※この作品はR-18です。

搾精都市神浜~魔法少女たちのエッチな短編集~   作:黒蓮/クロハス

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格安風俗 ヨダカの夜鷹 黒江

 一ヵ月かかった。

 

 バイト代を封筒に詰めて、封筒をまた財布に戻して、財布を鞄にしまって、鞄を部屋の隅に放って、また翌朝バイトに出かける——その繰り返しを一ヵ月。大学の講義は半分も頭に入らず、アパートに帰ればコンビニ弁当を食べてベッドに転がるだけの毎日で、それでも封筒の中身だけは着実に厚くなっていった。

 

 今日、ようやくここに立っている。

 

 キレーションランドの、薄暗い廊下。

 

 上のフロアにはキレーションソープランドがあるらしい。キレーションランドの花形であるソープコースで、高級個室にはバスルーム完備、紅茶セットつき、ベテランのソープ嬢がとろけるような笑顔で迎えてくれる——そういう世界が、エレベーターを数階上がった先にある。聞いた話では、巴マミという伝説的なソープ嬢がいるという。ネットのレビューは絶賛の嵐で、一度でもあの胸に包まれたら人生が変わるとまで書かれていた。

 

 手が届くわけがなかった。

 

 一ヵ月バイトして貯めた金では、あのフロアの料金表の一番安いコースにすら足りない。最初からわかっていた。マミさんのような高級ソープ嬢は、僕なんかのために存在しているわけじゃない。

 

 だから——ヨダカコース。

 

 地下に降りる階段を見つけたとき、青年の足は三段目で止まった。蛍光灯の白い光が壁のコンクリートを照らしていて、上のフロアの間接照明とは別世界だった。壁に貼られた案内板。手コキのみ。キャスト指名不可。シャワーなし。時間制限あり。料金は上の十分の一以下。

 

 ヨダカ——夜鷹。かつての最下層の私娼の呼び名をそのまま冠したコースに、僕は一ヵ月分のバイト代を握りしめて降りていく。

 

 階段を降りきると、廊下が伸びていた。パイプがむき出しの低い天井。壁の塗装が所々剥がれて下地が見えている。どこかの個室から男の声が漏れて、隣の部屋からはバタンとドアが閉まる音がした。足音が重なる。入れ替わるように誰かが廊下を歩いていく。回転率が高いのだろう——ムードなんてものは、ここには存在しない。

 

 指定された番号の部屋の前で立ち止まった。

 

 薄いベニヤのドアに、手書きの数字が貼られている。深呼吸を一つ。手汗を太腿で拭って、ドアノブに手をかけた。掌が滑る。もう一度拭いて、握り直す。

 

 ——風俗なんて初めてだった。風俗どころか、女の子と手を繋いだことすらない。

 

 ドアを開けた。

 

 狭かった。

 

 パイプベッドが一台。薄いシーツが敷かれて、枕もとにティッシュの箱がひとつ。壁際に折りたたみ椅子。天井のむき出しの蛍光灯が、部屋全体を平坦な白で塗り潰している。上のフロアにあるような紅茶セットもバスルームもない。窓もない。ただ「抜く」ためだけに用意された、最低限の箱。

 

 隣の部屋から壁越しに声が漏れてくる。低い男の呻きと、事務的な女の声。壁が薄い。この部屋で起きることも、隣に筒抜けなのだろう。

 

 その箱の中に——女の子が、座っていた。

 

 パイプベッドの端。黒いケープを羽織って、フードを深く被っている。フードの影が顔の上半分を隠して、蛍光灯の光の下でも口元しか見えない。小さな唇が、微かに開いている。

 

 黒髪のショートヘア。フードの縁から前髪が覗いて、灰がかった黒が蛍光灯に鈍く光っている。ケープの前が開いていて、その下の衣装が目に入った。腹部が大きく露出している。へその上あたりから肋骨の下まで、白い肌がそのまま晒されていて、交差する紺色の布地がかろうじて胸を覆っている。薄紫のフリルの下から伸びる太腿——ピンク色のニーハイソックスとスカートの間の、素肌の帯。細い脚を揃えて、ベッドの端にちょこんと腰かけている。

 

 ——可愛い。

 

 この殺風景な格安個室に、場違いなほど可愛い女の子がいた。

 

 魔法少女の衣装だということは、青年にもわかった。キレーションランドで働く女の子たちは皆そうだ。でもこの子の衣装は——なんというか、エロい。腕も腹も太腿も素肌で、布地よりも肌の方が多い。なのに本人は一切それを気にしていない様子で、ベッドの端に座ったまま微動だにしない。

 

 女の子が顔を上げた。フードの影の奥で、暗い色の瞳が青年を捉えた——ような気がした。口元だけが見える。表情は読めない。

 

「…いらっしゃい」

 

 低い声だった。ボソボソと、感情の起伏を削ぎ落としたような声。

 

「私、黒江。ヨダカコースの担当」

 

 それだけ言って、黙った。会話を広げる気配がない。沈黙が蛍光灯の唸りに呑まれていく。

 

「あ、あの……は、初めてなんです。こういうところ……」

 

 青年は精一杯の声を絞り出した。自分の声が裏返っているのがわかる。耳が熱い。

 

「…そうなんだ」

 

 黒江の返事はそれだけだった。相槌というにはあまりに短く、会話を続ける意志を感じさせない。ただ事実を受け取って、処理して、棚に置いた——そんな温度。

 

 沈黙。

 

 青年は場をつなごうとした。何か言わなければ。この可愛い女の子の前で、ただ突っ立っているだけの自分が情けなくて。

 

「く、黒江ちゃんは……その、可愛いですね」

 

 言ってから後悔した。こういう場所で「可愛い」なんて言われても、営業スマイルが返ってくるだけだ。あるいは苦笑い。あるいは——

 

 黒江は何も返さなかった。

 

 数秒の沈黙。フードの影の中で、暗い瞳が青年の顔を見ているのか見ていないのか。可愛いと言われて嬉しいわけでも、謙遜するわけでもない。そもそもその言葉が届いたのかどうかすら怪しい。

 

「…時間、もったいないから。始めるね」

 

 立ち上がった黒江の動きは淡々としていた。パイプベッドのスプリングが軋む音。ケープの裾が揺れて、素肌の太腿がちらりと蛍光灯の光を弾く。

 

「…じゃあ、脱いで」

 

 青年が答える前に、黒江の手がベルトに伸びていた。青年の腰に手をかけ、バックルを外す。細い指が金具を弾く手つきは慣れている——いや、慣れているというより、感情が介在していない。荷物の梱包を解くような手つきだった。

 

「えっ、あ、自分で——」

 

「…いいから。時間ないし」

 

 ベルトが抜かれた。ボタン。ファスナー。黒江の手が淡々とズボンを下ろしていく。下着ごと。青年が慌てて腰を引こうとしたが、黒江は構わず布地を膝まで下げた。

 

 半勃ちのチンポが、蛍光灯の下に露出した。

 

 青年の心臓が喉元まで跳ね上がった。生まれて初めて、女の子の前で——可愛い女の子の前で——自分の性器を晒している。恥ずかしい。恥ずかしくて死にそうだ。視線をどこに向けていいかわからなくて、天井の蛍光灯を見上げた。白い光が目に刺さる。

 

 黒江はチンポを見て——何の反応もしなかった。

 

 大きいとも小さいとも言わない。目を逸らしもしない。ただそこに「ある」という事実を認識して、次の作業工程に進んだだけだった。

 

「…ヨダカコースは手コキだけだから。始めるね」

 

 折りたたみ椅子を引いて、青年をベッドの端に座らせる。黒江は床に膝をついた。ケープの裾が床に広がる。フードを被ったまま、顔を上げる。口元だけが見える。

 

 隣の部屋から、バタンとドアが閉まる音。廊下を歩く足音。誰かが咳払いをして通り過ぎていく。この慌ただしい回転の中で、黒江の手がチンポに触れた。

 

 冷たかった。

 

 細い指が竿を包む。乾いた掌。ローションもない。事務的に、作業的に——黒江の手が、動き始めた。

 

---

 

 教科書通りだった。

 

 カリ首の下を親指と人差し指で輪にして挟み、残りの三本で竿を軽く包む。上下にしごく。それだけ。緩急もなければひねりもない、ただ棒を握って往復するだけの、最も基礎的な手コキ。

 

 それでも——充分だった。

 

 女の子の手だ。女の子の、細くて冷たい指が、直接チンポに触れている。生まれて二十年、自分の手以外の人間に性器を触れられた経験がない。右手の感触しか知らない亀頭が、黒江の掌の中で別の温度を知って——脳の回路が一瞬でショートした。

 

「あっ……」

 

 息が漏れた。腰が勝手にびくりと跳ねる。

 

「…手、冷たくない?」

 

 黒江が聞いた。手を動かしながら。フードの影から覗く口元は、世間話でもするような平坦さだった。風俗嬢としての最低限の気遣い——形式的な確認。

 

「だ、大丈夫です……っ」

 

 大丈夫ではなかった。声が裏返っている。太腿が震えている。黒江の手がチンポの上を滑るたびに、下腹部の奥でとんでもないものが膨らんでいく。まだ三十秒も経っていない。いや、二十秒か。十五秒か。もう——

 

「く、黒江ちゃ——出、出ちゃう——っ!」

 

 ビュクッ。

 

 ビュクビュクッ——。

 

 あっけなかった。黒江の指の間から白い液体が溢れて、手の甲を伝い、青年の太腿に垂れ落ちた。腰が痙攣して、ベッドのスプリングがギシギシと鳴る。視界が白く明滅して、数秒間、何も考えられなかった。

 

 息を荒くする青年の前で、黒江は手を止めた。

 

 精液まみれの右手を顔の前に持ち上げて、数秒眺めた。指の間にとろりと絡みつく白濁を、蛍光灯の光に透かすように。それから——ピッ、と指先を振って精液を払い、ティッシュでさっと拭いた。手のひら、指の腹、爪の縁。手早く、事務的に。作業が終わった手を作業台に戻す、その動作と何も変わらない。

 

「…終わり」

 

 ティッシュを丸めて、ベッド脇のゴミ箱に放り込む。

 

「じゃあ、もう一回する? まだ時間あるから」

 

 青年はまだ呼吸が整っていなかった。射精の余韻で指先が痺れている。なのに黒江はもう次の工程に意識を移していて、振り返りもしない。青年が何を感じたか、気持ちよかったのか、満足したのか——そんなことには一切の関心を持たない顔で、精液を拭いたティッシュをゴミ箱に捨てている。

 

「も、もう一回……お願いします……」

 

「…うん」

 

 黒江が再びチンポに向き直った。射精したばかりで萎えかけている竿を、左手で軽く持ち上げる。

 

 口が開いた。

 

 フードの影の中で、小さな唇が薄く開いて——舌先が見えた。ぺろり、と下唇を舐めて湿らせてから、黒江は口をチンポの上に寄せた。

 

 デロリ。

 

 唾液が垂れた。黒江の口からとろりと伸びた透明な糸が、亀頭の先端に落ちて、竿を伝い、根元に向かってゆっくりと流れ落ちていく。生温かい唾液がチンポの表面を濡らして、蛍光灯の光をてらてらと反射した。

 

 行為自体はエロい。女の子が口から涎を垂らしてチンポを濡らしている——文字にすればそれだけで十分にいやらしい光景。なのに、やっている黒江の顔は無表情のままだった。ローションの代わりに唾液を使う。合理的な判断。それ以上でも以下でもない。

 

「…滑りよくなった。じゃあ、二回目」

 

 黒江の右手がチンポを握った。

 

 ——違った。

 

 さっきとは、全く別のものが手の中にいた。

 

 手首が回った。速い。親指がカリ首の裏筋を弾くように走り、同時に人差し指と中指が亀頭のカリの段差に沿ってクルクルと円を描く。薬指と小指は竿の根元をリズミカルに締めて、五本の指が全てばらばらの仕事をしている。

 

「えっ——な、なにこれ……!?」

 

 青年の背中が跳ねた。一回目の教科書的な往復運動とは次元が違う。指の一本一本が独立した生き物のように動いて、チンポのあらゆる場所を同時に、かつ別々のリズムで刺激している。

 

 手首のスナップが異常だった。回転の速度、切り返しの角度、力の入れ方と抜き方——そのどれもが普通の手コキの範疇を逸脱していた。掌で亀頭を包み込んで、グリグリと揉み洗うように回す。ボールを掌の上で転がすような手つき。丸い物体を掌で自在に操る、そういう訓練を積んだ者の手つきだった。

 

 焦らしはなかった。前戯も、駆け引きも、ムードの演出も何もない。射精感だけを一直線に引っこ抜きにくるような、容赦のない快楽の暴力。チンポの快感のスイッチという概念があるなら、黒江の指はそれを一つ残らず同時に押し込んでいる。

 

「す——すご……っ、黒江ちゃんの手コキ、すごっ……! めちゃくちゃ気持ちいい……!」

 

 声が裏返る。腰が浮く。シーツを掴む指が白くなる。一回目とは比較にならない速度で快感が積み上がっていく。さっきの事務的な手コキは何だったのか。あれはウォーミングアップですらなかったのか。これが——この子の、本当の手コキなのか。

 

「…そうなんだ」

 

 黒江の声は変わらない。手が繰り出す刺激は異常なのに、顔も声も温度も何もかもが平坦なまま。ただ手だけが別人のように暴れている。その温度差が脳を狂わせる。こんなに気持ちいいのに、この子は何も感じていない。何も楽しんでいない。作業として——少しだけ精度を上げた作業として、チンポを搾っているだけ。

 

「もう——もうダメ、出る——!」

 

 二回目の射精。ドクッ、ドクッと精液が溢れた。黒江の指の間からドロリと白い液体が垂れて、青年の太腿に落ちていく。量は一回目より多い。射精の波が身体を揺さぶるたびに、ベッドが軋んで隣の部屋に音が漏れているだろうと思ったが、気にする余裕はなかった。

 

 黒江は精液まみれの手を見下ろした。指の間を伝い落ちる白濁。手の甲を這う粘液の筋。

 

「…いっぱい出るんだね」

 

 感想はそれだけだった。驚きも嫌悪もない。ティッシュで手を拭きながら、報告書の備考欄に事実を書き込むようなトーンだった。

 

 黒江が姿勢を直した拍子に、膝をついている太腿が青年の脛にわずかに触れた。ニーハイソックスの上の素肌——そこがかすかに湿っていた。汗だろう、と青年は思った。この狭い部屋は換気が悪いから。精液が飛んだのかもしれない。それ以上は考えなかった。

 

 拭き終わった手が、もう一度チンポに伸びた。

 

「…もう一回」

 

 宣言ですらなかった。次の工程に進む、それだけのことだった。

 

 今度は両手だった。

 

 右手が竿を握り、ピストン運動を始める。手首にひねりを加えながら、上下。速い。さっきと同じクラブ捌きのスナップが、竿の全長を縦横無尽に駆け回る。そこに左手が加わった。左手は亀頭に専念する。掌で亀頭を覆い、指先が傘の縁をなぞるようにカリの段差をくるくると撫でる。親指が尿道口の上にぴたりと乗って、くりくりと円を描く。

 

 両手が——別々のリズムで動いていた。

 

 右は速く、左はゆっくり。右が竿をしごき上げるとき、左は亀頭を揉み込む。右が根元に戻るとき、左は尿道口を弾く。二つの手が二つの楽器のように、それぞれ独立した旋律を奏でて、チンポの上で交差する。

 

 左右の手で異なる動きを同時にこなす技術。棍棒の二刀流——両手でメイスを別々に操る戦闘技術が、そのまま両手の独立運動に転用されていた。

 

「ぁ——あ、あああっ——なに、これ——わかんない、何がなんだか——!」

 

 もう思考が追いつかない。右手の快感を処理しようとした瞬間に左手が別の刺激を叩き込んでくる。快感の情報量が脳の処理能力を完全に超えていて、何が気持ちいいのかすら判別できない。ただ全部が気持ちいい。全部が同時に気持ちいい。身体が勝手にビクビクと跳ねて、涙が滲んで、呼吸が壊れていく。

 

 三回目の射精が始まった。

 

 ビュルッ——精液が飛んだ。黒江のケープの裾に白い飛沫が散る。ドクドクと尿道を脈打つ射精感。腰がガクガクと痙攣して、背中がベッドに崩れ落ちそうになる。

 

 ——黒江の手が、止まらなかった。

 

 精液を吹き出しているチンポを、両手が掴んだまま動き続けている。右手が竿をしごき、左手の親指が射精中の尿道口をグリグリと押し込むように刺激する。裏筋を人差し指がくりくりと擦り上げる。精液を吐き出す最中の亀頭を、左手の掌がぐにぐにと揉み込む。

 

「あっ——ま、待っ……! 出てる、出てるのに——止まっ——!」

 

 射精が終わらない。精液を絞り出す筋肉の痙攣がおさまりかけた瞬間に、黒江の指が次の射精感を押し上げてくる。一回の射精の尻尾を掴んで、そこから次の波を引きずり出すように。射精と射精の境目が消えていく。

 

 黒江の左手が、亀頭を包み込んだ。

 

 掌の中で亀頭をグリグリとひねる。蛇口をひねるように。水道の栓を回すように。親指が尿道口を圧迫しながら、残りの四本がカリ首を絞るように揉む。回す。押す。ひねる。

 

 何かが——壊れた。

 

 チンポの奥で、栓が吹き飛んだような感覚があった。射精しているのではない。精液が、ただ流れ出ている。自分の意志とは無関係に、ダバダバと。蛇口から水が出っぱなしになるように、止める手段を失った精液が亀頭の先端から溢れ続けている。

 

「ひっ……ぅあ……っ! と、止まらな——止まらない——!」

 

 腰が痙攣する。太腿がガクガクと震える。止めようとしても止まらない。身体が射精を止める方法を忘れてしまったかのように、精液は途切れなく流れ続けた。黒江の手を、青年の太腿を、シーツを、白く汚していく。

 

 黒江は——壊れた蛇口を眺めていた。

 

 手は止めない。でも表情は変わらない。ダバダバと精液を垂れ流すチンポを、水漏れした配管でも見るような目で観察している。フードの影の下で、口元が微かに動いた。

 

「…壊れちゃったみたい。ずっと出てるよ」

 

 報告。ただの報告。

 

 精液がまだ流れている。もう出し切ったはずなのに、黒江の指が亀頭をひねるたびに、数滴ずつ搾り出される。びくんっ、と腰が跳ねる。びくんっ。びくんっ。とっくに空になった蛇口から、最後の一滴を絞り取られているような——

 

 黒江の手がようやく止まった。

 

 と思った瞬間——指先が、尿道口をツンと突いた。

 

「ひぅっ——!」

 

 精液でぬるぬるに滑る指先が、尿道の入り口を小さく、正確に突く。ツンツンと。穴の縁を円を描くようにクルクルなぞる。射精後の過敏な尿道口に、ピンポイントの刺激が打ち込まれる。

 

「そこ——そこはっ——! ダメ、ダメ……っ!」

 

 射精なのか、それとも別の何かなのか、もう区別がつかない。持続的な快感の波が途切れなく全身を揺さぶって、青年はベッドの上で身体をくの字に折り曲げていた。指がシーツを掻きむしり、爪先が突っ張り、瞼の裏で光が散る。

 

「…ここ、触ると出るんだね」

 

 黒江の指が尿道口の縁をくりくりと撫でた。精液がまた一筋、とろりと溢れる。

 

「…面白い」

 

 かすかに——ほんのかすかに、黒江が首を傾げた。

 

 面白い。その一言の温度は限りなくゼロに近かった。でも——「そうなんだ」ではなかった。何かを認識して、処理して、棚に置く——ではなく、ほんの一瞬だけ、棚に置く前に手の中で転がしたような。それすらも気のせいかもしれない。フードの影が揺れて、口元がまた元の直線に戻る。

 

 黒江が自分の手を見下ろした。

 

 精液まみれだった。指の間、手の甲、掌の窪み——白い粘液がべっとりと絡みついている。三回分——いや、三回目の途切れない射精の分を含めれば、もっと。とろりと垂れた精液が手首を伝って、ケープの袖口に染みを作っている。

 

 黒江がその手を——口元に持っていった。

 

 ぺろ、と。精液に塗れた指先を舌で舐めた。

 

 青年は息を呑んだ。でも黒江の動作には何の淫靡さもなかった。料理の味見をするような手つき。指の腹についた白濁を舌先で掬い取って、口の中で転がして——

 

「…しょっぱい」

 

 感想。ただの味覚の報告。不味いとも美味いとも言わない。しょっぱいという事実を舌の上で確認して、それ以上の興味を示さなかった。

 

 精液を舐め取った指を、ティッシュで拭く。残りの指も一本ずつ拭いて、ゴミ箱に捨てる。

 

 蛍光灯が白く唸っている。

 

 精液の匂いが格安個室に充満していた。シーツに広がる染みは数えることに意味がないほど広がっていて、青年の太腿は精液でぬるぬるに光っていた。ケープの裾にも飛沫が散って、黒い布地に白い斑点が浮いている。

 

 青年は仰向けに崩れ落ちたまま、天井の蛍光灯を見つめていた。瞳孔が開いている。全身から力が抜けて、指一本動かせない。精根尽き果てた——という言葉の意味を、生まれて初めて肉体で理解していた。

 

 隣の部屋のドアが開いて、廊下に足音が遠ざかっていく。どこかで別の客が笑っている。ヨダカコースの日常。ただし青年にとっては、日常どころではなかった。

 

 黒江がティッシュで手を拭いていた。指の間の精液を丁寧に——丁寧というよりは、手についた汚れを落とす程度の無感動さで拭き取って、ゴミ箱に捨てる。それからベッドの端に腰掛けた青年の方に身を寄せた。

 

「…もう出ないの?」

 

 フードの下から、整った顔が近づいてくる。蛍光灯の薄い光がフードの隙間に差し込んで、一瞬だけ黒江の目が見えた。暗い色の瞳。紫がかった、深い色。そこに何が映っているのか——読めない。感情の痕跡が見つからない。

 

 少し首を傾げた。無関心な仕草のはずなのに、角度のせいか、光の加減か、その動きが妙に——可愛い。

 

 ドクン、と心臓が鳴った。

 

 蛇口を壊されて精根尽き果てたはずの身体の奥で、別の何かが脈打った。チンポではなく、もっと上。胸の中心。

 

 こんな可愛い子に。こんなとんでもないことをしてもらって。でも、ただの手コキで。もっと——もっと、この子に——

 

「…なに?」

 

 黒江が聞いた。青年の顔を覗き込んでいる。フードの影が青年の顔に落ちるほどの距離。吐息がかかる。冷たい吐息。なのに、その近さが切ない。この子は何も感じていない。何も求めていない。ただ仕事をしているだけ。それなのに——

 

 考えるより先に、口が動いていた。

 

「黒江ちゃんが……ぼ、僕の……彼女だったらいいのにな……」

 

 ——言ってしまった。

 

 懇願ではなかった。命令でもない。脳で文章を組み立てる前に、喉が勝手に震えて、唇が勝手に形を作って、声が転がり出た。友達もいない。彼女もいない。女の子と手を繋いだこともない二十歳の童貞が、生まれて初めて女の子に触れてもらって——ポロッと、本音が。

 

 言い終わってから血の気が引いた。何を言っているんだ僕は。ソープで。金を払って来た場所で。格安コースの女の子に「彼女になってほしい」なんて——気持ち悪い。気持ち悪いに決まっている。

 

「あ、いや、今のは忘れてください……すみません……変なこと言って……」

 

 慌てて取り消そうとする。視線を逸らして、シーツの染みを見つめて、消えてしまいたい。

 

 黒江の手が止まっていた。

 

 ティッシュを持ったまま、動かない。

 

「……彼女」

 

 小さな声だった。ボソボソとした低い声が、その単語だけを切り取って反芻する。彼女。彼女。口の中で転がすように、もう一度——

 

「…………」

 

 沈黙が落ちた。蛍光灯の唸りが妙に大きく聞こえる。隣の部屋から漏れていた声も、今はたまたま途切れている。格安個室の空気が、数秒だけ凍った。

 

 黒江がティッシュを捨てた。

 

 ゆっくりと——青年の目を見た。フードの影の中から、暗い瞳が覗く。さっきまでと同じ顔。同じ無表情。でも、目の焦点が合っていた。初めて——今日この部屋に入ってから初めて、黒江が青年の顔を「見て」いた。

 

「…いいよ」

 

「え?」

 

「彼女になる。私が、あなたの彼女になればいいんでしょ? …それが、望み?」

 

 声のトーンは変わらない。表情も変わらない。低くてボソボソしていて、感情の起伏を欠いた平坦な声。でも——何かが変わった。空気の色が変わった。温度ではなく、密度が。

 

 青年が目を見開いた。

 

「え……でも、ヨダカコースは手コキだけって……」

 

「…彼女にコースとか関係ないよ。彼女は彼氏に、全部してあげるもの」

 

 黒江が立ち上がった。ケープの裾が床を払う。精液の染みがついた黒い布が揺れて、素肌の腹がちらりと見えた。

 

「…彼女だから。もっと、してあげる。手コキだけじゃなくて」

 

 格安コースの境界が、静かに壊れた。

 

---

 

「ま、待って——黒江ちゃん、ヨダカコースは手コキだけって、案内板に書いてあったよね……? こんなこと、黒江ちゃんが怒られたりしない……?」

 

 青年は慌てて身を起こそうとした。自分のせいで余計なことを言ったせいで、この子が叱責される。罰を受ける。僕なんかのために。その想像が胸を締めつけた。

 

「…怒られない。誰も見てないし」

 

 黒江は振り返りもしなかった。膝をついたまま、青年のチンポに向き直っている。

 

「でも、ルールが……」

 

「…彼女にルールとか関係ないよ。彼女は彼氏のために全部するもの。私が決めたから、いいの」

 

 声は平坦だった。議論する気配がなかった。黒江にとってはもう結論が出ていて、青年の懸念は処理済みの案件で、次の工程に進むだけのことだった。

 

 青年は口を開きかけて——閉じた。反論する言葉がなかった。正確には、あった。でも黒江の口元がチンポに近づいていく光景を見た瞬間に、あらゆる正論が蒸発した。

 

「彼女は、彼氏のおちんちんの味を覚えるものなんだって」

 

 黒江が床に膝をついたまま、チンポに顔を近づけた。フードの影の中で口元だけが見える。小さな唇が半開きになっている。

 

「…だからまず、味を確認する」

 

 事務的な宣言。手順の確認。これからやることの予告。内容だけ聞けば倒錯的なのに、声のトーンが平坦すぎて現実味がない。レシピを読み上げるような温度で、黒江はチンポに鼻先を寄せた。

 

 すん、と鼻を鳴らした。

 

 匂いを嗅いでいる。顔をチンポから数センチの距離まで近づけて、息を吸い込んでいる。三回分の射精を経たチンポは精液と汗と唾液の匂いが混ざり合っていて、自分でもわかるほど生臭い。こんな近距離で嗅がれたら——

 

「…汗くさい。あと、さっきの精液の匂いが混ざってる」

 

 包み隠さず言った。眉をひそめるわけでもない。鼻を背けるわけでもない。匂いの成分を同定して報告する、それだけの顔。

 

 舌が出た。

 

 小さなピンク色の舌先がフードの影から覗いて、チンポの先端に触れた。ぺろり、と。亀頭の表面をゆっくりと、味を確かめるように舐める。精液の残りかすと汗と、皮膚の味。舌先がカリの段差をなぞって、尿道口の上をちろりと横切った。

 

「…美味しくはない。しょっぱいし、なんか変な味する」

 

 率直だった。取り繕わない。媚びない。不味いものを不味いと言うだけの誠実さ——いや、誠実さですらない。味の報告。ただそれだけのこと。

 

 でも嫌がらない。不味いと言いながら、舌は止まらなかった。

 

 竿の側面を、根元から先端へ、ゆーっくりと舐め上げた。地図を描くように。チンポの全体を舌先で辿って、形を記憶していくような動き。裏筋の上をとろりと舌が這い、カリ首の縁を丁寧になぞり、竿の付け根の太い血管を舌の腹でぺろぺろと撫でる。

 

 青年は金縛りにあったように動けなかった。この光景が信じられない。可愛い女の子が。無表情で。真剣な顔で。自分のチンポの味を、一口ずつ確かめている。

 

「…じゃあ、咥えるね。彼女は彼氏のおちんちんをお口で気持ちよくするもの」

 

 宣言してから、実行する。手順を踏む。マニュアル通りに。

 

 亀頭が黒江の口の中に吸い込まれた。

 

 温かかった。手とは全然違う。粘膜の柔らかさが亀頭を包み込んで、唾液のぬるぬるした滑りが全方位から押し寄せてくる。舌先が尿道口の上でくるりと円を描いた。頬が窪んで、きゅっと吸引がかかる。

 

「んっ……ん……」

 

 黒江の小さな鼻息がチンポの付け根にかかる。フードを被ったまま、膝をついたまま、青年のチンポを咥えている。口の中でちゅぷちゅぷと舌が動く湿った音が、蛍光灯の唸りの下に響く。

 

 テクニックは手コキほど超常的ではなかった。フェラの経験は多くないのかもしれない。吸引のリズムはやや単調で、舌の動きも探り探り。でも——「無表情のまま淡々と咥えている」その画が、狂おしいほどエロかった。

 

 青年の視界の端で——黒江の太腿が動いた。ニーハイソックスの上の素肌が、もぞ、と擦れ合う。ほんの小さな動き。膝をついた姿勢を直しただけかもしれない。でもその動きは数秒後にまた繰り返された。もぞり。太腿の内側同士が触れて、離れて、また触れる。青年はチンポに走る快感で頭がいっぱいで、それに気づく余裕がなかった。

 

 童貞にフェラの刺激は暴力だった。手コキで三回搾られた後なのに、口の中の温度と湿度が直接亀頭に伝わって、あっという間に射精感が迫る。

 

「く、黒江ちゃ——口の中に——出ちゃう——!」

 

 黒江は口を離さなかった。

 

 ドクッ。ドクッ。ドクッ——。

 

 精液が黒江の口の中に注がれていく。射精の波に合わせてチンポが脈打つたびに、黒江の喉が小さく動いた。こくり。精液を飲んでいる。口の端から一滴も零さず、射精が終わるまで亀頭を咥えたまま——全部、受け止めた。

 

 ごくり。

 

 最後の一口を嚥下する音が、格安個室にやけに大きく響いた。

 

 黒江がゆっくりとチンポから口を離した。唇と亀頭の間に唾液の糸がきらりと伸びて、ぷつんと切れる。フードの影の中で、口元が小さく歪んだ。

 

「…喉がイガイガする。いっぱい出すから」

 

 文句だった。純然たる文句。精液を飲んだことへの感想が「喉がイガイガする」。嬉しくもないし、嫌でもない。ただ物理的に喉が痛いという事実。それでも飲み込んだ事実は変わらない。

 

「彼女は射精した後、お掃除フェラをするもの。…残ってる精液、全部綺麗にしてあげる」

 

 射精直後のチンポを、再び口に含んだ。

 

「まっ——待って——! 出した後は敏感で——!」

 

 悲鳴に近い声だった。射精直後の亀頭は触れるだけで電気が走るほど過敏になっている。そこに黒江の舌が——容赦なく這い回る。尿道に残った精液を吸い出すようなちゅぷちゅぷ♡という執拗な吸引。唇がカリ首の下を締めて、舌先が亀頭の表面をくまなく舐め回す。

 

「ん……んぐっ……」

 

 黒江のくぐもった声がチンポ越しに伝わる。口の中にチンポを入れたまま、止まらない。

 

「ま、まだ——まだやるの——? もう出ないよ——!」

 

 黒江は口を離さなかった。代わりに——くぐもった声が振動になってチンポに伝わった。

 

「…まだ残ってる。全部出して」

 

 吸引が続く。ちゅぱっ♡ちゅぷっ♡と、粘膜と粘膜が吸い付いて離れる音がリズミカルに響く。射精後の過敏な亀頭に、お掃除フェラの刺激が際限なく注がれて——チンポが黒江の口の中で、硬さを取り戻し始めた。

 

 黒江は口内で膨張していくチンポを感じて、ゆっくりと口を離した。唾液の糸が唇と亀頭の間に二本、三本と伸びて光る。

 

「…また大きくなってる。元気だね」

 

 他人事のように。でも——お掃除フェラからそのまま、チンポを再び咥え直した。

 

 二回目のフェラが始まった。

 

 今度はゆっくりと、深く。亀頭を唇で包んだまま、少しずつ竿を口の奥に滑り込ませていく。舌が竿の裏筋を這い、唇が竿を締めて、喉の入り口にチンポの先端が触れた。

 

「んっ……ん、ぐっ……」

 

 わずかにえずく音が漏れた。喉の筋肉が異物を押し返そうとして、黒江の肩がびくりと震える。でも止めない。眉を寄せたのか——フードの影でわからない——息を整えて、もう少し奥まで。

 

 チンポの先端が喉の壁に押し当てられた。黒江の鼻がチンポの根元に触れるほどの深さ。喉が締まって、温かい圧迫がチンポ全体を包む。

 

 ずちゅっ♡ずちゅっ♡と、口の中でチンポが出入りするたびに、唾液と粘液が混ざり合った音が格安個室に響く。黒江のフードが上下に揺れる。ケープの裾が床で擦れる。素肌の腹が呼吸に合わせて膨らんで、へこんで。

 

 二回目の口内射精はすぐだった。

 

 ドクドクドクッ——精液が喉の奥に直接注がれる。黒江の喉がごくごくと動いて、溢れる前に飲み下していく。青年の腰が痙攣して、チンポが黒江の口の奥で暴れる。

 

 黒江がチンポを口から抜いた。唇を舌でぺろりと拭って、小さく息をついた。

 

「…二回分、飲んだ」

 

 おなかに手を当てた。素肌の腹を、指先でぽんぽんと軽く叩く。

 

「…おなかに彼氏の精液がいっぱい」

 

 その声には感情がなかった。事実を述べているだけ。彼女マニュアルの手順をこなしているだけ。なのに——青年にはその無感動な声が、どんな甘い台詞よりも刺さった。

 

 そして——フェラの最中、青年は気づかなかったことが一つあった。

 

 黒江の瞳が、ほんの一瞬——チラリと上を向いていた。

 

 チンポを咥えたまま、フードの影の奥で、暗い瞳が青年の顔を盗み見ていた。快感に歪む顔。必死で喘ぐ姿。自分のことを見ている目。自分の口の中で射精している男。自分を——必要としている?

 

 黒江の瞳がかすかに揺れた。何かを映して、何かを認識して——でもその揺れは、一秒もしないうちに消えた。暗い瞳がまた元の深さに沈んで、フードの影に隠れた。

 

 黒江自身も、気づいていなかった。

 

---

 

「…次は、こっち」

 

 黒江が立ち上がった。ケープの裾を払い、ベッドの上の青年を見下ろす。フードの影から口元だけが覗いている。

 

 魔法少女衣装のまま。ケープのフードを被ったまま。黒江の手がスカート部分をめくった。紺色の布地の下、薄い下着を指先で横にずらす。何の躊躇もなく、感情を挟まず、次の工程に入るだけの所作。

 

 青年の視界に——おまんこが映った。

 

 息が止まった。

 

 生まれて初めて見る、本物のおまんこだった。画面の向こう側ではない。イラストでもない。薄い下着の布地を横にずらした指の隣に、薄いピンク色の粘膜が覗いている。小陰唇の縁が蛍光灯の光を受けて、てらりと濡れて光っていた。

 

「…見たことないの?」

 

 黒江が青年の視線に気づいた。といっても非難でも嘲りでもない。確認。

 

「な、ない……です……」

 

「…そうなんだ。じゃあ、ちゃんと見て」

 

 黒江の指が——自分のおまんこに触れた。人差し指と中指で、小陰唇を左右に開く。無表情のまま。恥ずかしがる様子は微塵もない。ピンク色の粘膜が開かれて、中の赤い襞が蛍光灯に晒される。愛液の糸がきらりと指の間に光った。

 

 青年の心臓がうるさかった。目の前で女の子がおまんこを開いて見せている。この状況が現実として処理できない。

 

「…濡れてる」

 

 青年が掠れた声で呟いた。見えていた。おまんこの内側を伝い落ちる透明な液体。粘膜の表面を覆う、ぬらぬらとした光沢。

 

 黒江が自分のおまんこを見下ろした。指で開いた隙間から、愛液がとろりと垂れて太腿の内側に筋を描く。

 

「……知らない。勝手に濡れてた」

 

 本当に知らなかった。声にも表情にも、嘘の気配がなかった。自分の身体がいつから濡れていたのか——手コキの最中か、フェラの途中か——黒江自身が把握していない。ただ事実として、おまんこは濡れていた。理由は不明。

 

 黒江が指をおまんこから離して、青年を見下ろした。

 

「…彼女だから、全部中に出していいよ」

 

「な、中って……コンドームは……」

 

「…ないよ」

 

 平然と。ヨダカコースの格安個室にコンドームの備え付けなどなかった。手コキのみのコースに、そんなものは必要ないから。

 

「で、でも生で中に出したら——」

 

「彼女は彼氏の精子、全部受け止めるもの。…コンドームとか、彼女は使わないよ」

 

 黒江の声に迷いはなかった。マニュアルにそう書いてあった。彼女は彼氏に全部中出しさせるもの。だからコンドームは不要。論理は完結している。黒江の中では。

 

 青年の頭が混乱していた。ヨダカコースは手コキだけのはずだった。それがフェラになり、今度は——生で——中に。一ヵ月バイトして貯めた金で手コキを受けに来た童貞が、格安コースの女の子に生中出しをしようとしている。状況がおかしい。おかしいのに——目の前に開かれたおまんこが、愛液でぬらぬらと光っている。あの指で。あの口で。あの手コキで。ここまで搾り取られた身体が、それでもまだこの子の中に入りたいと脈打っている。

 

 抗えなかった。

 

 青年はベッドの上で仰向けになったまま、頷いた。声にならない頷きだった。手コキとフェラで五回射精した身体はまだ痺れているのに、チンポだけは——若さゆえか、黒江の搾精の余韻か——硬く勃ち上がっている。自分でも驚くほどの回復力だった。

 

 黒江が青年の上に跨がった。

 

 しゃがみ騎乗位。ピンク色のニーハイソックスに包まれた脚がベッドの両側に降りて、素肌の太腿が青年の腰の横に並ぶ。ケープが青年の腹の上に垂れて、黒い布地の下で二人の身体が繋がろうとしている。

 

 黒江の手がチンポを掴んだ。自分のおまんこの入り口に宛がう。

 

 先端が——触れた。

 

 熱かった。

 

 チンポの先端に、さっき見たあの濡れた粘膜が押し当てられている。ぬるりとした愛液がチンポの先端を迎えて、熱い膜のように亀頭を包む。生。何も隔てるものがない。黒江の体温がそのまま、直接、チンポに伝わっている。

 

 黒江が腰を沈めた。

 

 ずぷっ。

 

 亀頭が飲み込まれた。膣口が広がって、チンポの先端をくぷりと呑み込む。柔らかい。途方もなく柔らかい。手の中で感じた温度とも、口の中で感じた湿度とも全く違う。生きた肉の壁が亀頭を四方から包み込んで、きゅうっと締めて、ぬるりと緩めて——呼吸をしている。おまんこが呼吸している。

 

 さらに沈む。

 

 竿が膣壁に呑まれていく。ひだひだの粘膜がチンポの表面に張りつき、絡みつき、奥へ奥へと吸い込んでいく。ぬちゅ……ぬちゅ……と、粘液が押し退けられる湿った音が、二人の間で鳴った。

 

 根元まで。

 

 黒江の腰が青年の太腿に落ちた瞬間、チンポの全てがおまんこの中に収まった。膣壁が竿を隙間なく包んで、亀頭が膣の奥の柔らかい壁にこつんと触れた。

 

「…入った」

 

 黒江の声は変わらない。低くて、平坦で、報告のような声。

 

「彼氏のおちんちん、全部入ってるよ。…私のおまんこの中に」

 

 ——おまんこ。

 

 その単語を、黒江はなんの感情も込めずに口にした。恥じらいもなければ、煽りもない。「おまんこ」という部位の名前を事実として報告しただけ。なのに、そのフラットさが脳を焦がした。

 

 青年は声が出なかった。

 

 これが——おまんこ。生身の女の子の中。二十年間、画面の向こう側にしか存在しなかったものが、今、自分のチンポを包んでいる。温かくて、柔らかくて、ぬるぬるしていて、ぎゅうっと締めつけてきて——生きている。この中は生きている。黒江の体温が、黒江の脈拍が、膣壁を通じてチンポに直接伝わってくる。

 

 涙が出た。

 

 感動で。

 

「…泣いてるの?」

 

 黒江が首を傾げた。フードの影の下で、口元がわずかに動く。

 

「だ、大丈夫です……嬉しくて……すみません……」

 

「…そう」

 

 黒江が腰を持ち上げた。ゆっくりと。竿が膣壁を擦りながら抜けていって、亀頭の手前で止まる。ぬちゅり、と粘液が糸を引く。

 

 落とす。

 

 ずぷんっ♡

 

 一気に根元まで。腰と腰がぶつかって、ぱちんと肌の音が鳴った。膣の奥にチンポが突き刺さって、全身に衝撃が走る。

 

「あっ——!」

 

 青年の背中が跳ねた。黒江は構わず腰を動かし始めた。しゃがみ騎乗位のまま、腰を上下に。バコッ、バコッと容赦のないリズムで、チンポをおまんこに叩き込んでいく。

 

「彼女は彼氏のおちんちんを気持ちよくさせるもの。…気持ちいい?」

 

「気持ちいい……っ! すごい……! 黒江ちゃんの中、すごい……!」

 

「…そうなんだ」

 

 黒江の腰が前に傾いた。ケープの前が開いて、青年の胸の上に黒江の顔が近づく。フードの影が青年の顔に落ちる。

 

「彼女は彼氏の乳首を舐めるもの」

 

 宣言してから——ぺろ、と。青年のシャツを捲り上げて、露出した乳首に舌先を押し当てた。

 

「ひゃっ——!?」

 

 予想外の刺激に身体が跳ねた。男の乳首だって感じる。ぴりっとした快感が胸の中心から背骨を駆け下りて、チンポが膣の中でビクンと脈打った。

 

 黒江は腰を動かしながら乳首を舐め続けた。ぺろ、ぺろ、と舌先が乳首の先端を弾く。チンポが膣壁に締め付けられて、乳首が舌に弄ばれて、二重の刺激が——

 

「出る……っ! 黒江ちゃん、中に出ちゃう……っ!」

 

「…出して。彼女のおまんこに全部出して。それが彼氏の役目だから」

 

 ドクッ。ドクドクドクッ——。

 

 膣の中に精液が注がれていく。チンポが膣壁に押し付けられたまま、射精の痙攣が全身を揺さぶる。初めての中出し。初めての、生のおまんこの中への射精。精液が膣の奥に溜まっていく温かさと、膣壁がそれを搾り取るように蠕動する感覚が——

 

 黒江は射精中も腰を止めなかった。ぐちゅ……ぐちゅ……と、精液と愛液が混ざり合う音を立てながら、ゆっくりと腰を揺する。射精するチンポを膣壁が締めて、緩めて、また締めて。精液を一滴残らず搾り出すように。

 

「…いっぱい出てる。ビクビクしてる、おちんちん」

 

 黒江の声は平坦だった。でも——腰の動きに、さっきまでなかった力がこもっていた。

 

 膣の中で、チンポがドクンドクンと脈打っている。精液を吐き出すリズムに合わせて、チンポが生き物のように震えている。その脈動が膣壁を通じて黒江の体内に伝わっている。

 

 ——ドクン。ドクン。

 

 小さく——息を漏らした。

 

「…ん」

 

 それだけ。表情は変わらない。声のトーンも変わらない。でも腰の動きに——さっきまでのマニュアル的な上下運動とは微かに異なる、奥を押し付けるような角度が混じっていた。

 

「…まだ出るでしょ? 彼女がもっと搾ってあげる」

 

 腰が止まらない。

 

◇ ◇ ◇

 

 黒江がチンポを抜いた。

 

 ずるり、と膣の中から精液にまみれたチンポが引き抜かれて、ぬるりと外気に触れた。結合部から愛液と精液が混ざり合った白い液体がとろりと糸を引いて、シーツに垂れた。

 

 黒江は無言で身体の向きを変えた。四つん這いになる。ベッドの上で膝と掌をつき、背中を青年に向ける。ケープが捲れて、背中の白い肌と臀部が露になった。ニーハイソックスに包まれた脚が開いて、後ろから——おまんこが見える。

 

 さっき出した精液がトロリと垂れている。愛液でぬらぬらと光る粘膜の隙間から、白い粘液がゆっくりと太腿の内側に流れ落ちていく。

 

「…後ろからも入れて。彼女のおまんこ、好きに使っていいから」

 

 青年は膝で身体を引きずるようにして、黒江の後ろについた。両手で黒江の腰を掴む——細かった。手で腰を掴めるほど細い身体。この小さな身体が、あの凶悪な手コキを繰り出していたのかと思うと、手が震えた。

 

 チンポをおまんこに宛がう。角度が分からない。慣れない体勢に戸惑っていると——

 

「…もっと上の方。そこ」

 

 黒江が指示した。振り返らず。淡々と。

 

 ずぷっ。

 

 後ろから挿入。膣の角度が変わって、竿が膣壁の別の場所を擦った。正面からとは感触が違う。膣壁のひだが竿の表面に引っかかって、ぬちゅぬちゅと絡みつく。

 

 腰を動かし始めた。ぎこちなく。でも——おまんこの中が気持ちよすぎて、すぐに夢中になった。パンッ、パンッと腰が黒江の臀部にぶつかる度に、白い肌が揺れて、精液混じりの愛液が飛沫になって散る。

 

 黒江の手が股の間に伸びた。

 

 ピストンの合間——青年の金玉に、指先が触れた。

 

「…ここ、揉むと気持ちいいんでしょ」

 

 指がコロコロと金玉を転がした。二つの卵を掌の上でくるくると操る。力加減が絶妙だった。痛くない。でも確実に敏感な場所を刺激している。丸い物体を指先と掌で自在に回す——ボールだ。新体操のボール操作。クラブだけではなかった。ボールを掌で操る技術も持っていた。

 

「ぁっ——そこ……っ! 金玉、揉まれて——腰の中からっ——!」

 

 チンポで感じて、金玉で感じて、二重の快感が下半身全体を痺れさせる。腰を動かすたびに黒江の指が金玉を追いかけてきて、コロコロ、コロコロと転がし続ける。

 

 黒江の口が開いた。

 

「…あん。あん。気持ちいい」

 

 ——棒読みだった。

 

 明らかに。圧倒的に。棒読み。感情のかけらもない平坦な「あん」が、淡々と繰り返される。エロ漫画から学んだ「喘ぎ声の出し方」を、テキストをそのまま音読するように再現している。声の高さも、リズムも、吐息の混じり方も、全てが人工的。

 

「…あん。あん。彼女だから。彼氏のおちんちんで感じるのが、彼女の役目」

 

 マニュアル通りの喘ぎ声。マニュアル通りの台詞。でも——

 

 青年には分からなかった。棒読みかどうかなんて。比較対象がない。女の子の喘ぎ声を直接聞いたのは生まれて初めてだ。だから純粋に——

 

「黒江ちゃん、感じてるの……?」

 

「…そうだよ。彼女だから」

 

 腰を動かし続ける。パンッ、パンッ。ピストンが深くなる。青年の腰つきが少しずつ慣れてきて、奥まで突き上げる角度を覚え始めている。

 

 ——奥に当たった。

 

「あ、ん……っ」

 

 語尾に力が入った。

 

 さっきまでの棒読みの「あん」とは——何かが違った。声のトーンがわずかに低くなって、語尾が喉の奥で詰まったような、押し出すような響きになった。

 

「あ……んっ、あ……っ」

 

 変わり始めている。声の芯が。棒読みのフラットさに、ほんの少しだけ——熱が混じった。波がある。呼吸のリズムに連動した、自然な声の揺れが。

 

 黒江の太腿が震えた。かすかに。ニーハイソックスの上の素肌が、ぴくりと痙攣した。

 

「……これ……演技じゃ、ない……?」

 

 黒江が呟いた。自分に向けた言葉。自分の身体に起きていることへの、困惑。おまんこの奥がじわりと熱を持ち始めている。膣壁がチンポの動きに合わせて、自分の意志とは関係なく締まったり緩んだりしている。

 

「あっ……」

 

 本物の喘ぎが——一つ漏れた。

 

 黒江の手が自分の口を押さえた。反射的に。予想外の声が出た、だから塞いだ。塞がなければいけないと判断した。つまり——抑えなきゃいけない声だった。意図して出した演技ではなく、漏れてしまった音。

 

 手の隙間から、荒い息が漏れる。フードの影の中で、暗い瞳が揺れている——のかもしれない。青年の位置からは見えない。ただ、口を押さえている黒江の指が、微かに震えていた。

 

 黒江はまだ自分に言い聞かせていた。これは「彼女だから感じなきゃいけないやつ」だと。マニュアルに沿って、彼女は彼氏のおちんちんで感じるもの。だから身体が反応しているのは正しい。正しいはず。演技の延長。役割の遂行。

 

 ——手で口を押さえたのは、なぜ?

 

 その疑問には答えなかった。答える前に、青年の腰が奥を突いて、黒江の思考が途切れた。

 

◇ ◇ ◇

 

 黒江が身体を起こした。

 

 バックの体勢のまま、ゆっくりと上半身を持ち上げて、チンポを抜く。ずるり、と膣から引き抜かれる感触に青年が小さく呻いた。結合部から精液と愛液の混合液がとろりと垂れて、シーツに新しい染みを作る。

 

 黒江が振り返った。

 

 フードの影から覗く口元。その下の、露出した腹。汗が薄く浮いている。さっきまではなかった汗。

 

「…顔、見たい」

 

 ぽつりと。それだけ言って、黒江は青年の方を向き直った。ベッドの上で膝立ちになった青年の膝の上に、正面から跨がる。対面座位。チンポを手で掴んで、自分のおまんこに導いて——ずぷっ、と挿入した。精液でぬるぬるに濡れた膣が、チンポを抵抗なく呑み込んだ。

 

 顔と顔が近い。

 

 フードの下の黒江の口元が、すぐそこにある。吐息がかかる距離。精液と愛液が混ざり合った甘い匂いが二人の間に漂っている。黒江の唇が微かに開いて、薄い息が青年の鼻先を撫でた。

 

 ゆっくりと腰を揺らしながら——互いの顔を、見る体勢。

 

 青年はフードの影の中を覗き込もうとした。黒江の目を見たかった。この子がどんな顔をしているのか。あの暗い瞳に何が映っているのか。もう何時間一緒にいるのかわからない。手コキで搾られて、フェラで吸われて、おまんこの中に射精して——それなのに、まだこの子の目をまともに見ていない。

 

 フードの影の奥で——何かが揺れた気がした。

 

「黒江ちゃん……」

 

「…なに?」

 

「き、キス……していい……?」

 

 黒江の腰の動きが一瞬止まった。

 

「…彼女だから。していいよ」

 

 青年が恐る恐る顔を近づけた。唇が震えている。生まれて初めてのキス。鼻先が触れそうな距離で、黒江は動かなかった。目を閉じない。逸らさない。ただそこにいる。待っている。

 

 唇が触れた。

 

 最初はただ唇が重なるだけの、ぎこちないキス。角度がわからない。鼻がぶつかりそうになって、首を傾ける。黒江の唇は薄くて、乾いていて、少しだけ精液の味が残っていた。

 

 ——黒江の目が見開かれた。

 

 ビクッ、と身体が跳ねた。

 

 唇の感覚。柔らかさ。青年の震える吐息が口元にかかる温度。チンポがおまんこの中にいるのとは全く別の回路で、何かが——走った。

 

 マニュアルにない。

 

 「彼女は彼氏とキスするもの」——その項目は知っていた。知識としては持っていた。でも唇が触れた瞬間に走ったものは、知識の棚にある情報とは全く別のものだった。胸の真ん中を、細い針で突かれたような。痛いのか気持ちいいのか分からない、名前のない感覚。

 

 黒江が——無意識に、青年の背中に手を回した。

 

 腕が回る。指が背中の服を掴む。力が入る。しがみつく。自分でも意図していない動き。身体が勝手にやったこと。

 

「……ん……っ」

 

 声が漏れた。キスの隙間から。口を押さえることもできなかった。両手は青年の背中にある。

 

 キスが深くなった。黒江の舌が——恐る恐る、青年の唇の間に入ってきた。不器用に。舌先が青年の歯に触れて、引っ込んで、またそっと出てくる。初めてのディープキス。舌の動かし方を知らない。マニュアルにも載っていない。でも止められない。

 

 青年の口の中の味がする。唾液の味。さっき黒江が飲ませた精液の、かすかな残り香。それから——何か甘いもの。缶ジュースか、飴玉か。大学生の男の子の、日常の味。黒江の舌が味を確かめるように口内を探った。チンポの味を確認した時と同じ癖。手順の実行ではなく、身体が勝手に「知りたがっている」動き。

 

 腰の動きが激しくなっていた。対面座位でキスしながら、互いを求め合うように腰が動いている。ぐちゅっ♡ぐちゅっ♡と結合部が鳴る。黒江のおまんこが青年のチンポを締めて、緩めて、吸い込むように蠕動している。さっきまでの「マニュアルに従って動かす腰」ではなかった。身体が勝手に動いている。

 

 青年が射精した。

 

 キスの最中に。唇を重ねたまま、膣の中に精液がドクドクと注がれていく。黒江の身体がビクンと震えた。おまんこが精液を受け止めるようにきゅうっと締まって、チンポの脈動をそのまま体内に取り込んでいく。

 

 キスが——途切れた。

 

 唇が離れた瞬間、唾液の糸がきらりと光って、ぷつんと切れた。

 

 黒江の目が——初めて潤んでいた。

 

 涙ではない。泣いているのではない。でも、さっきまでの乾いた暗い瞳とは違った。フードの影の中で、瞳の表面に薄い膜が張ったように光を反射している。何かが——溶けかけている。凍っていたものの表面に、ひび割れが入ったような。

 

「……彼氏」

 

 小さな声だった。低い声。でも——かすかに震えている。

 

「…もっと……して」

 

 ——「もっとして」。

 

 マニュアルにない言葉だった。「彼女は〜するもの」ではない。黒江自身の、言葉。黒江の中から、こぼれ出た言葉。

 

◇ ◇ ◇

 

 青年が黒江を押し倒した。

 

 対面座位の体勢から、黒江の肩をそっと押す。黒江は抵抗しなかった。背中がシーツの上に沈んで、黒いケープがベッドの上に広がった。フードを被ったまま、仰向けに。脚を開く。ニーハイソックスに包まれた脚が青年の腰の両側に広がって、太腿の素肌が蛍光灯の光を受けて白く浮かぶ。

 

「…彼氏が上になるの。いいよ。彼女のおまんこ、好きに使って」

 

 その声は——さっきまでと微妙に違っていた。低い声。ボソボソした声。それは変わらない。でもその奥に、薄い膜一枚を隔てた向こう側に——何かが灯っている。期待、と呼ぶには淡すぎる。でもゼロではなくなったもの。

 

 青年が覆い被さった。正常位。チンポをおまんこに宛がって——挿入する。何度目かの挿入。でも青年が上になるのは初めてだった。

 

 ずぷっ♡

 

 奥まで。膣の最深部にチンポの先端が触れて、こつん、と子宮口を叩いた。

 

「……っ!」

 

 黒江の身体が跳ねた。声が漏れる。奥を突かれた瞬間の反応は——もう演技じゃない。喉の奥から絞り出されたような、制御できない音。

 

 青年が黒江の脚を持ち上げた。太腿の裏に手を添えて、押し上げる。種付けプレスの体勢。黒江の身体が二つ折りになって、ニーハイソックスに包まれた脚が青年の肩の横まで上がる。角度が変わって、チンポが膣の奥をさらに深く突く。

 

「ね、彼氏……繋がってるところ、見て」

 

 黒江がぽつりと言った。

 

 二人の視線が下に落ちた。繋がっている部分。チンポがおまんこに出入りする光景。何度分もの精液と愛液で泡立つ結合部が、ぬちゅっ♡ぬちゅっ♡と音を立てている。白い泡が小陰唇の縁にこびりついて、ピストンのたびにぐちゅりと潰れる。

 

「…見えるでしょ? 彼女のおまんこに、彼氏のおちんちんが入ってるの。精液と……」

 

 一瞬、言葉が詰まった。

 

「……私のと、混ざってる」

 

 私の。愛液。自分の身体が出しているもの。精液は青年のもので、愛液は——自分のもの。その事実を口にした瞬間、黒江の声がほんの一拍だけ止まった。自分の身体がチンポを受け入れるために濡れていたことを、言語化して初めて認識したような——でも深追いしなかった。そのまま流した。黒江らしく。

 

 黒江の口元が——動いた。

 

「…ふふっ」

 

 ニヤリ、と。

 

 口角が上がった。初めて。無表情だった黒江の顔に——笑みが浮かんだ。いやらしい笑み。結合部を見下ろしながら、チンポがおまんこを出入りする光景を眺めながら——楽しそうに。

 

 セックスが楽しい。

 

 その感情が、口元のわずかな弧に滲み出ていた。黒江自身がそれを自覚しているのかどうかはわからない。でも口角は——上がっていた。

 

 種付けプレスのピストンが激しさを増した。青年も限界に近い。黒江も——身体が、もう嘘をつけなくなっている。

 

 互いの腰が打ち合う。ぱちんっ♡ぱちんっ♡と肌と肌がぶつかる卑猥な音が格安個室に響く。パイプベッドが悲鳴を上げるように軋んで、隣の部屋に丸聞こえだろう。もうどうでもよかった。

 

 黒江の身体が大きく揺れた。

 

 激しいピストンの衝撃でケープが乱れて、フードが——ずれた。

 

 ずるり、と。頭の上を滑って、後ろに落ちた。

 

 ——初めて、黒江の素顔が全部見えた。

 

 影に隠れていた目。額。汗ばんだ前髪が額に貼りついている。灰がかった黒髪のショートヘアが、シーツの上に散らばっている。

 

 その顔は——蕩けていた。

 

 暗い色の瞳が、紫がかった瞳が、トロンと潤んで蛍光灯の光を映している。頬が紅潮して、白かった肌に薄く朱が差している。唇が半開きで、唾液が下唇を伝って顎に垂れている。

 

 無表情だった少女の、剥き出しの顔。

 

 フードの影に隠れていた全てが、蛍光灯の白い光の下に晒されている。隠すものが、もうない。

 

 青年が——見惚れた。

 

「黒江ちゃん……綺麗だ……」

 

 本音だった。一ヵ月バイトして、格安コースに転がり込んで、蛇口を壊されて、彼女ごっこに付き合わされて——その果てに見た、フードの下の素顔。蛍光灯に照らされた、安いシーツの上の、蕩けた顔。綺麗だった。他に言葉が出なかった。

 

「…………そう、なんだ」

 

 いつもの口癖。でもその声は——震えていた。低くてボソボソした声の根元が、小さく揺れていた。

 

 青年の指が黒江の頬に触れた。汗ばんだ肌。黒江は避けなかった。目を閉じない。紫がかった瞳が、青年の顔を——真っ直ぐに見つめている。初めて。今日初めて、互いの目を見ている。遮るものなく。影なく。

 

「出る……っ! 黒江ちゃん、中に出る……っ!」

 

「…出して。全部。彼女のおまんこに、彼氏の精子、全部注いで」

 

 正常位種付けプレスで——最後の射精。

 

 ドクッ——。ドクドクドクドクッ——。

 

 チンポが膣の最深部で脈打って、精液を吐き出した。子宮口めがけて、ドクドクと大量の精液が注ぎ込まれていく。今日何度目かわからない射精。でも身体は絞り尽くされた後でも、まだ出す。黒江のおまんこの中に、全部。

 

 黒江の身体がビクビクと痙攣した。

 

 おまんこが——射精するチンポを、絞るように締めた。膣壁が波打って、精液を一滴も逃すまいとするように蠕動する。全身の筋肉が同時に収縮して、ニーハイソックスに包まれた脚が突っ張って、指先がシーツを掻いた。

 

「あ……っ、あ、あぁ……っ……!」

 

 黒江が——絶頂していた。

 

 初めて。本物の絶頂。棒読みでも演技でもない、身体の奥底から突き上げてくる快楽の波に呑まれて。目を閉じて、全身を震わせて、青年にしがみついて。

 

 射精と絶頂が重なった。チンポがドクドクと精液を吐き出す振動と、おまんこがビクビクと痙攣する振動が、膣壁を通じて混ざり合う。精液がおまんこの奥に注がれ続ける中で、二人の身体が互いの痙攣を受け止め合っている。

 

 蛍光灯が白く唸っている。

 

 パイプベッドの軋みが止まって、格安個室に二人の荒い息だけが残った。

 

◇ ◇ ◇

 

 精液の匂いが、部屋を満たしていた。

 

 甘くて、生臭くて、汗と愛液と体温が混ざり合った濃密な空気。換気扇のない格安個室には逃げ場がなくて、匂いがそのまま壁に染み込んでいくようだった。

 

 狭いパイプベッドの上に、二人が並んでいた。

 

 青年は仰向けに崩れ落ちたまま、天井の蛍光灯を見つめている。身体中の関節が溶けたみたいに力が入らない。指一本動かすのに意識を集中しなければいけない。チンポはようやく萎えて、太腿の間に精液まみれのまま横たわっている。

 

 隣で、黒江が仰向けになっていた。

 

 フードは外れたまま。被り直す気配がない。灰がかった黒髪がシーツの上に散らばって、汗で額に張りついた前髪の隙間から、紫がかった瞳が天井を映している。

 

 黒い魔法少女衣装の布地に、白い精液のシミが点々と付いていた。ケープの裾、腹部を覆う紺色の布、スカートの縁。黒い布と白い斑点のコントラストが、この数時間で何が行われたかを静かに記録している。素肌の腹にも乾きかけた精液の跡が残っていて、ニーハイソックスの上の太腿を愛液と精液が混じり合った液体がゆっくりと伝い落ちている。

 

 シャワーがない。拭くものはティッシュだけ。

 

 黒江はティッシュを数枚引き抜いて、おまんこの周りを拭った。でもすぐに諦めた。拭いても拭いても膣の中から精液がとろりと溢れてくる。何回分もの射精を全部中に受け止めたおまんこは、とっくに容量を超えていた。

 

 天井を見たまま、黒江はぼんやりと自分のソウルジェムに視線を落とした。太腿の横、衣装の金具に嵌め込まれた小さな宝石。

 

 ——澄んでいた。

 

 濁っていたはずのジェムが、透明度を取り戻し始めている。暗い紫の中に、微かな光が灯っている。精液を体内に取り込んだことで、ドッピュルシステムが作動していた。

 

「…綺麗になってる。ソウルジェム」

 

 ぽつりと。誰に向けるでもなく。精液で身体を汚されて、ジェムが浄化されている。歪んでいる。間違っている。でも——ジェムは、確かに輝いている。

 

「黒江ちゃん……」

 

 青年の声が隣から聞こえた。掠れた声。搾り取られた身体から残った最後の力で、言葉を紡いでいる。

 

「すごく、よかったです……ありがとう……」

 

「…そう」

 

「あの、また……来てもいいですか? 黒江ちゃんに、会いに」

 

 黒江は天井を見たまま答えた。

 

「…格安コースだから、キャストの指名はできないよ」

 

 事実。ヨダカコースのルール。指名制度はない。次に来たとき、この部屋にいるのが黒江である保証はどこにもない。

 

「じゃあ……毎回格安コースに来ます。黒江ちゃんがいるかもしれないから」

 

「……」

 

 沈黙が落ちた。蛍光灯がジジ、と音を立てた。隣の部屋は静かだった。廊下からも足音が途絶えている。ヨダカコースの営業時間が終わりに近づいているのかもしれない。

 

「…そうなんだ」

 

 黒江の「そうなんだ」。今日何度も聞いた口癖。でも——今のは、どれとも違った。

 

 声が、かすかに柔らかかった。

 

 低い声。ボソボソした声。それは変わらない。語尾の下がり方も、間の取り方も、いつもと同じ。でも声の粒子の中に——冬の窓ガラスに息を吹きかけたときの、あの白い曇りのような温度が、一瞬だけ混じっていた。

 

 黒江はフードの外れたまま、天井を見ていた。素顔のまま。被り直さない。さっきまでは影に隠れていた顔が、蛍光灯の白い光に晒されたまま。

 

 おなかが温かかった。精液の温もり。何度分もの射精を溜め込んだ子宮の周りが、じんわりと熱を持っている。それだけじゃなかった。胸の真ん中にも——キスのときに針で突かれたあの場所にも——小さな熱が残っていた。

 

 黒江の手が動いた。

 

 隣に横たわる青年の手を——掴んだ。指先で手首を摘まんで、持ち上げて、自分のおなかの上に置いた。

 

「…触って。おなかの中に彼氏の精液がいっぱい入ってるの、わかる?」

 

 彼女マニュアル。まだその残滓で動いている。彼女は事後に彼氏とこういうことをするもの。そういう情報がどこかにあったから、実行している。

 

 青年の掌が、黒江の素肌に触れた。温かかった。精液で微かにべとつく腹の上に、青年の大きくて——でもやわらかい手が、のっている。

 

「…あ、うん……温かい、ね……」

 

 青年の声が震えていた。黒江のおなかに触れている。自分の精液が溜まっているおなかに。

 

 黒江は何も言わなかった。でも——青年の手を、離さなかった。

 

 自分で持っていったくせに、離すタイミングがわからない。マニュアルには「手を置かせる」とは書いてあっても、「いつ離す」とは書いていない。だからそのまま。青年の掌がおなかの上にある状態が——続いた。数秒。十数秒。沈黙の中で。

 

 黒江はそのことに気づいていなかった。手を離していないことに。離す理由を探していないことに。

 

「……ねえ、彼氏」

 

「う、うん?」

 

「……私の名前、覚えてくれた?」

 

 青年が横を向いた。黒江は天井を見つめたまま、動かない。紫がかった瞳に蛍光灯の光が映り込んで、その表面がかすかに揺れている。

 

「黒江ちゃんでしょ? ……もちろん覚えてるよ」

 

「……そうなんだ」

 

 長い沈黙。

 

 蛍光灯がジジジ、と唸って、一瞬だけ明滅した。部屋の中の影が揺れて、また元に戻る。

 

 黒江がようやく青年の手をおなかから外した。その手が離れた瞬間——自分の指先で、おなかを軽くさすった。青年の掌の残り熱を確かめるように。

 

「…いっぱい出たね。彼氏の精子で、おなかパンパン」

 

 トロンとした目で——自分のおなかを見下ろしている。紫がかった瞳の焦点がぼんやりとして、唇が微かに開いて——

 

「……ふふっ」

 

 わずかに蕩けた笑み。

 

 作業の無表情でもない。彼女マニュアルの演技でもない。黒江自身の——笑顔。口角がほんの少しだけ上がって、目尻が緩んで、頬の紅潮がまだ引いていない顔の上に、小さな笑みが灯った。

 

「……私……魔法少女になって、よかったかも……っ♡」

 

 声が震えた。低くて、ボソボソしていて、でもその奥に——今日初めての、温度があった。

 

 夜鷹。どこにも行けず、何者にもなれない格安の夜鷹。黒羽根のモブ。名前のない存在。

 

 でも、この格安個室で——一人の童貞に「彼女」と呼ばれて。精液でおなかをいっぱいにされて。名前を覚えてもらって。

 

 初めて、「魔法少女になった意味」が——ここにあった。歪んでいて、間違っていて、格安で、安っぽくて。でも——温かい。

 

 蛍光灯が白く唸っている。精液の匂いが充満した格安個室で、フードを外した黒江が、小さく笑っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 後日。

 

 キレーションランドの地下。ヨダカコースの受付に、一人の青年が立っていた。

 

 痩せ型で少し猫背。財布を両手で握りしめている。受付の黒羽根——フードを被った別の魔法少女——が、青年の顔を見て首を傾げた。

 

「…あれ、前も来てくれたお兄さんだよね」

 

「は、はい……また、お願いします」

 

「指名はできないけど、いい?」

 

「わかってます。それでも……来たかったので」

 

 受付の黒羽根が小さく肩をすくめて、番号の書かれた札を手渡した。青年はそれを握りしめて、廊下を歩いた。パイプがむき出しの低い天井。蛍光灯の白い光。壁の塗装が剥がれかけた、あの廊下。

 

 指定された番号の部屋の前で、立ち止まった。

 

 深呼吸を一つ。ドアノブを握る。今度は——手汗を拭かなかった。

 

 ドアを開けた。

 

 パイプベッドの端に、黒い影が座っていた。

 

 フード付きケープ。顔の上半分が影に隠れて、口元だけが見える。小さな唇が——微かに、動いた。

 

「…いらっしゃい、彼氏」

 

 栄えある「リピーター1号」が——こうして誕生した。

 

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