熱を持っている。触れたい。触れられない。三日前まで自由に触れていた場所が、もう自分のものではないような感覚。
——幻覚で妄想を具現化すれば。
一瞬だけ、その考えが頭をよぎった。固有魔法「幻覚」「暗示」。自分自身にかければ、どんな光景でも——
いや。
いくらなんでも、魔法をそんなことに使うわけにはいかない。魔女と戦うための神聖な武器を、オナニーの代替手段にするなんて。ワタシはマギウスの翼の幹部で、梓みふゆで、十九歳の大人で——
——大人のくせに、小学生に下半身を管理されている。
麦茶のグラスをシンクに置いて、みふゆはとぼとぼと机に戻った。シャーペンを拾う。酸化還元。電子の移動。もう妄想はしない。集中する。ワタシは大人なのだから。
三十秒後、右手がまた太腿の上を滑り始めていた。
*
> **〔灯花の実験ノート #038-03〕**
>
> 被験者:梓みふゆ(19歳・浪人生)
> 禁欲3日目
>
> 性的興奮の閾値が著しく低下。座位での心拍数が安静時の1.3倍。学習効率は装着前の42%に低下。机に額を打ちつける衝撃を2回検知。
>
> まだ序の口だにゃ~。
◇ ◇ ◇
禁欲十日目。
シャワーの水がみふゆの肩を叩いていた。
浴室の照明がタイルの壁に白く反射して、湯気がゆるゆると天井に昇っていく。赤みがかったブラウンのブラウスもショートパンツも脱衣所の籠に畳んであって、今のみふゆは何も身につけていない——ひとつだけ、股間の金属を除いて。
灯花の貞操帯は防水仕様だった。当然だろう。天才の設計に死角はない。
お湯が全身を伝い落ちていく。首筋から鎖骨、胸の谷間を通って、おなかの上を水の膜が滑る。腰に到達して、そこから二手に分かれて太腿の表を流れ落ちる。普通なら——普通なら、その水はおまんこの上も通過して、もっとも敏感な場所を濡らして、ほんの少しだけの刺激を与えてくれるはずだった。
金属がそれを遮った。
お湯の流れが貞操帯のプレートに当たって、両側に逸れる。おまんこの上だけが、水に触れない。シャワーの温かさが全身を包んでいるのに、そこだけが金属越しの間接的な温度しか感じられない。
——少しだけ。ほんの少しだけ。
みふゆの手が動いた。シャワーヘッドの角度を変える。水流を下に向けて、貞操帯の縁に当てた。プレートと肌の境目。ほんの僅かな隙間がある——はずだった。水がそこに当たって、飛沫が散った。
届かない。
角度を変えた。水圧を強くした。シャワーヘッドを近づけて、ぴったりとプレートの端に押し当てて——
届かない。灯花の設計は完璧だった。プレートの縁は肌に密着していて、水の侵入経路がない。水流がいくら強くても、金属の壁を越えられない。
もう一度角度を変えた。今度は下から。排泄用の穴に向けて——
そこには辛うじて水が入った。ほんの一筋。温かい水が金属の穴を通って、性器に——触れた。
みふゆの身体がびくりと跳ねた。
ほんの微かな刺激。シャワーの水がおまんこの表面をちろりと撫でただけ。十日前ならなんでもない感覚。それが今は、全身を貫く電撃のように走った。膝が震えて、タイルの壁に手をついた。息が荒い。たったこれだけで、心臓がばくばくと暴れている。
——もっと。もう少しだけ。もう少し角度を変えれば——
五分。十分。みふゆはシャワーヘッドの角度を何度も微調整して、排泄穴からの僅かな水流でおまんこを刺激しようと試み続けた。水は確かに入る。でもそれは点でしかなくて、クリトリスにもおまんこの奥にも到達しない。焦らされているだけ。十日間飢えた身体にとって、この微弱な刺激は救いどころか拷問だった。
指がほんのわずかでも直接触れられたら。爪の先ほどの面積でいいからクリトリスを掻けたら。それだけで全身の力が抜けるほどの快楽が得られる確信がある。なのに、金属がそれを許さない。
諦めて、シャワーヘッドをフックに戻した。
湯船に身を沈める。
温かい。お湯が全身を包み込んで、疲れた筋肉がほどけていく。背中、腕、脚——全部が溶けるように弛緩していく。でもおまんこだけが、金属の鎧に閉じ込められたまま取り残されている。すぐそこにあるのに、お湯に直接浸かれない。全身がとろけていく中で、股間だけが孤立している不自然さ。もどかしい。もどかしくて、頭がおかしくなりそうだった。
天井を見上げた。湯気がゆらゆらと漂っている。
——ワタシは十九歳の大人で。浪人生で。マギウスの翼の幹部で。
それが、十二歳の小学生に下半身を管理されている。お風呂で自分のおまんこも洗えない。シャワーの角度を必死に変えて、金属の隙間から水を入れようとしている。いい歳をした女が何をやっているんだ。情けない。情けなくて泣きそうで——でも、泣いたところでおまんこは触れない。
湯船の中で太腿をぎゅっと閉じた。貞操帯のプレートが肉に食い込んで、鈍い圧迫感だけが返ってくる。快感ではない。ただの痛みに近い圧力。それすらも十日間飢えた身体には刺激になりかけて、みふゆは慌てて脚を開いた。
ぬるくなったお湯の中で、みふゆはしばらく動けなかった。
*
> **〔灯花の実験ノート #038-10〕**
>
> 被験者:梓みふゆ(19歳・浪人生)
> 禁欲10日目
>
> 入浴時間が平均の2.7倍に延長(通常18分→本日49分)。浴室内での心拍数異常上昇を検知。シャワーヘッドの水圧変更を3回、角度変更を11回確認。排泄穴からの液体侵入時に心拍数が瞬間的にピーク値を記録。
>
> くふっ、努力は認めるけどムダだよ~?
◇ ◇ ◇
禁欲十八日目。
便座に座ったみふゆは、自分の膝を見つめていた。
トイレの個室。白い壁。白い床。換気扇がかすかに回っている。ショートパンツと下着が足首に丸まっていて、太腿の間に貞操帯の銀色が覗いている。排泄のために開放された穴から、ようやく用を足し終えたところだった。
この穴は——排泄時にだけ開く。
灯花のスマートフォンに連動した自動開閉機構。用を足すときだけプレートの一部がスライドして、終わると数分で閉じる。十八日間、みふゆの性器が外気に——いや、正確にはこの穴を通じて外界と繋がるのは、この時間だけだった。
みふゆは洗面台を見た。
綿棒のケースが、洗面台の端に置いてある。
白い。細い。先端に柔らかな綿がついている。長さはだいたい七、八センチ。あれなら——この穴が開いている間に——排泄穴から差し入れて——ほんの少しだけ——クリトリスの先に——
心臓が跳ねた。
——何を考えているんだ。綿棒で。トイレで。こんなの、もう——
でも手が伸びていた。
便座から腰を浮かせて、洗面台の綿棒ケースに手を伸ばす。指先がケースの蓋に触れた。パチン、と蓋が開く。白い綿棒が整然と並んでいる。一本抜いた。指の間で綿棒がかすかに震えている。震えているのは綿棒じゃない、みふゆの指だ。
便座に座り直した。太腿を開く。貞操帯の排泄穴が、まだ開いている。閉じるまであと——たぶん一分か二分。この間に、綿棒の先をそっと穴に通して、性器の表面に触れることができたら——
綿棒の先端が排泄穴に近づいた。金属の縁に綿の白がぎりぎりまで寄って——
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
警告音が股間から炸裂した。
みふゆは便座の上で文字通り飛び上がった。綿棒が手から弾かれて、タイルの床をころころと転がっていく。心臓が喉まで跳ね上がって、全身の毛穴から冷や汗が噴き出す。
貞操帯の警告音が鳴り止まない。異物の接近を検知したセンサーが、けたたましいアラームを浴室いっぱいに反響させている。
三秒後、スマートフォンが鳴った。
洗面台の上に置いたスマートフォンの画面に、灯花の名前が表示されている。メッセージ。みふゆは震える手で画面をタップした。
『穴になにか突っ込んでマス・ターベーションしちゃダメだよ?』
続けてもう一通。
『くふふ、そこまでガマンできないんだ~?』
スマートフォンをタイルの床に伏せた。
みふゆは便座の上で頭を抱えた。白い髪の間から耳が真っ赤に覗いている。恥ずかしさで穴があったら入りたい——穴。穴は今まさに目の前の貞操帯に開いているのに、そこには入れない。入れないから綿棒なんかに頼ろうとした。穴に入りたいのに穴が使えない。もはや何の穴の話をしているのかわからない。
遠隔で監視されていた。バイタルデータ、湿度、振動——灯花はそう言っていた。つまり今この瞬間も、みふゆの貞操帯のデータはリアルタイムで灯花のスマートフォンに送信されている。心拍数の上昇も、排泄穴への異物接近も、全部。
トイレでオナニーしようとしたのがバレた。十九歳の浪人生が、小学生に。綿棒で。
警告音がようやく止んだ。排泄穴がスライドして閉じる小さな機械音が、追い討ちのように鳴った。
みふゆはしばらく便座から動けなかった。
*
> **〔灯花の実験ノート #038-18〕**
>
> 被験者:梓みふゆ(19歳・浪人生)
> 禁欲18日目
>
> ついに排泄穴からの異物挿入を試みた。使用を試みた道具:綿棒(直径2mm)。予想より12日遅い。みふゆの自制心は思ったより強いにゃ~。でも身体は正直。分泌液量は平常時の6.2倍。クリトリスの充血度も危険域に突入。
>
> そろそろかにゃ~?
◇ ◇ ◇
禁欲二十七日目。
みふゆは夢を見ていた。
やっちゃんがそこにいた。青い長い髪が肩から流れ落ちて、白いシャツのボタンがひとつだけ外れている。凛とした顔が微かに緩んで、紫の瞳がまっすぐにみふゆを見つめていた。
やちよの手がみふゆの頬に触れた。指先が冷たい。でもその冷たさが心地よくて、みふゆは自分から頬をすり寄せた。
「みふゆ」
やっちゃんの声。低くて、凛としていて、でもどこか甘い。
「頑張ったわね」
その言葉だけで泣きそうになった。頑張った。ワタシは頑張った。二十七日間、ずっと。誰も褒めてくれなかった。灯花はデータを取るだけで、褒めてなんてくれなかった。でもやっちゃんは——
やっちゃんの唇が近づいてくる。紫の瞳が伏せられて、長い睫毛が頬に影を落として——唇が触れた。柔らかい。温かい。みふゆの唇の上でやっちゃんの吐息がふわりと溶けて、舌先がそっと歯列をなぞった。
みふゆの身体が溶けていく。
やっちゃんの手が首筋を滑り降りて、鎖骨をなぞって、胸の上を通り過ぎて——おなかの上に着地した。指先がへその周りをくるくると回って、少しずつ下へ降りていく。
もっと下。もっと。
やっちゃんの指がおまんこに触れようとした——
目が覚めた。
天井があった。自分の部屋の天井。照明が消えた暗い部屋に、カーテンの隙間から街灯の薄い光が差し込んでいる。時計の表示が午前三時を指していた。
身体がびっしょりと汗をかいている。
パジャマが肌に張りついて、シーツが濡れている。額にも首筋にも、汗の粒がびっしりと浮いていた。それだけじゃない。太腿の内側を——何かが伝っている。汗とは粘度が違う、とろりとした——
愛液だ。
貞操帯の排泄穴から滲み出た愛液が、太腿の内側をゆっくりと流れ落ちていた。シーツにじわりと染みが広がっている。金属のプレートの内側がぬるぬると滑る感触がする。おまんこが——自分の意志とは関係なく——勝手に蜜を溢れさせている。
夢の続きが見たかった。
あと少しだけ。あと数秒だけ夢が続いていたら、やっちゃんの指がおまんこに触れてくれていたら——それだけで全身が砕けるほどの快楽が得られたのに。身体はもうそこまで来ていた。おまんこの奥がきゅうきゅうと収縮して、クリトリスがびくびくと脈打っている。金属の向こう側で、行き場のない快楽の予兆だけが膨らんで、膨らんで——弾けない。弾ける手段が、ない。
うつ伏せになった。
枕に顔を埋める。その拍子にマットレスが股間を圧迫して、貞操帯のプレート越しに鈍い圧力がかかった。ほんの一瞬——ほんの一瞬だけ、快楽の残り滓みたいなものが全身をちりっと撫でた。
全然足りない。
クリトリスをほんの一掻きできれば。爪先ほどの面積でいい。一秒だけでいい。それだけで——一瞬でアクメして楽園に飛べる確信がある。二十七日間溜めに溜めた快楽の圧力が、たった一掻きの刺激で決壊する。わかっている。身体がわかっている。なのに、そのたった一掻きが、永遠に手の届かない場所にある。
寝返りを打った。仰向けに戻る。太腿の内側を愛液が伝い直した。とろり、と。温かくて、ぬるくて、自分の身体から溢れたものなのに、まるで他人の体液のように感じる。
眠れない。三日前からまともに眠れていない。目を閉じるとやっちゃんが浮かぶ。やっちゃんの手が、唇が、声が、全部がおまんこに繋がって——目が覚める。覚めた瞬間の絶望。身体は限界まで温まっているのに、解放がない。
午前四時。
午前五時。
カーテンの隙間が白み始めた。朝が来る。起き上がらなければいけない。でも——
みふゆの手がシーツを握りしめていた。太腿の間が愛液でぐちゃぐちゃに濡れている。シーツの染みがじわじわと広がって、パジャマのボトムがおまんこの周囲だけ色が変わっている。止まらない。寝ている間も起きている間も、もう生理現象として止められない。
午前六時。
ベッドから起き上がれなかった。両手で股間を押さえて、胎児のように丸まって、みふゆはシーツの上で呻いていた。
——もう限界だ。
灯花に、頼むしかない。
*
> **〔灯花の実験ノート #038-30〕**
>
> 被験者:梓みふゆ(19歳・浪人生)
> 禁欲30日
>
> 被験者の精神状態は臨界点。睡眠障害(3日間で合計睡眠時間4.2時間)、集中力の完全喪失(学習効率:測定不能)、分泌液の常時漏出(24時間平均分泌量:平常時の9.8倍)。
>
> 実験としては大成功だにゃ~♡
>
> そろそろ報酬をあげてもいい頃合いかにゃ?
◇ ◇ ◇
リビングの床に、額がついていた。
フローリングの木目が目の前にある。冷たい。硬い。みふゆの額がその上にぴったりと押し付けられていて、白い髪が床に散らばって、両手が頭の横で拳を握っている。
土下座。
正真正銘の、五体投地の、額を床に擦りつけるタイプの土下座だった。
「お願いします……もう限界なんです……貞操帯を外してください……」
声が震えていた。情けないと思う。呉服屋の梓家の娘が、マギウスの翼の幹部が、十九歳の浪人生が——リビングの床に額をつけて、オナニーの許可を乞うている。
ソファの上から、灯花の赤い瞳がみふゆを見下ろしていた。小さな脚を組んで、ゴスロリドレスの裾がソファの端からふわりと垂れている。その姿勢は一ヵ月前とまったく同じ。あの日もこのソファに灯花が座っていて、みふゆの方が下にいた。
「みふゆ」
灯花がため息をついた。芝居がかった、深い深いため息。
「自制できるって言ったよね?」
「……言いました」
「勉強は?」
「……」
「テストの結果は?」
「……全然、ダメでした」
声がさらに小さくなった。額をフローリングから離す勇気がない。灯花の目を見たら泣いてしまいそうだった。
「十九歳のお姉さんが、小学生にマスターベーションのお許しを乞うて土下座してるんだよ~?w」
灯花の声は楽しそうだった。残酷なほどに、楽しそうだった。
「自分がどれだけ情けない状態かわかってるぅ?」
「……わかってます」
「一ヵ月も我慢したのに、テストも受からなかったし、宿題も全然進んでないし、結局おまんこのことしか考えられなかったんでしょ~?w」
一言も否定できなかった。事実だからだ。一ヵ月間、みふゆの頭の中を占めていたのは酸化還元反応でも薬学部の過去問でもなく、おまんこだった。
「オナニーさせてください……お願いします……ワタシ……もうダメなんです……」
声が裏返った。白い髪の奥で翡翠色の瞳が滲んでいた。プライドはとっくに砕けていた。綿棒事件あたりで粉々になって、夢から覚めた朝の絶望で灰になって、今この瞬間フローリングの上に額と一緒にすり潰されている。もう何も残っていない。
灯花がソファの上で姿勢を正した。小さな手が膝の上で組まれる。
「仕方ないにゃ~」
みふゆの肩がびくりと跳ねた。
「オナニーしてすっきりしたら、ちゃんと勉強するって約束できるぅ?」
「します!」
顔を上げた。涙の痕が頬に光っている。額にフローリングの木目がくっきりと赤く刻まれている。それでも翡翠の瞳だけは真剣そのもので——真剣の方向がとんでもなく間違っていることに、みふゆ自身は気づいていなかった。
「します、何でもします、絶対に勉強します、約束します——」
「じゃあ、特別だよ~?」
灯花がスマートフォンを取り出した。赤い瞳が画面に落ちて、小さな指がタップする。
ピッ。
カチッ。
腰に巻かれた金属のベルトが緩んだ。股を覆っていたプレートのロックが外れて、金属の塊がみふゆの身体から離れようとする——
みふゆは動かなかった。
動けなかった。
一ヵ月間、身体の一部だった金属が離れていく感覚に、全神経が集中していた。プレートが肌から剥がれていく。ゆっくりと。金属と肌の間に溜まっていた熱が逃げて、外気がそこに流れ込んでくる。
貞操帯が太腿を滑り落ちて、床に落ちた。かしゃん、と金属音。
一ヵ月ぶりに、おまんこが外気に触れた。
空気。
ただの空気が、クリトリスに触れた。
みふゆの全身に鳥肌が立った。爪先から頭のてっぺんまで、ざあっと鳥肌の波が駆け上がった。クリトリスがびくりと跳ねた。一ヵ月間金属に閉じ込められていたそれは、ぱんぱんに充血して膨らんでいて、空気の流れだけで——ただの空気に触れただけで——全身がびくびくと痙攣した。
「あ……あぁ……」
声が漏れた。何もしていない。指一本触れていない。貞操帯が外れて空気に晒されただけ。それだけで喉の奥から甘い声が這い出してきて、止められなかった。
おまんこが溢れていた。一ヵ月分の愛液が、堰を切ったように太腿の内側を伝い落ちていく。とろり、とろり、と。糸を引くほどの粘度で、透明な蜜がフローリングの上に滴り落ちた。
みふゆの膝が笑っている。立っていられない。しゃがみ込んだ姿勢のまま、両腕で自分の身体を抱きしめて、ぶるぶると震えている。
——まだ何も触ってない。解放されただけでこんな——もうアクメしそう——
「まだダメだよ~?」
灯花の声が降ってきた。
「まだ触っちゃダメ」
みふゆの手が、太腿の途中で止まった。おまんこに向かいかけていた指が、灯花の一言で凍りつく。
「と……灯花……」
「もうちょっとだけ我慢して~。いいもの見せてあげるから」
灯花がソファから降りた。ゴスロリドレスの裾がふわりと揺れて、小さなブーツがフローリングを鳴らす。テーブルの下から何かの箱を取り出した。
「みふゆ、なにで絶頂したい?」
「——っ」
絶頂。その言葉だけでおまんこがひくりと収縮した。頭に浮かんだのは、一ヵ月前から待ち焦がれていたピンク色の電動バイブ。あれがあれば、一秒でイケる。今のこの身体なら——
「あのバイブ……を……」
「あれはもうないよ~」
世界が暗転した。
「——え」
「あのバイブレーター、分解しちゃったw」
みふゆの顔が絶望に染まった。一ヵ月間の禁欲の果てに辿り着いた唯一の希望が、音もなく消えた。眼の前が真っ暗になって——
「わたくしの科学で改造したからにゃ~」
灯花が箱の蓋を開けた。
中にあったのは、元のピンク色のバイブとは似ても似つかない代物だった。白と銀の流線型ボディ。三つの異なるパーツが精密に組み合わさった構造体。灯花のテクノロジーが凝縮された——
「宇宙一気持ちいいバイブだよ♡」
灯花がそれを両手で掲げた。得意げに。科学者が最高傑作を披露するときの、あの輝いた目で。
「説明するね~」
灯花がソファに戻って、バイブを膝の上に載せた。みふゆはフローリングにしゃがみ込んだまま、おまんこから愛液を垂らしながら、灯花の説明を聞く体勢——我ながらあまりにも情けない姿だったが、もう気にする余裕がなかった。
「まず、ここ」
灯花の小さな指が、バイブの先端にあるカップ状のパーツを指した。
「クリトリス吸引ユニット。おまんこの上のところにぱくっと被せるの。ウーマナイザーって知ってる? あれの改良版。クリトリスに吸い付いて、空気圧で刺激する」
みふゆの太腿がぎゅっと閉じられた。聞いているだけで身体が反応している。
「しかもね、カップの内側に繊毛リングがついてるの。吸引しながら、シュルシュルって回転して上下する。吸って、擦って、また吸って。クリトリスのてっぺんを、ず~っと磨き上げる仕組みだにゃ」
「っ……」
一ヵ月間過敏化し続けたクリトリスに、それが——みふゆの身体が目に見えて震えた。太腿の間から愛液がまた一筋、とろりと垂れた。
「次~、ここ」
灯花の指がバイブの中央の太い部分に移った。
「膣内ディルドー。表面が粘膜に似た素材でできてて、膣壁にぴったりくっつくの。入れたら最後、どんなに締めても抜けないし、力負けしない。Gスポットとポルチオを同時にバイブレーション+先端回転で刺激するよ~」
みふゆのおまんこが、ひくっと勝手に収縮した。思わず太腿を強く閉じる。一ヵ月間何も入っていなかった場所が、説明を聞いただけで疼いて、受け入れる準備を始めている。
「で、ここが秘密兵器」
灯花の指がバイブの根元——カップの少し下にある、細い突起を指した。小指より細く、数センチほどの長さの棒状パーツ。
「尿道プローブ」
「にょ——尿道?」
みふゆの顔がさっと青ざめた。
「そう。ここが尿道に入る」
「む、無理です……そんなところに入れたら——」
「痛くないよ~。細いし、なめらかだし、先端が膨らんでないから引っかからない。それよりね、みふゆ——」
灯花の赤い瞳が、三日月形に細められた。
「——陰核脚って、知ってる?」
「いん……かく、きゃく……?」
「クリトリスの内部組織。クリトリスって、外から見えてる部分はほんのちょっとなの。本体はもっと大きくて、恥骨の内側にハの字型に伸びてる。二本の海綿体。クリトリスの足、みたいなもの」
灯花の小さな手が空中にハの字を描いた。
「クリトリスが人の頭だとしたら、陰核脚は足。で、その足の付け根——ちょうど内側の合流するところに、すっごく敏感な部分があるの。言うなれば——クリトリスのおまんこ」
「クリトリスの……おまんこ……」
「普通の女の子は、一生そこを触られることがないにゃ。だってそんなところに届く道がないもの。でもね——」
灯花の指が尿道プローブをとんとんと叩いた。
「尿道からなら、届く。陰核脚のすぐそばを通ってるから。このプローブが尿道に入って、振動で陰核脚を刺激するの」
みふゆの呼吸が浅くなっていた。両手が膝の上で震えている。
「いつもは頭を撫でられただけで簡単にアクメしちゃうクリトリスちゃんが、おまんこを直接いじられたらど~なると思う?w」
「…………」
「飛び上がっちゃうくらい気持ちいいよ?♡」
灯花がにぃっと笑った。
「とくにみふゆは尿道口がおまんこの上の方にあるから、陰核脚との距離が近いの。刺激がダイレクトに伝わる。クリトリスが飛び出ちゃうくらい気持ちいいと思うよ?」
「…………」
「覚悟してね♡」
みふゆは黙っていた。
黙って、震えていた。
恐怖があった。人知を超えた快楽の予感に対する、本能的な恐怖。一ヵ月間飢え続けた身体に、そんな凶器のような快楽が叩き込まれたら——壊れるかもしれない。頭が。身体が。ワタシという人間が。
でも——
もう、どうでもよかった。
壊れてもいい。壊れたっていい。一ヵ月だ。一ヵ月間、おまんこに触れられなかった。夢でやっちゃんに触れられかけて、目覚めて絶望して、綿棒に縋って、シャワーの角度を変えて、小学生に土下座して——そこまで追い詰められた十九歳のおまんこに、宇宙一気持ちいいバイブ。怖い。怖いけど、もう——絶頂できるなら何だっていい。
みふゆは顔を上げた。翡翠の瞳が濡れている。でもその奥に、恐怖と同じ量の渇望が燃えていた。
「……お願い、します」
声が掠れていた。
「使って、ください」
◇ ◇ ◇
「ソファに座って。脚、開いて」
灯花の声は淡々としていた。実験の手順を告げる研究者の声。
みふゆはソファに背中を預けた。ブラウスはまだ着ている。下半身だけが裸のまま、ソファの革が太腿の裏に張りついた。ひんやりとした革の感触に身体が震える。冷たいからじゃない。これから何が起きるかを、身体がわかっているからだ。
脚を開いた。
おまんこが灯花の前に晒された。一ヵ月間の禁欲で充血した粘膜が、照明の下でてらてらと光っている。小陰唇がぷっくりと腫れて、クリトリスは包皮から半分顔を出したまま赤く膨らんでいる。何も触れていないのに、とろりと愛液が溢れて太腿を伝い落ちた。
「ひどい状態だにゃ~。おまんこが泣いてる」
「……言わないで、ください……」
「データ通りだけどね~。じゃ、装着するよ」
灯花が宇宙一気持ちいいバイブを手に取った。白と銀の流線型が照明を反射して、金属質の輝きを放つ。灯花の小さな手の中で、それは武器のように見えた。
「まずクリトリスのところね」
カップ状のパーツが、クリトリスに近づいた。
触れる——まだ触れていない。カップの縁がクリトリスの数ミリ手前で止まっている。でも気配だけで——温度が近づいてくる気配だけで——
「ひゃっ」
みふゆの腰が跳ねた。まだ触れてもいないのに声が出た。一ヵ月の過敏化が、ここまで身体を作り変えていた。
「じっとして」
灯花の手がみふゆの太腿を押さえた。小さな手のひらが白い肌に沈む。それからカップがゆっくりと降りてきて——
ぱくっ、と。
クリトリスがカップに呑み込まれた。
「んっ……!」
柔らかいシリコンの内壁がクリトリスの周囲にぴたりと密着した。まだ起動していない。ただ収まっただけ。でも充血して膨れ上がったクリトリスがカップの中に吸い込まれる感触だけで、みふゆの指がソファの革を掻いた。繊毛リングの凹凸がクリトリスの先端に触れている。動いていないのに、微細な凹凸の存在だけでちりちりと電気が走る。
「次~、中」
灯花の指がディルドー部分をみふゆのおまんこに宛がった。粘膜状の表面がぬるりと小陰唇の間に収まって、入口に触れた瞬間——
ずぷっ。
ディルドーが滑り込んだ。一ヵ月間空っぽだった膣が、異物を迎え入れた。愛液が潤滑油になって、抵抗もなく奥まで——
「あっ——ぁ——」
みふゆの背中がソファに押しつけられた。目が見開かれる。口が半開きのまま、声にならない息が漏れた。
粘膜状の表面が膣壁にぴったりと張りついた。圧倒的なフィット感。抜こうとしても、締めつけても、粘膜が膣壁を追いかけてきて離れない。Gスポットの膨らみに先端が触れて、子宮口のすぐ手前にディルドーの頭が押し当てられている。まだ動いていない。ただ入っているだけ。それだけで——一ヵ月分の飢えが満たされる安堵と、もっと欲しいという貪欲さが同時に溢れ出して、みふゆの目尻から涙が一筋こぼれた。
「泣いてるのぉ?」
「っ……泣いて、ません……」
「最後~、尿道ね。ちょっとだけ変な感じするかも~」
細いプローブの先端が、尿道口に触れた。
「っ——!」
未知の感覚だった。痛みはない。灯花の言った通り、細くてなめらかで引っかからない。でも——そこに何かが入ってくるという事実が、脳を混乱させた。尿道の内壁にプローブの表面が滑り込んでいく。ぬるりとした異物感。数センチ入ったところで、プローブが止まった。
陰核脚のそば。灯花がさっき説明した場所。クリトリスの足の付け根。一生触られることのない場所の、すぐ隣に——
「装着完了」
灯花の声が聞こえた。
みふゆは動けなかった。ソファの上で両脚を開いたまま、目を固く閉じて、唇を噛みしめている。三つのパーツが同時にみふゆの身体を占領している。クリトリスはカップに、膣はディルドーに、尿道はプローブに。まだ何も起動していないのに、装着しただけで、一ヵ月分の蓄積が臨界点ぎりぎりまで膨らんでいた。
おまんこがひくひくと痙攣している。膣壁がディルドーを締めつけて、緩めて、また締めて——止められない。勝手に動いている。身体がもう待てないと叫んでいる。
「灯花……はや、く……」
「起動する前にイったら——」
灯花がタブレットを手に取った。赤い瞳がみふゆを見据える。
「——また貞操帯つけて、今度は一年外さないよ?」
みふゆの全身が凍った。
一年。
一年間この地獄を。一ヵ月でさえ壊れかけたのに。それが一年——
膣壁を必死で緩めた。締めるな。動くな。こんなところでイッたら終わりだ。でもディルドーの粘膜フィットが膣壁から離れてくれない。緩めても粘膜が追いかけてきて、ぴったりと張りついたまま。逃げ場がない。
「死ぬ気で、我慢してます……」
「くふふw じゃあ——」
灯花がタブレットの画面に指を置いた。起動スイッチ。赤い円形のアイコンが画面の中央で灯花の指を待っている。
「おまんこロケット、発射シークエンス開始~」
声色が変わった。NASA風のアナウンスをにゃ口調で真似る天才小学生。みふゆのおまんこは今にも爆発しそうなのに。
「クリトリスブースター、スタンバイよし」
「…………」
「膣圧——」
灯花がタブレットの数値をちらりと見た。
「——正常値の850パーセント超え。まあ、一ヵ月ためてたもんね~」
みふゆは言い返す余裕がなかった。ソファの革を握りしめる指が白くなっている。
「尿道プローブ、展開。陰核脚への接触確認」
プローブの先端が尿道の中でわずかに角度を変えた。それだけで——ちりっ、と。クリトリスの奥の、触れたことのない場所に、微かな振動が伝わった。
「ひ——っ」
「おっ、いいリアクション~。陰核脚、感度良好だにゃ」
灯花の指が起動スイッチの上で止まっている。赤い円形。押せば起動する。押せば——
「ファイナルカウントダウン」
灯花の声が室内に響いた。
「5」
みふゆの指がソファの革に食い込む。——早く。早く押して。もう耐えられない。三十日間、ずっとこの瞬間を待っていた。
「4」
膣壁がディルドーをぎゅうっと締めつけた。止められない。——でも、押されたら壊れる。この身体に今から起きることが怖い。クリトリスのおまんこを刺激されたら——
「3」
クリトリスがカップの中で脈打っている。どくどくと。心臓と同じリズムで。——壊れてもいい。もういい。壊してほしい。三十日分まとめて全部壊してほしい。
「2」
息を吸った。肺が膨らんだ。身体中の酸素が全部おまんこに集まっていくような感覚。あと二秒。一ヵ月の禁欲が開放されるまで、あと二秒。死んでも——イくな。ここでイったら一年。死ぬ気で——
「1——」
灯花の赤い瞳がみふゆを捉えた。
「おまんこ便アクメ宇宙旅行、いってらっしゃ~い!」
指が落ちた。
「ビッグクランチからの~ ビッグバーーン!」
スイッチが——押された。
三つが同時に目を覚ました。
クリトリスのカップが吸った。ぢゅっ、と。空気が抜かれて、充血した肉の芽がカップの中に引き込まれた。同時に繊毛リングが回転を始めた。しゅるしゅると微細な突起がクリトリスの先端を擦り上げて、吸引と摩擦が同時に——一ヵ月間触れることすら許されなかったクリトリスに——
膣内のディルドーが震えた。低い振動が膣壁を伝って、Gスポットの膨らみをじわりと揺さぶる。先端が回転してポルチオを撫で回す。粘膜フィットの表面が膣壁に吸いついたまま離れず、振動がダイレクトに粘膜から粘膜へ伝わって——
尿道プローブが振動した。細い棒が尿道の内壁を震わせて、その振動が——陰核脚に届いた。
「——————っっっ!!!!!」
声ですらなかった。
みふゆの身体が弾けた。ソファの上で背中が跳ね上がり、両脚が突っ張り、指先がソファの革に食い込んで——翡翠色の瞳が見開かれた。瞳孔が限界まで広がって、口が大きく開いているのに声が出ない。喉の奥で何かが引き攣って、空気だけが無音で漏れた。
一瞬でアクメした。
一ヵ月分が爆発した。三十日間溜めに溜めた快楽の圧力が、三方向からの同時刺激で一気に決壊した。堤防が弾け飛ぶように。ダムが崩落するように。みふゆの身体を洪水が駆け抜けて、全身の筋肉が一斉に収縮した。
おまんこから愛液が噴いた。ディルドーの周囲から押し出されるように、一ヵ月分の分泌液がぐじゅっと溢れてソファの革を濡らす。太腿の内側を伝い落ちて、みふゆの尻の下にじわりと水溜まりを作った。
それが——第一波。
「あ——あああっ——ああああああーーーーっ!!」
声が出た。遅れて出た。大絶叫がリビングを震わせた。みふゆの喉が裂けそうなほどの叫びが天井にぶつかって跳ね返る。
バイブは止まらない。クリトリスを吸い続けている。繊毛リングが回り続けている。膣内のディルドーが震え続けている。尿道プローブが陰核脚を揺さぶり続けている。アクメした直後の、もっとも過敏な身体に、三重の刺激が途切れなく注がれ続ける。
第二波がきた。
一波目が引く間もなく、二波目がせり上がってきた。
おまんこが——みふゆのおまんこが、ロケットになった。本当に打ち上げられたかのような感覚が下腹部から突き上がって、快楽が凄まじい速度で天井を突破していく。一波目で到達した高さをあっさりと越えて、もっと上へ、もっと奥へ——
声が出なくなった。
口が開いている。喉が動いている。でも音が出ない。あまりの快楽で声帯が麻痺して、みふゆはソファの上で口をぱくぱくと開閉するだけの魚になっていた。空気がない。本当に空気がなくなったみたいに、呼吸が止まっている。肺が痙攣して、横隔膜がひくひくと震えている。
陰核脚——そこだった。
クリトリスの吸引も凄まじい。膣内の振動も凄まじい。でも陰核脚への刺激が——次元が違った。クリトリスの頭を触られるのが「気持ちいい」だとしたら、陰核脚は——言語化できない。快感の質が根本から異なる。骨の内側から直接脳を揺さぶられているような、身体の構造そのものが快楽の共鳴装置になったような。一生触れられることのない場所を初めて刺激された衝撃が、クリトリスの吸引と膣内の振動で増幅されて、三重のフィードバックループが際限なく膨張していく。
第三波。
もう波という概念が崩壊していた。波と波の間がなくなった。絶頂が途切れない。降りるための谷がない。快楽が上へ上へと昇り続けて、天井を突き破って、空を突き抜けて——
身体の感覚が消えた。
ソファの革の感触が消えた。リビングの照明が消えた。灯花の声が消えた。みふゆの世界から、おまんこ以外のすべてが消滅した。快楽だけが存在する空間。重力がない。上も下もない。ただ快楽の塊がみふゆの中心に渦巻いて、膨張して、縮小して、また膨張して——
第四波。
頭の中がビガビガと明滅した。キラキラとかピカピカなんて可愛いものじゃない。フラッシュバンを顔面に叩きつけられたような、白く焼ける閃光が脳の内側で炸裂した。一回。二回。三回。四回。脈拍に合わせて閃光が瞬くたびに、みふゆの意識が削り取られていく。
白目を剥いた。
翡翠色の瞳が裏返って、白い眼球だけが天井に向けられた。口が半開きのまま固定されて、舌の先がだらりと唇の端からはみ出している。涎がソファに垂れた。指が痙攣して、爪先がぴんと伸びて、背中がソファの背もたれから浮き上がった。
快楽の特異点に到達していた。時間の感覚が消失して、一秒が永遠で、永遠が一秒で。みふゆの脳がすべての処理能力を快楽に明け渡して、思考も記憶も自我もまとめて白い光の中に溶け落ちていく。
第五波——いや、もう数えられない。
すべての快楽が一点に収束した。クリトリスと膣と陰核脚から押し寄せる三本の奔流が、下腹部の一点でぶつかって、混ざり合って、圧縮されて——
爆発した。
みふゆの全身が跳ねた。ソファの背もたれから背中が浮き上がり、腰が突き上がり、四肢がばらばらの方向に突っ張った。意志ではない。筋肉の暴走。全身の随意筋と不随意筋がまとめて発火して、みふゆの身体をソファの上でのたうち回らせた。おまんこから噴いた愛液がソファの革を叩いて飛沫が散った。太腿が痙攣して、腹筋がひくひくと波打って、肺から絞り出された空気がようやく音になった。
「ひ、ぁ——あ、——ぅ——」
言葉にもならない、壊れた息。
意識が飛んだ。
一瞬だったのか、数秒だったのか、数分だったのか。みふゆの目の前が真っ白に塗りつぶされて、何もわからなくなった。身体だけが快楽を受け止め続けている。バイブは止まっていない。灯花が止めていない。意識のないみふゆの身体が、オートマチックに絶頂し続けている。
灯花がソファの横に立っていた。
タブレットの画面に指を滑らせて、バイブの出力を微調整している。クリトリスの吸引を少し弱めて、膣内の回転を少し速めて、尿道プローブの振動パターンを変えて——崩壊したみふゆの身体から最適なデータを引き出すために、パラメータをリアルタイムで操作する。
その赤い瞳は、科学者の目だった。
満足と興味と、ほんの少しの——親しみを含んだ、科学者の目。
「おかえり、みふゆ。宇宙はどうだった?」
聞こえていなかった。みふゆの耳には何も届いていなかった。ソファの上でびくびくと痙攣する白い身体と、途切れ途切れの壊れた呼吸だけが、リビングの空気を震わせていた。
---
どれだけの時間が経ったのか、わからない。
みふゆの意識がぼんやりと戻ってきたとき、バイブはまだ動いていた。出力は落とされていて、クリトリスの吸引はとくとくと脈打つ程度、膣内のディルドーはゆるやかに回転しているだけ、尿道プローブはほぼ静止に近い微振動——それでも過敏化し尽くしたみふゆの身体には十分すぎる刺激で、数十秒おきにびくんっと小さな絶頂の余波が走っていた。
「も……止めて……ください……死ぬ……死んでしまいます……」
喉が焼けていた。さっきの絶叫で声帯が損傷したのかもしれない。掠れた声が唇から零れた。
「まだデータ取り終わってないにゃ~」
灯花の声が遠くから聞こえる。タブレットを操作する赤い爪が、みふゆの視界の端でちらちらと動いている。
「灯花……お願い……」
「あと少しだけ~。出力は落としてあげてるでしょ?」
落としてあっても地獄だった。低出力の刺激がじわじわとおまんこを焦らし続けて、大きなアクメは来ないのに小さな波が途切れなく寄せてくる。身体が勝手にひくひくと反応するたびに、意識がまた白く霞む。
——もう嫌だ。
もう嫌だ、でも、止まらない。灯花が止めてくれない。身体が勝手に感じ続ける。このままでは本当にどうにかなってしまう。壊れてしまう。おまんこが壊れるんじゃなくて、頭が壊れる——
その時。
みふゆの脳裏に、一つの顔が浮かんだ。
青い髪。紫の瞳。凛とした横顔。
やっちゃん。
——やっちゃんに、会いたい。
やっちゃんに抱きしめてほしい。やっちゃんに頭を撫でてほしい。やっちゃんに「頑張ったわね」と言ってほしい。やっちゃんの胸に顔を埋めて、やっちゃんの匂いを吸い込んで、やっちゃんの体温に包まれて——
指が動いた。
みふゆの右手が持ち上がった。痙攣する指で印を結ぶ。ソウルジェムが淡い光を放った。
「——あひゃるとっ……ぱら、にょいぁ……!」
アサルト・パラノイア。固有魔法「幻覚」「暗示」の同時発動。本来は魔女を惑わすための魔法。ろれつの回らない呪文が、みふゆの唇から零れた。
灯花の赤い瞳が丸くなった。
「……えっ、今ので魔法使ったの?」
みふゆの翡翠色の瞳が、ゆっくりと焦点を失っていった。現実のリビングがぼやけて、代わりに別の景色がにじみ出してくる。
灯花が何か言っている。タブレットを持った小さな手が視界の端にある。でもそれは急速に薄れていって——
白い霧の中に、人影が立っていた。
青い長い髪。白いシャツ。凛とした背筋。振り返った紫の瞳が、みふゆを映した。
「みふゆ」
やっちゃんの声。
みふゆの目から涙がぽろぽろと溢れた。本物のやっちゃんじゃない。自分の魔法が作り出した幻覚。みふゆの欲望が投影された、都合のいいやっちゃん。そんなことはわかっている。わかっていて——それでも——
「やっちゃん……やっちゃん……っ」
「よく一ヵ月もオナニーを我慢したわね」
幻覚のやっちゃんが微笑んだ。本物よりも少しだけ柔らかい表情。本物よりも少しだけ甘い声。みふゆの「こう言ってほしい」が、そのまま反映されている。
「えらいわ、みふゆ」
「もっと……もっと褒めてください……やっちゃん……」
「みふゆは頑張り屋さんね。ずっと見ていたわ」
やっちゃんの手がみふゆの頬に触れた。幻覚なのに温かい。脳が温度を捏造している。みふゆは自分からその手に頬を擦り寄せて、やっちゃんの掌に涙を押し付けた。
「ワタシ……辛かった……ずっと辛くて……やっちゃんに会いたくて……」
「わかっているわ」
やちよの腕がみふゆを抱きしめた。首筋にやちよの吐息がかかる。髪の匂いがする——はずはない。みふゆの脳が記憶の中のやっちゃんの匂いを再生しているだけだ。でもそれで十分だった。やちよの胸に顔を埋めて、みふゆは声を上げて泣いた。
甘えたがりの本質が、一ヵ月分の飢えと一緒に噴き出していた。
「みふゆのこと、好きよ」
「ワタシも……やっちゃんが好きです……大好きです……」
やちよの唇がみふゆの額に触れた。こめかみに。頬に。涙の跡をなぞるように。そして——唇に。
柔らかかった。
みふゆの唇の上でやちよの唇が溶けるように重なって、舌先がそっと歯列を撫でた。みふゆが口を開くと、やちよの舌がゆっくりと入ってきた。温かくて、滑らかで、甘い。みふゆの舌がやっちゃんの舌を追いかけて、絡まって、離れて、また絡まった。
唇が離れたとき、みふゆの目は潤んでいたけれど、もう泣いてはいなかった。代わりに——翡翠色の瞳の奥で、何かに火がついていた。
「やっちゃん……やっちゃんの槍で……ワタシを、貫いてください……」
本物のやちよが聞いたら槍でみふゆを本当に貫くかもしれないセリフだった。でも幻覚のやちよは穏やかに微笑んで——
「ええ、わかったわ」
バイブじゃ足りない。機械の振動じゃなくて、やっちゃんの体温が欲しかった。脈打つ熱が欲しかった。やっちゃんの身体の一部がワタシの中に入ってきて、やっちゃんが気持ちよくなってくれる——そういうのが欲しかった。現実にはあり得ない。でも、幻覚の中でなら。
やちよの白いシャツの下で、何かが膨らんだ。スカートの前が持ち上がる。みふゆの欲望がやちよの股間にチンポを生やしていた。幻覚の中でしか叶わない形で、みふゆの渇望が具現化していた。形も大きさも、みふゆにとって完璧なそれが——やちよの手でスカートから引き出された。
みふゆはソファの上で仰向けに脚を開いた。現実の身体にはバイブが装着されたまま。でもみふゆの脳の中では——やちよがみふゆの太腿の間に膝をつき、みふゆのおまんこにチンポの先端を宛がっている。
「入れるわね、みふゆ」
「……はい」
ずぷっ。
現実にはバイブのディルドーが膣内で回転しているだけだった。でもみふゆの脳は、その刺激をやちよのチンポが入ってくる感覚に置換していた。温かくて、硬くて、脈打っていて——生きている。幻覚が生み出した体温と脈動が、膣壁を満たしていく。
「あ……やっちゃん……やっちゃんが……中に……」
「みふゆのおまんこ、とっても気持ちいいわ♡」
本物のやちよは絶対に言わない。絶対に絶対に言わない。でもみふゆが言ってほしいから、幻覚のやっちゃんはそう言ってくれる。その言葉だけで、みふゆのおまんこがきゅうっと締まった。
やちよが腰を動かし始めた。ゆっくりと。みふゆの膣内をチンポがずるりと抜けかけて、またゆっくりと奥まで押し込まれる。正常位。やっちゃんの顔がみふゆの真上にあって、青い髪がカーテンのように降りてきて、二人だけの小さな世界を作っている。
「素敵です……やっちゃん……♡」
みふゆの両腕がやっちゃんの首に回された。しがみつくように。甘えるように。やちよの肩に顔を埋めて、みふゆは幸福そうに喘いだ。一ヵ月間の地獄が、やちよの体温で溶かされていく。
「もっと……もっとください……やっちゃん……」
「ええ、いくらでも」
やちよのピストンが速まった。みふゆの膣の奥を突く角度が変わって、ポルチオに当たるたびにみふゆの背中がびくんと跳ねる。現実にはディルドーの回転速度が上がっただけ——でもみふゆの脳内では、やちよが熱く息を荒げながらみふゆのおまんこを貫いている。
「やっちゃんっ……やっちゃんっ……好き……好きです……♡♡」
「私も好きよ、みふゆ……みふゆのことが世界で一番好き……♡」
本物のやちよがこんなことを知ったら——考えたくもなかったが、今のみふゆにそんな理性はなかった。幻覚のやっちゃんに「世界で一番好き」と言われて、全身が震えるほど嬉しくて、おまんこが幸福でとろとろに蕩けて——
「今度はワタシが動きます……!」
みふゆが身体を起こした。やちよを仰向けにして、跨った。しゃがみ騎乗位。みふゆの太腿がやちよの腰を挟んで、おまんこがチンポの根元まで飲み込んだ。
腰を動かした。
上下に。自分のペースで。自分の一番気持ちいい角度を探しながら、みふゆはやちよの上で夢中になって腰を振った。一ヵ月分の飢えを叩きつけるように。甘えたがりの本質が、甘えることを通り越して貪欲に変わっていた。
「やっちゃんっ……やっちゃんっ……やっちゃんのっ——おちんぽぉっ♡♡」
みふゆの腰が猛烈に上下する。ぱんっ、ぱんっ、と肌がぶつかる音——は幻覚が作り出した音。現実のリビングでは、バイブのぐちゅぐちゅという水音だけが響いている。
「みふゆ……すごいわ……」
やちよの声が揺れた。幻覚のやちよの顔が紅潮して、紫の瞳が快楽に潤んでいる。みふゆの「こうなってほしい」がそのまま映っている。やっちゃんが気持ちよさそうにしている——その顔を見るだけで、みふゆのおまんこがきゅうきゅうと締まった。
「一緒にっ……やっちゃんっ……一緒にイきたいですっ……!」
「ええ……一緒に……みふゆ……!」
やちよの手がみふゆの腰を掴んだ。下から突き上げるように腰を動かして、みふゆのおまんこの最も深いところを——
「やっちゃんっ——!!♡♡♡」
「みふゆ——!」
同時に達した。
幻覚のやちよのチンポがみふゆの膣内で脈打って、熱いものが溢れる感覚——脳が捏造した射精。現実にはバイブがみふゆの膣内で振動しているだけ。でもみふゆの脳は、やっちゃんの精液がおまんこの奥を満たしていく温度と重みを、鮮やかに再現していた。
みふゆはやちよの胸に倒れ込んだ。幻覚の体温に顔を埋めて、びくびくと痙攣しながら、幸せそうに微笑んでいた。
「やっちゃん……好き……大好き……♡♡」
「もう離さないわ、みふゆ……♡」
その瞬間——やちよの顔がぶれた。
輪郭が波打った。紫の瞳がにじんで、青い髪の色が一瞬だけ別の色に入れ替わった。声がぐにゃりと歪んで、低くなって、高くなって——
快楽で集中力が限界を超えていた。幻覚を維持する魔力が底をつきかけている。
でもみふゆはもう気にしなかった。
やっちゃんの顔がぐにゃぐにゃに溶けても、輪郭が崩壊しても、声がノイズ混じりになっても——おまんこが気持ちよければどうでもよかった。プライドも理性も恥じらいも、全部アクメと一緒にどこかに飛んでいった一ヵ月前の自分に、今さら何を取り繕うことがあるだろう。
崩壊していく幻覚の中で、みふゆは最後の大絶頂を迎えた。ぐちゃぐちゃに歪んだやちよの顔を見上げながら、おまんこをびくびくと痙攣させて、涎と涙でぐしゃぐしゃになった顔で——笑っていた。
幸せそうに。
どうしようもなく、幸せそうに。
---
灯花はソファの横に立ったまま、みふゆを見つめていた。
みふゆは一人で喋っていた。一人で喘いでいた。一人で腰を振っていた。「やっちゃん」「やっちゃん」と誰もいない空間に呼びかけながら、バイブを装着したおまんこをぐちゅぐちゅと鳴らして、見えない誰かに抱きついて、見えない誰かとキスをして、見えない誰かの名前を叫びながら絶頂していた。
「…………」
灯花はタブレットを胸の前に抱えた。赤い瞳がわずかに揺れた。
「……みふゆ、さっきから一人で何を喋ってるの?」
返事はなかった。
「ちょっと怖いんだけど……」
みふゆの耳には届いていなかった。幻覚の中で、崩壊していくやっちゃんの腕の中で、梓みふゆは幸せの絶頂にいた。
◇ ◇ ◇
静かだった。
リビングの照明がぼんやりと白い光を落としている。窓の外はとっくに暗くなっていて、カーテンの隙間から街灯のオレンジ色が細く差し込んでいた。時計の針は午後十時を過ぎている。
ソファの上に、梓みふゆの残骸があった。
仰向けに倒れたまま、ぴくりとも動かない。赤みがかったブラウンのブラウスが汗でぐっしょりと肌に張りついて、肩口のフリルがくしゃくしゃに潰れている。下半身は裸のまま。太腿の内側が愛液でてかてかと光っていて、ソファの革にはじわりと水溜まりが広がっている。白い髪が汗で額に貼りついて、頭頂部のぴょこんとはねた毛だけがかろうじて元の形を保っている。
目の下に隈が浮いていた。もともと三日間まともに眠れていなかった上に、数時間にわたるアクメの嵐を経た顔は、ストレスも潮も愛液も涙も涎も恥も外聞もプライドも魂も、すべて出し尽くした女の顔だった。
バイブはようやく外されていた。灯花がデータの取得を完了して停止させたのだ。みふゆのおまんこは赤く充血したまま、ひくひくと微かに痙攣を繰り返している。閉じる力も残っていない。
灯花がソファの肘掛けに腰かけて、みふゆを見下ろしていた。タブレットをテーブルに置いて、小さな手が膝の上で組まれている。
「これで勉強に集中できるでしょ~?」
呆れ半分、満足半分の声。赤い瞳がみふゆの顔を覗き込んだ。
みふゆの唇が動いた。
「ひゃ……い……」
声にならない声。翡翠色の瞳が半分だけ開いて、灯花の赤い瞳をぼんやりと映した。それが返事だったのか反射だったのかは、本人にもわからなかった。
目が閉じた。
みふゆの身体から最後の力が抜けて、ソファの上でふにゃりと脱力した。呼吸がゆっくりと穏やかになっていく。寝息。三日ぶりの、深い深い眠り。
灯花はしばらくみふゆの寝顔を眺めていた。
それから小さなため息をひとつついて、ソファから降りた。テーブルの上のタブレットを拾い上げて、ゴスロリドレスの裾を翻してキッチンに向かった。冷蔵庫を開けて、麦茶のボトルを取り出して、グラスに注いで——みふゆの枕元のテーブルに置いた。
ブランケットを一枚、みふゆの身体にかけた。
「おやすみ、みふゆ」
小さな声で呟いて、灯花は部屋の灯りを消した。
◇ ◇ ◇
数日後のことだった。
梓みふゆは、リビングの床に額をつけていた。
二度目の土下座。
フローリングの木目が目の前にある。この光景には覚えがある。つい数日前、同じ場所で同じ姿勢をとった。あの時は「オナニーさせてください」だった。今回は——
「あの……灯花……宇宙一気持ちいいバイブを……もう一度だけ……貸していただけませんか……」
ソファの上で、灯花が赤い瞳を丸くした。
「え? もう大丈夫って言ってたよね? 勉強に集中できるって」
「それは……そうなんですけど……」
みふゆの声が小さくなっていく。額がフローリングに密着したまま、耳だけが真っ赤に染まっている。
「もしまたストレスが溜まった時のために……予防的に……手元に置いておきたいといいますか……」
「予防的なオナニーなんてないよ~?w」
「…………」
「つまり、あれが気持ちよすぎて忘れられないから貸してって、素直に言えないのかにゃ~?」
図星だった。図星すぎて額がフローリングにめり込みそうだった。
「十九歳のお姉さんが、小学生にマスターベーションの道具を貸してくださいって二度目の土下座してるんだよ~?w」
灯花の声が弾んでいた。
「くふふ、前より情けなくなってるにゃ~w」
「…………おっしゃる通りです」
否定する気力もなかった。事実だった。一度目の土下座はオナニーの許可を乞うためだった。二度目は道具のレンタルを乞うためだった。確実に階段を下りている。
灯花がソファの上で脚をぶらぶらと揺らした。数秒の沈黙。みふゆの心臓がばくばくと鳴っている。
「くふふ」
灯花が笑った。
「しょうがないにゃ~」
みふゆの頭がぱっと上がった。翡翠色の瞳が希望で輝いている。フローリングの木目の跡が額に赤く刻まれている。
「ただし条件。ちゃんと勉強もするって約束してね?」
「します! 絶対にします!」
「はいはい。じゃ、持ってきてあげる」
灯花がソファから飛び降りて、バッグの中からバイブの箱を取り出した。白と銀の流線型が照明を反射する。みふゆの手がそれを受け取った瞬間、指が震えた。懐かしさと渇望で。
みふゆの尊厳は——もう灯花の手の中にあった。
---
そして——現在。
ベッドの上で、梓みふゆはオナニーをしていた。
二度目の土下座までして借りた宇宙一気持ちいいバイブが、おまんこに装着されている。クリトリスの吸引がじゅぷじゅぷと音を立て、膣内のディルドーがぐちゅぐちゅと回転し、尿道プローブが陰核脚を震わせている。みふゆはシーツの上で両脚を開いて、腰をくねらせながら、もう何度目かもわからない絶頂の波に身体を委ねていた。
「あと一回……あと一回だけです……すっきりしたら勉強に取りかかれます……あと一回ですから……」
誰に言い訳しているのかもわからない独り言が唇から零れた。あと一回。それはもう今日に入って十回以上繰り返されたフレーズだった。あと一回だけ。次のアクメで最後。そう思うのに——イった瞬間に身体がもう一回を求めてしまう。止められない。止まらない。
しかも——
「みふゆ、頑張ってるわね」
幻覚のやっちゃんが、ベッドの傍にいた。
自分に幻覚をかけるのは、もはや常習化していた。バイブのスイッチを入れるのと同じタイミングでアサルト・パラノイアを発動する。反射のように。儀式のように。やっちゃんを呼び出して、やっちゃんに褒めてもらいながら、やっちゃんのチンポでイく。それがみふゆのオナニーのルーティンになっていた。
魔女と戦うための魔法を、オナニーの道具に使っている。マギウスの翼の幹部が。十九歳の大人が。
——こんなに頑張ってない女もいないが。
幻覚のやっちゃんは、みふゆの都合のいいことしか言わなかった。
「やっちゃん……もう一回だけ……もう一回だけ……♡」
「ええ、いくらでもいいわよ、みふゆ♡」
本物のやちよが知ったら——もうその思考すら浮かばなくなっていた。
◇ ◇ ◇
翌日の昼前。
みふゆは目を覚ました。
天井がある。自分の部屋の天井。カーテンの隙間から真昼の太陽が差し込んでいて、目を灼くほどに眩しい。時計を見る。午前十一時四十分。
オナニーで疲れ果てて寝てしまった。いつ眠りに落ちたのかも覚えていない。
身体がベトベトだった。乾いた汗と愛液が肌の上でフィルムのように張りついている。シーツは見るも無残な状態で、枕には涎の跡がくっきりと残っている。部屋の空気が甘ったるく淀んでいた。
みふゆはのろのろとベッドから這い出して、浴室に向かった。シャワーを浴びる。お湯が全身の汚れを洗い流していく。今はもう貞操帯がないから、おまんこにもお湯がちゃんと当たる。その当たり前の感覚が嬉しくて——いや、嬉しがっている場合ではない。
湯船にお湯を溜めた。
ざぶん、と身体を沈める。温かいお湯が全身を包み込んで、昨夜の疲れがじわじわと溶けていく。天井を見上げた。湯気がゆらゆらと漂っている。
——次こそは。
みふゆは拳を握った。湯船の中で、翡翠色の瞳に決意の炎が灯る。
次こそは絶対に勉強と課題を終わらせる。灯花との約束を果たす。テストに合格する。薬学部に受かる。母さんに報告する。ワタシはできる。ワタシは十九歳の大人で、梓みふゆで、マギウスの翼の幹部で——お風呂から上がったら、まず机に向かう。灯花に出された問題集を開く。酸化還元。電子の移動。今度こそ、やっちゃんの指が割り込んでくる前に解き切る。やればできる。ワタシはやれる子だ。
——よし。
みふゆは湯船の中で大きく頷いた。決意を固めた翡翠の瞳が、湯気越しにきらりと光って——
「…………」
視線が止まった。
湯船の縁に、宇宙一気持ちいいバイブが置いてあった。
昨夜おまんこから外したあと、洗って浴室に置いておいたのだ。白と銀の流線型が、浴室の照明を反射してつやつやと光っている。
「…………」
みふゆはそれを見つめた。
「…………でもまあ」
声が出た。
「そのまえに……一回だけ……アレしておきますか……」
手が伸びた。
湯船の縁からバイブを掴んで、お湯の中に沈める。もう片方の手で印を結ぶ。ソウルジェムが淡く光った。
「あひゃると・ぱらのいあ」
今日は発音がちゃんとできた。慣れとは怖いものである。
湯気の向こうに、青い長い髪が揺れた。
「おはよう、みふゆ♡」
「おはようございます、やっちゃん♡」
結局その日も、一日オナニー漬けだった。
梓みふゆに、未来はあるのだろうか——。
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> **〔灯花の実験ノート #038-追加観察〕**
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> 宇宙一気持ちいいバイブ返却予定日を大幅に超過。被験者は完全にマスターベーション依存状態。固有魔法を自慰の補助に使用(もはや実戦投入の予定なし)。勉強の進捗:0パーセント。
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> ……まあいっか♡ みふゆが幸せそうだし、にゃ~。