【ビッチ疑惑】の有名冒険者ちゃん!―責任取りたくないから処女は嫌だけど! ビッチなら!― 作:BIBI
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扉を開き恐らくは私室として利用しているだろう狭い一室に入り、レーネはクローゼットを開いて衣服を取り出す。
「ダンジョンは歴史を再現する。モンスターの姿形も色んな生物の特徴が組み合わさった結果なんだと思う。……私がダンジョン内で姿形に変化が無くて前世の記憶も持っているのはきっと、貴方のおかげ」
ベッドの縁に座り衣服を隣に置いて、彼女は上目遣いで僕を見た。
「ダンジョンボスの姿に引っ張られて、他のモンスターも姿を変えるから……。恐らく貴方が人だから、亜人の私は何の変化も起きず転生できたんだと思う」
有り得なくはない話だった。彼女が口にする仮説は恐らく正しい。僕も「へぇ。無理やりな気もするけど、一応は辻褄が合うね……」と首肯し、立ったまま見下ろす様にレーネと視線を合わせる。
「……さっき僕が死んだら自分も死ぬって言ってなかった? ダンジョンボスは死んでも周囲のモンスターは死なないでしょ? 何で僕が死ぬと君も死ぬのか教えてくれない……?」
少なくとも僕は、ボスが死んでも周囲のモンスターが死ぬなんて聞いた事が無い。だかあら何故彼女がそう思ったのか、単純に気になった。
「それはただの勘……。ここのダンジョン異質だもの。人間の貴方がダンジョンボスという時点で、当たり前と言えば当たり前だけど……」
ダンジョンコアの様な気配を僕から感じ取っているのか、レーネは僕がボスだと信じて疑わない様子だった。
対して僕は彼女を見ても同族意識みたいな感覚は湧かない。「――異質、ねぇ」とまだ半信半疑という態度を隠さなかった。
「人間の貴方にとっては不思議な気分でしょ? 通常のダンジョンであれば冒険者に弱体化を強制するのに、此処じゃあ逆」
「逆?」
よく分からない事言うレーネに、僕は首を傾げた。
「…………? このダンジョンにとっての侵入者は、モンスターって話よ。外にうじゃうじゃいるモンスターの群れ見たら分かるでしょ? レベルが高い割に弱い。ダンジョンに侵入者扱いされて弱体化されてるのよ」
僕が疑問を持つ意味が分からないのか、不思議そうな顔を少しした後、丁寧に説明するレーネ。それを聞いて、僕の中で点と点が結びつく。
「あー。そういう事か。何かレベルの割に大した事ないモンスターが多い気がしてた。あいつら弱体化されてたのか……。それに此処にいると妙に体が軽いし、魔力も回復し続けるし……。これってダンジョンからの恩恵だったのかぁ……」
「…………ッ⁉ まさか気づいてなかったの……?」
顎に手を当てなるほどぉと感心していた僕に、レーネは今までの冷静なキャラが崩れ激しく動揺していた。彼女の顔はまさに、信じられないコイツ……と書いている様子。この反応を見るに僕は僕が持っている以上に馬鹿なのかも知れない。
「う、うん……。『モンスターよわー☆』『何か魔力使い放題すげー☆』で思考止まってたよ……」
あははともう笑うしかない。笑って誤魔化そう。僕は顔が良いからね。今までも馬鹿を晒した時は、いつも笑顔で誤魔化してきたんだ。
「…………。ま、まぁいいわ……。それより貴方、見た所あまり魔力の扱いに慣れてないでしょう? レベル上げする前に暫く鍛錬しましょうか……」
どうやら僕の素敵な笑顔は効果が無かったらしく、ドン引きした表情でレーネは口角をピクピクさせていた。
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レーネは黒いドレスから一転。中世風のシャツとズボンに着替え、庭園に移動し僕と向かい合っていた。彼女は自らガス灯を作ったのだろう。周囲は柔らかい光に照らされ、魔力で夜目を利かせなくも十分に見える。
「体と魔力の動きを連動させる事で、身体能力を一時的に強化できる。これを魔力運動と呼ぶの。……って、流石にこれは知ってるでしょう?」
レーネは体の魔力をあえて可視化させ、腕を伸ばし魔力の伝達を分かりやすく伝えてくれていた。腕に纏う魔力の波は、彼女がくるりと一回転すると全身に駆け巡る。
最後に踵で地面を軽くタンッっと叩く。すると柔らかい動きとは裏腹に、地面はバキッと音を立てて亀裂が入った。
「…………ッ。馬鹿にしないでよ……。僕は抜けてる所はあるけど、わりと常識人側だよ……。魔力運動くらいは知ってるし、普段から意識して使ってる。というか使わないと死んじゃうし……。最近は何かと格上と戦う事が多いからね……」
あまりにも洗練された彼女の魔力運動を見て、僕は見惚れつつ無知キャラである事を否定した。
「…………。魔力運動で勝れば、レベルの差を覆す事も可能……。でも忘れちゃ駄目よ、魔力運動が諸刃の剣だって事を」
「諸刃の剣……? 何それ? 身体能力を上げられる、ただの便利技じゃないの?」
真剣な表情で伝えてくるレーネに申し訳ないが、僕は諸刃の剣と言われて何も察する事が出来なかった。そんな常識の様に言われても困る。僕は正式には冒険者ですらなく、まだこういった知識には疎い。
「…………。本当に貴方常識人なの? 一般的な知識も欠けている様な……」
どうやら一般教養の範囲だったらしく、レーネはまたもやドン引きした顔で此方を見ている。
彼女はクール系だと思っていたが、わりと表情豊かなのか……、それとも僕があまりにも馬鹿なのだろうか、判断しかねる状況だ。
「ごめんね。少し見栄を張った。学び舎に通った経験が殆どなくて、勉強なんてした事ないものでね。少しだけ一般教養に疎いのは認めるざるを得ない」
「…………。〈魔力防御〉のスキルは知ってるでしょ? これは魔力の動きを停止させる事で強い効果を発揮するの。つまり魔力運動している間は、〈魔力防御〉の効果が著しく下がるって事……。あの……、えっと……、こんな事に知らずに今まで戦ってたの……?」
昔の人でも伝わりやすい言葉を選びながら言い訳する僕を見て、何処か諦めた表情のレーネ。
「へぇ〈魔力防御〉って、そういう効果だったんだ。スキル発動してたら常に防御力を上げてくれる便利技だと思ってた……。結構使いにくいんだね。クソ技過ぎる」
もういいや。馬鹿なのを隠しても仕方ない。逆に滅茶苦茶馬鹿を晒してハードルを下げる事で、後で良い所を見せる方針に切り替えよう。
一度馬鹿すぎると心底呆れられたら、多少の馬鹿では何も思われなくなり、少し賢い事を言えば感心される。そういう不良が捨て猫に傘をかけてあげる理論で行くしかない。
「…………ま、まぁいいわ。とにかく強者同士の戦いの中では、魔力運動とオンオフを瞬時に切り替える瞬発力が求められるの。そして貴方はその切り替えが下手すぎ。だから――」
ドン引きした表情から少しずつ真面目な表情に変わると、レーネの姿がブレる。
「――――ッ!」
一瞬にして懐に入り込まれ、僕は咄嗟に逃げようとする。しかし彼女がトンッと僕の胸辺りを掌で押し込んだところで、ようやく僕は地面を蹴って後方に後ずさった。
突然の事で心臓がバクバクと音を鳴らし、「えっと……?」少し警戒する様に僕は身構える。
「ほら。咄嗟に動けないでしょ? 貴方は瞬時に魔力運動を使う事すらできてない。だから急に間合いと詰められた時に、全く対応ができない」
ビシッと僕の方に指を差し、レーネは落ち着いた声で指摘する。「因みに、今の歩法は――
「一級ともなれば〈魔力操作〉の熟練度はBやAで当たり前。貴方と大した差はないの。基礎スペックで差が縮まれば確実に貴方は瞬殺されるわ、今のままだとね。それ程に現時点の魔力運動が下手すぎる。この分だと恐らく、武術や戦術も素人に毛が生えた程度でしょうね……。先が思いやられるわ……」
「はえー、熟練度Aが当たり前かぁ……。一級って強そうだなぁ」
真剣に忠告してくれるレーネに、僕は呑気に緊張感無い気の抜けた返事をしてしまう。
何で僕は今……、よく知らない人にここまでボロクソに酷評されてるんだ……? しかも明らかに僕より格上だし……。一応味方みたいだけど、何か辛い。
そういえばドウマって人からも修行不足を指摘されてたなぁ。そうかぁ、戦いのプロからすれば僕って一目見て分かるくらい素人臭いのか……。
「はぁ……。一級よ? 一級。強いに決まってるでしょ? 並みの一級を簡単に倒せるなら、十傑になれるわ……。そもそも十傑の条件って、並みの一級を五人同時に相手して勝てるかどうかだし。いえ、あくまで私の前世の知識だから、今は違うかもだけど……」
深いため息を吐き、肩を落とす。どうにも僕の評価は下落の一途を辿っているらしく、レーネは僕に哀れみすら感じさせる視線を送っていた。